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日産、新長期ビジョン説明会 2028年度の市場投入を目指す全固体電池は「エネルギー密度がリチウムイオン電池の2倍、充電時間は3分の1に短縮することが目標」

2021年11月29日 開催

新長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」発表

 日産自動車は11月29日、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表。今後5年間で約2兆円を投資して電動化を加速させること、2030年度までにBEV(バッテリ電気自動車)15車種を含む23車種以上の新型電動車を投入し、グローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大すること、全固体電池(ASSB)を2028年度に市場投入することなどがアナウンスされた。

 日産は今後10年間で多くの電動車とイノベーションを提供し、グローバルに事業を拡大していくとしており、「Nissan Ambition 2030」は2050年度までに製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現するという日産の目標を支えるものとなっている。この発表に合わせて、社長兼CEO(最高経営責任者)の内田誠氏、最高執行責任者のアシュワニ・グプタ氏がオンラインで説明を行なった。

現在のリチウムイオン電池と性能が同等であれば「全固体電池の開発を進める意味がない」

日産自動車株式会社 社長兼CEO(最高経営責任者)の内田誠氏

 今回、長期ビジョンを発表するに至った経緯として、内田社長は2020年に発表した事業構造改革計画「NISSAN NEXT」が着実に進展する中で「事業の再生から未来の創造へとギヤをシフトするときがきたから」と述べるとともに、「私は2年前にCEOに就任して以来、“日産はこんなもんじゃない”と信じて改革に取り組んできました。そのような中で世界中の社員の皆さんが同じ気持ちを持って懸命に努力してくれました。そして、世界中のパートナーの皆さんが私たちを力強く支えてくれました。その成果が実を結び、今年度、黒字化の見通しが立つまでに至りました。こうして再び事業を軌道に乗せることができたのは、私たちの復活を信じて厳しいときにも期待を寄せ続けていただいたお客さまと、世界中の日産のファンの皆さま、そして投資家の皆さまのおかげです。全ての皆さまの努力と励ましと支えに、心より感謝申し上げます」とあいさつ。

 そして内田社長は長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」について、今後10年の方向性を示す羅針盤になるものとし、「このビジョンが目指すのはよりクリーンで、より安全で、よりインクルーシブな誰もが共生できる世界です。それは環境にやさしく、誰もが安全な移動を享受し、誰もが互いの価値観を認め合うことができる世界を実現することです。そのために私たちはさまざまな業界、政府、自治体と力を合わせて取り組んでいきます。私たちはこの意気込みを『共に切り拓く、モビリティとその先へ』というスローガンに込めました。そして日産のDNAであるチャレンジ精神を活かし、私たちが強みとする電動化技術、知能化技術を柱に据えて、日産ならではの価値を提供していきます」と解説する。

長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」が目指すのはよりクリーンで、より安全で、よりインクルーシブな誰もが共生できる世界
スローガンは「共に切り拓く、モビリティとその先へ」

 その中で挙げられた2030年に向けた電動化戦略では、これまで電動化技術に1兆円を投資してきたが、今後5年間でさらに約2兆円を投資して電動化を加速させること、ユーザーに多様な選択肢を提供するため2030年度までにBEV15車種を含む23車種以上の新型電動車を投入し、日産/インフィニティブランドを合わせてグローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大することを発表した。

 また、電動車で中心的な役割を果たすバッテリについては、今後拡大が見込まれる需要に対応するため、パートナーと協力しながらグローバルで130GWhの生産能力を確保していくとし、「現在のリチウムイオン電池で十分な供給体制を整えるのと並行して、BEVをさらに普及させるための技術革新も進めています。日産は現在、社内で全固体電池の開発に取り組んでおり、2028年の市場投入を目指して2024年には横浜工場内にパイロット生産ラインの導入を計画しています。今から30年前、日産は当時世界のどこにも存在しなかった車載用リチウムイオン電池の自社開発にいち早く着手しました。電池に最適な材料を見つけるため、分子のレベルから基礎研究を繰り返し、市場で起こりうるあらゆる場面を想定した設計技術を築いた結果、内製による量産化に成功しました。私たちが自信を持って全固体電池を発表できるのは、この30年間の経験と初代リーフ発売から11年間、市場に安全な電池を送り出してきた実績があるからです。全固体電池は安全性に大きな期待が寄せられていますが、日産は安全なリチウムイオン電池を設計・生産する技術とノウハウをすでに持っています。現在のリチウムイオン電池と性能が同等であれば全固体電池の開発を進める意味がありません。日産が開発する全固体電池は正極・負極に全固体ならではの材料を選択し、航続距離や充電時間などBEVの使い勝手を大幅に向上させます。具体的には、エネルギー密度は現在のリチウムイオン電池の2倍を目標にしています。これによりバッテリの小型化・薄型化が見込まれ、ピックアップトラックなど大型車両のBEV化が可能となります。さらに、これまでなかった車両レイアウトや運動性能を持つBEVが実現可能となり、新たな魅力の提供につながります。充電時間は現在のリチウムイオン電池に比べ、3分の1に短縮することが目標です。コストはkWhあたり65ドルを目標に開発を進めます。これにより、BEVの車両コストをガソリン車と同等レベルになるまで引き下げ、BEVの本格的な普及につなげます」とアピールした。

