イベントレポート CES 2020

パナソニック、次世代インフォテイメントやV2X「CIRRUS」を詳説。電動ハーレー Live Wireは「H-Dコネクト」搭載

2020年1月6日(現地時間) 開催

次世代インフォテイメントシステム「SPYDR」

 パナソニックは1月6日(現地時間)、米ネバダ州ラスベガスで開催している「CES 2020」のプレスカンファレンスにおいて、スマートモビリティへの取り組みなどについて発表した。

 パナソニック オートモーティブシステムズ カンパニー・オブ・アメリカのスコット・キルヒナー社長は、通信技術やIoT技術を活用したモビリティサービスの具体的な事例について説明。「パナソニックは、世界をリードする自動車用バッテリーのサプライヤーだけにはとどまらない。エンド・トゥ・エンドのモビリティを提供する信頼できるプロバイダーになることを目指している」と発言し、インフォテイメントシステム「SPYDR 3.0」を超える新たな製品の開発を発表した。

 そのほか、V2Xプラットフォームである「CIRRUS(シラス)」が、ユタ州運輸省などで導入が始まっていること、小型電気自動車メーカーのTROPOSと緊急車両の開発で協業している例などを紹介。スマートモビリティ分野における成果を披露した。

パナソニック オートモーティブシステムズ カンパニー・オブ・アメリカのスコット・キルヒナー社長

 また、パナソニック ノースアメリカのマイケル・モスコウィッツCEOは、「パナソニックのアビオニクスソリューションは、エンターテイメントだけでなく、ウェルネスまでを提供することができる。航空機の乗客の体験を再定義することになる」などと語り、同社のアビオニクスソリューションが新たな段階に進んでいることを強調した。

パナソニック ノースアメリカのマイケル・モスコウィッツCEO

 同社がエンド・トゥ・エンドのモビリティを提供すると語る上で重要な製品の1つが「SPYDR」である。これは、GoogleのAndroid Automotive OS、Android 10で実行する次世代インフォテイメントシステムで、これまではSPYDR 3.0の名称で、1つのデバイスで9台のモニタを制御し、省スペース、低コストを実現することを目指していたが、今回の発表では、最大11台のモニタを制御。ヘッドアップディスプレイにさまざまな情報を表示することができる形に進化させ、「SkipGen 3.0」と表現してみせた。Karma AutomotiveのSC1ビジョンコンセプトと連携するものになるという。

 一方、今回の会見でキルヒナー社長は、いくつかの協業事例を交えて、自動車分野におけるパナソニックのスマートモビリティの取り組みを説明した。そのなかでも時間を割いて説明したのが、V2Xプラットフォームの「CIRRUS」である。

 CIRRUSは、通行車両や道路に設置されたセンサーを介して、交通事故や渋滞、悪天候などのさまざまな情報をリアルタイムに収集。ドライバーに対して 迂回ルートや遅延想定時間などの有用な情報を提供することで、安全性の向上と道路交通状況の改善を図るというものだ。「過去3年間に渡って立ち上げてきたプラットフォームであり、米国内最大のインテリジェント交通データネットワークになる」(キルヒナー社長)と位置付ける。

 すでに、コロラド州運輸省、ジョージア州運輸省との協業を進めており、今回、ユタ州運輸省と今後5年間に渡って協業することを発表。その狙いなどについて説明した。

ユタ州運輸省のエグゼクティブディレクターであるカルロス・ブラセラス氏

 登壇したユタ州運輸省のエグゼクティブディレクターであるカルロス・ブラセラス氏は、「米国内では毎年4万人が交通事故で死亡している。ユタ州は爆発的な人口増加に伴い、クルマの安全確保が重要な課題になっている。ユタ州ではZero Fatalitiesイニシアチブを立ち上げ、コネクテッドビークルインフラストラクチャを構築することで、こうした課題に対応しようとしている。CIRRUSはそれを実現する重要な取り組みであり、車両や道路、交通事業者間のデータをリアルタイムで解析し、交通事故と死亡者数を劇的に削減できる可能性があると考えている。また、道路の効率が向上するため、交通やアイドリングによる汚染を減らすことができ、ユタ州における生活の質を向上させることができる」とした。

 CIRRUSの導入に際して、すでに6か月間のプロジェクトを実行しており、30台の車両に対してセンシングと通信技術を装備。約40か所の沿道にセンシング機器などを設置しているという。「2020年5月までに最初のフェーズのテストを開始する。今後、220か所に機器を設置し、最大2000台の車両に拡張していくことになる。ユタ州における交通事故死者ゼロと、リアルタイムの状況認識という目標に近付くことができ、スマートカー時代の到来に対しても準備ができる」としている。

