ニュース

モービルアイ、レベル4以上の自動運転向けSoC「EyeQ Ultra」 日本メーカーへの売り込みを見据えて東京の専任チームが実証実験開始

筆者のインタビューに答えるモービルアイ MaaS事業担当 副社長 ヨハン・ユングヴィルト氏

 半導体メーカー「インテル」の子会社となるイスラエルのモービルアイは、CESで新しい自動運転向けのSoC「EyeQ Ultra」「EyeQ6 High(EyeQ6H)」「EyeQ6 Light(EyeQ6L)」という3つの新製品を発表した。今後数年間で順次リリースし、EyeQ Ultraはレベル4以上の自動運転を、EyeQ6Hはレベル2+などのプレミアムADASに、EyeQ6Lはレベル1/2などのADAS向けとして投入される。

モービルアイ アムノン・シャシュアCEO、レベル4自動運転向け最新半導体「EyeQ Ultra」とADAS向け半導体「EyeQ6H」「EyeQ6L」を詳説

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1379315.html

 今回、モービルアイ MaaS事業担当 副社長 ヨハン・ユングヴィルト氏に話を伺う機会を得たので、その模様をお届けしたい。

BEV時代を見据えて、1チップでレベル4以上の自動運転コンピューターを構築することができるEyeQ Ultraを投入

EyeQ Ultra

 モービルアイ MaaS事業担当 副社長 ヨハン・ユングヴィルト氏によれば「EyeQ Ultraは車輪付きのスーパーコンピューターを実現するためのチップとでも言うべき製品だ。1つのチップで完全な自動運転を実現する“AV(Autonomous Vehicle) on a Chip”(筆者注:自動運転を実現する1チップ)と言える初めての製品になると考えている。昨年のCESではチップ上にLiDARの機能を実装することを発表したが、今年のCESではこうした製品にフォーカスして発表を行なった」と述べ、同社が今レベル4以上の自動運転の実現を目指して取り組んでおり、今回発表したEyeQ Ultraはそれを実現する製品になると強調した。

EyeQ Ultraの詳細

 特にユングヴィルト氏が強調したのは「100W以下ないしはその前後という消費電力で176TOPS、4.2TFLOPSという性能を実現する。すでにわれわれが取り組んでいるEyeQ5を搭載したシステムによるレベル4の自動運転車では、8つのEyeQ5を搭載するシステムになっている。しかし、このEyeQ Ultraが登場すれば、1チップでそうしたシステムを実現できるようになる」と述べ、従来は複数のチップを搭載した自動運転車用のコンピューターボードを構成していたのに対して、EyeQ Ultraでは100W前後という現実的な消費電力でそれが実現できると強調した。

ZeekerがEyeQ5を6つ搭載したシステムで2024年に一般消費者向けレベル4自動運転車を出荷予定

 実際、モービルアイ自身が、中国のジーカー(Zeeker、中国の自動車メーカー「吉利汽車」のプレミアムブランド、トヨタ自動車におけるレクサスのようなもの)に提供しているレベル4の自動運転コンピューターは、EyeQ5Hが6つ搭載されており、モービルアイが提供しているRSS(Responsibility-Sensitive Safety)のポリシーに基づいた自動運転ソフトウエアと、モービルアイのシステムを搭載した車両からアップロードされるデータを元に3次元高精度地図(3D HDマップ)をオンタイムに作成して利用できるREM(Road Experience Management)の仕組みを採用している。そのシステムを搭載したジーカーの一般消費者向けレベル4自動運転車両は2024年に出荷される予定だ。

 しかし、6つのチップを搭載するということは、2つの点で課題がある。1つはコストの問題で、6つのチップを搭載することが単純に6倍のコストになる訳ではないが、それでも1つのチップよりはコストが増えてしまう。また、もう1つの課題が消費電力で、複数のチップを搭載すれば、それぞれのチップで無駄に消費している部分が増えるので、やはり1つの高性能なチップよりは消費電力が増えてしまう。そのため、EyeQ Ultraのような1チップで、レベル4の運転処理などをこなすことができる性能を持つ「AV on a Chip」(1チップで自動運転)を自動車メーカーも必要としているのだ。

 そして消費電力という観点では、現在はほとんどがガソリン車であるため、ガソリンを燃やして発電することが可能であるため自動運転コンピューターの消費電力は大きな問題とされていないが、EyeQ Ultraが登場する2024年や2025年にはBEV(バッテリ電気自動車)が今よりも普及している可能性が高い。そうなると、自動運転コンピューターの消費電力が、BEVの航続距離に影響してくる可能性が高い。その意味でも、自動運転の機能を1チップに統合しシステム全体の消費電力をおさえるということの意味は大きいのだ。

