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パナソニック、テスラ向け高容量車載電池「4680」初公開 アップルEVのバッテリ調達については「可能性は否定しない」

2021年10月25日 発表

テスラ向けに開発している高容量車載電池の「4680」を初公開したパナソニック エナジー社 只信一生社長兼CEO

 車載電池をはじめとした電池事業や蓄電事業などを担当するパナソニック エナジー社が、2021年10月1日に発足したのに合わせて、同社の只信一生社長兼CEOが合同取材に応じた。同社の方向性などについて説明する一方、テスラ向けに開発している高容量車載電池の「4680」を初めて公開した。

 只信一生社長兼CEOは、「高容量の4680セルは、技術的な目途がたち、早期実用化に向けた準備が進んでいて、2021年度中に試作設備を導入する予定。4680を量産するには新たな工法を採用する必要がある。量産が可能なレベルに仕上げていくためにも、まずは国内で量産工法を見極めるための試作ラインを作っているところ。下期に徐々に立ち上がっていく。ステージが変わってきたところだともいえる。今後は北米工場を立ち上げてきた経験を活かしたり、オペレーション力も生かしながら、短期間で立ち上げられるところまで国内で見極めていく。これによって、環境車の普及にさらに貢献していくことができる」とした。

 4680は、2020年9月にテスラが開催したバッテリーディで公開した次期車載電池だ。「バッテリーディの前からテスラと議論を続け、円筒型の可能性、コストや車体のバランスなどを考慮して、最適値に近いものとしてこの仕様に落ち着いた。狙ったところに向けて開発しており、やり切れるかどうかがいまのテーマ」とする。

 テスラ「モデル3」などに搭載している2170に比べて、4680の容量は約5倍。「EV化の流れにおいて、合理化やより大容量化を実現するために取り組んでいるのが4680で、高信頼性も実現している。材料やモノづくり技術で差別化し、早く実用化することで世の中の環境対応に貢献したい」と述べた。

「4680を早く実用化することで世の中の環境対応に貢献したい」と只信氏

 一方、米国市場で急速にテスラのEVが普及する中で、中国のCATLなどが生産するリン酸鉄リチウムバッテリを採用する姿勢を明らかにしたことについては、「テスラとは緊密なパートナーシップを結んでいる。その関係は強まることはあっても弱まることはない。北米工場での生産に対するテスラの期待は大きい。足下でも高い出荷品質が求められいる。影響はない」とコメント。「パナソニックの車載バッテリの最大の価値は、環境負荷が少なく、高容量を達成し、安全性が高い状態で市場に貢献していくという点。4680をはじめとした領域に投資を集中していくことになる。リン酸鉄リチウムバッテリでは300~350kmの走行距離だが、パナソニックはより航続距離が長く、パワーが求められる領域に貢献したい。リン酸鉄リチウムバッテリの生産は考えていない」と述べた。

 また、アップルがEVの生産を計画していることが一部で報道されているが、パナソニックをバッテリ調達の候補として検討していることについては「さまざまな可能性は否定しない。EVに対する世の中の期待値が高まるなかで、さまざまな広がりに向けた検討をしていきたい。ただ、主軸はテスラ。リソースの分散などでやるべき仕事が遅延することがないように配慮しながら事業運営をしていく。パナソニックの電池性能を理解してもらい、価値観が合う企業への供給を前提としたい」と述べた。

左から1865、2170、4680

 パナソニック エナジー社は、乾電池やニッケル水素電池などの一次電池を取り扱うエナジーデバイス事業部、車載用円筒形リチウムイオン電池を担当するモビリティエナジー事業部、小型リチウムイオン電池や蓄電システムなどを担当するエナジーソリューション事業部で構成。売上高の5割強がモビリティエナジー事業部による車載事業が占めている。

 車載分野では、駆動用の円筒型リチウムイオンバッテリ、タイヤの空気圧センサ、キーレスエントリーシステムに採用するリチウム一時電池などを提供。IoTやインフラ分野ではノートPCやタブレット向けの小型リチウム電池のほか、データセンター向けの蓄電モジュール、医療機器やスマートグラス、ガス/水道メーター向けの電池などを開発、生産。民生用ではアルカリ乾電池のEVOLTAや、ニッケル水素充電池のeneloopを発売。電動アシスト自転車や電動工具向けの小型リチウムイオン電池も市場投入している。

