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日産、バッテリEVの「V2X」技術や「バッテリ二次利用」について語るパネルディスカッション「Nissan FUTURES」開催
2023年2月22日 10:19
- 2023年2月21日 開催
日産自動車は2月21日、パネルディスカッション「Nissan FUTURES」をYouTubeの日産自動車公式チャンネルで公開した。
日産が進めている“EVエコシステム”の取り組みについて説明するこのパネルディスカッションでは、日産とパートナー企業の専門家がBEV(バッテリ電気自動車)に蓄えた電力を多用途に利用する「V2X(Vehicle-to-everything)」や、BEVで使用されたあとの「バッテリ二次利用」について話し合った。
基調講演
最初にあいさつを行なった日産自動車 グローバルコミュニケーション本部 理事 ラバーニャ・ワドゥガウカル氏は、日産がこれまでも将来に向けたさまざまな課題に取り組み、現在掲げている長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」に基づくイベントとして「Nissan FUTURES」を開催していると説明。これに続き、同日の実施内容について紹介した。
「本日は私たちのEVエコシステムについて詳しくお話しさせていただこうと思っています。これは車両の電動化において重要な領域であり、3つめの柱になる部分です。これについて各領域のエキスパートである方々に参加いただきます。EVはモビリティの未来を変えていく存在であることは間違いありません。そして日産はEVで10年以上の経験を持つ草分け的存在であり、これまで積み重ねてきた経験を生かし、集めてきた情報を活用して今後の変革をリードしていきます」。
「進化しているのはEVだけではありません。私の隣には美しいコンセプトモデル(Max-Out)が置かれていますが、エネルギーエコシステム全体が進化して、モビリティにおける将来のパワーになっていきます。例えばエネルギー転換については、今後あらゆる先端技術をどのように進めていくのかが問われていきます。この点も含め、本日のパネルディスカッションでエキスパートの皆さんに深く話していただく予定です」と語った。
ワドゥガウカル氏のあいさつに続き、日産自動車 経営戦略本部担当 常務執行役員 真田裕氏が基調講演を行なった。
真田氏は「日産はNissan Ambition 2030のもと、よりクリーンで安全な、そしてインクルーシブな世界を実現するための戦略を進めています。エキサイティングな電動車と技術革新をつうじ、日産のお客さまだけでなく、社会の歩みをより豊かにする優れた価値を提供していくことを目指しています。2030年までには世界で15車種のフルEVを含む23の電動化されたモデルをラインアップに加える予定で、日産はバッテリのイノベーションとテクノロジーに対する投資をつうじて、より多くの人が電動モビリティを利用しやすくなるような取り組みも進めています」。
「その一環としてV2X、バッテリリサイクルの取り組みを拡大しています。このように、私たちは社会のエンパワーメントを目指しており、本日行なう議論の焦点はそこにあります。私たちは完全に統合されたEVエコシステムによって社会に力を与え、ゼロエミッションとエネルギー効率の高い未来に向けてコミュニティをリードしていくことを目指します」と概要について説明。
具体的な取り組みでは「お客さまは日産のEVにおいて性能や走る楽しさだけに関心を寄せているわけではなく、環境面でのメリットもあると認識されています。お客さまは使用済みとなったEVのバッテリが交換されたあと、適切に処理されることを望んでいるのです。また、総使用コストの低減も期待しています。これはつまり、世界の多くの国でEVや充電システムが今でも概念的な存在にとどまっていると考えられているということです。お客さまや販売会社にとって、充電設備を設置する仕組みや充電オプションを整えることを可能な限り早く進めることが重要だと理解しています。このために日産では、ヌービー、ドリーブ、フォーアールエナジーといった企業と提携し、EVをお求めになるお客さまの車両とエネルギーに関するすべてのニーズに対してワンストップソリューションを提供していきます」と説明している。
V2Xについての取り組みでは、「V2Xはエンド・トゥ・エンドのエネルギーエコシステムで重要な役割を果たすことになります。お客さまが再生可能エネルギーを自宅で、そして事業所で充電することを助け、さらに再生可能エネルギー業界がピーク時の電力供給、そして1日をつうじて安定した電力供給を実現することの助けになります。これに加えてエネルギーマネジメントシステムがお客さまの電力料金の節約を手助けし、社会全体でのCO2排出削減を進めるほか、電力網の需要安定化にも役立ちます。大都市におけるフリート需要が増えることにより、電力供給のうち10%が車両から供給されることになると予想されており、これは設置型の再生可能エネルギー電源と比較してもはるかに大きな電源として位置付けることができます」。
