ニュース

日本ペイント、自動運転用塗料「ターゲットラインペイント」を使った自動運転バスのデモ走行公開

2022年9月6日 開催

慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスで、自動運転用塗料「ターゲットラインペイント」を活用した自動運転バス試乗会が行なわれた

 日本ペイント・インダストリアルコーティングスは9月6日、神奈川県藤沢市にある慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスで、同社の自動運転用塗料「ターゲットラインペイント」を活用した報道機関向けの自動運転バス試乗会を開催した。

 自動運転用塗料であるターゲットラインペイントでは、使用する顔料の配合比率などを工夫することにより、道路を舗装するアスファルトに近く目立ちにくい色調ながら、LiDARセンサーが照射するレーザー光をしっかりと反射することが可能。施工しても普通に運転するドライバーが道路上にある路面標示と誤認しないよう配慮しつつ、自動運転をアシストするラインを塗装できる。

 これによってトンネル内などGPS情報を受信しにくい環境でも自動運転を続けることが容易になり、自動運転車両の導入コストや将来的なメンテナンスコストを大きく引き下げることもできるという。

慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスの構内路に設置されたターゲットラインペイント。自動運転バスのLiDARセンサーが自車位置の測位に活用する
50cm間隔でターゲットラインペイントを設置。2本の線を組み合わせることで特徴的な形状となり、パターンマッチングで判別しやすくする効果もある

 試乗会の会場となった慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスは、約10万坪という敷地に3学部、2研究科を展開。広大な敷地の南北が公道で分かれ、本館と看護医療学部校舎が離れた場所にあることから、学生や職員の利便性を高めるため、神奈川中央交通に業務委託して循環バスを走らせている。

 この環境を利用して、慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 兼 環境情報学部 大前学教授は、循環バスの1台に必要となる機材を設置して自動運転車両化。自身の研究室で学生と共に自動運転の研究に取り組んでおり、研究を進める新たな一手としてターゲットラインペイントが提供されることになった。

慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 兼 環境情報学部 大前学教授

 大前教授が手がける今回の自動運転バスでは、3D高精度地図データをシステムの根幹に位置付ける。実際に自動運転で使用するときは2Dに落とし込んで処理しているとのことだが、基本的には地図データ内にあるセンターラインの座標から1.5m左側に車両の中央が位置するよう制御を行なう。自車位置の測位も重要な要素となり、GNSSとLiDARセンサーの情報を組み合わせて使用。

「GNSSによる位置情報」「地図データ内に設定された白線などの反射強度」「3Dデータとの位置関係による推定」「前方にある物体からの反射強度」という4つのパラメーターから測位を行ない、間断なくデータの信頼性を判定して最も精度が高いものを基準として採用していく。ターゲットラインペイントについては4つのパラメーターのうち「前方にある物体からの反射強度」で使用され、推定精度を高めてくれているという。

 このほか、車両の前方用に3個、側方用に左右計2個設置されているLiDARセンサーは障害物の検知にも利用され、駐車車両や歩行者などを障害物として検出。ステアリングを操作して回避したり、自動ブレーキでの停車などを行なったりする。

自動運転車両に改造された神奈川中央交通の循環バス。5月から自動運転による運行を行なっている
自動運転用に設置されたLiDARセンサー。センター位置に前方用として3個、両サイドに側方用として各1個を設置。また、2個の円筒は今後に向けて追加されたカメラで、将来的に信号機の認識などに活用する予定とのこと
ルーフ上の前後2か所にGNSSアンテナを設置
ルーフの四隅に設置されたカメラは障害物などのチェック用。自動運転には使われていない

 また、自動運転は「ドライバーによる監視」を前提としたレベル2相当の位置付け。監視役となるドライバーは業務委託する神奈川中央交通のスタッフが務めるため、UI(ユーザーインターフェース)についても慣れを必要とせず、誰でも簡単に扱えるよう工夫しているとのこと。