EyeQ UltraがEyeQ7Hのような、従来の数字が入っているブランドスキームでないのは従来のADAS用チップと差別化をするため

 なお、今回のEyeQ Ultraには、従来のEyeQシリーズとは異なり世代を示す4、5、6などの数字はブランドに付与されていない。同時に発表されて下位グレードとなるEyeQ6HとEyeQ6Lには6という数字が残されているのに、だ。

 この点に関してユングヴィルト氏は「従来のEyeQ5などにも、Light、Mid、Highといった同じ世代でもグレードを示す表記がつけられていた。われわれもEyeQ Ultraのブランドを議論するときに、EyeQ UltraをEyeQ7にすべきかなどを議論したが、すでに説明してきた通りEyeQ UltraはこれまでのEyeQシリーズとは異なる、1チップでレベル4以上の自動運転を実現できるという際立っている製品となっている。そのため、新しいブランド名としてEyeQ Ultraという製品名がふさわしいと考えた。EyeQ6HやEyeQ6Lのさらに上位にEyeQ Ultraがある、そういうイメージだと捉えてほしい」と述べ、従来のEyeQ4、EyeQ5、EyeQ6と続く1チップでADASの機能を実現するEyeQシリーズとは別の位置づけの製品であるということを明快に説明するために、「EyeQ Ultra」という製品名を採用したと説明した。

 したがって、今後は例えばEyeQ Ultraの次世代製品が出たら、EyeQ Ultra 2やあるいは第2世代EyeQ Ultraのような、世代を示す数字などが付与されていく、そうした形になっていく可能性が高いのではないだろうか。

東京での自動運転の実証運転は日本市場へレベル4以上を展開する準備、丸紅との提携はより小規模のMaaS実現や物流などをターゲットに

2021年ホンダ「レジェンド」に採用されたレベル3の自動運転システム「Honda SENSING Elite」にモービルアイのSoCが採用された

 モービルアイは、日本市場への展開も積極的に進めている。すでに発表されている通り、本田技研工業が2021年に発表して販売を開始した「レジェンド」に搭載されている世界初の一般消費者向け車両でのレベル3自動運転システム「Honda SENSING Elite」には、フランスのヴァレオが製造しているモービルアイベースのシステムが採用されている。また、日産自動車のプレミアムADASとなる「プロパイロット 2.0」にもモービルアイベースのシステムが搭載されていることもよく知られている。そのように日本の自動車メーカーでの採用が進んでいるのが今のモービルアイの立ち位置だ。

すでに東京で自動運転の実験を開始している、条件が整えばレベル4の自動運転の実証実験の可能性も

 そうした状況を加速すべく、モービルアイは東京で自動運転の実証実験をすでに開始している。ユングヴィルト氏は「本社に直属のチームを東京に置いて日々実証実験を行なっている。そうしたチームを設置した意味は、東京を走れるような自動運転車両を作ることができれば、世界中の都市で走らせることができるからだ。そしてもう1つの意味は日本市場への準備という側面もある。また、日本でのレベル4以上の法整備に関しても注目している。そうしたことに対処するためにも東京にもチームが必要だと判断した」と述べ、東京で実証実験を行なっているのは、もちろん主要な自動車メーカーが集中している日本市場へ売り込みを図りたいという意図と、渋滞や多数の歩行者という自動運転システムにとって厳しい環境と言える東京の公道を走れるような自動運転システムを構築できれば、日本以外の都市などでも製品化が可能になるという技術的な側面の両方があると説明した。

 なお、モービルアイは2021年12月に大手商社の丸紅との業務提携を発表している。この提携は、丸紅とモービルアイおよびその子会社Moovitとの3社による提携で、モビリティ関連ビジネスの市場開拓を目的とした業務提携となる。すでにモービルアイおよびMoovitは、日本国内でバス運行事業を行なっているウィラー(WILLER)と業務提携を行なうことを2020年に発表しており、今回の丸紅との提携はそれに次ぐ業務提携となる。

MobileyeとWILLER、日本・台湾・ASEANをターゲットに自動運転で協業。2021年実証実験、2023年ロボタクシーなどサービス開始

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1264120.html

 ユングヴィルト氏は「丸紅さまは人やモノの移動の両方に興味を持っておられる。特により少人数でオンデマンドな公共交通機関や物流などで、自動運転やMaaSのシステムを導入されたいと考えている。そうした市場は日本にとって有望な市場だとわれわれも信じており、一緒にやっていこうということになった」と述べ、両社の提携が、丸紅が提供しようと考えているより少人数でオンデマンドな公共交通機関(例えばネット予約でオンデマンド運行するバスなど)やMaaS、さらには物流車両の自動運転車両などに関して両社が協力して開発をしていくことになると説明した。