パナソニック エナジー社の事業構成
組織体制

 国内8拠点のほか、海外は中国、インド、東南アジア、北米、中南米などに12拠点を展開。インド、東南アジア、中南米は一次電池の工場を展開。中国や北米では二次電池の工場を稼働させている。グローバルの連結従業員数は約2万人。そのうち国内4500人、海外1万5500人の体制となっている。また、本社や各カンパニーに分散していた技術開発機能および営業部門を統合。「電池は、材料開発から、モノづくり、商品化までのすり合わせをしっかり行なうことで、精度の高いものを効率よく生み出すことができる。パナソニックの他の事業会社よりも、開発部門の人員比率は高い。3桁前半のエンジニアリングリソースを確保する。関連部門を集約したことで、機動性を高め、解決力を高めることができる」という。

 だが、開発部門は本社直轄としながら、事業とも連動するハイブリッド型の体制を敷いており、長期的視点からの基礎開発にも取り組めるようにしているという。なお、エナシー社は、バナソニックが予定している2022年4月の持ち株会社への移行に伴い、パナソニック エナジー株式会社となる予定だ。

主要生産拠点
主要生産拠点(日本)

 只信社長兼CEOは、「パナソニック エナジーが担当する電池市場は、2020年には約6兆円の市場規模だったものが、2024年には約11兆円に拡大する。その成長を支えるのが車載向けリチウムイオン電池。また、インフラや民生向けリチウムイオン電池、一次電池も安定した成長が見込まれている」とする。

電池事業の市場規模

 車載用電池分野では、環境車の進化や普及に対応。北米市場では、オペレーションの強化ととともに2021年8月から14本目の新ラインを稼働させたことで、年間38~39GWh相当の生産能力を確保。今後も効率的、安定的に生産できる体制を維持するという。

 一次電池では、長期間の信頼性を強みとするマイクロ電池を、火災報知機などの異常を検知する各種センサーやIoT機器の電源として提供。災害が頻発する近年の状況に対応して、業界ナンバーワンの長持ち性能を持つ信頼性の高い乾電池のほか、ライト、ランタンなどを「備災」の商品として提案。紙を使用したエシカルパッケージの乾電池を2021年10月25日から発売し、低環境負荷にも取り組むという。現在、大阪守口市で生産している乾電池の生産を、2023年度中には二色の浜工場に移管。高効率、環境配慮型の工場として稼働させる。

 産業用電池システムでは、データセンターで培った技術を、家庭用蓄電システムや医療用などの用途に展開。拡大する需要に対応するため、メキシコ工場のシステム組立工程の生産能力を約2割増強するという。「パナソニックは、電気で豊かな世界を作りたいという思いを持ち、それぞれの時代背景にある暮らしの社会課題に向き合ってきた。安心、安全、低環境負荷という提供価値を最大化し、持続可能な社会を実現する。また、環境車によるグリーンと、情報通信インフラによるデジタルを中心とした領域に注力し、お役立ちをしていく」とし、長期の安心、安全を支える電池応用システム技術、環境車の進化や普及に適合した電池セル性能や安全性を、同社の提供価値に位置付けた。

各事業分野の取り組み
パナソニック エナジー社の事業分野とお役立ち

「高度化するIoT社会と、生活スタイルの多様化、豊かさの追求が進む一方で、深刻な地球環境問題や、自然災害の激甚化に直面している。これまで電池事業で培ってきたエナジー領域の強みを活かして、豊かなくらしと環境が矛盾なく両立、調和する持続可能な社会を実現していく。これがパナソニック エナジーが目指す姿になる」と語った。

事業会社として目指す姿

 新会社のミッションには「幸せの追求と持続可能な環境が、矛盾なく調和した社会の実現」とし、ビジョンは「未来を変えるエナジーになる」とした。また、ミッション、ビジョンを実現する意思を示したウィルとして「人類として、やるしかない」を掲げ、「ヤルシカ」という鹿や地球をイメージした独自のマークも作った。「未来を変えるために、人類としてやるしかないという強い意思で、これまでの電池という枠を超えて、まだどこにもない価値を創造していく会社を目指す」と只信氏は述べた。

 パナソニック エナジーの環境目標については、パナソニック全社の目標よりも2年前倒しとなる2028年までに、グローバル自社工場のカーボンニュートラル達成を目指しており、「モノづくりを極め、省エネや省ロス化を追求するとともに、創エネや再エネ調達を実施。リユースやリサイクルに対する研究開発、事業展開を図り、環境負荷を徹底削減していく」と述べた。

 すでに、ブラジル、中国・無錫、コスタリカの工場でカーボンニュートラルを達成。2021年には中国・蘇州、タイでも達成する予定だ。

環境への取り組み