レビュー

【ナビレビュー】パイオニアの“会話するドライビングパートナー”「NP1」、まどマギ声優 悠木碧さん仕様での道案内を体験してみた

2022年9月29日 アップデート

パイオニアが発売するAI搭載通信型オールインワン車載器の「NP1」に追加されたコエ替えという新機能を紹介する

 本稿は次世代通信型ドライブレコーダー、スマート音声ナビ、Wi-Fiスポット機能など、多彩な機能を搭載したパイオニアのドライビングパートナー「NP1」が新たに実装する機能の紹介記事となるが、実は筆者はカーナビ関連に詳しいわけではない。ところがそんな筆者にCar Watch編集部から「NP1の記事を書いてほしい」という依頼が来たのだった。

 このことについて「なぜ自分が?」と思ったが話を聞いて納得。その理由は後述するが、とにかく筆者なりにNP1の紹介をさせていただこう。

NP1の外観。こちらは正面(フロントウィンドウ向き側)。本体サイズは118×36×93mm(幅×高さ×奥行き)。本体重量は300g。正面カメラは約200万画素/1920×1080P(フルHD画質)。フレームレートは27.0fpsでLED信号機対応
マイク、スピーカー、車内、後方用のカメラが付くリア側。車内、後方カメラは約200万画素/1920×1080P(フルHD画質)フレームレートは16.0fpsでLED信号機対応

 NP1は2022年3月に発売されて以来、細かなチューニングを何度も重ねて機能を改善しつつ、5月に実施されたアップデートでは、Amazonが提供する音声アシスタント「Alexa」に対応するようになった。

 そして9月29日に実施されるアップデートでは、ユーザーからの要望が多かった声の変更機能が追加された。この機能を「コエ替え」といい、発話がキレイなだけでなく、人が話すような声の抑揚までこだわって調律された高品質な声が納められているが、そのバリエーションとして人気の女性声優である「悠木碧さんの声」があるというのだ。さらに同日より、NP1だけの悠木碧さんスペシャルメッセージの配信も始まるという……。なるほど、依頼があった理由はこれか。

9月29日のアップデートで人気声優の悠木碧さんの声で案内してくれるようになる
さらにNP1用に特別に収録されたメッセージの配信もあるという。メッセージを聞くにはNP1を購入してクルマに取り付け、専用アプリ「My NP1」をスマホにダウンロードすればOK

 ちなみに編集部から「悠木碧さんという声優さん知ってますか? 魔法少女まどか☆マギカの人のようですが」と言われたが、まあ知らないわけがない。それどころか「まどマギ」は大好きな作品である。

 TVアニメはリアルタイムで追っていたし、劇場版作品も全作、何回も見に行った。円盤だって買っている。そして作中のキャラクターでは悠木碧さんが演じる鹿目まどかが一番で、さらに悠木碧さんのことは「ヨウジョセンキノターニャノエンギモスゴイシ、イカイセカイオジサンノメイベルモイイヨネ、キメラプロジェクトデハベツノサイノウヲミセテイルシ……」と説明が早口になってしまう程度には知っている。

 ということで、NP1の新機能「コエ替え」についてのレポートだが、その前にNP1についても触れておこう。

 NP1は音声だけで操作・案内する「スマート音声ナビ」、映像をクラウド上にも保存する「クラウドドライブレコーダー」、車室内をオンライン化する「クルマWi-Fi」、新機能の追加やアップデートにより最新のカーライフを提供する「もっとカーライフ++」に加え、スマートフォン専用アプリケーション「My NP1」を利用することで利便性向上などが図れるアイテムだ。

 なお、Car WatchではNP1のレポートを何度か掲載しているので、機能や使い方の詳細については過去記事を見ていただきたい。

声だけのルート案内を一般道で体験

 NP1は発話でルート検索などの操作を行なう。そのため、まずNP1に話しかけることが必要だが、そのときの必須ワードが「エヌピーワン(NP1)」である。

 つまり東京駅に行きたければ「NP1、東京駅に行きたい」と言えばいいのだが、この「最初のワードでなにを言うか」は筆者的にけっこう大事。人前で口にするのは照れるな、みたいなワードだと困るのだ。

 その点、NP1だと「エヌピーワン」でいいので話しかけるのに抵抗がない。このことを開発側が意図して決めたものかは未確認だが、カーナビという幅広いユーザー層が使うもので、なおかつ音声でのやり取りを行なうモデルであれば「話しかけやすさ」も機能の1つだと思う。そう考えるとNP1はニジュウマルである。

 前置きが長くなったが、いよいよルート案内の体験だ。ここでさっそく悠木碧さんの声に設定してもよかったのだが、楽しみはあとに取っておくということで、まずは初期設定の声でルート案内をしてもらった。

