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日産、新車の購入契約まで可能なメタバース上の仮想店舗「ニッサン ハイプ ラボ」 6月30日まで実証実験

2023年3月8日 発表

メタバース空間で新車購入も可能になる新プラットフォーム「NISSAN HYPE LAB」(ニッサン ハイプ ラボ)

 日産自動車と日産東京販売は3月8日、メタバース空間に設定した仮想店舗でユーザーのクルマ選びを手助けし、実際に新車の購入契約まで可能な新しいプラットフォーム「NISSAN HYPE LAB」(ニッサン ハイプ ラボ)の実証実験を6月30日まで実施すると発表した。

 Epic Gamesが提供する3D制作ツール「Unreal Engine 5」を利用して開発された独自のメタバース空間となるニッサン ハイプ ラボでは、仮想店舗内に「レセプション」「バーチャルショールーム」「パーソナルルーム」「シアター」といったエリアを用意。ログインには「日産グループ共通ID」に登録したIDとパスワードを使用し、利用料金などは無料。Webブラウザでニッサン ハイプ ラボのURLにアクセスするスタイルとなるため、PCやスマートフォン、タブレットなど、インターネットを閲覧できる幅広い端末で参加できる。

ニッサン ハイプ ラボにログインして最初にアバターが立っている「レセプション」エリア。左側にいるジャケット着用のアバターは「バーチャルスタッフ」で、操作方法の説明などを担当する。バーチャルスタッフの対応言語は日本語のみ
アバターの外観はメニュー一覧からいつでも変更可能

 メタバースにおける自分の分身となるアバターを操作してニッサン ハイプ ラボを歩きまわり、ショールームには3Dモデルで再現された「エクストレイル」「フェアレディZ」「サクラ」「アリア」という4台の車両を展示。Unreal Engine 5によって細部まで忠実に作り込まれた3D車両はアバター中心視点、車両中心視点の2種類で外観デザインを確認できる。

 また、各来場者ごとに割り当てられるパーソナルルームでは、エクストレイルとサクラを対象に、グレードやオプション品、内外装のカラーなどを選んで自分好みの1台を制作できる「3Dシミュレーター」、3Dシミュレーターで制作した3D車両の走行シーンを多彩な視点から楽しめる「360°ドライビングビュー」を体験できる。

ニッサン ハイプ ラボの中央にあるメインエリアの「ショールーム」には、3Dモデルで再現された「エクストレイル」「フェアレディZ」「サクラ」「アリア」の4台を展示
3D車両は視点を動かして、さまざまな角度や距離から外観デザインを確認できる
ニッサン ハイプ ラボは歩きまわるだけでも楽しめるよう、近未来をイメージした空間演出を採用。「パーソナルルーム」に隣接する一帯は軽自動車のバッテリEV・サクラをモチーフに、室内空間ながら桜吹雪が舞い散るメタバースならではの演出が行なわれている
各来場者ごとに割り当てられる「パーソナルルーム」の入口

 このほか、各日11時~20時にはニッサン ハイプ ラボに「バーチャルスタッフ」が常駐して、操作方法の説明や仮想店舗内の案内、展示している3D車両の紹介などを実施。さらに詳しい車両の説明やクルマの購入方法などについて質問したい場合は、バーチャルスタッフを通じて日産東京販売のカーライフアドバイザー(営業スタッフ)の対応予約を取ることが可能。パーソナルルームでテキストチャットや音声通話、スクリーンに表示する画面共有などを使い、より具体的な車両の説明や購入に関する相談、車両見積もり、電子契約による購入契約まで完結させることもできる仕組みとなっている。

 なお、今回の実証実験が行なわれる3か月間は取り組みに参加しているのが日産東京販売のみということから、カーライフアドバイザーとやり取りできるのは日産東京販売が販売エリアとしている東京都内の在住者だけとなり、車両購入に際して下取り車がある場合は日産東京販売の販売店を訪問して車両の査定を受ける必要が出てくる。

パーソナルルームではほかの来場者に内容を知られることなくカーライフアドバイザーに相談できる。さらにニッサン ハイプ ラボにログインしているほかの来場者も招き入れることも可能で、単身赴任などで離れて暮らしている家族などと合流して一緒にクルマ選びを進めるような利用形態を想定しているとのこと
パーソナルルームの奥にある「3Dシミュレーター」
エクストレイルとサクラの3D車両を使い、グレード、オプション品、内外装色などを選んで自分好みの仕様を見つけることができる。仕上げた車両は保存していつでも読み出すことができる
3Dシミュレーターでデータを保存した3D車両は、「360°ドライビングビュー」でさまざまな視点から走行シーンを見ることができる
ニッサン ハイプ ラボの全体マップ
パーソナルルームの利用イメージ解説(1分45秒)

