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アンシス、バッテリEVや自動運転向けの新機能と機能強化を実装した「Ansys 2022 R1」リリース
2022年2月16日 07:00
- 2022年2月15日 開催
「Zemax」の技術で精密画像処理用の物理スケール光学設計に新対応
アンシス・ジャパンは2月15日、同社の親会社であるANSYSが米国で2月1日(現地時間)に発表したCAEシミュレーションツールの最新バージョン「ANSYS 2022 R1」の技術詳細について紹介するオンライン説明会を開催した。
物理演算などによるCAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェアであるANSYSは国内外の自動車メーカーでも採用され、新車開発などに利用されている。2020年からは2回/年のペースで更新が行なわれ、今回リリースされたANSYS 2022 R1は2022年の初回更新となる。
さまざまな新機能の採用、機能強化が実施され、2021年9月にM&Aによって「Zemax」を手に入れたことにより、精密画像処理用となる物理スケールの光学設計にも新たに対応。「ANSYS Lumerical」によるマイクロナノスケールのフォトニクス設計/解析、「ANSYS SPEOS」による照明などの視覚認識シミュレーションなどと合わせ、クルマのADAS(先進安全装備)で使用されるカメラやLiDARなどのセンサー類を含む、さまざまな産業分野で応用される複雑な光の挙動をシミュレーションする光学シミュレーションのポートフォリオ拡充が大きなトピックとなっている。
このほかにもANSYS 2022 R1では、全15分野で70以上の製品をアップデートしているが、今回の説明会では日本市場で需要が大きい自動車(BEV、自動運転)、半導体(次世代DVD)向けの新機能と機能強化、モデルベース開発環境やデジタルツイン、クラウド分野における連携強化を中心に各分野の担当者から解説された。
システム・オブ・システムズのシミュレーション実現を目指す
説明会では最初に、アンシス・ジャパン Area Vice President カントリーマネージャー 大谷修造氏がアンシスのビジネス状況について説明。
大谷氏は、アンシスが50年にわたる歴史の中で物理シミュレーションからエンジニアリング全体のシミュレーションに活動範囲を広げているが、これは自分たちの考えというより、製品を利用しているユーザーの“次の1手”をサポートする活動から発生していると説明。自動車産業で起きている電動化、自動運転といった流れを支えるデジタルツイン、5Gといった技術における展開をサポートしていることもビジネスのポイントになっており、買収も含めてさまざまな企業との協力を進めていると説明した。
ビジネスにおける方向性の1つとしては、プリミティブな製品であるICチップからコンポーネント、アッセンブリーされたサブシステム、製品やサービス、それらを複合的に組み合わせたシステム・オブ・システムズといった領域まで全体をサポートできる環境作りをゴールに設定し、この2~3年で買収などによって手に入れた企業のテクノロジーを積極的に活用。システム・オブ・システムズのシミュレーション実現を目指しているという。
システム・オブ・システムズの例としてICTでつながれたスマートシティを挙げ、クルマが知能化され、ネットワークにつながり、クルマ同士や交通インフラと連携していくことで、全体としてスマートシティが形成されていくと説明。全体のシステムをアンシスとして手がけていくとした、
「バッテリの劣化モデル」「マルチGPUソルバ」に対応
具体的な内容については、まず自動車産業向けの電動化支援についてアンシス・ジャパン 技術部マネージャー 日吉雄一郎氏から解説が行なわれた。
今回のアップデートでは、車両の電動化に関連する「バッテリソリューション」「空力ソリューション」「電動化に伴う熱解析」といった3点で大きな改良が行なわれており、電動化の中心となるバッテリソリューションでは、新たに「バッテリの劣化モデル」を採用。バッテリ内部で起きる物理現象をモデル化して、実運転状態でどのように劣化が進んでいくのか、バッテリ容量がどのように低下していくかなどの予測が可能になる。
また、バッテリパックで使われる冷却プレートまで含めたバッテリモジュールの大規模解析を自動処理してくれる「パックビルダーツール」、3Dモデルから1Dに縮退化したROM(Reduced Order Model)生成を自動化し、SVD ROMによってバッテリの温度分布を秒オーダーで表示できる「ROMツールキット」も新たに採用している。
