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日産と三菱自動車、軽自動車タイプの新型バッテリEV「サクラ」「eK クロス EV」オフライン式 「日本における電気自動車のゲームチェンジャーになる」

2022年5月20日 開催

三菱自動車 水島製作所で日産「サクラ」、三菱自動車「eK クロス EV」のオフライン式を開催

 日産自動車と三菱自動車工業、両社の合弁会社NMKVは5月20日、三菱自動車 水島製作所において、共同開発した軽自動車タイプの新型BEV(バッテリ電気自動車)のオフライン式を開催した。

 オフライン式には日産自動車 代表執行役社長兼最高経営責任者の内田誠氏、三菱自動車工業 代表執行役社長兼最高経営責任者の加藤隆雄氏、NMKV 代表取締役社長(CEO)の安德光郎氏とともに、岡山県知事の伊原木隆太氏、倉敷市長の伊東香織氏、総社市長の片岡聡一氏も出席して祝辞を述べた。

 今回の軽自動車タイプのBEVは、日産と三菱自動車の合弁会社NMKVの企画・開発マネジメントのもと、日産の先進技術と三菱自動車の軽自動車づくりのノウハウを融合し、両社の得意とする電動化技術を結集したというモデル。BEVならではの滑らかで力強い走り、高い静粛性と良好な乗り心地を実現するとともに、先進の自動運転支援機能やコネクティッド技術などを採用しており、日産のモデルは「サクラ」、三菱自動車のモデルは「eK クロス EV」とのネーミングで発売される。発売はいずれのモデルも今夏を予定する。

 新開発のEVシステムについては、総電力量20kWhの駆動用バッテリを搭載し、一充電走行距離は180km(WLTCモード)を実現。駆動用モーターの最高出力は47kW/2302-10455rpm、最大トルクはガソリンターボモデルの約2倍となる195Nm/0-2302rpmを発生するなど、力強い加速力も魅力の1つになっている。

サクラ
eK クロス EV

日本における電気自動車のゲームチェンジャーになる

日産自動車株式会社 代表執行役社長兼最高経営責任者の内田誠氏

 はじめに登壇した日産の内田社長は、「本日オフラインした両モデルは3社の共同プロジェクトとして4モデル目となる新型車です。日産としては日本市場の約4割を占める軽マーケットに投入する、量産車初の電気自動車となります。2011年にNMKVを設立し、協業を開始した当初はさまざまな苦労がありました。しかし、プロジェクトを通してお互いを理解し、共に成長することでそれぞれの強みを生かした、われわれだからできる魅力的なものづくりができるようになってきました。今回の新型軽EVはその象徴となる商品に仕上がったと思います」とあいさつ。

 続いてサクラについて、「これからの電気自動車の時代を美しく彩り、日本を代表するモデルとなってほしいとの思いを込め、日本を象徴する花である桜から名付けました。サクラには日産がこれまで培ってきた電動化技術を結集させました。軽自動車の概念を覆す電気自動車ならではの力強い加速と滑らかな走り、そして高い静粛性を兼ね備えたクルマです。バッテリの総電力量は20kWh、補助金込みでの実質購入価格はメイングレードで約180万円台からとなります。このサクラは日常生活で安心してご利用いただける航続距離を確保しています。さらにバッテリにためた電気を自宅に給電することで家庭の電力として使用することも可能です。もしものときには“走る蓄電池”となり、非常用の電源として十分な能力を発揮します。このクルマを通じてより多くのお客さまに電気自動車の素晴らしさに触れていただきたいと思っています」とアピール。