 NP1に初期設定される声は2種類。「いつものコエ(女性)」と緊急時に自動で切り替わる「安心サポートのコエ(男性)」であるが、これらはいわゆる「機械の声」だ。キチンと調律されていてテンポもよく、音声案内としては文句なしで聞き取りやすい。だけど「声」としての魅力があるかというとそうではない。「声で対応」がウリのNP1ということを考えるともの足りない気もするのであった。

「NP1」という呼びかけは発売当初、認識度が少し低いところもあったようだ。でもNP1は声の認識度に対して日々チューニングを進めているので現在のバージョンでは大幅に向上。車内が騒がしくても「NP1」をキチンと聞き取るようになっている。なお、起動させていれば仕様変更は自動で行なわれるので、初期に購入したモデルでも認識度は向上している

 次にルート案内の仕方だが、声での案内にしろ地図表示にしろ、ルート案内のとき「曲がるポイント」の指示をどこで出すかが重要だと思う。

 モニターがあるナビでは案内の主軸は地図となり、自車位置や曲がるポイントは基本的に地図で見るものなので、音声による案内は「もうじきですよ」といったタイミングで行なわれる感じがしていた。そのため、声だけを頼りにしていると状況によっては案内どおりに走れないこともあるだろう。

 対してNP1は本体に地図表示機能がないので、そのぶん案内開始は早めに始まる。そして案内の仕方も独特だった。NP1のルート案内は広域の視点では「1km先を左です」などと言うが、曲がるポイントが近づいてくると距離ではなく「信号」の数で距離感を伝えるようになる。具体的には「3つ目の信号を左です」という案内だ。

 この「信号」というワードだが、例えば誰かにクルマで送ってもらうときに「次の信号を右」みたいな案内をするのではないだろうか。そう、信号という分かりやすい目印は案内にはうってつけなのである。

 そこでNP1も街中の案内では「信号」を活用する。なお、ここで「次の信号」ではなく「3つ先の信号」からにしている理由は、案内に従うための操作(車線変更や他の交通との間合いの取り方)が慌てずにできるよう余裕を持たせているためである。実際、「3つ先の信号」から教えてくれると曲がるポイントまでの時間的余裕は十分だったし、案内が早すぎるという印象もなかった。

 ちなみに曲がるポイントまで近い場合は「次の信号」という案内もするし、信号ではなく「突き当たりを右です」とか「一時停止を左です」といった案内もあって、教え方は実に人っぽいのだ。

 そして曲がるポイントが近づくにつれて繰り返して案内してくれるので、同乗者との会話や外音で案内が聞き取りにくかったときでも「NP1、もう1回」と言えばすぐに言い直してくれるので、聞き漏らしによるミスコースはほぼないと思う。ちなみに信号のない高速道路では分岐や出口まではクルマの走行している位置からの残り距離を案内。案内開始の指針は700mから1kmということだ。

 また、ルート案内で高速道路が選ばれていたときに「NP1、高速を降りたい」と呼びかけると下道のルートに変更してくれる。反対に下道を指示されたけれど、高速道路がいいときは「NP1、高速を使って」と言えばいい。

 このように現状でも使いにくさは感じなかったが、パイオニアの担当者によると将来的にはユーザーごとに適切な案内タイミングが設定されるようになるという。そのためのデータ収集方法はアプリの利用や発話などを含めて検討中というが、実装されるようになればNP1はより使いやすいものになるだろう。

ナビによっては曲がるポイントを伝えるワードとして「残りの距離」を使うものもあるが、普段の生活で「距離」を明確に意識することはないだけに「あと200m」と言われても「思い浮かべる距離」と「実際の距離」とは誤差が大きそうなので、音声のみの案内であれば距離より目印の方が断然分かりやすい
NP1専用アプリのMy NP1を使用するとアプリ上で通常のナビ同様「地図が表示」できるので、地図があった方がいい場合は併用できる。クルマのモニターがディスプレイオーディオであれば大きな画面で見ることも可能だ

いよいよコエ替えで悠木碧さんに道案内してもらう

 いよいよ案内ボイスの切り替えだ。NP1が使っているコエ替えの機能は「コエステーション」という音声合成サービスを使ったものとなる。この技術では声の元になる音声データを必要分サンプリングすることで元の声をデータ化し、さまざまなワードを話させることを可能としている。

 まずは初期設定の女性の「ハッキリした声」からコエ替えで女性の「明るい声」に切り替えた。初期設定の声も案内用ということであれば不満はないものだったが、コエ替え後の女性の「明るい声」は声の細かい抑揚も入ったより「人の発話」に近いものになっている。聞き取りやすいのはもちろんのこと、感覚的には案内が上質になった印象を受けた。

