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ミシュラン、SUV向け新タイヤ「プライマシーSUV+」技術解説

2022年5月19日 順次発売

オープンプライス

2022年5月19日から順次発売されるミシュランの新製品「プライマシーSUV+」

市場のトレンドを受けて規格を変更

 日本ミシュランタイヤは2月25日、SUV向けのプレミアムコンフォートタイヤの新製品「PRIMACY SUV+(プライマシー エスユーブイ プラス)」のオンライン発表会を実施した。須藤社長のあいさつやブランド戦略MGの大河内昌紀氏の商品概要解説に続き、研究開発部 PCタイヤ 新製品開発部 部長 俵謙一郎氏により技術解説が行なわれた。

日本ミシュランタイヤ株式会社 研究開発部 PCタイヤ 新製品開発部 部長 俵謙一郎氏

 俵氏はまず、従来品である「プレミアLTM」のようなM+S(マッド&スノー)性能を持つタイヤは、1970年代に米国のゴム工業会により提案された規格で、オフロードや寒冷地で使用可能なトラクション性能や外観を持つタイヤであると解説。

 一方、サマータイヤは常温使用での性能最適化が求められ、「市場でSUVが乗用車的な乗り味が求められているというトレンドに合わせて、新製品のプライマシーSUV+はサマータイヤ規格にした」と説明。

ドライ&ウェット性能とハンドリング性能に対するチューニング

 続いて俵氏は、ドライ・ウェット性能とハンドリング性能について掘り下げた説明をスタート。M+SタイヤであるプレミアLTXに対し、サマータイヤであるプライマシーSUV+では、ドライ&ウェット性能とハンドリング性能に対していろいろなチューニングを行なったという。具体的には下記のようなチューニングを行なったと解説してくれた。

・U字グルーブ:摩耗時のウェット性能を追求したM+SタイヤをプレミアLTXと比較すると、プライマシーSUV+のU字グルーブは、摩耗時の接地面積減少がないため、タイヤ溝が減ってもドライグリップのキープが可能。

・溝比率削減13%:接地面積が増え、新品時のドライとウェット性能が向上。

・スタビリ・グリップ・サイプ:ショルダーブロックのブロック剛性を確保でき、ハンドリング性能の向上に貢献。

 しかし、俵氏はこの3つの向上ポイントだけを見ると、新品時はいいが摩耗時の排水性やウェット性能に懸念が生まれると解説。しかし、M+Sタイヤでないとはいえ、ミシュランとしては妥協はできないと、その懸念ポイントに対してミシュランでは、下記の施策で対応したという。

・溝深さ+14%増&フルデブスサイプ採用:摩耗時の排水性、ウェット性能への影響を抑えるために溝深さを14%増やし、同時にフルデプスサイプを使用することで排水性を確保。また、溝の深さは耐摩耗性を確保することにも寄与している。

・シリカ配合を増加&常温でのグリップを重視したコンパウンド:コンパウンドはシリカ配合を増やしつつ、従来品プレミアLTXのコンパウンドよりもグリップ性能を発揮する温度を高め、常温でのグリップを重視した設計を採用。

 これらの技術投入により「サマータイヤに求められるドライ&ウェット性能を確保した」と俵氏は語る。

SUVの新車装着タイヤの市場はサマータイヤが増えている
ドライ&ウェット性能とハンドリング性能に対するチューニングの内容

静粛性に関するチューニング

 続いて俵氏は、タイヤの「静粛性」に関するチューニングの解説を実施。

 そもそも“タイヤ騒音”とは、音や振動などがドライバーに伝わってくるもので、タイヤが路面と接している面=コンタクトパッチで発生する音は、主にトレッドパターンや路面の凹凸によりタイヤが加振することが原因。

 その加振がタイヤ振動特性によってタイヤ主軸を振動させたり、コンタクトパッチ内の溝の中で空気共鳴を起こし、タイヤトレッド部と路面が作るラッパ状の空間により増幅(ホーン効果という)され、空気中を伝わってくる。

 そこでミシュランでは、タイヤ騒音のメカニズムを正しく理解し、設計に反映させることで効果的に騒音を減らしているという。

 また、タイヤ騒音にはトレッドブロックが地面と接地するときにタイヤベルトに断続的に力の変動を与えることで発生する「パターン加振音」もあり、このタイヤベルトにかかる力の変動を小さくすることが、タイヤ騒音の低減に繋がる。

 具体的な対策方法としては、トレッドブロックが横方向に揃っていると、タイヤが回転したときの加振が隣り合うブロックで同時に発生して音圧が高くなってしまうので、トレッドブロックの配置をずらしたり、大きさを変えることで、各ブロックによる加振のタイミングをずらすことで力の変動を小さくできるという。また「横溝に角度をつけることでも同様の効果が得られる」と俵氏は解説した。

 新製品のプライマシーSUV+は、従来品のプレミアLTXよりもショルダーブロック数を約60個から約80個へと、20個ほど増やしつつも長さの異なるトレッドブロックをランダムに配置する「バリアブルピッチ」を適用。これによりパターン加振音成分を分散させ、白色雑音化(ホワイトノイズ化)させる効果があり、結果としてタイヤ騒音を減らすことができていると解説。また、溝比率を減らしたことでも、溝内の空気が圧縮されて発生する加振を減らすことになり、ノイズ低減に貢献していると、プライマシーSUV+の静粛性の高さをアピールして締めくくった。

タイヤ騒音が発生するメカニズム
パターン加振音の構造
サマータイヤになり静粛性が向上したプライマシーSUV+