2030年度までにBEV15車種を含む23車種以上の新型電動車を投入し、日産/インフィニティブランドを合わせてグローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大する
バッテリについてはパートナーと協力しながらグローバルで130GWhの生産能力を確保していく
全固体電池の市場投入は2028年を目指す
全固体電池のエネルギー密度は現在のリチウムイオン電池の2倍を目標としている
全固体電池によりバッテリの小型化・薄型化が見込まれ、ピックアップトラックなど大型車両のBEV化が可能という
今後5年間で約2兆円を投資して電動化を加速させる

3台のBEVコンセプトカー公開

日産自動車株式会社 最高執行責任者のアシュワニ・グプタ氏

 一方、アシュワニ・グプタ氏からは今後5年間の電動化計画について説明が行なわれた。グプタ氏は2026年度までにEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入し、電動車の販売比率を欧州で75%以上、日本で55%以上、中国で40%以上、米国で2030年度までに40%以上(BEVのみ)とすることがアナウンスされた。

 また、2026年度までに「プロパイロット」を日産/インフィニティ両ブランドあわせて250万台以上販売することを目指すとした。

2026年度までにEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入し、電動車の販売比率を欧州で75%以上、日本で55%以上、中国で40%以上、米国で2030年度までに40%以上(BEVのみ)とする
026年度までに「プロパイロット」を日産/インフィニティ両ブランドあわせて250万台以上販売する目標も

 発表の中では、今後同社が展開するBEVのデザインコンセプトとして素早く駆け抜けるという意味を持つ「駿」、力強く羽ばたくことを意味する「翔」を導入することも明かされ、新型BEV「アリア」と同じ「CMF-EV」プラットフォームを使った新コンセプトモデル「NISSAN CHILL-OUT」を公開した。

新コンセプトモデル「NISSAN CHILL-OUT」

 また、グプタ氏は2026年までに1400億円を投資し、グローバルの研究ネットワークを活用しながらBEVのゲームチェンジャーとなる全固体電池の自社開発を進めていくと発表。2028年時点での1kWhあたりのコストは75ドルになる見込みだが、その後BEVとガソリン車のコストが同等となるよう65ドルまで低減していくことを目指すという。また、2022年から全固体電池のパイロット工場の建設がスタートし、2024年から試作に着手。2028年からの量産を目指すとした。

 さらにパートナーと協力し、2026年度までにグローバルな電池生産能力を52GWh、2030年度までに130GWhへと引き上げる予定という。また、バッテリを二次利用するための施設を日本以外にも拡大し、2022年度には欧州、2025年度には米国に新しい施設を設立する予定。日産としてはバッテリの二次利用を推進するためのインフラを整備し、エネルギーマネジメントにおける循環サイクルを構築することで、2020年代半ばにV2Xと家庭用バッテリシステムの商用化を目指す。

全固体電池のコストについて、BEVとガソリン車が同等となるよう65ドルまで低減していくことを目指す
2022年から全固体電池のパイロット工場の建設がスタートし、2024年から試作に着手。2028年からの量産を目指す
2026年度までにグローバルな電池生産能力を52GWh、2030年度までに130GWhへと引き上げる予定
充電インフラの拡充を図るため、今後5年間で最大200億円の投資を行なう

 そして再び登壇した内田社長は、現状の運転支援技術をさらに進化させ、2030年度までにほぼすべての新型車に高性能な次世代ライダー技術を搭載することを目指すと発表。さらに、今後のBEVビジョンを示すコンセプトカーとして、オープンモデル「マックスアウト(MAX OUT)」、マルチSUV「ハングアウト(HANG OUT)」、ピックアップトラック「サーフアウト(SURF OUT)」の3台を公開。

 いずれもコンパクトで高いエネルギー密度の全固体電池を組み合わせることを前提に、車体、シャシー、バッテリを統合した構造を採用すること、超軽量であるといった点がアピールされた。

今後のBEVビジョンを示すコンセプトカー。左からサーフアウト、マックスアウト、ハングアウト

日産、全固体電池を統合した新ハードウェアを使用する「BEVコンセプトカー」3台を世界初公開

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1369794.html

 内田社長は最後に「これらのコンセプトカーは、日産がどのようにしてお客さまの期待を超え、移動の可能性を広げていくかを明確に表現しています。こうした新たな技術開発を行なう上で鍵となるのが日産の人材です」とし、研究開発部門における先進技術領域で3000人以上のエンジニアを新規に採用することをアナウンスするとともに、「これまで多くの皆さまの支えにより、日産は危機を脱し、再び未来に向けたスタートラインに立つことができました。ここから未来に向けて日産を前進させるのは、才能に溢れ多様性に富んだ素晴らしい従業員たちです。そうした従業員こそが日産の最大の財産であり、これからの時代を突き進む力の源泉なのです。今、私たち経営陣に必要とされるのはそうした個の力を最大限に引き出し、チームとして力を存分に発揮させることです。なぜならば、それが日産らしい商品やサービスとなってお客さまと社会に価値を提供することにつながるからです。私たちは、人々の生活を豊かにするためにイノベーションをドライブし、よりクリーンで、より安全で、よりインクルーシブな誰もが共生できる世界の実現を目指します。そして、そのために私たちが強みとする電動化と知能化を柱に据えて人々の移動の可能性と社会の可能性を大きく広げていきます。どうかこれからの日産を見ていてください。Nissan Ambition 2030を指針として日産を世界中の皆さまから日産という会社があってよかった、日産のおかげで毎日ワクワクする。こういっていただけるような会社に必ず変えていきます」と強く宣言して説明会を締めくくっている。

【中継】日産の長期ビジョンについての発表会見