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ホンダF1 田辺豊治TD、23戦中5戦目でトップに立っただけ、重要な事はこれをシーズン終わりまで維持すること(モナコGP後会見)

2021年5月20日~23日(現地時間)開催

優勝してメインストレートのロイヤルボックスの前に戻ってきて祝福するチーム関係者にガッツポーズで応えるレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

 F1世界選手権 第5戦 モナコGPが、5月20日~5月23日(現地時間)にモナコ公国の首都モンテカルロ市街地コースで開催された。2020年はCOVID-19のパンデミックによる混乱から中止となってしまったため2年ぶりの開催となった伝統の一戦だが、レースではレッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手が2番グリッド(実際にはポールを取ったフェラーリのシャルル・ルクレール選手がスタートできなかったため、実質的には先頭)からスタートして、見事優勝を果たした。

レッドブルホンダ、F1モナコGPで優勝 ホンダは1992年のセナ以来、フェルスタッペンはモナコ初優勝

https://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/1317840.html

 ホンダPU(パワーユニット)がモナコGPで優勝するのは、F1の歴史に残るナイジェル・マンセルとの死闘を制して優勝した1992年のアイルトン・セナ以来。かつ、このレースの前までポイントリーダーだったルイス・ハミルトン選手が7位(+ファステストラップポイント1点)に終わったこともあり、ドライバー選手権でマックス・フェルスタッペン選手が2位のハミルトン選手に4点差をつける105点でトップに立っただけでなく、マニファクチャラーズ選手権でもレッドブル・レーシング・ホンダが149点と2位のメルセデスに1点差ながらトップに立った。いずれの選手権においても、ホンダPU搭載したドライバー、マニファクチャラーがランキングトップに立ったのは、2015年にホンダがF1に復帰して以来では初めて。

 レース終了後にホンダF1 テクニカルディレクターである田辺豊治氏のオンライン会見が行なわれたので、その模様をお伝えしていきたい。

23戦中の5戦目でトップに立っただけ、重要な事はシーズンの終わりまでこの順位を維持すること

レースのスタートシーン、ポールポジションのいない2番グリッドからスタートしたマックス・フェルスタッペン選手。このスタートを決めたことでほぼレースの勝利を手中に入れた (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

──それでは田辺TDから本日のレースの振り返りを。

田辺氏:伝統のあるモナコGPでレッドブル・ホンダのフェルスタッペン選手が優勝した。予選の時からもいろいろなことが起こるのが市街地コースだという話をしたが、本日も昨日の予選でポールポジションを獲得したフェラーリのシャルル・ルクレール選手が予選の最中にクラッシュしたが、修復かなって結果通りポールポジションからスタートするハズだったが、最初からスタートできない状況になった。

 そのため、フェルスタッペン選手は1番のいない2番グリッドからスタートして、インをキッチリと押さえて、バルテリ・ボッタス選手に順位を譲ることなくレースをスタートさせることができた。モナコは追い抜きが難しいサーキットで、きちんとスタートすることが大事で、そういう形に持ち込んだことが勝利につながった。

 レース中も順調にタイヤ戦略的には他のトップ10スタートの車両と同じような戦略をとり、ギャップを広げながらレースをきちんとマネージする形で優勝することができた。ホンダF1最後の年で特別なモナコで優勝できてうれしい。

 セルジオ・ペレス選手は9番グリッドからスタートし、車のペースはよかったが、前のクルマを追い抜くまでにはいたらなかった。ピット戦略で、前のクルマが入ったところでペースをあげてポジションをあげてからピットに入るという力強いレースをして4位を獲得した。チームとして強い戦いができたモナコGPだった。

レースを完走したアルファタウリ・ホンダの角田裕毅選手(C)Getty Images / Red Bull Content Pool

 アルファタウリ・ホンダ勢に関してはピエール・ガスリー選手は予選6位、レース6位ということで、ストリートコースという特性からポジションを上げるのが難しく、いいペースで走れていたが、前のクルマに引っかかってしまった。

 角田裕毅選手は、スタートで遅いクルマが前に入ってしまって難しいレースになった。アルファタウリのクルマはペースがあったが、コース特性から追い越すことは難しく、前のクルマに我慢してついて行くレースになってしまった。予選が重要だと本人も学習したレースになったのではないか。

 4台完走、4台入賞とはいかなかったが、3台入賞、1台優勝、4台完走という結果になった。

──今回の優勝で両選手権トップになったが、その感想、1992年以来の優勝だが、その時との違いは?

田辺氏:いろいろな記憶がある。ただ、今年ポイントや選手権でトップに立ったことはなかったので、それはいいことだが、まだ23戦のうちの5戦目だということは指摘しておきたい。大事なことはこのポジションをキープすることだ。

 1992年のセナの優勝の時は、その前年まですごく強いマクラーレン・ホンダに影が差してきて、初戦から劣勢という中で迎えたモナコGPで、ストリートコースだから何が起きるか分からないという中で、それが起きてニュータイヤを履いたマンセルが追い上げてきて、セナが上手に走って優勝というレースだった。セナのうまさと、速さに陰りが出ていた中での優勝だったので、さらにモチベーションが上がり前向きになった。

 今回の勝利は、負けて、勝って、負けて、負けてという中での勝利だが、重要なことは前を向いてこの選手権トップをどのように守っていくか、頑張ってそれを維持しようというモチベーションを上げてくれるレースだったと言える。

──モナコには3勝分の勝ちがあるというが? 田辺氏の中では何勝分か?