 また、今後の展開については「日産は2010年にリーフを世に送り出して以来、電気自動車、e-POWERなど約82万台以上の電動車両を日本市場に送り出してきました。この間、常に技術を磨きお客さまの期待を超える価値とワクワクする体験をご提供してきました。さらに電気自動車を普及させるため国や自治体とともに充電インフラの整備や周辺環境の整備にも取り組んでまいりました。また、日本が抱える環境負荷低減、災害対策など課題を解決するため、2018年からは日本電動化アクション・ブルースイッチの活動も推進してきています。日産は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、昨年に長期ビジョン『Nissan Ambition 2030』を策定しました。このビジョンのもと、今後5年間で約2兆円を投入し、電動化を加速してまいります。そして、グローバルで15車種の電気自動車を含む23の電動車両を投入する予定です」と解説するとともに、今年度を新たな電気自動車元年と位置付け、さらなる普及に向けて取り組んでいくことを誓った。また、「サクラとeK クロス EVはアライアンスを象徴する、日本における電気自動車のゲームチェンジャーになると確信しています。そして日本の電気自動車、軽自動車の歴史に新たな1ページを刻んでいきたいと思っています」と述べ、あいさつを締めくくった。

カーボンニュートラル社会実現の一助となる新世代の軽EV

三菱自動車工業株式会社 代表執行役社長兼最高経営責任者の加藤隆雄氏

 次に登壇した三菱自動車の加藤社長は、今回3社の集大成となる新型軽EVを披露できることに謝意を述べるとともに、「ご存知のとおり、当社と日産自動車はEVをいち早く世に送り出してきた、いわばEVの先駆者同士です。両者のEVづくりに関する知見、日産自動車の技術力、そして三菱自動車の軽自動車づくりのノウハウを融合させたサクラとeK クロス EVは、カーボンニュートラル社会実現の一助となる新世代の軽EVと言えるでしょう。新型eK クロス EVは通勤、通学、買い物、送り迎えなど、日常使いに十分な航続距離を確保しており、国からの補助金を活用すれば180万円台の価格となり、さらに地域によっては自治体からの補助金を活用させていただくことで一層お求めやすい価格となり、普通の軽自動車とそん色ないご負担でご購入いただけます」。

「また、地方ではガソリンスタンドが減少し続けており、生活の足としては、また近隣への移動の足としては自宅で充電できるEVは大変便利と感じていただけると思います。新型eK クロス EVは将来に検討する特別なクルマではありません。皆さまに今、安心して気軽にお乗りいただける選択肢の1つとなりました。時代の要請とお客さまのご要望にお応えするこの軽EVを生産するにあたっては、世界初の量産電自動車として世に送り出したi-MiEV(アイ・ミーブ)やMINICAB-MiEV(ミニキャブ・ミーブ)で培ったEVに関する生産技術に加え、バッテリパックの水島工場内での一貫生産やEVプラットフォーム製造に対応するためのライン増設など設備投資を行ないました。一方で、高い技術力を持つ地元部品メーカーの皆さまのご支援も得て、高い品質とコスト競争力を実現することができました」とアピール。

 また、「今日、全世界で新型コロナウイルスは幾度となく感染拡大し、日本国内においてもまだ終息したと言える段階ではありません。さらには半導体の供給ひっ迫など、厳しい環境の中、こうして今日という日を迎えることができたのは当社のクルマづくりにご支援をいただいているご来賓、お取引先をはじめとした関係の皆さまのおかげであり、深く御礼を申し上げます。そして、このような状況下で生産調整を余儀なくされる中、生産停止を最小限にとどめることに尽力いただいた従業員の皆さんに心より感謝したいと思います。今後も水島製作所のものづくりの力を磨き上げ、軽自動車生産の主力工場として発展させていきたいと考えています。水島地区一帯で成長し、岡山県、倉敷市、総社市の経済発展に少しでも貢献できるよう引き続き努力してまいります」と感謝の意を述べている。

左から岡山県知事の伊原木隆太氏、倉敷市長の伊東香織氏、総社市長の片岡聡一氏

まずは今回の軽EVに乗って体感してほしい

 オフライン式のあと、内田社長と加藤社長が参加しての囲み取材が行なわれた。その模様は以下のとおり。

囲み取材に応じる内田社長と加藤社長

――地元倉敷にとって自動車は非常に大きな位置を占めているが、軽EVを出すことによる今後の経済に対する影響、人であったり部品供給であったりそのあたりのお考えをお聞かせください。