空力ソリューションでは、乱流現象の計算で簡易的に進められる乱流モデルのチューニング機能に、最適化手法の1つである「Adjoint」と機械学習のニューラルネットワークを組み合わせて使用。高精度の計算結果を読み込んでからニューラルネットワークで学習し、これを基準として異なる解析対象、異なる運転条件などに転用して良好な結果を得ることができるという。さらに「マルチGPUソルバ」による定常CFD解析を新たに提供開始。GPUによる高い並立効率を生かし、CPUを使う従来と比較して7倍のハードウェアコスト削減効果、4倍の電力消費効率を実現する。
熱解析では、車両の電動化ではインバーターやモータなどを一体化して設計するケースが増えていることを背景に、プリント基板の配線情報などを含むデータを「ANSYS Icepak」から受け取り、冷却性能などを解析する機能を追加した。これにより、従来は難しかった物理モデルの利用が可能になり、複雑な構造物に対してもメッシングできるようになっている。
パートナーシップ締結で「Ansys AVxcelerate」「CarMaker」が同期
続いて、自動車産業向けの自動運転開発支援についてアンシス・ジャパン システムズビジネスユニット チームリーダー 川端茉莉氏が解説。
今回のアップデートでは、2021年8月にアンシスとIPG Automotiveが締結したパートナーシップを受け、物理ベースのセンサーシミュレーションである「Ansys AVxcelerate」と、車両ダイナミクスシミュレーションの「CarMaker」を同期して実行することが可能となった。
これによりCarMakerでのシミュレーションにAnsys AVxcelerateのセンサーシミュレーションを組み合わせ、ADAS技術の開発などを行なえるようになった。また、アンシスが持つ走行状態を再現するために必要な道路や標識などのライブラリデータも提供され、CarMakerでのシミュレーションで利用可能となっている。
自動車メーカーの開発者はこれを使いことで、実車でのテストに先駆けてADAS機能の動作をシミュレーション環境で確認し、問題の発生を事前に検証できる。また、オブジェクトの誤認識、センサー類に対する悪影響など、不具合を引き起こす要因を切り分けやすく、より早く原因究明を進められるとした。
革新的な新機能「SigmaDVD」を追加
半導体業界向けの新機能についてはアンシス・ジャパン セミコンダクタビジネスユニット シニアAEマネージャー 高橋昌也氏が解説。
半導体開発に向けては3つの取り組みが行なわれ、電子回路シミュレーションの分析ソフトウェア「ANSYS RedHawk-SC」にDVD(Dynamic Voltage Drop)解析の新機能「SigmaDVD」を追加。SigmaDVDはアクティビティ・ベクタを使わず、すべての可能な動的スイッチング構成を100%カバーする画期的な技術を採用し、7nm以下の回路設計を手がける技術者向けの新機能になるという。
従来から存在する「ANSYS Totem」とは別に、高速・大規模のアナログEMIR向けとなる新製品として開発された「ANSYS Totem-SC」は、大規模なGDSをハンドリングするためのキャパシティ、パフォーマンスに特化したプラットフォーム。「ANSYS SeaScape」の活用によってキャパシティの制限を廃し、シミュレーション速度の高速化を果たしたほか、デバッグ効率も高めているという。
ANSYS Totem-SC同様にANSYS SeaScapeプラットフォームをベースに開発された新製品の「ANSYS PathFinder-SC」は、既存の「ANSYS PathFinder」からESD抵抗チェックの速度を6倍に、C2I抵抗チェックの速度を4倍強に高速化。GUIはSeaScapeプラットフォームの共通GUIとなっているが、PathFinderで使っていたルールの流用も可能で、既存製品のユーザーも移行しやすい環境が整えられている。
精度を98%まで高めた新たな「ハイブリッド・デジタルツイン」採用
このほか、モデルベース開発では新しいビヘイビアモデルの実行エンジンを搭載し、「ANSYS HFSS」と連携。3D CADモデルをSTK(Systems Tool Kit)にインポート可能となり、「ANSYS 物理ソルバ」と統合を行なって演算時間の短縮、収束性の向上などを図った。デジタルツインでは新たな「ハイブリッド・デジタルツイン」技術を採用し、モデルの軽量化を行ないつつ、精度を98%まで高めている。
クラウド活用ではAWS(Amazon Web Services)と戦略的アライアンスを結び、AWSをクラウドサービスプロバイダーの優先的推奨パートナーに指定。クラウドベースのシミュレーションを活用できる環境をさらに拡大している。