Tropos Motorsの創設者兼CEOであるジョン・バティスタ氏

 もう1つの協業が、小型電気自動車ベンチャーであるTROPOSとの連携である。ここでは緊急車両の開発分野で協業をしていることを明らかにした。

 Tropos Motorsの創設者兼CEOであるジョン・バティスタ氏は、「今回紹介するTROPOS ABLE FRVは、小型ながらも大きな積載量と牽引能力を持つ電気自動車であり、最適なテクノロジーと電動化ソリューションの組み合わせにより、小型商用車に対する企業ニーズに応えることができる。そして、これらの車両は、地球にとってよりクリーンな選択肢となる」と前置きし、会見場に展示された消防車について説明。「6フィート5インチの高さであり、全米防火協会の基準に合致した仕様となっている。低重心で、12.5フィートの狭い旋回半径を備えているため、狭いスペースでの運用にも最適だ。車内にはパナソニックのタフブックを搭載しており、それをもとに緊急対応情報を確認し、現場での活動を支援したり、火災情報の記録などが可能になる。狭い都市部での運用や、予算を重視する場合などに最適である」とした。

TROPOS ABLE FRVによる消防車
車内にはタフブックを搭載している

 さらに、2019年のCESで発表したハーレーダビッドソンの電動バイク「Live Wire」についても言及。「24時間365日のパフォーマンス分析および監視ができるパナソニックのOne Connectプラットフォームを採用した『H-Dコネクト』を搭載したLive Wireは、利用者の利便性を高めるだけでなく、次世代車開発のためのデータとしても活用できる点が特徴である。この1年間でツーリングモデルの大半に拡大している」(キルヒナー社長)などとした。

パナソニックのOne Connectプラットフォームを採用した「H-Dコネクト」がハーレーダビッドソンの電動バイク「Live Wire」に搭載される
Klipschとの協業で、パナソニックが提供する車内オーディオ技術の1つに採用

 また、Klipschとの協業では、同社の技術をパナソニックが提供する車内オーディオ技術の1つに採用することを発表。「歪みが少ない正確なサウンドを、少ない電力で実現することができる。オーディオファンが求める音を実現できる」とし、「FenderやELSと同様に、パナソニックのオーディオパートナーのファミリーの1つに加わり、モビリティの未来を作るエコシステムとして、新たなビジネスを創出できるようになる」(キルヒナー社長)と述べた。

インフライトマッププラットフォームの「Arc」

 一方、アビオニクスソリューションについては、モスコウィッツCEOが説明。「これはパナソニックが40年間に渡って取り組んでいる事業であり、年間27億人以上の乗客がパナソニックのアビオニクスソリューションを使用している。航空会社との協力により、機内エンターテイメントおよびコミュニケーションシステムのすべての要素を通じて顧客満足度を最大限に高めることができる」としながら、「インフライトマッププラットフォームの『Arc』は、4K解像度での高精細地図を表示するだけでなく、機内のECサービスを利用して旅先のレストランやツアーの予約ができる。パーソナライズとインタラクションをもたらす、新たなフライト体験を実現するものになる」とした。

 さらに、「パナソニックはエンターテイメントだけでなく、ウェルネスまでを提供している」とし、プレミアムシート照明では、タイムゾーンの変更などに対応しながら、個々の座席にカスタマイズしたり、プログラムが可能な照明を実現。また、飛行機内の低周波の騒音を低減するために、プレミアムキャビン向けのノイズキャンセリングヘッドフォンを提供。ナノイーによる超微細なイオンにより、臭いを低減し、空気の質を改善することもできるという。「これらの取り組みにより、乗客体験を再定義していくことになる。誰もが楽しい飛行を体験できるようにする」とした。

 さらに、プリンセスクルーズとの協業では、船舶内に5万ルーメンの輝度と、ネイティブ4K解像度を実現する世界最小のレーザープロジェクターを設置したことを紹介。「コンパクトで持ち運びが簡単で、設置も簡単。鮮やかな色を再現でき、没入感のあるエンターテインメント体験を船上で提供できる。また、2万時間のメンテナンスフリーの投影が可能であり、2年以上航海をしていても大丈夫だ」などと述べた。

マイケル・フェルプス氏(右)と國米櫻選手(左)

 一方、北米市場における新たな取り組みとして、「Team Panasonic」を開始することを発表。北米のミレニアル世代やGen Z世代に対してパナソニックブランドを訴求する。

 ブランドアンバサダーには、28個のメダルを獲得した競泳選手のマイケル・フェルプス氏、世界水泳選手権女子において歴代最多の14個の金メダルを獲得した競泳選手のケイティ・レデッキー氏、4つのパラリンピックで銀メダルを獲得したロングジャンプ選手のレックス・ジレット氏、世界ランク6位の空手選手である國米櫻氏の4人が就任した。

 まずは、「#whatmovesus」を用意し、「アスリートの情熱がどのように進歩するのかといったストーリーを共有することになる」(パナソニック ノースアメリカのローレン・サラッタCMO)という。

國米櫻選手は会見で空手の型を披露した

大河原克行