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三菱自動車、2021年度上半期決算は純利益217億円。新型「アウトランダー」の好調で通期見通しを再度上方修正

2021年11月4日 開催

三菱自動車工業株式会社 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏

 三菱自動車工業は11月4日、2021年度上半期(2021年4月1日~9月30日)の決算を発表し、同上半期のビジネスハイライトについて解説するオンライン説明会を開催した。

 2021年度上半期の売上高は前年同期(5749億円)から3157億円増となる8906億円、営業利益は前年同期(-826億円)から1078億円増の252億円、営業利益率は2.8%、当期純利益は前年同期(-2099億円)から2316億円増の217億円。また、グローバル販売台数は前年同期(35万1000台)から9万1000台増の44万2000台となった。

 説明会では、冒頭で三菱自動車工業 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏からのあいさつが行なわれ、「昨年のはじめから世界中で猛威を振るっていた新型コロナウイルスは、各国でのワクチン摂取率の上昇に伴い、ようやく落ち着きを取り戻しはじめたように見受けられます。日本国内においても、10月から行動制限が少しずつ緩和されはじめました。国内では今冬にも第6波の襲来が予測されるなど、完全な終息にはまだ時間がかかると思われます。また、半導体不足を発端としたサプライチェーンの混乱は続いており、不透明感が払拭されるにはもうしばらく時間がかかりそうです。そういったなか、当社は中期経営計画『Small but Beautiful』を着実に推進しつつ、次のステップに向けての道筋作りを行なっております」と語られた。

三菱自動車工業株式会社 代表執行役副社長(CFO)池谷光司氏

 上半期決算の概要解説は三菱自動車工業 代表執行役副社長(CFO)池谷光司氏が担当。池谷氏は業績についてのサマリーを紹介した後、営業利益の変動要因、販売台数の内訳などを紹介。

 営業利益は米ドル、豪ドル、ユーロなどが円安に動いたことによる208億円の増益効果のほか、販売台数の増加と販売の質改善などで430億円、2020年度から開始したコストなどの構造改革の効果で142億円など、多くの面が増益要因になって、前年同期から1078億円増という結果を生み出している。

三菱自動車工業の2021年度上半期決算のサマリー
2021年度上半期における営業利益の増減要因
2021年度第2四半期における営業利益の増減要因

 前年同期から26%増となる44万2000台となった販売台数では、地域別の販売状況について解説。販売のコアであるアセアンでは一時的に販売が回復基調となったものの、第2四半期に新型コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンが繰り返されたことで販売に影響を受けたが、前年同期比では全体で51%増の10万7000台の販売となった。インドネシアでは奢侈税の減免政策が延長されたことに加え、資源価格や消費財、輸送需要が堅調に推移して需要が回復し、販売が好調という。下期については各国で行動制限が緩和され、需要が回復傾向になっていくと予測。市場動向を注視しつつ、国別の販売施策に取り組んでいくとした。

 もう1つのコア地域である豪州・ニュージーランドも新型コロナウイルスの感染再拡大によるロックダウンが実施されたが、自動車市場は堅調に推移。三菱自動車でも販売を積み重ねて前年同期比で50%増の4万5000台を販売した。豪州では新型車の投入に加え、主要車種の優先的な車両供給によって計画を上まわる販売を実現。ニュージーランドでは「アウトランダー」のモデルチェンジに先立って在庫車を積極的に導入し、販売台数、マーケットシェア共に大きく伸長させている。

2021年度上半期の販売台数
アセアン市場の販売状況
豪州・ニュージーランド市場の販売状況

 北米では新型コロナウイルスのワクチン接種が進んだこと、経済対策としての交付金支給などにより、特に第1四半期で自動車需要が大きく拡大。市場全体の伸びに加え、三菱自動車では4月に発売した新型アウトランダーが販売を牽引。また、4月からは新型車を中心にインセンティブの削減が進み、北米事業における収益の黒字転換を果たしたという。

 日本国内では、新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ前年からは販売が回復基調となっているが、半導体不足による車両供給の遅れでコロナ禍以前のレベルには回復しておらず、三菱自動車でも影響を受けたが、キャンペーンの実施による拡販施策で前年同期から26%増の3万4000台を販売した。

 また、2020年度から行なっている販売改革の効果で販売会社の収益率が大幅に改善。新型コロナウイルスの影響は2020年と比べて限定的になると予測しつつ、半導体不足の解消にはまだ一定の時間を要し、不透明な状況はこれからも続くと予想。しかし、先だって発表した新しい「アウトランダーPHEV」は大きな反響を得ており、このモデルを手がかりとしてさらなる販売の改革を推進。「エクリプス クロス PHEV」と合わせ、SUVのPHEVモデルのラインアップ充実によって将来的なカーボンニュートラルの実現に向けたユーザーニーズに応えていきたいとした。

