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送迎用バスの置き去り防止を支援するパイオニア「NP1」特別仕様モデル、その必要性を考える

NP1特別仕様の実証実験で使用される園児送迎バスと、開発陣であるパイオニア NP1事業本部 プロジェクト推進グループ 商品企画課のメンバー

 近年、幼稚園、保育園などの送迎バス車内に子どもが取り残さたことで痛ましい結果になってしまう「置き去り事故」がニュースで目立つ。統計によるとこのような事故の報告は増加傾向にあり、直近の1年間では、調査した267名の送迎バスの乗務員のうち3名が車内置き去りの経験があるという驚きのデータも出ている。

 こうしたことが起こってしまう理由はさまざまあるが、調査した乗務員の半数からは置き去りが発生する理由の1つとして「人手不足」があることも報告されている。こうした状況に対し、政府では2022年12月20日に「送迎バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」を策定した。

 内容は送迎バスを運行する際は乗務員が子どもの所在を点呼等で確認することに加え、全国で4万台以上あるとされる幼稚園、保育園などの送迎バスに対して「安全装置の装備を義務とする」というものだ。そしてこの決まりは年末の策定からわずか4か月後の2023年4月1日から実施されている。

 ちなみに義務化までが短期間であるのは「事故が発生しやすい夏前から対策をするべき」という考えのもとのことで、幼稚園、保育園側からも早期の導入を希望する声が多いという。それほどに重要視されているのが、車内への置き去りを防ぐための安全装置の装備を義務化することである。

車内置き去り防止装置が装着された川越幼稚園の送迎バス。装置の装着は全国4万台以上走っている幼稚園、認定こども園、保育所、特別支援学校などの送迎バスが対象となるが、ガイドライン策定から義務化まで短期間であったことから、装置設置完了までには1年間の経過措置が設けられている

車内置き去り防止安全装置「NP1特別仕様」とは?

「送迎バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」を実行するための機器は複数の企業から発売されているが、今回はパイオニアがリリースするAI搭載通信型オールインワン車載器「NP1」をベースとした、車内置き去り防止安全装置「NP1」特別仕様モデルを紹介する。

 車内置き去り防止安全装置「NP1特別仕様」モデル(内閣府認定/補助対象商品 認定番号 C-006)は、一般向けのNP1から音声によるカーナビゲーションや会話機能、周辺状況のお知らせといった機能を省いた仕様で、代わりに園児の置き去りを防ぐための「降車時確認機能」と車内カメラと集音マイクを使った「自動検知機能」を装備しているのが特徴。

 製品はNP1特別仕様本体、バッテリケーブル、社外警告用ホーン、安全確認ボタン、みまもりNP1アプリ、通知方法説明シールで構成。価格は12V電源/24V電源用ともに12万9800円で、この価格には1年分の通信サービス利用料が含まれている。2年目以降の通信サービス利用料は年額で1万5840円だ。

車内置き去り防止安全装置「NP1」特別仕様モデル(内閣府認定/補助対象商品 認定番号 C-006)。12V電源/24V電源用の価格は12万9800円。外観は一般向けのNP1と違いはない

 なお、NP1特別仕様モデルは取り付け不備による作動不良があってはならない機器なので、取り付けの確実さも重要なポイント。そこで取り付け作業はパイオニアの指定業者が行なう出張取付となり、担当業者はパイオニアから案内される。取り付け費用は車種ごとに異なるが、パイオニアでは本体代などを含め国から支給される補助金の上限17万5000円を超えない範囲を予定しているとのこと。

NP1特別仕様モデルには専用アプリ「みまもりNP1アプリ」が用意される。このアプリで置き去り防止安全装置が作動するまでの時間を設定できる。写真左が一般向けのNP1用「My NP1」アプリ、右側が「みまもりNP1アプリ」

 NP1特別仕様の取り付け想定車種は、中型バスではいすゞ自動車「JOURNEY」、日産自動車「シビリアン」、三菱ふそうトラック・バス「ローザ」、トヨタ自動車「コースター」、日野自動車「リエッセII」。小型バスではトヨタ「ハイエース」、日産「キャラバン」となっている。

 なお、上記車種以外でも常時電源及びアクセサリー電源、グランドの取得可能な12V/24Vの車両であること。フロントウィンドウにNP1特別仕様モデルの取り付けスペースがあること。そして原則として全長が7m以内であれば装着可能とのことだ。