田辺氏:皆さんがそうおっしゃるなら3勝分なのだろう。ただ、選手権の中の1戦として考えると、1勝は1勝にすぎない。そうした観点で言えば1勝分だ。

モナコ公国のアルベール2世大公から優勝のトロフィーを受け取るマックス・フェルスタッペン選手 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

──2015年復帰以降、モナコGPでの表彰台以上は初めてだと思うが?

田辺氏:先ほどモナコのシリーズという観点では1勝は1勝だという話をさせていただいたが、23戦もレースがある中で、このモナコGPは特別な市街地コースでドライバーズサーキットでもある。ホンダF1としては過去にいいレースをしてきたという話も含めて、最後のシーズンでよい結果を残せたのは非常によいことだと思っている。

──ルクレール選手がスタートできない、ボッタス選手はタイヤ交換ができないなど、今回はホンダのライバル勢に不運が襲いかかっていた印象だが……

田辺氏:先ほども述べたとおり、他チームにとっては悪夢であり、ネガティブなことがわれわれにとっては幸運に働いたことは否定できない。しかし、逆に言えばそれがわれわれに起こっても不思議ではないのがレースだ。それが無かったとしてどうだったかと問われれば、正直あまり変わらなかったのではないかとは思うが、そうしたことも味方につけることができたから勝てたのだろう。

──フェルスタッペン選手はイン側に向けてグリッドについていた? これは狙ってのことか?

田辺氏:チーム内でどんな話をしていたかは私には分からない。ただ、一般論とすればここのコースは奇数グリッドが有利で、偶数グリッドの選手はできるだけ早くイン側へ行きたいということもあるし、今回はポールポジションがいないということもあり、車線変更するよりもそのまま1コーナーに入っていくのがよいと判断したのではないか。そこまで向けなくてもいいんじゃないか、とは感じたが。

レース終盤には燃費は「それなりにきつかった」、序盤5戦の総括は「基本的には順調」に来ていると評価

レースで4位に入り、チームがコンストラクターズ選手権でトップになることに貢献したセルジオ・ペレス選手 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

──盤石なレースに見えたが、前回のバルセロナのような緊迫したレースではなかったように見えたが?

田辺氏:気楽にやっているということは一切無いが、デグラデーション(タイヤの性能劣化)、エンジンのクーリングなどはいずれも想定内の正常値でレースが進んだのは事実だ。それでも裏ではいろいろと「こういうことが起こったら、ああいうことが起こったら」という話はしていた。

──レース終盤、ペレス選手がベッテル選手を追いかけている時に、終盤に追いかけられるための燃料をセーブしておけという無線があったが、SCも出なかったりして、史上最速のレースになったが、燃費はきつかったのか? また、どの程度きつかったのか?

田辺氏:通常のモナコGPのレースはセーフティカーを想定した燃料を搭載する。しかし、今回セーフティカーは一度も出なかった。そのため、トップもわざと押さえてそれなりの戦いをしながら周回が進んでいた。その意味ではそれなりにはきつくはなった。

──1987年のセナの優勝以来、1987~1992年に5回の優勝に関わられていたと思う。今日のフェルスタッペン選手のモナコ初優勝との共通点があれば教えてほしい

田辺氏:共通点はどちらも速いということだ。ただ、あの当時のプリミティブ(原始的)な時代のF1と、現代のハイブリッドのF1では複雑性などすべてが異なっており印象は違ってくる。ただ、どちらも共通点としては限界ギリギリまでプッシュするために、クルマをそこまでセットアップして速く走るということだ。

決勝レースを6位でゴールしたアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリー選手 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

──序盤5戦を終えて、ここまでの総括を教えてほしい

田辺氏:今年、23戦を3つのPU、2つのERS(エネルギー回生システム)で走るので、そこには届いていないが、今のところ「基本的には」順調にきている。いくつか問題が発生してクールアウトしたものもあるが、基本的には順調にきている。このレースが終わった後、コンディションがどうなっているかを見て、次どうしていくかを考えていく。

──次の第6戦アゼルバイジャンGPが行なわれるバクーは同じ市街地コースではあるが、長いストレートなどモナコGPとはかなり特性が違うコースになる。次戦の見通しを教えてほしい。

田辺氏:低速コーナー部分に関しては今回の経験を生かして最適化を図って臨むようにしていきたい。おっしゃる通り、ストレートが長いなどの特徴を持っていて、市街地だけどちょっと飛び抜けた特徴があるコースになっている。そこに向けて両方のバランスを今年のPUでうまく取れるように、もう1回シミュレーションをかけてキャリブレーションを設定して臨みたいと思っている。

優勝したマックス・フェルスタッペン選手の33号車 レッドブル・レーシング・ホンダ (C)Getty Images / Red Bull Content Pool