コエ替えの設定はスマホアプリで操作する。ホーム画面に並ぶアイコンから「コエ替え」を選んでタップ(アプリ画面はいずれも開発中のもの)
NP1では「いつものコエ(女性)」と緊急時に自動で切り替わる「安心サポートのコエ(男性)」がデフォルトとして設定されているので、アプリ画面で「悠木碧」を選択すると「いつものコエ」が悠木碧さんのコエに切り替わる
コエ替え機能には6つのパターンのコエが用意されている。内容は女性1(はっきりした声)、女性2(明るい声)、男性1(はっきりした声)、男性2(落ち着いた声)、そして悠木碧さん1(かわいらしい声)、悠木碧さん2(やさしい声)である

「悠木碧のコエ」に切り替えて試したのは「かわいらしい声」と「やさしい声」の両方だが、ここで聴けるのは悠木碧さんが演じたアニメキャラクターの声ではなくて、悠木碧さんが普段発する声である(かわいらしい、やさしいなどの雰囲気は作っている)。

 これはちょっとややこしいところで、最初はキャラボイスが頭にあったので聞いたときは「これは悠木碧さんか?」と感じたのも事実。でも、NP1のコエ替えで聴けるのはキャラボイスではないことに気がつくと、聞こえてくるのはラジオのパーソナリティをしているときの声とも思えてくる。「悠木碧さんに案内してもらっている」という実感がわいてくるのだった。

 ただ、1つ欲を言えば、コエ替えが作る悠木碧さんの話し方の印象は「ていねいすぎる」気がした。悠木碧さんというともう少し元気というか、身近な話し方をするイメージを筆者は持っていた。そこで「悠木碧3(元気な声)」みたいな設定があるといいと感じた。そうなるとNP1を使うのがさらに楽しくなりそうだ。

 ちなみに声優さんは大勢いるのだが、その中から悠木碧さんを起用した理由も教えてもらったので紹介しよう。

 パイオニアとして、コエ替えという合成音声はユーザーに親しみを持ってもらうことを狙った機能なので、発する声は実在の人物やキャラクターである方が望ましかった。そうして考えていくと、合成音声を作るうえで必要な発話スキルと声のバリエーションを持っている声優さんが適任となった。

 そこで今度は声優さんの中から候補を探した結果、声優界でトップクラスの確かな発話スキルを持ち、発話のバリエーションも豊富、さらに幅広いファン層を持っていて認知度も高い悠木碧さんが選ばれたのだった。

 確かに「声がかわいい」という声優さんは大勢いるが、声の感じや話し方のバリエーションが必要となると候補はグッと減る。そこに認知度などを加味していくと、悠木碧さんにたどり着くのは納得できることだと思う。

 なお、このNP1の依頼を悠木碧さん側へ伝えたところ、悠木碧さんはとても興味を持ってくれたという。そのため収録を含めて作業はスムーズに進んだそうだ。

パイオニア「NP1」悠木碧さんバージョン(3分49秒)

NP1は使い続けるほど新しくなる!?

 ただ、せっかく悠木碧さんの声が使えるのなら、ルート案内だけでなく会話形式などでの利用ができたら夢が広がるのでは! と思った。そこでパイオニアの担当者にその旨を伝えてみたところ、ひょっとしたらそういった発展が「あるかもしれない」という返答だった。

 NP1は起動中にWi-Fi経由でクラウドと通信をしているので、細かなチューニングやアップデートを自動で行なっている。大きなアップデートは年に4回実施されるそうだ。

 そして、そのチューニングやアップデートの参考にするため、パイオニアの開発陣はNP1ユーザーからのコメントを逐次チェックすることで機能の改善を進めていた。前記したNP1の呼びかけの認識度の向上も、そうしたユーザーのコメントに応えたものだ。

 このようにユーザーの声を細かく拾っていく製品だけに「悠木碧さんの声と会話をしてみたい」という要望が増えてくれば、そんなすてきな機能を開発陣が作り上げてくれるかも、なのだ。

 とにかく、NP1開発チームはユーザーの声を集めているのでNP1ユーザーはTwitterなどに感想や要望を挙げた方がいいと言える。

NP1は年4回のアップデートのほか、開発チームによる細かいチューニングや修正が頻繁に行なわれているので、使い勝手のよさは日々向上している。こうした変更は通信によって自動的に実施されるので「買ったあとでもどんどん新しくなる」というこれまでなかった製品だ

 最後になったが、NP1の価格はパイオニアの公式オンラインショップでは「コース別」で設定されていて、通信とサービス利用料1年分付きのベーシックプランが6万5780円。そして通信とサービス利用料3年分付きのバリュープランが9万3500円となっている。通信ナビと録画データをクラウド保存できる前後ドラレコが一体のガジェットでこの設定というのもNP1の魅力の1つだと思う。

深田昌之
Photo:安田 剛