タッチポイントの強化を担う新たなサービスになる

日産自動車株式会社 Japan-ASEANデジタルトランスフォーメーション部 部長 山口稔彦氏

 ニッサン ハイプ ラボの実証実験スタートに先駆けて実施された報道関係者向けの事前説明会では、日産自動車 Japan-ASEANデジタルトランスフォーメーション部 部長 山口稔彦氏が解説を行なった。

 山口氏は「インターネットはここに来て急速な変化を見せており、『インターネットが誕生して以来の大きな変革、一番の変革の波が来ている』と言われています。例えば『web3』に代表される、『NFT』や『Defi』、『ブロックチェーン』といった新しい技術が、AIのマシンラーニングの急速な台頭と合わせて進化を遂げ、お客さまの行動や趣向などをどんどん変化させています。日産ではこれまでも中長期のデジタル計画を持っていましたが、今年度から最新のテクノロジーを採り入れたものにアップデートしています。この中に『新たなタッチポイントになるメタバースの活用』が入っています」。

「要するに、こういった新しいデジタルテクノロジーを活用し、これまでにないお客さま体験を創出していく。利便性を徹底的に追求して、お客さまにより日産車に親しんでいただけるようなサービスや空間を提供していきます」と説明。ニッサン ハイプ ラボはこうした取り組みでメタバースを活用し、タッチポイントの強化を担う新たなサービスになると位置付けた。

ニッサン ハイプ ラボはメタバース空間でクルマの購入までカバーする新たなタッチポイント
「インターネットで情報を調べる」「実際に販売店に行って相談する」という行動の中間にあり、気軽にさまざまな体験ができるのがメタバース空間にあるニッサン ハイプ ラボとなる
「高精細な3Dのクルマでシミュレーションが可能」「スタッフに気軽に相談できる」「メタバース上で契約まで完結できる」という3点が大きな特長

 これまでにもさまざまな部分で指摘されているように、近年ではクルマの購入行動が大きく様変わりして、実際の新車購入までに販売店を訪れる平均来店回数は1~2回程度に減少。事前にインターネット上にある口コミ情報や公式サイトのデータなどをチェックして最後の確認だけを販売店で行なうスタイルが主流になっているという。

 一方で「もっと気軽にクルマについて相談したい」「もっと気軽にクルマを見てみたい」といった潜在ニーズがあり、若年層では新しいテクノロジーには興味があってレースゲームなどはプレイしているものの、実際にクルマを手に入れるまでには至らないケースもあるという。これに加え、販売店に行ってみたいとは思っていても、平日に仕事が終わってからでは販売店が閉まっており、週末になってもほかの用事があって行く時間を取れないなど、「気軽にクルマを見たり、相談する空間やサービスがまだ存在していない」ことから、メタバースがこういった潜在ニーズの受け皿になる新たなタッチポイントになるのではないかとの期待から実証実験が行なわれることになった。

「われわれとしては、『お店に来てもらわなきゃダメ』『オンラインでしかクルマが買えない』といった制約はなしにして、お客さまが好きな形でクルマを買うことができる、気軽にクルマを見てもらうことができる、そんな空間を提供していきたいと考えています」と山口氏は述べている。

「Unreal Engine 5」で生み出された実車さながらの3D車両でじっくりと内外装をチェックできる
オープンスペースではバーチャルスタッフやほかの来場者とコミュニケーションを取ることができ、他人には知られたくない支払方法などの情報をやり取りするパーソナルルームも用意されている
メタバース空間ながら都内在住者なら電子契約で購入まで完結可能。今回の趣旨からは少し離れてしまうが、エクストレイルやサクラ以外の車種でも日産東京販売で取り扱う車種ならニッサン ハイプ ラボで購入契約できる
日産はこれまでも、デザイン領域や生産現場でVRやMRといった先進技術を活用してきた
サクラの発表でも利用したメタバースをユーザーとの新たなタッチポイント創出に活用する
ニッサン ハイプ ラボはweb3のテクノロジーと連携。「NFT」や「Defi」、リアルイベントと連動して、仮想店舗のショールームだけでなく、ユーザー同士のコミュニティなどにも広げていきたいと山口氏は語った