「すでにパイロット版のプロジェクトも進められていますが、日産は現実的に車両から送電網に送電できる唯一のEVを持つメーカーとなっています。私たちはEVで行なう双方向の充電が重要な送電資源になると考えており、主要市場で供給に向けたパートナーシップを締結。これによって再生可能エネルギーを蓄電し、必要に応じて系統電源に送電することが可能になります」と解説した。
また、バッテリの二次利用については「日産はEVのパイオニアであり、廃棄物低減にも努めています。クローズなループによってバッテリをより効率的にリサイクルするため、お客さまとのタッチポイントを増やし、EVのライフサイクルをつうじて車両とバッテリの視認性を高めていきます。バッテリの交換費用についても低減を進めていき、これによって個人、法人を問わずお客さまが多くの価値を享受することができるようになります」。
「これに加えてバッテリの仕様や用途の変更についても取り組みを進めていきます。EVの台数が増えることに伴って非常に多くのバッテリが初期の寿命を終えることになり、これを受けてバッテリのエコシステムも必要になってきます。2010年に『リーフ』の発売に合わせて設立されたフォーアールエナジーは世界初となる車載用バッテリの再利用事業を行なっており、車載用バッテリの再利用、再製品化によって世界を循環型エコシステムに導いています」。
「われわれは、使用済みのバッテリパックから最も残存容量が高いモジュールを正確に特定し、再生EVバッテリパックに移植する『バッテリ再利用』、エネルギー貯蔵、エネルギーバックアップ、ゴルフカートやATVなどの電源としてバッテリモジュールを利用する『再製品化』、幅広く高い価値を持ったバッテリ向け原材料として品質を保ち、環境負荷の懸念に対する『クローズドループシステム向け最先端技術』という3つの中核的領域で長期的な成長を見込んでいます。これらにより、クリーンエネルギーエコシステム全体をつうじてレアメタルを継続的に抽出し、再利用することが可能になります」。
「このように、草分け的存在として日本でバッテリの再利用、再製品化の技術を確立した日産は、バッテリハブを主要市場で展開してイニシアチブを加速させていく予定です。Nissan Ambition 2030でも発表しているように、今年から英国のサンダーランド工場でスタートさせることになっており、2025年度には同様の取り組みを米国でも始めることで、重要な市場におけるバッテリエコシステムの構築を支援していきます。こうした一連の活動は、サンダーランド工場を中心とした基幹的EV製造エコシステム『EV36Zero』として私たちが進めている活動の一部になります」と取り組みについて解説。これらによって2050年までのカーボンニュートラル実現を達成するとした。
パネルディスカッション:Vehicle-to-everything(V2X)
最初のパネルディスカッションでは、日産自動車 グローバルEVプログラム&エナジーエコシステムビジネス部担当 理事 ユーグ・デマルシエリエ氏に加え、欧州でV2G(Vehicle-to-Grid)技術を展開している「ドリーブ」のCEO エリック・メベリック氏、世界5大陸にV2G事業を導入している「ヌービー」のCEO グレゴリー・ポイラス氏の3人が登壇。なお、モデレーターは両パネルディスカッションを通じて自然エネルギー財団 シニアマネージャー(気候変動)西田裕子氏が務めている。
西田氏は各登壇者について紹介したあと、V2XがどのようなメリットをBEVのオーナーにもたらすのかについてデマルシエリエ氏に質問した。
デマルシエリエ氏は「まずはじめに、EVでできることと一般的なガソリン車でできることはかなり違います。私がEVチームに入ったのは8年ほど前ですが、それまで私は、EVは『A地点からB地点に人を運んでいくもの』という認識でした。しかし、私のチームメンバーはまったく違い、『EVはバッテリ、すなわちエネルギーをA地点からB地点に運ぶもの』と考えていたのです。これを理解することは難しかったですが、これが実際に現在起きているのです。お客さまはA地点で充電して、B地点に移動して放電するということです」と語り、具体例として「アリア」を発表したときに、本社のある横浜で「リーフ」オーナーを招いた展示会を開催したエピソードを紹介。
この会場では充放電が可能な駐車場が用意され、リーフに乗って会場入りしたオーナーはマイカーに充電するだけでなく、蓄えた電力を給電側で利用することによって駐車料金の支払いに充てることもできたという。さらに電力による支払いで会場内でコーヒーなどを購入することも可能で、これが自分たちのチームで当初から言われていた「これまでとまったく違うことができる」という実例だとした。
