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ミシュラン、新しいフリート用デジタルソリューション記者会見 「DX化が運輸業界の課題解決になる」と須藤社長

2021年9月24日 実施

日本ミシュランタイヤ株式会社 B2B事業部 常務執行役員 田中禎浩氏(左)、日本ミシュランタイヤ株式会社 代表取締役社長 須藤元氏(中)、冨士運輸株式会社 代表取締役 松岡弘晃氏(右)

運輸業界の課題解決への貢献を目指すミシュラン

 日本ミシュランタイヤは9月24日、「新しいフリート用デジタルソリューション発表記者会見」をオンラインで実施した。登壇したのは、日本ミシュランタイヤ 代表取締役社長 須藤元氏、同B2B事業部 常務執行役員 田中禎浩氏、また、今回の新サービスで協業した冨士運輸 代表取締役 松岡弘晃氏の3名。

 まず日本ミシュランタイヤの須藤社長より、運輸業界の課題とミシュランの取り組みについての解説が行なわれた。

 須藤社長は「ミシュランは130年の歴史において、モビリティへの貢献という使命を持ち、その役割を果たしてきました。特に私たちの生活を支えている物流への貢献は、われわれミシュランにとっても重要な取り組みです。世界の物流事情と比較しても日本の物流事情を取り巻く環境はさまざまな課題を抱えていて、そうした中で、持続可能な物流をいかに実現していくか、貢献できることを1つひとつ具現化していくことが重要だと考えている」とあいさつ。

 続いて、運送業界ではコロナ禍で失業率が上昇しているにも関わらず、全産業と比較して約2倍の求人倍率があるほどドライバー不足が慢性化している点を紹介。続けて、運輸業界には194万人が就労していて、そのうちドライバーは約85万人にもなるが、ドライバーの賃金は産業全体の平均よりも低い水準で推移していて、現状はコロナ前よりも10%ほど落ち込んでいる点を解説。さらに、2024年4月に「時間外労働の上限を年960時間まで」という規制がドライバーにも適応されるが、労働時間についても産業全体平均と比較しても高止まりしていること、厚生労働省や日本トラック協会のデータを元に「ドライバー不足」「ドライバーの賃金」「労働時間」と3つの大きな課題に直面していることに言及した。

運輸業界の課題1
運輸業界の課題2
運輸業界の課題3

ミシュランと富士運輸、運送トラックのタイヤトラブルを素早く解決するためのアプリを共同開発

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1353308.html

「こういった課題を抱えつつも、われわれの生活を支える物流を安定した社会インフラにするためには、運輸事業者の持続可能な成長が必要不可欠です」と須藤社長は説く。

 そのためには運輸業界の「安全性」「生産性」「収益性」という3つの基盤のプロセスのDX(デジタルトランスフォーメーション)化が必須であると同時に、運輸業界を取り巻く企業が提供するサービスや商品のプロセスも同様にDX化されることが重要になってくるという。

 また、これらの課題についてミシュランはどんな貢献ができるのかについて須藤社長は、経済性を最大化させる「再生タイヤ」や新しく溝を生み出す「リグルーブ」、積載効率を高める「シングルタイヤ」といった商品による貢献と、輸送ルートの最適化などコネクティッド技術を活用した「フリートソリューション」、タイヤの状態を瞬時に測定できる「クイックスキャン」などデジタルを駆使した貢献、さらに「3Dプリンター」や「水素燃料電池」といった分野もより進化させることで、タイヤを使用するプロセスのDX化が実現でき、運輸業界への貢献が可能になるとしている。

 最後は日本国内における日本ミシュランタイヤの取り組みについても触れ、2004年にパンクやバーストなど突発的なトラブルが発生した際も、いち早く現状復帰させて確実に配送を完了させるための「MRN(ミシュランレスキューネットワーク)」をスタート。2007年には積載効率を向上させるシングルタイヤ「Xone」を市場へ投入。2016年にはドライバーの状況を把握するための「ドライバー診断パッケージ」、2018年にはドライバーとレスキューネットワークのコネクトを目指した「TPMSクラウドサービス」を導入するなど、「常に新サービスの開発だけでなく、今ある既存サービスをより進化させるためにDX化に取り組んでいる」と須藤社長は語る。

 そして今回、冨士運輸と共同でMRNをDX化させることで、より簡単に、より正確に、より迅速に、タイヤトラブルに対応してドライバーが素早く原状復帰でき、ダウンタイム(トラブルによる車両の稼働停止時間)の削減と生産性の向上をサポートするためのアプリ「MRN GO」を開発したと説明した。

