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バレンス、ギデオン・ベンビジCEOインタビュー MIPI A-PHYの普及について「品質重視の日本のメーカーに採用されることはグローバルで大きな意味がある」

2022年11月22日 発表

バレンス・セミコンダクターが自動車向けのカメラモジュールに関する説明を行なった

 イスラエルのファブレス半導体メーカーValens Semiconductor(バレンス・セミコンダクター、以下バレンス)は、自動車向けのカメラモジュールをAI処理を行なうSoCに高速かつ低遅延で接続するMIPI A-PHY準拠チップセット「VA7000チップセット・ファミリ」(以下VA7000)を5月に発表した。

 同社CEOのギデオン・ベンビジ氏は来日に合わせてインタビューに答えて、「MIPI A-PHYの特徴は低ノイズ、広帯域、低コストの3つで、自動車メーカーにとって採用するメリットが大きい。日本の自動車メーカーは品質で世界の市場をリードしていると考えており、そうした日本のメーカーで採用されることを重要視している」と述べ、日本メーカーへの売り込みを加速していきたいと強調した。

バレンス CEO ギデオン・ベンビジ氏

低ノイズ、広帯域、低コストの3つがMIPI A-PHYのメリットとベンビジCEO

バレンスが発表したMIPI A-PHY対応VA7000シリーズ

 バレンスは日本において5月に記者会見を開催し、同社のMIPI A-PHY準拠のチップセットVA7000を発表している。

 MIPI A-PHYとは、カメラとそのカメラからの映像を入力するAI処理を行なうSoC(Mobileye EyeQシリーズ、ルネサス エレクトロニクスのR-Carシリーズ、NVIDIA DRIVEなど)とを接続するハイスピード・インターフェースのこと。自動車用のカメラで撮影された映像は、カメラ内部にあるCMOSセンサーでデジタルデータに変換され、SoCのISP(Image Signal Processor)に入力されて、それ以降の処理で扱いやすいような形式に変換されたのち、SoCのCPUやGPUあるいはNPUに渡されて、画像認識などが行なわれる仕組みとなっている。そのCMOSセンサーとISPの間の伝送路がMIPI A-PHYで、市販のデジタルカメラやスマートフォンでいえば、RAW形式のデータを高速かつ低遅延で転送することを実現するという。

 MIPIの規格は、業界団体のMIPI Allianceで規格化されており、スマホやPCのような一般消費者向けのデバイスではMIPI CSI2という規格が利用されているが、MIPI A-PHYはその自動車版という位置づけ。スマホやPCでカメラとSoCの間の距離が自動車に比べれば圧倒的に短いのに対して、自動車ではフロントだけでなく、リアや左右のミラーという、フロントのボンネットの中に置かれるSoCまでの距離が遠いことに対応し、MIPI CSI2を拡張した規格になっているのが特徴となっている。

MIPI Allianceで標準規格として策定されているMIPI A-PHY

 ベンビジCEOは、そうしたMIPI A-PHYの特性を「従来の技術に比べると3つのメリットがあり、1つ目は高性能のEMC(電磁両立性)を実現していて、ノイズだらけの車両の中で低ノイズであること。2つ目として今後解像度化や画質向上に伴い広帯域かつ低遅延が必要になる車載カメラにとって、広帯域化に向けたロードマップが確率していること。そして最後にシンプルな仕組みになっているため、低コストになっていること。この3つはいずれも自動車メーカーにとって大きなメリットをもたらす」と述べ、MIPI A-PHYのメリットを解説した。

 バレンスが5月に発表したVA7000シリーズは、そうしたMIPI A-PHYの規格にいち早く対応したチップセットで、カメラからのデータを受け取り、それをシリアルからパラレルに変換してSoCに入力する形になる。そうしたことをほぼ遅延なく、かつシングルリンクで最大8Gbpsといった広帯域で実現することになる。

1社だけではMIPI A-PHYの普及を実現することは難しいと、ソニーセミコンダクター、インテル/モービルアイなどと協業

ソニーセミコンダクターソリューションズが作成したテストチップとの相互接続性を確認

 ベンビジCEOは、5月の会見からのアップデートに関しても説明。すでにCMOSセンサーやSoCなどを製造するいくつかのベンダが、MIPI A-PHYのサポートを新しく開始していると明かした。

 ソニーセミコンダクターソリューションズがテスト開発したMIPI A-PHYのテストチップと、同社のVA7044の互換性検証が行なわれ、すでに動作が問題ないことが確認されていることが9月12日に発表されている。言うまでもなく、ソニーセミコンダクターソリューションズは、自動車向けCMOSセンサーの大手であり、実際に自動車への採用例も多い。

