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AMD、テスラにも採用されている10TFLOPSのGPUを搭載したAAAゲームがプレイできる車載システムをCES2023で展示

2023年1月5日~1月8日(現地時間) 開催

AMDのCPU「自動車向けRyzenプロセッサ」とGPU「Radeon RX 6000シリーズ」を搭載した自動車向けの開発キット

 半導体メーカーのAMD(エーエムディ)は、1月5日~1月8日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市のラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)およびベネチアン・エキスポなどの会場で行なわれたCES 2023に出展し、開幕前日夜に行なわれた基調講演などに登壇して同社のPC向けの新製品を発表した。

 また、AMDはベネチアン・エキスポの宴会場(Ballroom)に設置したミーティングスペースで、同社が買収したXilinx(ザイリンクス)由来のFPGA製品や、組み込み向け製品の展示を行なった。この中でAMDは、EVメーカーのテスラにも採用されている同社のCPU/GPUを利用した自動車向けのソリューションなどを展示してデモした。

スバルやテスラに搭載されているAMDの自動車向け半導体、テスラではAAAゲームタイトルが楽しめる

2021年にAMDが行なった講演でテスラにAMDのCPU/GPU採用が明らかにされた

 AMDは、元々はIntelのx86プロセッサの互換製品を作る半導体メーカーとして発展した企業で、現在では事実上唯一となるx86互換のプロセッサとなる「Ryzen」(クライアント向け)、「EPYC」(データセンター向け)を販売し、近年では競合となるIntelのマーケットシェアを侵食し続けている。

 AMDはそうした発展の理由になったx86プロセッサだけでなく、近年は2006年にATI Technologiesを買収して得たGPU、2020年に買収を発表し昨年完了したXilinx由来のFPGAなどのCPU以外の製品ラインナップも充実させており、今回のCESでのリサ・スーCEOの基調講演の中では、CPUとGPUを1チップにしたHPC向けの高性能プロセッサとなる「Instinct MI300」を2023年後半にリリースする計画であることを明らかにしている。

 そうした中でも注目を集めているのは、AMDが自動車向けのソリューションを充実させていることだ。AMDが昨年買収を完了したXilinxは、元々自動車向けのソリューションで注目を集めており、例えばスバルのレヴォーグに採用されている新型「アイサイトX」には、今やAMDの一部門(AECG、アダプティブ・エンベデッド・コンピューティング事業部)となったXilinxが提供するZynq UltraScale+ MPSoCが採用されている。

 だが、AMDの製品が採用されている自動車はスバルのアイサイトX搭載車だけではない。もう1つ大きな注目を集めているのがEV専業メーカーのテスラだ。AMDが2021年に開催したCOMPUTEX TAIPEIの基調講演では、テスラのモデルSとモデルXに、AMDのCPUとGPUが採用されることが明らかにされている。

 AMDのCPU/GPUはモデルSとモデルXのIVI(車載情報システム)のCPUとGPUとして採用されており、17型(2200×1300ドット)を活用して、さまざまなコンテンツを再生することができる。AAA(トリプルエー)と呼ばれる高精細で写真品質の3Dゲームもその1つで、モデルSとモデルXに搭載されているAMDのCPU/GPUを利用して高い表現力を利用して、車内でゲームを楽しむことが可能になっている。AMDのCPU/GPUは、ソニー プレイステーション5、マイクロソフトのXboxシリーズなどのゲームコンソールにも採用されており、それと同じエンジンがテスラに搭載されている、そう考えるとわかりやすいだろう。

テスラにも採用されている10TFLOPSのGPUを搭載したシステムでAAAゲームのデモ

AMDブースに展示されていたデモ、3つのディスプレーを1つのシステムですべて処理しており、AAAゲームが可能に。一番右の画面ではAAAゲームを模して3Dの車両をリアルタイムで動かしている

 そのように近年自動車向けの半導体で存在感を増しつつあるAMDは、自動車向けのソリューションを同社のミーティングスペースで展示した。

 AMDが展示したのは、「自動車向けRyzenプロセッサ」(メモリ32GB)と「Radeon RX 6000シリーズ」(ビデオメモリ8GB)という自動車向けのCPU/GPUが搭載された開発キットで、GPUは10TFLOPSの演算性能を備えている。テスラ モデルS/Xに採用されているシステムそのものではないが、10TFLOPSという性能が同等であることを考慮に入れると、半導体レベルではほぼ同じものだと考えてよい。

AMDが展示した開発キット、CPUとGPUがそれぞれ1つずつ搭載されていた

 AMDのブースに展示されたのはその開発キットの上で、AMDの開発パートナーであるECARXのソフトウエアが走っており、デジタルのメータークラスターが2つ、8K/60Hzのディスプレー出力をそれぞれ1つのCPU/GPUという2チップ構成で実現されている。スペック的には最大で10個のディスプレー出力まで対応可能になっており、一般的な自動車向けの描画性能と比べて格段に高い処理能力を持っている。イメージとしては、ゲーミングPC用のGPUが自動車に乗っている、そうしたイメージだと考えるとわかりやすいだろう。こうしたスペックにより、AAAゲーミングや7.1チャンネルのHDオーディオといったアプリケーションを車載向けにこのシステムだけで実現することができる。

 デモでは、ハイパーバイザー(OSの下で、ハードウエアとの連携を調整するソフトウエアレイヤーのこと)により、複数のOSがそれぞれ独立して動作し、メータークラスターは機能安全を実現しているOSで、IVIはAndroid Automotiveや自動車グレードLinuxのようなIVI向けの性能を重視したOSで動かすことができることなどがアピールされた。

Alveo V70
Alveo V70を搭載したラックサーバー
写真では15個だが、実際には16個の映像をリアルタイムで処理して画像認識を行なっている

 また、AMDはスマートシティ向けのソリューションとして、「Alveo V70」というAI推論用のアクセラレータを発表して展示した。Alveo V70は16GBのDDR4メモリとXilinx由来のFPGAが搭載されており、画像認識などのAI推論を高い電力効率で行なうことができる。今回のデモでは入力されている16のHDビデオを、同時に10のディープラーニングの学習モデルを利用した処理を行なっており、CPUなどで処理する場合にはかなり多くのCPUコアが必要になるが、Alveo V70では1つのアクセラレータカードですべて処理することができるようすがデモされた。