運輸業界の持続可能な成長に必要な要素
ミシュラングループの持続可能な取り組み
日本ミシュランタイヤの取り組み

早くからDX化に取り組んでいた冨士運輸が開発に協力

冨士運輸株式会社 代表取締役 松岡弘晃氏

 続いて冨士運輸 代表取締役の松岡氏は「サービス向上のために2001年から事業規模拡大を目指してきて20年、今や事業規模は約100倍に拡大した」と紹介。そしてその成長の背景には、車両の場所や速度、業務員の休憩時間が見えるようになるGPSシステムに加え、ドライバーの賃金、高速料金、燃料費の自動計算を可能とし、1便あたりの最終利益まで見える化するといった社内の基幹システムを自社開発するなどのDX化が大きな要因だという。その結果、ドライバーの生産性を高め、管理者の業務も大幅に削減したことで大きな成長を実現できたと明かす。

 こういったDX化を裏で支えているのが、NTTドコモと共同出資で設立し、すべてのシステムの構築を行なっているグループ企業のドコマップジャパン。システムでは複数のトラックの位置を把握できるのはもちろん、所属支店、ドライバー氏名、トラックの写真、運行経路、積荷情報までを把握でき、輸送効率と生産性が著しく向上したとしている。

 このシステムを知ったミシュランから、MRNの利便性を高めるためのDX化の相談を受けた冨士運輸は、レスキュー時間の短縮がトラック乗務員の労働時間短縮にもつながると快諾。ドコマップジャパンが独自に開発していた「TPMSクラウドサービス」との連動機能をMRNにも取り入れるという共同開発が始まった。

 また、松岡氏は「ロングライフでトラブルが少ないので、15年前からミシュランタイヤを採用しているが、この15年で約5億円の経費削減につながっている」とミシュランタイヤを愛用している理由を紹介しつつ、「今後はより徹底したコスト管理が求められる時代なので、タイヤだけでなくレスキューサービスもDX化することでさらにコストを削減でき、それを運輸業界全体に広めていくお手伝いもしたい」と語る。

全国に108の拠点を持つ冨士運輸グループ
DX化の重要性 ドコマップジャパンの役割

2026年にはMRN全利用者に普及させるのが目標

日本ミシュランタイヤ株式会社 B2B事業部 常務執行役員 田中禎浩氏

 日本ミシュランタイヤB2B事業部の田中氏によると、MRNは2004年に開始し、現在登録している企業は約2000社、登録台数も約4万台まで増え、それを約1300店のサービス拠点がサポートしているという。しかし、さらなるドライバーのダウンタイム削減を目指してMRNのDX化を計画。そしてドコマップジャパンは「運輸事業者の視点」「ドライバーの視点」「現場へ駆けつけ復旧作業を行なうサービスプロバイダー」と、3つの視点から課題を聞き取りながら「MRN GO」を開発。

 これまでトラブルに関する情報伝達は電話のみだったが、「MRN GO」が完成したことで、正確な位置情報、トラブル箇所の画像、TPMSの情報なども連携できるようになり、サービスプロバイダーは出発前の準備を効率的に行なえるのはもちろん、現場での復旧作業も短縮でき、ドライバーのダウンタイム削減につながるとしている。

MRN(ミシュランレスキューネットワーク)とは
タイヤトラブル発生からレスキューまでの流れ

 実際にタイヤトラブルが発生した際ドライバーは、まず「MRN GO」アプリを起動させ、「SOSボタン」をタップ。車両情報、TPMS情報、最大5枚までの写真をコールセンターへ送信し、コールセンターは、その情報や画像を見ながら最寄りのサービス拠点へ連絡。サービスプロバイダーも事前に詳細な情報が渡されるので、スムーズに準備ができて、現場へも素早く到着できる。

MRN GOデモ画面 レスキューコールの流れ1
MRN GOデモ画面 レスキューコールの流れ2
MRN GOデモ画面 レスキューコールの流れ3
MRN GOデモ画面 レスキューコールの流れ4
MRNコールセンターのオペレーター画面

 田中氏は「共有できる情報が増えることがDX化の大きなメリットである」といい、さらにドコマップジャパンが提供する「docomap GO」も合わせて利用すると、MRNだけでなく、さらに動態管理サービスやTPMS情報の常時リモート把握なども可能になるという。また、MRN GOについて田中氏は「2022年末までに1万台の利用を目指し、5年後の2026年にはすべてのMRN利用者の移行を目標にしている」と語った。

 なお、MRN GOは2021年11月からサービス開始予定で、アプリ自体は無料となっているが、サービスを利用するにはMRNへの加盟が必要となる。また、ドコマップジャパンのアプリ「docomap GO」を併用して、TPMSのトラッキングを含めた動態管理システムを利用する場合は550円/台が必要となる。

MRN GOの展望