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クアルコム、ソニー・ホンダの「プロトタイプEV」に採用されているSnapdragon Digital ChassisをCES2023でデモ

2023年1月5日~8日(現地時間) 開催

Snapdragon cockpit platformのデモ車両

 半導体メーカーのQualcomm(クアルコム)は、1月5日~1月8日(現地時間)にわたって米国ネバダ州ラスベガス市で開催された「CES 2023」のウエストホールに出展し、同社の自動車向けソリューションを展示した。

 クアルコムは、Snapdragon(スナップドラゴン)の名称で、スマートフォン向けのSoC(System on a Chip、1チップでコンピューターの機能を提供できる半導体のこと)を提供しており、プレミアム向けと呼ばれる高価格帯の製品で市場をけん引する存在だ。クアルコムはそうしたスマートフォン向けの技術的な強みを、他の産業(自動車やゲーミングデバイス、PCなど)に横展開する戦略をとっており、その中でも自動車向けではこれまでデジタルコクピットやIVI(In-Vehicle Infotainment、車載情報システム)などで大きな強みを発揮している。

ソニー・ホンダモビリティが採用を明らかにしたクアルコムのSnapdragon Digital Chassisは高いエッジAI性能が特徴

CESのソニーブースに展示されていたソニー・ホンダモビリティの新EVブランド「アフィーラ」のプロトタイプ車両

 今回クアルコムが展示したのは、「Snapdragon Digital Chassis」と総称される自動車向けソリューションで、デジタルコクピット向けの「Snapdragon cockpit platform」、ADAS/自動運転向けの「Snapdragon ride platform」、クラウドへの接続機能を提供する「Snapdragon car-to-cloud」、5GやC-V2Xなどのセルラー通信を利用した機能を提供する「Snapdragon auto connectivity platform」という4つのプラットフォームから構成されている。

 今年のCESで自動車関連では最大の話題だったソニー・ホンダモビリティの新型EVブランド「アフィーラ」のプロトタイプ車両には、クアルコムが提供している「Snapdragon Digital Chassis」が採用されている。1月4日に行なわれたソニーの記者会見には、クアルコム CEO クリスチアーノ・アーモン氏が登壇し、同社とクアルコムの良好な関係をアピールしている。

 クアルコムとソニーの関係は自動車が初めてという訳ではない。というのも、ソニーがグローバルに展開しているスマートフォンのブランドになる「Xperia(エクスペリア)」のフラグシップモデルでは、クアルコムが提供するスマホ向けSoCである「Snapdragon」が常に採用されているからだ。クアルコムにとって、ソニーは長年のパートナーでもあり、自動車向けの半導体としてクアルコムの製品が選ばれたというのは自然な流れだろう。

 というのも、クアルコムの自動車向けのSoCは、スマホ向けのSoCの技術が流用されているからだ。クアルコムは、最先端の技術を開発して、それをまずスマホ向けに展開する。その後、それをPCや自動車など他の産業に横展開していくという技術ロードマップを引いており、Snapdragon Digital Chassisを構成する技術もハイエンドスマホに採用されている技術が応用されているからだ。

 例えば、クアルコムのエッジAI(スマートフォンや車両側で行なわれる推論処理のこと)は、「Qualcomm AI Engine」というソフトウエアとハードウエアを組み合わせた形で行なわれる。クアルコムのSoCには、NPU(Neural Processing Unit)に相当するHexagonというDSPが内蔵されており、これが推論処理をより高速に行なうアクセラレータ機能を担っている。しかし、Qualcomm AI EngineではそうしたNPUだけでなく、CPUやGPUといった汎用プロセッサーも利用してAI処理を行なうようになっており、Qualcomm AI Engineがソフトウエア的にCPU、GPU、DSPの中から最適なモノを選択しながら動作する仕組みになっている。これにより、他社のNPUだけでAI推論を処理する場合に比べてより高い性能(TOPS)を1つのSoCで実現できるようになっている。

