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ミシュラン、持続可能な物流業界を実現するための「タイヤDX化」とは? クイックスキャン日本初公開

2022年5月12日 実施

メディアセミナーで登壇した、日本ミシュランタイヤ株式会社 B2B事業部 常務執行役員 田中禎浩氏(左)、日本ミシュランタイヤ株式会社 代表取締役社長 須藤元氏(中)、株式会社村田製作所 技術・事業開発本部 事業インキュベーションセンター RFID事業推進部 ビジネスディベロップメント課 シニアマネージャー 福原将彦氏(右)

「すべてを持続可能に」というビジョンを掲げているミシュラン

 日本ミシュランタイヤは5月12日、4年ぶりに神奈川県のパシフィコ横浜で開催された「ジャパントラックショー2022」にて、人手不足や高齢化といった物流業界の2024年問題の解決や、持続可能な物流業界を実現するための施策を説明するメディアセミナーを開催した。

 日本ミシュランタイヤ 代表取締役社長の須藤元氏は、以前から推進している「タイヤと共に」「タイヤ関連で」「タイヤを超越して」という3本の異なる事業形態があるなかで、2030年には売上高の20%~30%をタイヤ関連およびタイヤを超越した事業から生み出す計画であると説明。また、今回のセミナーのテーマである「物流業界の課題解決(フリート向けソリューション)は、タイヤ関連事業であり、さらに展開を加速していく」とあいさつ。

日本ミシュランタイヤ株式会社 代表取締役社長 須藤元氏

 続けて須藤氏は、タイヤマネジメントを可視化するデジタルソリューション「ミシュラン タイヤケア(MICHELIN Tire Care)」や、大型トラック向けレスキュー「MRN(ミシュランレスキューネットワーク)GO」、タイヤの個別管理を可能にする「タイヤ内蔵用RFID(Radio Frequency Identifier)モジュール」、数秒でタイヤの残溝点検ができる次世代ツール「ミシュラン クイックスキャン(MICHELIN Quick Scan)」など、ミシュランがすでに取り組んでいるソリューションを紹介。

 特に村田製作所と共同開発したタイヤ内蔵用RFIDについては、「物流業界、自動車業界のイノベーションの皮切りになるキーデバイスであることは間違いなく、ミシュランとしては2024年にあらゆるタイヤにRFIDを搭載する」と計画を明かすとともに、「ミシュランのソリューションや製品が物流業界の進化に貢献し、物流の新時代を切り拓く一助になると信じています」と語った。

物流業界にせまる「2024年問題」の解決を目指す

日本ミシュランタイヤ株式会社 B2B事業部 常務執行役員 田中禎浩氏

 日本ミシュランタイヤ B2B事業部 常務執行役員 田中禎浩氏は、タイヤを通じていかに持続可能な物流業界に貢献できるかについての説明を行なった。

 田中氏によると、EC(ネット通販)市場の成長や、当日・翌日配送や時間指定といったラストワンマイルの高いサービス要求、多品種小ロット輸送などにより物流業界ではすでに、人材不足やドライバーの高齢化などが危惧されているが、さらに2024年に施工される働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制(罰則付き)などさらなる状況悪化が懸念されている(=2024年問題)。その結果、物流サービスの提供が困難になる可能性も否定できないという。

 2010年ころまでは物流よりも製造・販売が優位で、頼めば運んでもらえる状況だったが、少しずつ物流のほうが優位になり、人手不足を解消しなければやがて「頼んでも運んでもらえない状況」もあり得ると田中氏。2030年には物流の供給能力が36%不足、2040年には54%不足するという予測もあるという。

物流業界の課題
物流業界の現状と今後の予測

 そこでミシュランは、「人」「地球」「利益」を高い水準でバランスさせることが重要ととらえ、タイヤのDX化により、タイヤ点検など人の労働力を減らすと同時に安全性を高め、リデュース(削減)・リユース(再使用)・リサイクル(再利用)・リニュー(再生)の4Rを推進することで地球環境へ配慮し、タイヤ1本を長く使用して企業利益を確保するといった価値の提供を目指すとしている。

ジャパントラックショー2022に展示されていたトラック・バス用のワイドシングルタイヤ。ミシュランでは、タイヤのロングライフ化による「リデュース」、磨り減ったトレッドゴムに溝を再生してリユースする技術「リグルーブ」、トレッドゴムを再生する「リトレッド」といった取り組みも推進している

 タイヤDX化の事例としては、まず2021年12月にサービス提供を開始しているタイヤマネジメントを可視化するデジタルソリューション「ミシュラン タイヤケア」が挙げられる。これは通信機能を持った測定機器でタイヤ点検をし、Bluetooth経由でデータを記録。タイヤ交換や空気圧の調整など、車両ごとに自動作成される点検レポートからメンテナンス時期を予測することで、タイヤマネジメントを可視化するサービス。

 これまで手動で行なわれていたタイヤ点検とレポート作成をDX化することで、運輸事業者はメンテナンス時期の予測ができ、タイヤ点検作業を約50%も削減。さらに、タイヤ起因によるトラブルの未然防止、タイヤ使用本数の最適化が可能となる。また、ドライバーだけでなく整備士の人手不足も課題である運輸事業者にとって、ミシュラン タイヤケアを利用することで、生産性の拡大、安全性と収益性の向上が図れるという。

