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日立オートモティブシステムズ、Xilinxの7nm FPGAを採用したADAS製品の開発意向を表明

Xilinxはディープラーニング推論向けの統合ソフトウェア開発環境を提供へ

2019年10月1日~2日 開催

日立オートモティブシステムズのVersal ACAPを利用した画像認識のデモ。自動車や自転車、歩行者などが認識されている

 半導体メーカーのXilinx(ザイリンクス)は、10月1日~2日の2日間に渡り、XDF(Xilinx Developer Forum)2019を米国サンノゼ市内のFairmont San Joseにおいて開催した。この中でXilinxはOEMメーカーとして日立オートモティブシステムズ、そして北京にある自動運転のスタートアップ企業のPony.aiの2社を紹介した。

 日立オートモティブシステムズは、Xilinxが開発した7nmのFPGA(Versal ACAP)を利用してADAS(先進安全運転システム)を開発しており、開発ボードを受け取ってからわずか2か月で前方カメラを利用した画像認識に成功したという。Xilinxはそうしたディープラーニングの推論を利用したシステムを構築する顧客のために、これまでよりも容易にソフトウェアを構築することを支援する統合ソフトウェア開発環境「Vitis(バイティス)」を提供していくことを明らかにした。

さまざまな用途に活用できるFPGAの柔軟性が自動車向けの応用事例でも注目

Versalを掲げるXilinx CEO ビクター・ペン氏

 Xilinxは、Alteraを買収して吸収したIntelと並び、FPGA(Field Programmable Gate Array、エフピージーエー)を提供する企業としては最大手だ。通常のマイクロプロセッサは、設計・製造段階でどんな用途に向けて作られているかが定義されている。例えば、CPU(Central Processing Unit)であれば、プログラムが要求する処理を順々に実行していくことに特化した設計になっているし、GPU(Graphics Processing Unit)であれば当初はグラフィックス処理に、現在は膨大なデータを並列して処理していくことに特化した設計になっているし、DSP(Digital Signal Processor)であれば、音声や動画を処理することに特化した設計になっている。

 それに対して、FPGAはそうした特定の処理に特化していない論理回路と呼ばれる演算装置が用意されており、ソフトウェアによってそれを定義することができる。誤解を恐れずに言うならば、CPUにもなるし、GPUにもなるし、DSPにもなる。そうした柔軟性がある設計になっている。従来はそうしたFPGAを、CPUやGPUを開発する段階でテスト用などに使うことが多かったのだが、近年ではFPGAを実利用環境でCPUやGPUの代わりとして高効率な演算装置として使うことが1つのトレンドになっている。

 このため、最近は自動車向けのアプリケーションに利用されることも増えている。特にGPUに変わって、フロントカメラを利用した歩行者や自動車、白線などの物体認識に利用される例が増えている。これは、FPGAがGPUのように並列処理をさせることができるのに、同じような処理をやらせた場合にGPUよりも少ない消費電力で実行できるか、同じ消費電力であればより高い性能を実現できるからだ。

 今回のXDFでは、そうしたFPGAを自動車向けのアプリケーションに利用する例として2社の事例が紹介された。1つは日本のティアワン部品メーカーとなる日立オートモティブシステムズであり、もう1つが自動運転ソリューションを提供する中国のスタートアップ企業のPony.aiだ。

 日本の日立オートモティブシステムズは、昨年のXDF 2018でXilinxが発表した7nmプロセスルール(製造時に利用する技術の世代のこと、数字が小さければ小さいほど性能が高くなる)で製造されるVersal ACAPを利用したADAS(先進安全運転システム)の試作システムを製作することに成功したと明らかにした。基調講演に登壇した日立オートモティブシステムズ・アメリカ 副社長 内山裕樹氏は「Xilinxから最初のサンプルを受け取ってからわずか2か月でシステムとして動作するまでにこぎ着けた」と述べ、非常に短い期間で開発できたことを強調した。