 クアルコムはそうした仕組みをスマホだけでなく自動車向けなどにも展開しており、800TOPSという高い性能実現をうたっているアフィーラのプロトタイプ車両で採用される理由の1つになっていると考えることができる。

クアルコムブースではSnapdragon cockpit platform、Snapdragon ride platformなどを中心にデモ

左がSnapdragon cockpit platformのECU、右がSnapdragon ride platformのECU

 今回クアルコムが同社ブースでデモを行なったSnapdragon Digital Chassisは、4つあるプラットフォームのうち、Snapdragon cockpit platform、Snapdragon ride platformの2つに関してデモが行なわれていた。

フロントにはSnapdragonのロゴが
Snapdragon cockpit platformのデモ。3つのミラーもデジタル表示されており、そのほかにも前面に3つ、リアシートに2つのディスプレイをSnapdragon cockpit platformが描画している
ルームミラーとDMS。DMSがドライバーを認識してシートポジションなどを自動変更
IVI
助手席ではゲームをプレイすることもできる
車両の情報は常時クラウドへ

 Snapdragon cockpit platformは、デジタルコクピットと呼ばれるデジタルのメータークラスター、そしてIVIなど、要するに車内のディスプレイにさまざまな情報を描画したり、乗客が動画やゲームを楽しんだりする、そうした用途に利用されるプラットフォームとなる。今回展示されたデモ車両は、16のカメラと4つのマイクがあり、Snapdragon cockpit platformのECUと、Snapdragon ride platformのECUという2つが搭載されている。Hypervisorの上でメーター向けにQNX、IVIなど向けにはAndroid Automotive OSが動作しており、DMS(ドライバーモニタリングシステム)とデジタルミラー3つを含む8つのディスプレイをSnapdragon cockpit platformのECUがコントロールしている形になる。そしてクラウドとの連携も実現されており、車両データをSalesforce.comのクラウドにアップロードしてさまざまなクラウドアプリケーションと連携する様子などが公開された。

Snapdragon ride platformのデモ車両
ECUとして搭載されていたのは、同社のSA8650を2つ搭載した開発キット。OEMメーカーなどにも提供されており、ソフトウエア開発を行なうことができる
道路での実証実験の様子が動画として公開されていた
コンチネンタル(左)とボッシュ(右)のSnapdragon ride platform ECU
ヴェオニア(左)とヴァレオ(右)のSnapdragon ride platform ECU

 Snapdragon ride platformのブースでは「SA8650」という車載用のSoCを2つ搭載したECUを搭載した自動車が公開され、カメラを利用して画像認識により物体検知ができている様子などが公開された(もちろんブース内では車両を走らせることができないため、録画が流されていた)。同社のブースには、ロバート・ボッシュ、コンチネンタル、ヴァレオ、ヴェオニアなどのティアワンの部品メーカーが製造した市販用のECUも展示されており、すでに自動車メーカーがそうした製品を選択することが可能になっていると説明された。

Snapdragon Ride Flex SoC

 また、Snapdragon ride platformの廉価版として「Snapdragon Ride Flex SoC」も展示された。こちらは1チップのSoCで、デジタルメーター、DMS、ADAS、IVIなどの機能を実現するソリューション。Snapdragon ride platformがハイエンドの車両向けだとすると、Snapdragon Ride Flex SoCは軽自動車やメインストリームの車両向けのソリューションとなる。

Snapdragon Digital Chassisの電動二輪車版。インドのような成長市場での展開を検討している
クラウドと常時接続されており、スマートフォンのアプリで位置情報などを確認できる。成長市場では二輪車の盗難が多いため、こうしたソリューションが必要とされているそうだ

 また、クアルコムはSnapdragon Digital Chassisの応用版として、電動二輪車向けのデモを行なった。主にインドなど成長市場向けのソリューションで、1つのSnapdragon SoCで、ライトのコントロール、メーター、さらにはバッテリ残量、GPSの位置情報などのさまざまな二輪車の情報をクラウドにアップロードして、リモートで管理などができるソリューションを紹介した。