MobileyeのEyeQ5にMIPI A-PHY対応の機能が追加され、VA7044などの動作を確認

 また、インテル傘下のモービルアイ(Mobileye)が、同社のEyeQ5プラットホーム向けに、A-PHYのサポートを追加し、すでに実働デモを行なっていることを明らかにした。具体的には、EyeQ5の標準開発ボードに同社のVA7044(VA7000シリーズのうち、クアッド・デシリアライザー)を基板上で統合し、15mのケーブルでカメラからの4K/30fps、2.6Gbpsのデータを送り、ほぼ遅延がないというデモを行なったという。

インテルがIFSで製造するファブレスメーカーにバレンスのMIPI A-PHYの技術を提供

 さらに、モービルアイの親会社となるインテルとは、バレンスが開発したMIPI A-PHY向けの技術を、インテルのファンダリーサービスであるIFS(Intel Foundry Services)の顧客向けに提供することで合意。インテルは、自社工場を他社が半導体を製造するために利用する受託生産ビジネスを今年から開始しており、2024年頃に本格的な提供に入る計画だ。その時に、例えばインテルの顧客となるファブレスの半導体メーカーが、ADASや自動運転向けのSoCを製造する時に、その一部としてバレンスが提供するIPデザイン(設計図)を利用してMIPI A-PHYコントローラを統合して生産するなどが可能になるということだ。

5月の発表以前にも、ソニーセミコンダクターソリューションズと並んでCMOSセンサーのトップメーカーであるOMNIVISIONや住友電気工業とのパートナーシップが発表されている

 こうした協業に関してベンビジCEOは「MIPI A-PHYの普及は決して1社ではできない。エコシステムを構築していくことが重要であり、そのために多くのパートナーと協業している。例えば、ソニーセミコンダクターソリューションズであれば、プライスリーダーではなく品質において市場でベストと認識されている。そうしたパートナーと協業することは、品質が重視される自動車市場では非常に重要であり、ソニーもわれわれをサポートしてくれている。インテルも同様で、彼らのファンダリー事業で顧客がMIPI A-PHYを統合したいという時に、われわれのライブラリなどを提供して、製造することを可能にする」と述べ、MIPI -APHYのコントローラの普及にはパートナーとの協業が欠かせないと説明した。

グローバルで品質をリードする日本の自動車メーカーだからこそ、早期の採用を目指して売り込み中

メルセデス・ベンツには、バレンスのオーディオ・ビデオ関連製品が採用されている

 気になる自動車メーカーへの採用に関しては「すでにダイムラーのメルセデス・ベンツに弊社のオーディオ、ビデオ向けのチップセットが採用されており、今年の末までにはすべてのメルセデス・ベンツの車両に弊社の技術が採用される見通しになっている。また、米国の車載安全装置メーカーStoneridge社のトレーラー向けのリアカメラのケーブルを、トレーラーのフロント部分に引き回す最大40mのケーブル技術にバレンスの技術が採用されている」と述べ、いろいろな分野で採用が始まっていることを紹介した。

部品メーカーStoneridge社のトレーラー向けリアカメラ向けケーブルに採用

 MIPI A-PHYに関しては5月に発表されたばかりのため、現在売り込み中ということで具体的な採用例に関してはまだ説明できないとのことだったが、「日本のメーカーで採用されることには大きな期待を持っている。MIPI A-PHYの重要なポイントは、従来の規格よりも、性能が大きく向上する、つまり品質が向上するということだ。日本メーカーはそうした品質で世界をリードする自動車メーカーであり、日本のメーカーに早く採用されることを目指している」とベンビジCEOは述べ、品質という点で世界の市場で認知されている日本の自動車メーカーに採用されることが普及の鍵という見解を示した。

 実はベンビジCEOは日本との縁は浅くない。2020年にバレンスのCEOに就任する前は、スタートアップの立ち上げなどに従事しており、過去にはBriefCamという映像解析ソフトウエアの企業を立ち上げ、2018年に日本のキヤノンに売却して、今や同社はキヤノン傘下の企業として運営されている。ベンビジCEOは「イスラエルの産業界は日本メーカーの品質へのこだわりをよく知っており、日本のメーカーに採用されれば、それがグローバルで"御用達"のような効果があることを理解している。それほどわれわれにとって日本は重要な市場だ」と述べ、そうした観点からも日本メーカーへの売り込みを加速していきたいと述べた。

 またベンビジCEOは最後に「今後自動車に装着されるセンサーは増えこそすれ、減ることはないだろう。すでに1つの車両で8~10リンク、車両によっては12リンクになっている。レーダーに4個、カメラは最低でも4個、バックカメラやサラウンドビューの実現などを考慮に入れれば7~8個と考えられる。年間にグローバルで数億台生産されるとして、1台で7~8個のトランスミッターとレシーバーが採用されるとすれば、10億個を超えるチップが必要になる計算になる」と述べ、MIPI A-PHYが今後大量に必要になる時代が来ると同社としては考えていると述べ、MIPI A-PHY市場の高い成長性に自信を示した。