三菱自動車 加藤社長:まず1つはわれわれi-MiEVを2009年から作っていたわけですが、これも地元のサプライヤーの皆さまに本当に支援をいただいて何とか出せたクルマです。そういう意味で、今回新型の軽EVを出しましたがサプライヤーさまに色々な知見、ノウハウ、ご支援があって立ち上がることができたわけです。なのでまずはサプライヤーさんがいなければこのタイミングで軽EVは立ち上がらなかったのではないかと思うくらいです。地元で長年ためてきた技術、これが再度花が開いたと。これは非常に喜んでおりますし、地元の活性化ということにも期待を持っていただけるのではないかと。

 それから皆さんご存知のように、今世の中はカーボンニュートラルということでどんどん進んでおります。皆さんの意識が高まってきた中でちょうどいいタイミングで軽EVを出すことができたなと思っていまして、正直なところお客さまの反応も非常に高くていいです。そういう意味で、この軽EVは非常にたくさんの方にご関心をいただき、そして販売台数も上がることによってまた地元が注目いただけると。こういう循環で台数を増やしながら「EVのふるさと」ということで地元の活性化につながれば嬉しいなと思っています。

――EVを考えるユーザーからするとやはり価格とバッテリが気になるところで、180万円台という数字が出て驚くと思います。あと充電、バッテリというところに関しては何かしらの不安を持っている人もいるかと思いますがどうお考えでしょうか。

日産 内田社長:まずはこの軽EVに乗っていただきたいと思います。乗っていただくと本当にその良さが分かると思いますし、いまご質問があったバッテリってどうなのというところはあると思います。われわれ日産自動車はリーフをはじめて11年、台数にして言えばグローバルで60万台。日本でも16万台を販売してきています。その11年間で培った、電気自動車のお客さまが求める内容というのは色々な苦労がありました。また、11年間の中で電池の特性であったり寿命であったり大きく違ってきています。そういう面で、お客さまが安心して乗っていただけるような電池の使い勝手に変わってきていますし、今回ここにある2つのクルマはですね、お客さまが普段の生活の中で使う分としてはまったくそん色ないです。今までの電池が切れるとかそういった気持ちから大きく変わった体験をしていただけるクルマに仕上がっていると思います。ぜひお客さまに体感していただきたいですね。インフラについても政府の方、自治体の方々と一緒に充実化させていきたいです。こういった点についても、これからお客さまの利便性も含めて電気自動車に接しやすくなるような環境というものを、われわれとしては商品を作って、政府とも一緒になって今後構築していきたいと思います。

――ライバルからはおそらく2023年以降にならないと(軽自動車タイプのEVが)出てこないと思いますが、なぜ軽EVをこの時期に出すことができたのでしょうか。

日産 内田社長:三菱さんで言えば軽で70年のノウハウが、われわれはリーフが出て約10年。電動化技術に関してはわれわれは色々なことを研究し、この2つの会社がNMKVということで融合してですね、日本の市場で約4割という大きな軽セグメントに電気自動車を出した。われわれの電動化戦略の中で日本市場といえば軽のセグメントは大きい。ここに対し、われわれのノウハウが詰まった電動化車両を出してきたというふうにご理解いただければと思います。

内田社長は軽自動車市場の重要性を説く

三菱自動車 加藤社長:電気自動車ということで言いますと、われわれが2009年に世界で初めて量産EVを出しました。ほぼ同じくして日産さんの方でリーフを出されています。この2つのクルマを考えると、これまで色々な苦労があったわけですが、この2社で色々苦労しながら勉強をしているわけです。ですからそういうものが日産さんの中でためられていますし、三菱自動車の中にも当然たくさんたまっています。そういう面で、商品としてどういうところを狙って、どのくらいのコストをかけて、どういうものを作ればいいのか、このあたりのノウハウ・技術力がわれわれにはありますからこのタイミングで皆さんに注目いただけるクルマを出すことができたと思っています。われわれ2社の力、それからアライアンスとしてNMKVを通じてだんだんと熟成してきていますから、ちょうどいいタイミングでいち早くわれわれができた。こういうことだと思います。