北米市場の販売状況
日本市場の販売状況

第1四半期に続いて2021年度通期見通しを上方修正

営業利益、純利益などの2021年度通期見通しを上方修正

 2021年度通期見通しについては加藤氏にマイクが戻され、説明が行なわれた。加藤氏は2021年度の下期も新型コロナウイルスの感染再拡大、半導体不足、為替レートなどのリスク要因があるものの、上期で得た成果を踏まえ、中期経営計画で掲げた「2022年度に営業利益500億円」という目標を1年前倒しで達成できる見込みになったと紹介。第1四半期の決算発表時に続いて2021年度通期の業績見通しを上方修正すると明らかにした。

 販売台数では主に上期で発生した販売減を織り込んで、前回見通しから6万4000台減の90万3000台、売上高は同700億円減の2兆100億円と下方修正したが、一方で採算の大幅改善、コスト削減効果などにより、営業利益は200億円増の600億円、純利益は250億円増の400億円に上方修正している。

 2021年度下期では、新型アウトランダーの販売地域拡大、新型アウトランダーPHEVの投入効果の最大化などを図りつつ、さまざまなリスクに対応すべくコストの最適化を進めて修正した通期見通しを達成するため全力を尽くしていくと加藤氏は語った。

 なお、対前年度比で13%増の90万3000台とした通期の販売台数見通しでは、半導体などの部品不足が今後どのように影響していくかの見極めが非常に困難であり、地域ごとの振り分けが多数発生するとの見通しから、地域別の台数見通しの公表を差し控えるとしている。

2021年度通期の販売台数見通し。今後の予測が困難になっているため、地域別の台数内訳は非公開とされた
2021年度通期における営業利益見通しの変動要因分析

11月8日にアセアン市場向けの新型「エクスパンダー」を発表

インドネシアでの発売を予定する新型「エクスパンダー」

 このほかに説明会では、2021年度上半期のビジネスハイライトが加藤氏から解説された。

 同上半期では、4月に北米で新型アウトランダーが発売。ユーザーから高く評価されて現在でも販売が好調に推移しており、9月には米国で過去最高の売上を記録しているという。また、販売台数に加え、当初想定していた以上に上級グレードに人気が集中。ユーザーの信用度も従来モデルから大幅に改善している。

 このほか、三菱自動車のモデルとして初めて「10 BEST INTERIORS」(米国 Wards Auto)を獲得し、米国の各メディアで「高級感のある質感」「デザイン」などが高く評価されているという。9月からはニュージーランド市場でも販売が開始されたが、こちらでも市場からの引き合いが殺到しており、11月に発売したばかりの豪州でも多くのユーザーがWebサイトで登録している。日本で12月に発売することを発表したPHEVモデルについても多数の問い合わせが寄せられていると紹介された。

 12月に日本で発売されるアウトランダーPHEVは2013年に初代モデルが登場。これまでに累計で29万台を販売してPHEVカテゴリーを牽引してきた。新しいアウトランダーPHEVでは「より力強く、より遠くへ」を目指して開発された新世代PHEVシステムを採用し、あらゆる路面状況や天候下で安全、安心で快適な走りを体感できると加藤氏は説明。「威風堂々」をテーマにした力強く存在感のあるエクステリアデザイン、上質で先進的なインテリアが与えられ、2021年度のグッドデザイン賞も受賞している。

 また、先だって実施されたプロトタイプモデルの試乗会については、弊誌でも日下部保雄氏(三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」[プロトタイプ]、上質なSUVに仕上がっていることを実感)、岡本幸一郎氏(三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」[プロトタイプ]をサーキット試乗 想像以上の完成度!)の試乗記を掲載しているが、参加者から走行性能や内外装について前向きな感想が多数寄せられたという。

 10月28日に行なわれたオンライン発表会からは1週間が経過した段階だが、すでに2021年中の目標を超える受注を得ており、日本以外の市場でも今後順次展開を拡大する予定で、三菱自動車のブランド価値向上を進めていくとした。

新型アウトランダーは9月に過去最高の約4000台を販売
新型アウトランダーPHEVは年内の目標を上まわる受注を記録している

 今後の展開では、11月8日にアセアン市場向けの新型「エクスパンダー」を発表。インドネシアで発売した後、アセアン各国に順次投入していく。新しいエクスパンダーでは内外装やパワートレーンなどさまざまな部分を改良し、最高の機能性と快適さを贅沢に組み合わせており、「お客さまに素晴らしい冒険を体験していただけるような商品になったと自負しております」と加藤氏は説明。今後もモデルサイクルマネジメントを強化しつつ、さらなるモデルラインアップの充実を図っていくとしている。

 また、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みでは、4月に日本郵政グループ、東京電力グループと3社で合意した協業の取り決めに基づき、11月から開始される実証実験に20台の軽商用BEV(電気自動車)「ミニキャブ MiEV」を提供。郵便局での集配に利用されるミニキャブ MiEVの走行データ、電池残量の推移などのデータ取得、分析を行なって、郵便局の集配用EVや、商用EV全体の走行性能向上に取り組むことで、日本のEV普及に貢献していく。