 ステアリングに設置された2個のボタンを同時押しすることで自動運転のON/OFFを切り替え、自動運転中には、危険回避などの緊急時以外にはセンターコンソール後方に追加された2個の大型ボタンだけを使用。走行中に走り続けたり、システムの制御で自動停止したときの再発進などはグリーンのボタン、学生などがバス停で待っていて停車する場合はレッドのボタンをドライバーが判断して押すことになる。

自動運転バスの運転席。センターコンソールに追加されたディスプレイに各種情報が表示されるが、運転手は基本的に右側4分の1に出てきた情報に対応するだけですむUIとなっている
ステアリング左側に追加された2個のボタンを同時押しして自動運転のON/OFFを切り替える
自動運転中には、グリーンとレッドのボタン操作だけに運転手が集中できるシンプルなUIを採用。左側にあるのは緊急停止ボタン
自動運転のシステムから送られた指令を運転操作に変換するアクチュエーター。ステアリングコラム左側に追加されている
ステアリングの奥に追加されたリング状の「ハンドル連携装置」でステアリングを操作
アクセルとブレーキのペダル奥側に連携装置のアームを追加して、運転手もそのまま運転操作ができるようにしている
自動運転の心臓部となるPCは運転席後方に設置
循環バスに乗車した学生が自動運転がどのような制御を行なっているのか学習できるよう、運転席後方の大型ディスプレイにも表示を行なう
自動運転が利用できない場合は手動運転で循環走行する

 ターゲットラインペイントは道路に施される白線などと同程度の強度を持っており、実際の交通環境下における耐久性の評価を行なうことも今回の導入理由の1つになっているという。

 このほか、大前教授によれば、今回構内路に設置したケースでは、ターゲットラインペイントの施工費用は100万円/kmほどとのこと。電磁誘導線を使う場合は300万円/km、磁気ネイルを埋設する場合は1000万円/kmという予算感になるため、あまり予算規模が大きくない地方自治体などが循環バスなを自動運転化する際に、導入時の初期費用を下げることも期待できそうだと語った。

ターゲットラインペイントを活用する自動運転バスに試乗

キャンパス内を自動運転する循環バス

 実際に公道900m、大学構内1.3kmの計2.2kmとなる循環バスの運行経路を使って自動運転バスに試乗させてもらったが、車内に制御内容を表示する大型ディスプレイが用意されていたことにより、どのような情報をもとに車両が自動運転を行なっているのかよく分かった。

 ターゲットラインペイントは基本的にLiDARセンサーによる車両前方の認識精度を高める部分で効果を発揮する製品であり、自動運転の内容に明確な変化が出たりはしないが、ディスプレイ左下に表示される4つの制御パラメーターで、一番右側にある「前方にある物体からの反射強度」の六角形が頻繁にハイライト表示され、LiDARセンサーが車両前方を高い精度で認識していることを感じさせた。

 なお、今回の運行ルートには信号機が1か所存在しており、地図データでその交差点にさしかかると、信号とは無関係に一時停止する制御を行なっている。これは現状のシステムでは信号機の青信号などを判別できないことによるもので、一時停止後、ドライバーが安全確認してグリーンボタンを押し、再発進する運用となっている。

自動運転バス車内に設置された走行中のディスプレイ表示その1。自動運転がスタートして大学構内にある本館バス停まで走行。交差点での一時停止、右折時の徐行から走行継続などのシーンで運転手がグリーンボタンを押している(3分54秒)
自動運転バス車内に設置された走行中のディスプレイ表示その2。本館バス停から自動運転終了まで。大型ディスプレイの上に設置されているサブディスプレイでは、前方用LiDARの認識内容を画像として表示。横断歩道を学生が渡っていることを認識して減速するシーンも出てくる(4分35秒)
自動運転中は20km/hを上限に走行。自動運転用のセンサー類が目立つこともあり、多くの人から注目されているという
緑豊かなキャンパス内では樹木などの影響でGNSSを活用できない場面も多く、ターゲットラインペイントによるLiDARセンサーの自車位置補正も効果的に働く
車外から見た自動運転バスの走行シーン。車道両脇に高い樹木が立っているが、LiDARセンサーの自車位置測位で自動運転を続け、走り抜けていく(26秒)