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ザイリンクス ペンCEOが記者会見 スバルに採用されるなど自動車向けの売上は過去数年で22%の急成長
2021年5月17日 12:18
- 2021年5月14日 実施
半導体メーカーのXilinx(ザイリンクス)は、FPGA(Field Programmable Gate Array)のトップベンダーとして知られており、2020年の11月にx86互換プロセッサ/GPUベンダーのAMDに買収されることがすでに発表されていて、今後規制当局の承認などを待って、2021年の末までに買収が完了する計画が明らかになっている。
そのザイリンクスの社長 兼 CEOを務めるビクター・ペン氏が5月14日、日本のメディア向け記者会見にて、同社の戦略などに関しての説明を行なった。この中でペン氏は、スバルの新型「レヴォーグ」に搭載されているADAS(先進運転支援システム)ユニット「アイサイトX」に採用されている「Zynq UltraScale+MPSoC」など、同社の自動車向け製品が過去数年間で22%の急成長を遂げていることなどを明らかにした。
また、昨今多くの自動車メーカーも直面している半導体逼迫に関しては、同社製品も若干の影響を受けていることを明らかにしたが、他の半導体メーカーに比べれば影響は軽微であると説明した上で、新しいファウンダリ(受託製造工場)との委託製造契約を結んだことを明らかにし、同社の製造キャパシティには不安がないとアピールした。
ADASや自動運転などの大きなデータを処理する車載コンピュータのエンジンとして採用が進むザイリンクスのFPGA
半導体メーカーのザイリンクスは、FPGAと呼ばれるプログラマブルな半導体製品のトップベンダーとして知られており、2015年にIntel(インテル)に買収され、今はインテルの一部となっているAltera(アルテラ)と市場でシェアを二分する存在だ。一般的なプロセッサ(演算器)は、機能が固定されており、例えばCPU(Central Processing Unit、中央演算装置)であれば、整数演算や浮動小数点演算などを順々に行なう仕組みになっている。あるいはGPU(Graphics Processing Unit、画像演算装置)であれば、グラフィックスの表示や、行列演算や単純な演算を複数並列に行なうようになっている。
それに対してFPGAは出荷時には機能が固定されておらず、専用のソフトウエアを利用して機能を後から定義して演算を行なう仕組みになっている。このため、CPUのように使うことも可能だし、GPUのように使うことも可能で、ソフトウエア次第でさまざまな活用ができるというのがFPGAの特徴となっている。
現在、半導体業界はドメインスペシフィック(特定用途)なプロセッサが一種の流行になっており、例えばAI(人工知能)の学習を専門に処理するプロセッサ、AIの推論を専門に処理するプロセッサ、あるいは音声を処理するプロセッサなど、用途を最初から意識したプロセッサが増えつつある。このようなドメインスペシフィックな使い方も、FPGAの場合はユーザーが導入した後で定義することが可能であるため、人気を集めている。
そうしたザイリンクスは、自動車用途にも使われている。すでに述べたとおりFPGAはさまざまな用途に活用可能であるという特徴を持っているだけでなく、低消費電力で高性能にデータの処理が可能という特徴も備えている。このため、自動運転やADASといったカメラやレーダーやLiDARといったセンサーから得た大量のデータを、高速に処理する必要がある車載コンピュータのエンジンとしてFPGAが採用される例が増えている。
例えば、日立オートモティブシステムズ(現日立Astemo)が、2019年にザイリンクスの最先端製品となる7nmで製造されるFPGA(Versal ACAP)を搭載したADAS製品の開発意向表明を行なっており、同社が2019年に発表したソフトウエア開発環境となるVitisが開発に活用されている。
日立オートモティブシステムズ、Xilinxの7nm FPGAを採用したADAS製品の開発意向を表明
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1211590.html
また、同社のFPGA製品「Zynq UltraScale+MPSoC」は、スバルが2020年に販売して日本カー・オブ・ザ・イヤーのイヤーカーとなった新型「レヴォーグ」のADASとなる新型「アイサイトX」にも採用されている。レヴォーグのアイサイトXは、視野角の広がったステレオカメラ、交差点事故対応の強化、高速道路運転支援の拡大といった機能が拡張されており、より安全性が高まっていることが大きな特徴となっている。
スバルの新型「アイサイトX」、心臓部にザイリンクスのFPGAを採用 新型「レヴォーグ」を支えるZynq UltraScale+ MPSoC
スバルなどのOEMに採用されているザイリンクスのFPGA、すでに8000万ユニットを出荷し過去数年間で22%の成長