 つぎにNP1特別仕様が持つ「降車時確認機能」と「自動検知機能」の紹介をしよう。まず降車時確認機能だが、これは乗務員が運行後に車内を歩いて点検したあと、車内後部に取り付けられた安全確認ボタンを押すことで「置き去りがないかの作業」を完了したことをNP1特別仕様に伝えるためのものだ。

 ここでもし安全確認ボタンが押されない場合は、設定した時間後(5分or10分)に、NP1特別仕様モデルよりアナウンスが流れ、事前に登録された最大5名の携帯電話番号に向けて車内の確認が終わっていないことをSMSで通知する。さらに車体に取り付けたホーンを継続して鳴らし、置き去りの可能性があることを周囲に知らせるという設定になっている。

 そして発報を止めるにはバスに戻って安全確認ボタンを押すか、エンジンを始動するかのいずれのアクションが必要なので、もし未確認のままバスから離れてしまった場合は、発報を止めると同時にバス車内の確認が再度行なえるようになっている。

 しかし、送迎バスは給油や車内清掃などで一時的にエンジンを止めることもあるので、そのときに意図しない発報をしないよう機能をいったん止める対策は必要だ。そこでNP1特別仕様モデルでは、本体ボタン操作にて「1回だけ」SMS発信や発報といった動作させない機能があり、これを使うことで給油等のときにいちいち車内後方まで行ってボタン操作をする手間がかからないようになっている。

車内の最後部に取り付けられた安全確認ボタン。NP1特別仕様モデルは送迎バスのエンジン停止後に乗務員が安全確認ボタンを押すまでブザーや音声で乗務員に警告する。安全確認ボタンは室内の高い位置に付けることで、置き去りにされた子どもが誤って操作できないようにしている
一定時間、ボタンが押されなかった場合はホーンが発報して周囲に置き去りの可能性があることを知らせる。写真の送迎バスではフロントバンパー裏にシステム用のホーンが装着されていた
本体右側面のあるボタンを押すことで置き去り防止安全装置を「1回だけ」動作しないよう設定できるので、給油時などで短時間、エンジンを止める際はこれを使う。15分後には通常のモードに戻るので、さらに停車を続ける場合、今度は設定された時間内に安全確認ボタンを押して機能を止めることが必要

 安全確認ボタンの操作は車内を見まわる点検作業後に行なうものなので、この時点で乗務員は車内の隅々まで見ている。それだけに安全確認ボタンを設置するだけでも置き去りが発生する確率はグンと下がるのだが、NP1特別仕様モデルでは置き去り防止にさらに万全を期すため、車内カメラと集音マイクを使って置き去りを検知したら、情報を送迎バスの管理者(最大5名)の携帯電話へSNS通知すると同時に、車両に取り付けたホーンを発報することで周囲に異常を知らせる「自動検知機能」も備えた。

 機能に使われるのはNP1特別仕様モデルが搭載する室内/後方カメラでスペックは約200万画素、1920×1080P(フルHD画質)、フレームレートは16.0fps(LED信号が消灯で記録されないよう調整)、画角は水平130°/垂直65°/対角159°という高性能なものであるが、それでも場合によっては車内の映像から子どもの姿を見分けるのが難しいこともある。そこでNP1特別仕様モデルでは判別しにくい映像であっても、AIでの画像解析を行なうことで映っているのが「子どもかどうか」を見分けている。

 そして集音マイクの方はと言うと、マイクが拾った音をパイオニアの音声解析技術で調べ、それが子どもの泣き声かそうでないかを判断している。

 なお、NP1特別仕様モデルのプログラムにアップデートがあった際は、サーバーとの通信を通じて自動的にアップデートされるので、取り付け後も最新の状態が維持できるのだ。

NP1の車内/後方用カメラ。人影らしいものを検知した際は、AI画像解析により子どもかどうかを判定する。なお、ガイドラインでは車内置き去り防止安全装置に関して「降車時確認機能」と「自動検知機能」はいずれか片方でもいいとなっているが、NP1特別仕様モデルでは万全を期す意味で両方の機能を持たせている
NP1の代表的な機能である「マイカーウオッチ」は特別仕様でも用意される。この機能を使うと送迎中のバス車内の映像が園側管理者のスマートフォンで見ることができる。また、走行している場所がマップ上に表示されるので送迎バスの場所の確認も可能だ