EVの実証実験を通じてカーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでいく

 最後に加藤氏は「今年度の上期は、2020年度に続いて当社を取り巻く環境は厳しく、かつ不透明でありましたが、当社の収益は販売台数の回復、昨年度からの固定費削減の成果、為替の追い風などによって前年同期比で大幅に改善しております。今後も半導体不足や新型コロナウイルスの感染再拡大、原材料価格の高騰などの影響といったリスク要因があると認識しておりますが、上期の実勢を踏まえ、第1四半期に続いて通期見通しの修正を行ないました」。

「一方で、将来に向けた成長戦略をどのように描いていくのかがわれわれの次の課題となります。具体的には、15年先に世の中がどうなっているのかを考えながら、この先の数年、どのような計画を立てればいいのかといった検討を行なっていくことになります。もちろん、15年先の世の中がどのようになっているのか簡単には予測できませんが、われわれでさまざまなストーリーを想定し、全社一丸となって将来の三菱自動車のあるべき姿を考えてまいります。そして『お客さまに選んでいただけるクルマづくりとは何か』について議論を深めながら、『環境×安全・安心・快適』をベースに、三菱自動車らしさをしっかりと形にしてまいりたいと考えております」。

「このように将来のことを考えつつ、足下の状況に決して満足することなく、収益力のさらなる向上を図り、今年度の修正計画を達成するべく全力を尽くしてまいりたいと思います」とコメントして説明を締めくくった。

質疑応答

加藤社長と池谷副社長のほか、三菱自動車工業株式会社 代表執行役副社長 長岡宏氏(左)、三菱自動車工業株式会社 代表執行役副社長 矢田部陽一郎氏(右)も参加して質疑応答が行なわれた

 説明会の後半に行なわれた質疑応答では、半導体不足で影響が大きく出ている地域について質問され、加藤氏は「半導体の影響については、上半期だけでも数千台単位の振替が発生しておりますので難しいところですが、1つ分かっているのは、日本の軽自動車で半導体不足が厳しいのかと今は見ております。ただ、半導体は情報がころころと変わっていて、入ると聞いていたものが入らない、入らないというものが少しずつ入ってくると変化が大きいので、引き続き注視していく必要があると思います」と回答。

販売の質向上についての質問に答える矢田部氏

 また、北米での収益改善につながった販売の質向上について、供給不足がインセンティブの抑制につながっているのかという質問に対しては、三菱自動車工業 代表執行役副社長 矢田部陽一郎氏が回答しており、「おっしゃるとおり、半導体不足の問題で各社とも在庫が少ない状況になっていて、インセンティブは各社かなり削られたなかでやっております。特にアメリカなどはかなりの販売費を使っていた市場ですが、ここにきて急激に下がっている状況です。ただ、単純にマーケットの状況で販売費が抑えられているというだけではなく、まず1点目は商品で、アメリカでは新型アウトランダーが非常にお客さまに受け入れられたことで大きな要因になってインセンティブ抑制が可能になっています」。

「それ以外でも、すでに日本国内ではディーラーさんとインセンティブの出し方を変えることについて話し合っていたり、半導体不足の問題が大きくなる前からいろいろと販売のやり方、販売費用の使い方について見直しを行なっています。また、広告宣伝費も単純にマス向けに出す以外に、ターゲットカスタマーを絞り込んで使っていくことも始めています。アセアンでも、エクスパンダーは競合他社さんのモデルよりできるだけ高い値段で売っていこうと何年も努力を続けており、われわれにとって非常に大切なクルマであるピックアップトラックも、価格レベルを大事にしてながらやっています。業界全体の状況に合わせた対応はしなければなりませんが、販売の質改善によって収益性をできるだけ高く維持していくことは、引き続き最大の課題として取り組んでいきたいと考えております」と答えている。

「限界利益率がある程度以上確保できないものは売らない」と加藤氏

 また、インセンティブと販売の質については加藤氏もコメント。「この改善点は非常に地味ですが、昨年のコロナ禍が始まったところから取り組んでいるところです。当社の販売台数が大きく落ちたとみている人も多いかと思いますが、これはコロナ禍の影響だけではなく、昨年からクルマごとの限界利益をすべてチェックして、限界利益が低すぎたり、もしくは赤字のものは一切止めると思い切って決断しています。売らないところは売らないということで、コロナ禍でもインセンティブを出して台数を伸ばすことも可能ではありましたが、限界利益率がある程度以上確保できないものは売らないということで対処しています」。

「そこで、お客さまに高く買っていただくためにどんな施策が必要かということで、例えば在庫の持ち方であったり、インセンティブの出し方、そういったことをかなり細かくコントロールしておりまして、その成果が今年度になって出ているのかなと考えています。引き続きやるべきことがあるので、これを推し進めてまいります」と述べている。