このように自動車向けでも注目を集めるザイリンクスだが、2020年の11月にAMDに買収されることが発表された。ザイリンクス 社長 兼 CEO ビクター・ペン氏は「AMDとは重複している分野もあるが、カバーできる市場や技術的な観点でお互いに補完しあえる関係だ。合併することで製品のポートフォリオ(筆者注:提供可能な製品のラインアップのこと)を広げることができるようになる」と述べ、AMDと合併することでどちらもこれまで持っていなかった製品群を持つことになり、それにより他社との競争で優位に立つことができるとの考えを説明した。同氏によればTAM(Total Addressable Market、獲得可能な最大市場規模)は1100億ドル(1ドル=109円換算で、11兆9900億円)に達する見通しだと説明した。
ペン氏は2018年にCEOとして明らかにした新戦略を振り返り、「データセンター第一主義、コアマーケットの成長を加速、適合的なコンピューティング環境の実現」という3つの分野に積極的な投資を行なってきたと述べた。
その1つ目としては通信分野への投資を挙げ、日本では富士通などとパートナーシップを組み、5G(第5世代移動体通信)をはじめとした通信機器への採用を訴求してきたと説明した。現在通信は、汎用の演算器を利用して汎用ハードウェア+ソフトウエアの組み合わせへの移行が推進されている。日本でも2020年からサービスインが始まっている5Gを利用した移動体通信もその例の1つで、従来は固定機能をもった通信機器だったものが、CPU、GPU、そしてザイリンクスが提供するFPGAとソフトウエアによる通信機器に置き換えられつつある。
そして同社がコア市場と呼んでいる、これまでFPGAが利用されてきた市場については、自動車、ISM(Industrial Scientific and Medical、産業科学医療)そして航空宇宙防衛産業に関して、これまで通りの製品強化を行なっていくと説明した。
ペン氏によれば中でも自動車は成長事業となっており、すでに8000万ユニットを出荷済みで、年々出荷数は増えているという。ペン氏は「自動車向けはわれわれの中で最も急速に成長している市場で、過去数年で22%の成長を実現している。われわれの強みはADASやIVI(In-Vehicle Infotainment)にある。すでにスバルさまに採用していただいているように、今後自動車はさらに多くの半導体を使用するようになり、その意味でわれわれにとって長期的には非常に重要な成長の柱となっていくだろう」と述べ、自動車事業が同社にとって最も成長著しい市場であり、今後も長期間にわたって同社の事業の柱となる可能性が高いと強調した。
このほか、ペン氏はデータセンター事業における製品に関しても、今後より強力な製品を投入することで競争力を高めていくと述べた。具体的にはSparse(スパース、英語でまばらなの意味、必要のないデータを取り除いて演算することで演算性能を高める手法)を利用してFPGAでAIの演算(学習や推論など)を行なう時の性能をGPUよりも高める取り組みや、AI向けのアクセラレーションのロードマップなどに関しても説明が行なわれた。
ペン氏は「ザイリンクスの特徴はAIの演算だけをアクセラレーションするだけでなく、処理全体をアクセラレーションすることができる。対応するソフトウエアなども増えており、自社のアプリストアで公開しているアプリも増えていっている」と述べ、ハードウェア、そして演算アルゴリズム(演算する理論のこと)の改良、さらにはソフトウエアの提供などによりデータセンターでのFPGAの利用を増やしていくと説明した。
将来的にはAMD側の組み込み向けCPU/GPUとセットで車載向けに提供する可能性も、半導体逼迫の影響は比較的軽微
プレゼンテーション終了後、報道関係者からの質疑応答に応じたペン氏は、AMDとの合併による自動車事業の取り組みへの影響について問われると「確かに現状AMDは自動車産業にはあまりコミットメントしていないが、リサ・スー氏(筆者注:AMD CEO)と議論しているときにも自動車事業は重要だと言うことで一致をみている。今後われわれの自動車部門がAMD側と協力していくことで、例えば彼らの持っている高性能なGPUやCPUを自動車向けとして投入することもあり得るだろう」と述べ、長期的にはAMD側のリソースや製品を自動車向けとして投入していく、そういった取り組みが考えられると説明した。
また、現在の半導体逼迫についてのザイリンクスへの影響を問われると「Versalのような大規模なハイエンドの製品には今のところ影響は出ていない。しかし、そうではないようなより小規模な製品には一部影響が出ている。現在は非常に難しい状況で、サプライヤと密接にやりとりを続けており、長期の予測に基づいて将来の計画も調整している。顧客にはできるだけ影響が出ないようにしているが、優先順位をつけて優先度が高い順に出荷するようにしている。そして長期的にはもっと確実な供給を受けられるように、新しいサプライヤの選定を行なった。それによりすでに供給キャパシティーは増えている」と述べ、短期的には元々需要が少なかった製品で若干の影響は出ているが、大規模に供給している製品に関してはあまり大きな影響は受けなかったと述べた。
また、現在TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)などの製造を委託しているファウンダリ(受託製造工場)に加えて、新しいファウンダリとの契約を結び、その調査なども終えたと説明しており、すでに製造のキャパシティは以前よりも増えていると述べた。