川越幼稚園の園長さんに置き去り防止安全装置の必要性について聞く

 NP1特別仕様モデルは4月下旬から順次出荷を開始するが、それに際して車内での研究や実験に加えて、実際の園児送迎バスでの実証実験も行なっていた。

 実証実験では装置の取り付けや操作の検証、実際の送迎バス内での子どもの動きのデータ収集、そして車外のノイズと子どもの声を聞き分ける実験などが行なわれていて、発売後の現在もアップデートしていくために実験を続けているという。

実証実験は埼玉県川越市にある「学校法人えのもと学園 川越幼稚園」が実際に園児の送迎に使用している送迎バス(日産シビリアン)にて行なわれている

 今回はNP1特別仕様モデルの実証実験に協力している「学校法人えのもと学園 川越幼稚園(以下、川越幼稚園)」の榎本円園長に、実証実験に協力することになった経緯やNP1特別仕様モデルの感想を聞いたのでその内容を紹介しよう。

学校法人えのもと学園 川越幼稚園の榎本円園長

 まず、川越幼稚園でNP1特別仕様の実証実験を行なった件についてだが、パイオニアは川越に工場を持っているので、実証実験を行なうにあたっては地元の施設が希望だった。そこで川越で明治時代からある名門の川越幼稚園に協力を依頼したという。

 置き去り事故が報じられたことについて榎本園長に感想を伺うと、「大半の幼稚園さんは園児が降りたあとのバス内の点検は間違いなく行なっていると思います。これは当たり前のことでもありますので、置き去り事故に関しては起きたことが驚きでもあります。ただ、事件は普段と違う方がバスを運転していたというケースで起こったようです。そこで感じたのが、イレギュラーなことがあったときにどう対応していけばいいのかを、日ごろから教職員に周知させていく必要があるということでした。だから事故の報道後は教職員と改めて話し合い、当園としての送迎の仕方の見直しも行ないましたが、あの事故の後はどの幼稚園も見直しをされたと思いますよ」と語ってくれた。

榎本園長は普段の確認フローの徹底だけでなく、園側の体制にイレギュラーが起きたときでもそれに対応できるよう整えておくことが、置き去り事故を起こさないために大切なことだと語ってくれた

 続いて川越幼稚園のバス送迎で行なっている確認フローを聞いてみた。榎本園長からは「当園におきましては朝、園児がバスに乗り込んだときには添乗した教員が1人ずつ名前を呼んで点呼を行ないます。そこで名簿にある園児が乗ったか確認したあとに、もう一度人数を数えてそれをドライバーに報告します。そして川越幼稚園に到着したら、子どもを降ろす前にドライバーは私(榎本園長)に人数を報告します。そのあと園児が降車しますが、降車した園児については私が人数を確認します。さらに添乗した教員はバスの後方座席から前に向けて確認していますが、その際は落とし物、忘れ物がないか、細かい部分まで確認しています。さらに今は車内の消毒もするので車内は繰り返し見ることになります。そして最後はドライバーも車内の確認をしています」との回答が聞けた。

 ただ、この内容を聞く限り置き去りを防ぐ対策は完璧だ。ゆえに安全装置を導入する必要性はないのでは? と思うところもあったが、榎本園長は続けて「実は当初、私たちも車内置き去り防止安全装置について必要性は感じませんでした。事故が起きたときにも保護者の皆さまから“川越幼稚園で同じことが起こるとは考えもしなかった”という言葉をいただきました。でも、それこそ国を挙げて対策を講じている現状です。しっかりやっていても何が起こるか分からないことは現実にあります。それに園児に接するのは経験豊富な教員だけでなく新しい教員もいます。もちろん、新人の教育はしていきますし、教員同士がカバーし合う環境もできています。でも、それでも“万が一のことなんて起こらない”とは言い切れませんので、サポート役としてそういった機械があることは意味のあることだと思います」と話してくれた。

教職員による徹底的な確認体制を敷いているが、それでも絶対に事故が起こらないとは言いきれない。園の体制に自信があったとしてもサポート役のNP1特別仕様モデルを導入することは大いに意味があるとのこと

 もうじき、暑さが厳しくなる季節がやってくる。今年はNP1特別仕様モデルをはじめとする「車内置き去り防止安全装置」の導入が急ピッチで進むはずなので、近年続いた痛ましい事故のニュースが出ないことを期待したい。