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愛知製鋼、高回転モータを生かす減速比21.8を実現した小型高減速機搭載「EV向け次世代電動アクスル」実証に世界初成功

2022年2月10日 開催

実証に世界で初めて成功した高回転×高減速比の「次世代電動アクスル」

 愛知製鋼は2月10日、開発を続けてきた「世界初の3万4000rpm・高減速のEV向け次世代電動アクスル」について、モータと減速機を組み合わせた実証に世界で初めて成功したと発表。技術内容を解説するオンライン説明会を開催した。

 電動アクスルはモータと減速機を組み合わせたもので、BEV(電気自動車)などのパワートレーンで中核となる部品。愛知製鋼は2021年1月に、従来品より40%の小型軽量化を実現する「EV向け電動アクスル」の技術実証に世界で初めて成功。次なる目標として、EV向けモータとして未知の領域となる最大回転数3万4000rpmと、減速機として実用に足る高減速化をターゲットに開発を続けてきた。

 今回の技術実証に成功した小型高減速機は一般的な電動アクスル並みの効率を維持しつつ、小型ながら一般的な電動アクスルの2倍以上となる減速比21.8を実現。小型軽量モータから電動車の走行に必要な1850Nmのトルクを獲得できるという。

次世代電動アクスル
次世代電動アクスルと従来製品のサイズ比較イメージ

同出力を得るための電磁鋼板を25%、銅とレアアース磁石を30%に抑制

オンライン説明会の出席者。左から愛知製鋼株式会社 執行職 磁石事業オフィサー 御手洗浩成氏、愛知製鋼株式会社 経営役員 開発本部長 野村一衛氏、愛知製鋼株式会社 未来創生開発部 EVモータ開発グループ長 度會亜起氏

 オンライン説明会では冒頭で愛知製鋼 経営役員 開発本部長 野村一衛氏があいさつ。今後のカーボンニュートラル社会の実現に向けたクルマの電動化により、同社の主力製品である特殊鋼は需要が減少していくと予想されているが、発想の転換によって鍛造技術と特殊鋼を鋼鍛一環で生産できる同社の技術力を生かした高付加価値な電動車部品の生産を目指しており、同日発表の次世代電動アクスルはこの「両利きの経営」実践そのものだと説明。この革新的な電動アクスルの社会実装を通じ、電動車普及に伴う資源、電力消費の問題を解決することでカーボンニュートラルの実現に貢献していきたいと開発の意義を述べた。

次世代電動アクスルの開発意義について語る野村氏

 技術詳細については愛知製鋼 執行職 磁石事業オフィサー 御手洗浩成氏が解説。同社ではモータの利用拡大によって発生する資源問題に対応するため電動車用モータの小型化を目指し、小型化で必要となる高回転モータを開発。この高回転に対応して高い減速比を備えつつ、車両の走行に求められるトルクを実現する小型の高減速機の実証に今回成功した。

 この高減速比を実現するため、ギヤ鋼の強度をこれまでより30%向上させたほか、新たな表面処理技術も組み合わせているという。また、モータでも、従来は高圧でロータコアに磁粉を射出成形して製造していたが、新たなロータ一体成形技術を開発。ロータコアに磁粉と樹脂を混ぜて低圧で流し込むように成型することを可能として、高密度化によって磁力が20%ほどアップしている。

 これらの技術により、次世代電動アクスルでは同出力を得るために必要な素材量を、電磁鋼板で25%、銅とレアアース磁石(ジスプロシウム不使用)で30%に抑制。減速比1あたりに求められる素材量は半分に抑えて、省資源化を果たしている。

開発にあたっての課題
小型のモータで高トルクを発生させるためには高回転化が求められる
2万rpmを超えるモータはこれまで製品化されていない新領域となる
開発のポイント
実証実験の様子
3万4000rpmで159Nmを実現したほか、定格出力の1万rpmで93%の効率も達成
ギヤ鋼の強度30%アップと新たな表面処理技術が開発のポイント
新たなロータ一体成形技術も開発され、高密度化によって磁力が20%ほどアップ
小型化によって大幅な省資源化が実現された

 同社ではこの実証成功に続き、今後は電動車での実装に向けた課題対応を実施。車両搭載性を考慮した課題対応、要素技術の信頼性・耐久性技術の確立などを進めていく。具体的には走行を想定したさまざまな状況下での稼働検証、耐久性、振動・騒音といった車載特有の課題についての洗い出しを行ない、それぞれに対応する開発を予定している。

 また、今回実証に成功した次世代電動アクスルは50kWクラスの小型車向け製品となっているが、100~200Wクラスの製品化にも展開が可能。高出力化では遠心力の増加、発熱量の増加など不明な点も多く、今後も試作・評価を行なってどんな課題が出るかを評価していくという。

実証成功を受け、電動車での実装に向けた具体的な課題対策がスタートする

【お詫びと訂正】記事初出時、タイトルと本文内の減速比が間違っておりました。また、御手洗浩成氏の役職は執行役員ではなく執行職となります。お詫びして訂正させていただきます。