ミシュラン タイヤケアの概要
通信型ゲージを利用することで手作業による記録が不要となる
ミシュラン タイヤケアで自動作成される分析レポート例
ミシュラン タイヤケアを利用することで作業が約50%削減可能

 さらに、今回のジャパントラックショー2022にて日本初公開となった「ミシュラン クイックスキャン」は、地面に設置した磁器スキャナー内蔵専用パネルの上を通過したタイヤの摩耗を、mm単位の精度で瞬時に計測できるシステム。タイヤの点検が数秒で済み、検査にかかる時間もコストも削減されるが、信頼性は高められるという。

ミシュラン クイックスキャンの概要

 また、各タイヤに個別管理を可能にするRFIDが搭載されていれば、クラウド上でのデータ統合管理も実現し、タイヤケアとクイックスキャンを併用することで作業時間は現在の約98%も削減できるとしている。なお、クイックスキャンの日本導入時期についてはまだ未定で、料金体系はタイヤを包括したサブスクリプションサービスを想定しているという。

クイックスキャン専用パネル設置イメージ
クイックスキャン専用パネルの透視モデル
タイヤケアとクイックスキャンを併用すれば作業時間は大幅に削減される

村田製作所と共同で開発したタイヤ内蔵用RFIDモジュール

ミシュランは2024年には、あらゆるタイヤにRFIDを搭載すると発表している

 タイヤ内蔵用RFID(Radio Frequency Identifier)モジュールについては、共同開発を行なった村田製作所 技術・事業開発本部 事業インキュベーションセンター RFID事業推進部 ビジネスディベロップメント課 シニアマネージャー 福原将彦氏も同席して解説が行なわれた。

 田中氏によると「ミシュランも10年ほど前からRFIDの利用を検討していて、実際に開発にも着手していたが、なかなか難しかった」と振り返る。村田製作所の福原氏は「7~8年ほどの前ですが、技術展の会場でミシュランの技術者の方が弊社の技術に着目して声をかけていただき、そこから共同での開発がスタートした」と共同開発にいたった経緯を紹介。

株式会社村田製作所 技術・事業開発本部 事業インキュベーションセンター RFID事業推進部 ビジネスディベロップメント課 シニアマネージャー 福原将彦氏

村田製作所×ミシュラン、「タイヤ内蔵型RFIDモジュール」を共同開発 2024年より乗用車タイヤに採用予定

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1373635.html

 ミシュランの技術者が着目したのは、村田製作所の「マジックストラップ」というRFIDタグ。マジックストラップは、洋服屋さんが商品を管理するために値札やタグの裏側に着けているような一般的なRFIDとは異なり「超小型で堅牢」なのが特徴。常に回転していて、時に凸凹な道も走るタイヤに内蔵するには最適だった。

 さらに、タイヤにはスチールベルト(鉄のワイヤー)も使用しているため、それに干渉されて電波障害を起こさず、確実にデータを吸い上げられる必要がある。そこで村田製作所ではHANAテクノロジーズのらせん状になったスプリングアンテナと一体化したモジュールを完成させた。RFIDは一度に大量の読み取りが可能なため、倉庫などのタイヤ管理にはうってつけだという。

 例えば運送業者が冬タイヤから夏タイヤに履き替える際、倉庫に残っているタイヤの本数や溝残量が可視化されるので、来期はどのくらい買い足す必要が出てくるかなど、あらかじめ把握することも可能になる。

タイヤ内蔵RFIDタグの特徴

 しかし、持続可能な物流業界の実現を目指すには、ミシュラン1社だけがRFIDタグを活用していてもメリットが最大化されず、田中氏は「すでにタイヤメーカー各社を含めたデータベースの標準化についての話し合いが行なわれている」と説明した。また、このミシュランと村田製作所が共同開発したタイヤ内蔵用RFIDタグは、ミシュランタイヤ専用ではなく、他メーカーのタイヤへも使用可能という。

 なお、タイヤ内蔵用RFIDタグは、タイヤのサイドウォール部分に埋め込まれるが、埋め込み位置はできる限り形状変化の少ない場所が望ましいため、タイヤの種類やサイズによって異なるという。また、ミシュランは2024年には、自動車はもちろん、トラック、バス、建機、バイク、航空、モータースポーツなど、あらゆるタイヤにRFIDタグを搭載するとしている。

ミシュランはタイヤをDX化することで、持続可能な物流業界の実現を目指している

ジャパントラックショー2022開催中

 4年ぶりの開催となったジャパントラックショー。今回は「物流、新時代へ」がテーマで、自動運転やIoTなどハード・ソフト面での技術革新はもちろん、アフターコロナやSDGsへの対応など、新たな物流業界の姿が見られる。

 会場はパシフィコ横浜(横浜市西区みなとみらい1丁目1番1号)で、5月13日は10時~18時、5月14日は10時~17時まで開催している。

ジャパントラックショー2022会場の様子
ジャパントラックショー2022会場内の様子