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バレンス、自動運転向けカメラの高速データ転送を実現するMIPI A-PHY対応製品「VA7000」

2022年5月17日 発表

メルセデス・ベンツやボッシュなどに製品を供給しているValens

 イスラエルの半導体メーカーであるValens Semiconductor(バレンス・セミコンダクター)は5月17日(現地時間)、オンラインで日本向けの記者会見を行ない、同社の新製品となるMIPI A-PHY準拠チップセット「VA7000チップセット・ファミリ」(以下VA7000)のエンジニアリング・サンプルを、自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどに対して出荷開始したことを明らかにした。

 MIPI A-PHYは、スマートフォン(以下、スマホ)やPCのカメラモジュールを接続する高速インターフェースとして知られるMIPI CSI-2などの規格を策定しているMIPI Allianceが策定した自動車向けの規格で、一般消費者向け機器で使用できるMIPI CSI-2では対応していない機能安全など自動車グレードを実現し、自動運転やADAS用のカメラをSoC(System on a Chip、1チップでコンピューターの機能を実現する半導体のこと)に高速、低遅延、高信頼性で接続することが可能になる。

 ValensはそうしたMIPI A-PHYに対応した製品を開発しており、今回発表されたVA7000を国内の自動車メーカー、ティアワンの部品メーカーなどに売り込みを図っていく。

2006年にイスラエルで設立されたValens Semiconductor、高速I/Fなどで成長

会社概要

 Valens Semiconductor CEOのギデオン・ベンビジ氏によれば、Valensは2006年にイスラエルで創業されたベンチャー企業だが、現在はニューヨーク証券取引所に上場するなどの着実な成長を遂げているという。現在従業員はグローバルに300名で、本社をイスラエルに置き、世界各地の自動車メーカーや一般消費者向けの家電メーカーなどに対して半導体を販売しているファブレス(工場は持たず設計とマーケティング・セールスに特化すること)の半導体メーカーになっている。

Valens Semiconductor CEO ギデオン・ベンビジ氏

 ベンビジ氏によれば、Valensは今回発表するMIPI A-PHY準拠のチップセットなどのほかにも、HDBase-T(家電や業務用のイーサネット、有線LANの仕様)準拠の製品などをすでに出荷しており、ソニー、パナソニック、サムスン電子、シーメンスといった家電メーカーなどで採用されているという。自動車向けの実績としては、メルセデス・ベンツに対してインフォテインメント向けの半導体を提供しており、ハーマン・インターナショナル、コンチネンタル、モレックス、ロバート・ボッシュなどのティアワンの部品メーカーなどと提携して自動車メーカーなどに売り込みを図っているという。

同社製品は多数の家電メーカー製品で採用されている。ロジクール(海外ではLogitech)のようなIT周辺機器メーカーも

自動運転向けの高速カメラI/F「MIPI A-PHY」対応製品「VA7000」のサンプル出荷

VA7000シリーズ

 そうしたValensが今回発表したのが、MIPI A-PHY(ミッピィ・エーファイ)準拠のチップセットとなるVA7000のサンプル出荷を開始したことだ。

 MIPIとは「MIPI Alliance」という業界標準化団体が策定している規格で、カメラモジュールとSoCを高速で接続する規格になる。その代表的な規格はMIPI CSI-2で、スマホやPCのカメラモジュールに内蔵されているCMOSセンサーと、SoCの間のインターフェースの標準的な規格となる。

 例えばスマホのカメラには、レンズの下にCMOSセンサーというセンサーが内蔵されている。このCMOSセンサーがレンズに映ったものを、AD(アナログからデジタルに)変換し、その撮影したデータをスマホの心臓部となるSoCに送るインターフェースがMIPI CSI-2なのだ。

 なぜこのMIPI CSI-2が重要なのかと言えば、CMOSセンサーからSoCには膨大なデータ量となる画像が超高速で送られる必要があるからだ。例えば、4Kの動画を撮影する時には1秒間に30フレーム、言い換えれば30枚の4Kの画像を取り込み、それをSoCに送る必要がある。通常、PCやスマホで画像を扱う場合にはデータが圧縮されたJPEGなどの形式が利用されるため、圧縮された形でインターネットなどに送られる。しかし、CMOSセンサーからSoCへ送る場合、画像データは非圧縮(RAWデータと呼ばれる)のまま送られることになり、かつ1秒間に4Kの画像を30枚送る必要があるので、非常に大きなデータを安定して送る必要がある。

 そうして送られた画像は、SoCに内蔵されているISP(Image Signal Processor)などで処理され、MP4などの圧縮形式に圧縮されて、それを元にSoCが画像認識を行なってハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりという運転操作を行なう。仮にそうした処理が追い付かなければ、クルマは自動運転することができず、停止せざるを得なくなる。このため、CMOSセンサーからSoCに画像や動画を転送するインターフェースは高速でかつ、信頼性が高い必要があり、これまでの自動運転車などでもMIPI CSI-2が利用されていることが多いのだ。

MIPI A-PHYの特徴

 しかし、MIPI CSI-2は元々スマホなどの民生用機器向けに開発されたこともあり、自動車で利用することはあまり考慮されていない。例えば、自動車では機能安全などの仕様を満たす必要があるが、MIPI CSI-2ではそうしたことが考慮されていないため、これまでは半導体メーカーが独自でMIPI CSI-2を拡張した製品が利用されており、独自の仕様(プロプライエタリ)な製品が利用されることになり、それがADASや自動運転の高コスト化の要因になっていた。

 そうしたことを解決するために標準規格として策定されたのが、MIPI A-PHYだ。ベンビジ氏は「MIPI A-PHYはクラスで最高のEMC(ノイズ対策)が行なわれており、よりシンプルなアーキテクチャを採用している。CSI-2などの従来のMIPI規格からのシームレスな統合が可能になる」と述べ、MIPI A-PHYを導入することで、自動車メーカーは高性能や低遅延といったMIPI CSI-2などの特徴を活かしながら自動車グレードでかつ低コストを実現できると説明した。

 ベンビジ氏によれば、今回Valensが発表したのはVA7000と呼ばれる製品ファミリーで、受信側(シリアライザ)のVA7021とVA7033、送信側(デシリアライザ)のVA7042とVA7044をサンプル出荷するという。1リンクあたり8Gbpsでの通信が可能で、将来は16Gbpsに拡張される計画があるという。

MIPI A-PHYの取り組みに参加する企業
主要なパートナーからのコメント

 すでに30社以上の顧客ないしはパートナー企業を得ており、今回の発表に合わせてIntel(インテル)の子会社で自動運転/ADAS向けのSoCを提供しているMobileye、CMOSセンサーを提供しているソニー、日本のティアワン部品メーカーであるデンソーなどが歓迎するコメントを寄せている。