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日本TI、EVの走行距離を最大化する1.5W絶縁型DC/DCバイアス電源モジュールの新製品「UCC14240-Q1」オンライン説明会
2021年9月30日 12:43
- 2021年9月29日 開催
日本TI(テキサス・インスツルメンツ)は9月29日、車載向け1.5W絶縁型DC/DCバイアス電源モジュールの新製品「UCC14240-Q1」に関するオンライン記者説明会を開催した。
独自の内蔵トランス技術を採用することで“業界最小で最高精度”を実現したこの新製品は、IGBT(絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ)、SiC(シリコン・カーバイド)、GaN(窒化ガリウム)の各スイッチを高周波で駆動。105℃の温度下でも1.5W以上の電力供給を可能としており、デュアル出力パワー・モジュールとして競合製品の2倍となる電力密度60%を実現。サイズと重量の軽減によってEV(電気自動車)やハイブリッドカーなどの走行距離延長に寄与するという。1000個受注時の単価(参考価格)は4.20ドルと設定しており、製品の評価に使用できる「UCC14240Q1EVM-052 評価基板」も59ドルで供給中となっている。
説明会では、米国本社であるテキサス・インスツルメンツ・インコーポレイテッドのオートモーティブ・システム部門 ディレクター ライアン・マナック氏がプレゼンテーションを実施。
マナック氏は世界各国の政府がCO2排出に強い関心を寄せており、自動車でもモーターやバッテリーの進化が求められているほか、2025年には新車販売台数のうち30%がEVになるとの試算を紹介。消費者にとって、EVは既存のガソリン車と比較して価格が大きな問題となっているが、2010年時点ではバッテリーパックの値段は1000ドル/kWh以上となっていたものが、メーカー各社の努力によって2024年には100ドル/kWh以下に下がっていくだろうと見られており、EV周辺の技術革新が加速度的に進んでいることから、さらに下まわっていくかもしれないとの見方を示した。
また、価格抑制に加えて1充電での走行距離も伸びており、最新モデルでは1充電で480kmを超えるまでに進化していることに加え、充電ステーションの拡充によってユーザーの充電に対する心配も払拭されていくだろうと解説。TIとしてもEV普及に向け、手ごろ感のある価格、走行距離の拡大といった面からサポートしていくとした。
具体策としてはTIが持つパワートレーンシステムの統合に取り組んでおり、コスト削減や設計のシンプル化、機能安全性に対する準拠と合理化による信頼性向上を図っていく。また、パワートレーンの統合によってシステムの効率化と電力密度の改善、小さなソリューションの中での電力集約、車体の軽量化などが可能となり、走行距離の拡大を実現するとマナック氏は述べた。
さらに個別の領域として、EVなどで利用されるバイアス電源でも進化が続いており、従来のモーター制御システムでは一元化されたフライバック、あるいはプッシュプルのトポロジーで、必要となる絶縁型のゲートドライバーに電圧を供給してきた。これまで数十年にわたって利用されてきたこれらの技術だが、自動車に求められる安全性、冗長性などの要件はさらに厳しさを増しており、市場では軽量型、全高の低さといったニーズが重要視されるようになっている。
これはフライバックやプッシュプルで使われている外部トランスの重量が重く、背が高いことに起因しており、分散型アーキテクチャのメリットを得にくい理由となってきた。EVではさらに高度で小型化された製品が求められており、TIではコンパクトな内蔵型でありながらハイパフォーマンスなトランスを開発してきた。
新たに発表した新製品のUCC14240-Q1ではTI独自の内蔵トランスモジュールを採用。分散型、半分散型といったバイアス電源市場の流れに対応する製品となっており、業界内で最も小型、最も精度の高い1.5W絶縁型DC/DCバイアス電源モジュールだとマナック氏は強調する。
オンボードチャージャーや産業アプリケーションなどにも応用可能
スライドで示された製品イメージでは、プッシュプルコンバーターを使う従来型と新製品を比較。従来型では一般的にAMラジオよりも低い550kHzより下の周波数帯でスイッチングを持ち、高電圧システムではクリアランスなども必要となることから、トランス自体が相対的に大きくなるという。スライドの例では定格2000Vrmsのシステムで12×15mmの基盤にパーツが並び、高さは11mmのパッケージとなっている。
これと比較して、TIの新製品はサイズ面でのメリットが一目瞭然となっており、ICにトランスを内蔵したことで、高さは3.55mmと7mm以上抑えられている。また、絶縁電圧も3000Vrms以上となり、第三者機関によって100%の絶縁バリアが認証されているとした。また、単純なサイズだけではなく、新製品ではスナッパー回路や電圧レギュレーターといったコンポーネントをすべてIC内に内蔵する一体型を採用。あとはデカップリングのコンデンサ、電圧・電流の設定レジスターを追加するだけで使用可能になるという。従来型では複雑だった設計がシンプルになり、外部コンポーネントが60%以上不要になることからサプライチェーンや購買といったプロセスを簡略化できるメリットもある。
トラクションインバータシステムは3つのハーフブリッジ、あるいはフェイズで構成されてモーターを励起しており、新製品はハーフブリッジのスイッチ駆動に利用されるもので、SiC、IGBT、GaN、シリコンベースに対応するとのこと。
UCC14240-Q1は1つだけでも絶縁型のゲートドライバとして利用可能となっており、完全な分散型システムとなるほか、システムによってはローサイドのスイッチが同じポテンシャルにリファレンスされている場合もあり、そのときは1つのUCC14240-Q1ですべてをまかなうことが可能で、その状態では「半分散型バイアス電源システム」と呼んでいるという。
また、UCC14240-Q1はトラクションインバータに止まらず、オンボードチャージャーやDC/DCコンバータ、モーター駆動システムやグリッド接続型インバータ、ファクトリーオートメーションといった産業アプリケーションなどにも応用可能となっている。
サイズや部品点数の縮小といったメリット以外にも、新製品は静電容量が低いことも大きな特徴で、従来型では35pFになるケースもあるところを、3.5pFまで抑制。EMI(電磁波障害)やCMTI(過渡電圧耐性)などのパフォーマンスで優位に立つことができるとした。
また、従来型でフライバックやプッシュプルが利用されてきた要因の1つとして、車載用では温度に対する要求がシビアだったことも挙げられるが、新製品ではポジティブ、ネガティブの2つのアウトプットを用意してSiC、IGBTといったスイッチに対応しつつ、閉ループのレギュレーションで-40℃~150℃の温度帯における出力電圧±1.0%の精度を実現している。
デバイスの出力電源もしっかりと定義しており、さまざまな自動車アプリケーションのスイッチングに対応可能。周辺温度105℃で1.5W以上を提供する設計となっており、105℃以下でもより高い出力に対応するよう設定している。
さらに専用のパワーグッドピンも備えており、出力電圧がレギュレーションに達したことをホストMCUに知らせたり、障害などの発生時に信号を送るといった機能を、ほかの高価なコンポーネントを追加することなく利用可能。ソフトスタートの機能で過電流、過電力、過熱からの保護も行なえるようになっている。
最後にマナック氏は、UCC14240-Q1は業界で最小となるソリューションであり、メーカーの開発担当者は縦横の小ささに加えて高さも低いこの新製品はプリント基板のどこでも好きな位置にレイアウト可能で、基板の裏表どちらにも設置できるとアピールしている。