また、V2X利用のメリットについてポイラス氏は、「日産とは2015年から一緒に仕事をして、2016年からデンマークのさまざまな都市でリーフと『e-NV200』を使ったV2G(Vehicle-to-Grid)サービスを提供しています。デンマークは風力発電の先進国になっており、これによってデンマークの電力システムは風力に影響されることで非常に増減が激しい状況になっています。これに対してリーフとe-NV200をV2Gで利用することにより、グリッドにおける電力バランスに貢献しています」。
「V2Xを利用することについて3つの重要なステップがあります。まずはドライバーが必要なときにEVを移動手段として利用できる、そしてグリッドに系統接続している、そこで系統電力のバランスを取るということです。これにより、リーフは2016年に1台あたり2000ドルほどの価値をもたらすことになりました」と紹介した。
V2Xが求められる具体例としては、2022年7月にテキサス州で発生した事例を紹介。テキサス州は石油を産出する地域ながら、風力、太陽光といった再生可能エネルギーの導入も進んでいる。しかし、曇りがちで風の吹かない日が続いたことで再生可能エネルギーの供給がストップして、この影響で電力価格が6~7倍に高騰したという。再生可能エネルギーはCO2排出の削減で有用だが、管理するための蓄電がキーになり、V2XでBEVのバッテリが系統に接続されていることが重要だと語った。
このほか、社会情勢の変化によってエネルギー危機が叫ばれるようになり、これに呼応して再生可能エネルギーに対しても注目が集まってきているが、この再生可能エネルギーとBEVの関係についてメベリック氏がコメント。
「再生可能エネルギーは世界的に需要が増加しています。これにより、低炭素社会を実現するため近い将来に2つのことが必要になります。それは『電力網』と『蓄電』です。それぞれにあった方が望ましいということではなく、必須の条件になります。欧州に限らず世界的に温暖化が進んでおり、従来のように化石燃料だけを使う生活ではなく、再生可能エネルギーを蓄電して使う柔軟性が求められるようになります」。
「さらに欧州では電力価格のリスクを管理することが重要になってきました。これは欧州以外の地域にエネルギーを依存することで発生するリスクです。欧州で起きているリスクは非常に強力で欧州全域で発生しており、この冬にもすでに経験しています。こうしたエネルギー転換に対して再生可能エネルギーは助けになってくれます。こうした状況下では、非常に大規模な蓄電が必要になってきます」と解説した。
パネルディスカッション:バッテリの二次利用について
続いて実施されたバッテリの二次利用に関するパネルディスカッションでは、基調講演も行なった真田氏、欧州日産自動車 エネルギービジネスユニット ディレクター ソフィアン・エルコムリ氏、フォーアールエナジー 代表取締役社長 堀江裕氏の3人が登壇。
バッテリの二次利用について真田氏は、この話題を始めるにあたり、「EVエコシステム」と「バッテリエコシステム」という2つのポイントがあると説明。「まず、EVエコシステムですが、EVは排出ガスがないのでクリーンだと見えますが、EVを駆動させる電気を発電するときにCO2を出していて、これが地球環境に対してインパクトを与えています。そこで再生可能エネルギーをいかに使っていくかがポイントになってきます。ただ、再生可能エネルギーはそう簡単には作り出せないところがあって、海上(の風力発電)にあったり、私の自宅の屋根にもソーラーパネルがあるのですが、それらは風が吹いたり日が射したりしたときには発電できますが、常時採れるものではありません。そういったところをマネージメントして一時的に貯めておくものが必要になります。そこでわが家ではリーフがつながって、そのように全体が1つになって初めてバッテリEVが地球環境に対して貢献できる。これがEVエコシステムになります」。
「バッテリエコシステムにも同じようなポイントがありまして、バッテリ自体を生産するときに大量のCO2を排出することが分かっています。したがって、1台のリーフを売ったときに生産で必要になったCO2は、実はガソリン車と比較して少ないということはありません。では、どうやってバッテリを作るときに出したCO2を上手にマネージするか、われわれが10年以上やってきて分かってきたことは、バッテリは上手く使えば非常に長持ちするということです。バッテリをいかに長持ちするように使うか、そんな知見も増えてきています」。