――発売時期が本年夏になっていますが、具体的な日にちが明言できないのは半導体不足であったりコロナ禍であったりということがあるからと考えてよろしいでしょうか。

日産 内田社長:そういった要因もありますが、今日オフライン式で、これから厳しい外的要因や環境を踏まえてお客さまに届けられるような準備をしたい。そういう準備をしている過程においては、現段階では夏という言い方をさせていただいています。色々と不確定な要因がありますが、一方でお客さまにお待ちいただきたくない気持ちも強いものですから、まずは夏ということを今日申し上げさせていただいて、今後きちっとお客さまに届くよう計画準備をしたうえで日にちを申し上げられるのかなと思っています。

――軽自動車は価格が安いというのが1つ売りかと思いますが、どのようにコストを抑えて資材高騰のインパクトをオフセットしたのか教えてください

日産 内田社長:われわれアライアンスの中でも、過去から使ってきている共用化部品に対して手を打っていますし、材料費が上がっていく半面、材料の低減などチャレンジはしています。こういったことを常に踏まえて、今の軽EVのコストベースを作ったうえで価格帯の設定をしています。いま高騰している材料の金額を踏まえた形での価格設定をしたと思っていただければ。今後なにが起こるか分からない状況が続いていますので、そういったことを注視しながら適切な行動をしていきたいと思います。

三菱自動車 加藤社長:今までも材料の価格高騰というのはあります。これまでのクルマ作りの中ではやはり色々なものが上がってくるとか経験してきたわけでありますが、その中で常に少しでもコスト削減をできるアイデアはないかということで、そのアイデアを積み上げて今までコスト削減をやってきました。ですから軽EVも同じで、現時点で資材高騰など難しい局面ですがここをいかに打破するか。開発を日産さんと一緒にやりながらコスト低減にチャレンジしていきたいと思います。

加藤社長は資材高騰という難しい局面をいかに打破するかがカギという

――先ほど内田社長から「日本における電気自動車のゲームチェンジャーになると確信している」と力強いメッセージがありましたが、この言葉に込めた思いをお聞かせください。また、ゲームチェンジをするにあたってこれまでEVが選択肢に入ってこなかった方にどう訴求していくかなど、売り方についてのお考えをお教えください。

日産 内田社長:いくつかあると思いますが、まず電気自動車に対する価値というのが浸透するには時間がかかるのかなと。これはリーフで体感しています。そういう面では4割近い市場がある中でわれわれがやってきたサービスであったり価値を、日産で言えばサクラを通じてお客さまに提供していきたいと。本当に私がお願いしたいのは皆さまに乗っていただきたいことで、乗っていただいたら手に取るように分かると思います。例えば加速の力強さだったり静粛性だったり。ぜひ生活の一部にしていただきたいという思いを非常に強く持っていますし、そのステージにようやくなってきたのかなと思います。そういう中で三菱さんのサポートをいただきながらお客さまから「お、いいね」と言っていただける意味も含めてゲームチェンジャーという言葉を使っています。

三菱自動車 加藤社長:軽EVを開発したのは、軽自動車というのはやはり街乗りで使われるお客さまが多いんです。色々と調べていますけれど、だいたい1日に50km以下の方がほとんどです。電気自動車ですと電欠するといやだなというお考えをお持ちだと思いますが、そういう意味では普段使いの範囲であれば、家で充電すれば普段の軽自動車としての使用にはまったく問題ないと思います。乗って使っていただければすぐにご理解いただけるのかなと思います。それからわれわれの場合、PHEVをお使いいただいているお客さまは関心が高く、すでにその便利さというのはご存知です。ご理解いただいているお客さまをさらに増やすことでさらに広がっていくのではと思います。

日産 内田社長:あとは価格帯だと思うんです。なかなか電気自動車は高額だなというイメージがあり、ここは国が補助金を検討いただいた中でお客さまの手が届く、チョイスの中に入る価格帯をしていくことが一番重要なのかなと思います。

サクラとeK クロス EVがラインオフ。なお、年間販売台数は三菱自動車では1万台を目標に掲げている。軽自動車タイプのBEVが日本でどう受け入れられるか注目したい