Xilinx CEO ビクター・ペン氏(左)と日立オートモティブシステムズ・アメリカ 副社長 内山裕樹氏(右)
内山氏のスライド

 自動運転ソリューションを提供する北京ベースのPony.aiも、同じようにXilinxのFPGAを利用した画像認識により、急に飛び出してくる歩行者を認識するデモなどを行ない注目を集めた。Pony.aiは8月にトヨタ自動車との提携を発表しており、今自動運転ソリューションでは注目されているスタートアップ企業の1つだ。

Pony.ai CEO ジェームス・ペン氏
ペン氏のスライド、FPGAはGPUに比べて低消費電力で高性能を発揮できるとペン氏は説明
北京という自動運転にはかなり厳しい環境でのテスト走行の動画。急に飛び出してくる歩行者などに対応できていた

日立は2か月でシステムを構築。Xilinxは自動運転向けソリューションとして売り込み

XilinxのVersal ACAPが搭載されたシステム

 XDF 2019の日立オートモティブシステムズの展示ブースでは、同社が開発意向を表明したXilinxのVersal ACAPを利用したシステムと、それを利用して日本の公道で物体認識を行なった実証実験の結果が展示された。流された公道での実証実験の動画では、歩行者やクルマなどが認識されている様子が示された。日立オートモティブシステムズによれば、今回展示されたシステムはレベル2とそれ以上(つまりレベル2+やレベル3など)を意識したシステムになっており、XilinxのFPGAを使ったディープラーニングの推論(AIを利用した物体認識などのこと)を利用して物体認識を行なっているという。これは、現在同社が複数の自動車メーカーに提供しているADASの将来版になるとのことだった。

日立オートモティブシステムズの展示ブース
画像認識を行なっているデモ

 同社によれば、こうしたシステムをわずか2か月という短い開発期間で開発できた背景には、XilinxがXDF 2019で発表したVitisという統合ソフトウェア開発環境をうまく活用したためだという。

 XilinxによればVitisは無償で10月末より提供開始され、一緒に提供されるライブラリの「Vitis AI」と共に利用することで、FPGAを利用したディープラーニングの推論を活用するソフトウェアをこれまでよりも容易に開発することが可能になる。

 Xilinx 自動車ビジネス事業部 上席部長 ウィリアム・ツー氏によれば「XilinxのFPGAは、自動車向けには2018年の段階で29メーカー、111モデルに採用されており、通算で1億6700万台に採用されており、うちADASに関しては6000万台となる」とのことで、すでにADAS向けのソリューションとしてもFPGAが多く採用されていることをアピールした。

Xilinx 自動車ビジネス事業部 上席部長 ウィリアム・ツー氏

 ツー氏によれば、XilinxのFPGAに最適な応用事例としては、ADASや自律運転といったこれから普及する自動運転の技術や同社がキャビン内体験(In-Cabin Experience)と呼ぶ、車載情報システムやメーター、さらにはジェスチャー操作といった新しいユーザー体験を訴求していく。前者の事例では今回の日立オートモティブシステムズやZFのProAI Flex(レベル4の自動運転を実現するユニット)などへの採用が決まっており、さらに後者ではメルセデス・ベンツのMBUXに採用されている。

Xilinx FPGAの自動車向けビジネスの現況
FPGAの応用事例。ADAS、自動運転、キャビン内体験
今後センサーなどが増えていき、負荷が増えていく
新しいキャビン内体験

 前方カメラを利用した画像認識では、Intel傘下のMobileye、そしてディープラーニング学習で大きなシェアを持つNVIDIAが先行しており、Xilinxはそれを追いかける形になっているが、すでに述べた通り採用事例が増えてきており、今後は7nmで製造されるVersal ACAPとVitisの組み合わせを自動車メーカーやティアワンの部品メーカーへ売り込みをかけていくことになる。

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