「例えばクルマが廃車になったときに捨ててしまうのではなく、性能のよいものはそのまま再利用する。また、中国やインドネシア、アフリカ諸国など限られた地域でしか算出されない貴重な資源もバッテリには使われていますので、スクラップにする場合でも資源として抽出しておきたい。そういったものをしっかりと再利用できて初めて地球に優しいサイクルができあがります。これがEVエコサイクルとは違うバッテリエコシステムになると思っています。日産自動車としてはテスラさんなど他社の手がけるものに対してどうやって日産ユニークを出すかがポイントになると考えています」と語り、BEVを生産するだけではなく、バッテリの二次利用なども視野に入れることが重要になるとした。
また、二次利用にあたってバッテリを回収する段階が課題になっており、販売したBEVからバッテリを回収する仕組みを日産だけではなくコミュニティとして構築していく必要があり、バッテリから貴重な資源を抽出する技術もまだまだ効率を高めることが求められ、各分野でのエキスパートとパートナーシップを組んでいく必要があると述べている。
パートナーシップの重要性は欧州事業でも同じだとエルコムリ氏は語り、「欧州ではクルマの寿命は15年程度だと考えられています。初代リーフが発売されてから11年ほどが経過しており、欧州では2023年に1000台のEV用バッテリを回収する予定となっています。これが2030年には2万台に増え、それ以降も急速に伸びていく見込みです。欧州には地域の複雑性という面があり、25か国以上でそれぞれ異なる規制が存在して非常に断片化されています」。
「これからバッテリ回収のためにつなげていかなければいけない点はたくさんあります。バッテリのテストを行ない、輸送して、分解するという作業をバリューチェーンとしていくため、パートナーを見つける必要があるのです。非常に強力なパートナーシップが求められます。また、規制に対応するため公共団体のサポートも必要になるでしょう。欧州でEV用バッテリを回収するために新たな規格作りの活動が重要になります」と説明した。
BEVのバッテリを二次利用する具体的な内容について、堀江氏は「バッテリのリユース、リパーパスという部分では、2010年にリーフが発売されてからこれまで12年に渡って技術を貯めており、いろいろな商品開発も進んできました。弊社のパートナー企業は25社ほどありまして、大きなものは大型の蓄電設備から、キャリーケースに入るような携帯型の電池まで、そういった技術は進んできました。最後に残っているのがリサイクルの部分です。力任せにリサイクルすることは可能になっているのですが、レアメタルをいかに効率的に抽出するかといった技術はこれからというところです」。
「また、リサイクルは装置産業という側面があって、ある程度の量がまとまってこなければ設備化が難しい事業です。量が集まるタイミング、技術開発のタイミングを見ながら、どこでどんな技術を使うか、日産さんが先行開発として進められているのが技術的なポイントになります。どちらにせよ、リユース、リパーパスを進めて、まずは新しいバッテリを作らないようになれば、ライフサイクルアセスメントでレアメタルを採掘してバッテリを生産するまでのCO2が発生しなくなりますので、まずはリユースを進めましょう。そしてリユースしたバッテリをもう1回リサイクルすれば、そこからレアメタルが抽出できて新たなレアメタルを採掘せずに済むようになる。こうして資源問題、CO2問題の両方に貢献できる事業だと考えて日々技術開発を進めているところです」と解説した。
最後に真田氏はまとめとして「今日話してきたような全体の構造が、日産自動車だけではなく他社さんまで含めて継続して提供し続けていくために、やはりビジネスとして成立してなければいけないということがポイントになると思います。お客さまにとっての価値であり、またわれわれにも価値となるのがやはりバッテリで、貴重な鉱物のかたまりであるバッテリが、バッテリEVに乗っているお客さまのシートの下にあって、まるで宝石をクルマに載せて走っているとも言えるものです。それを上手く再利用するビジネスがあります」。
「また、これまでのエンジンと比較して、モーターやバッテリといったコンポーネントは非常に耐久年数が長いものになります。したがって、クルマとしてのサービスをこれまでよりも長くお客さまに提供できます。そこでわれわれのタッチポイントから『こんな新しい機能を用意しました。いかがでしょうか?』と継続して提供していけるようになれば、われわれにとってのビジネスになります」。
「EVエコシステム、バッテリエコシステムに新しい技術に投資する原資を得ていくところが課題になっており、まだ十分ではありませんが、この場に(フォーアールエナジーの)堀江さんが来てニコニコと話してくれているということは、バッテリエコシステムも軌道に乗ってきているのかなと思います。これから新しいアイデアが世の中に出てくると思いますが、日産自動車としても刺激を受けて新しい技術をどんどん開発して、お客さまのバリューを作っていく。それがビジネスになるということでやっていきたいと考えています」と締めくくった。