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パイオニア、矢原史朗新社長が就任会見。「名門日本企業の再建にワクワク感が募った」

「クルマの中の総合的エンタテイメントはわれわれの核であり続ける」

2020年1月23日 開催

1月1日付でパイオニア株式会社 代表取締役 兼 社長執行役員に就任した矢原史朗氏

 パイオニアは1月23日、1月1日付で代表取締役 兼 社長執行役員に就任した矢原史朗氏の就任会見を都内で開催した。同社は2018年12月にベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)による770億円の出資および現株主からの約250億円での株式買い取りによる「パイオニア再生プラン」を発表。これは今後の事業運営に必要不可欠な運転資金を確保し、加えてBPEAの経営支援を得ることでパイオニアの安定的な事業継続に対する不安を払拭し、事業運営の安定を実現するための計画で、現在経営再建を目指している。

 その中で新社長に就任した矢原氏だが、昭和61年(1986年)に伊藤忠商事に入社して自動車部門に従事したのち、平成10年(1998年)に日本GE、平成16年にGE横河メディカルシステム、平成19年(2007年)にベインキャピタルジャパンに入社。パイオニアには令和元年(2019年)12月に入社している。

 会見で経歴を紹介したのち、矢原新社長はパイオニアから入社の話が来たときの率直な感想について述べ、「パイオニアはよく知っているし、自身でオーディオなどを使ったこともあったが、最近はどうなのだろうと。正直あまりフォローしていなかったので早速ググってみたところファンドの傘下になり、ここ数年なかなか大変な状態にあったことが分かりました。それから森谷社長(前社長の森谷浩一氏)、ベアリングのメンバーと面接という形で話を聞くにつれ、いわゆる名門日本企業の再建の象徴的なケースだと認識しました。私の経歴はおそらく企業家でない日本人のビジネスマンとしては非常にユニークだと思っていまして、その中でパイオニア再建というのは私のキャリアの中では非常に大きいですし、日本、あるいは海外に与えるインパクトは大きいと思いました。チャンスをいただけて、私がチームの陣頭指揮を執れるならばとだんだんと興奮してきまして、最初は正直ポジティブな印象ではなかったですが、話を聞いていくうちにワクワク感が募って感情移入し、最終的にはお受けすることとなりました」とコメント。

 そして2019年12月にパイオニアに入社してからの印象についても触れ、1月に米ラスベガスで開催されたCES 2020に行ったことについて「私としては初めてのCESだったのですが、パイオニアや競合他社のブースを見て、聞いて、話をしてきたわけですが、もはやコンシューマ エレクトロニクス ショーではなくカー エレクトロニクス ショーに変わってきているような印象で、昔よく行っていたモーターショーがそこにあるという、近い将来のモビリティの世界が描かれているなということで非常に興奮しました」とコメント。

 また、「この1か月ちょっとですが、いくつかの拠点、あるいはお客さまへのあいさつなどを踏まえて私が感じたことは、まずはパイオニアの強みはパイオニアスピリットを持った世に新しいイノベーティブな製品を生み出していく優秀な人材であること。世の中には“ものづくり”と“モノからコトへ”という言葉がありますが、パイオニアは世に新しいものを出したいという強い思いとそれを裏付ける強い技術力があり、これまでも新しいものを生み出してきました」。

「ただ、リーマンショック以降は世界や日本の景気が低迷する中でフォーカスしていくところが残念ながら思ったとおりにいかなかったというのがここ数年の状況でした。“ものづくり”に対する思いだけでなく、何十年という歴史に支えられた技術力というのは隆々としてありますが、先ほどのCESなどを見るにつれ、世の中ではハードだけでなく“コト”へのフォーカス、それから業界を超えた新規参入がどんどん起こっており、例えば(トヨタ自動車の)豊田章男社長が『100年に一度と言われる大変革の時代』とおっしゃる自動車の大きな転換期がまさにそこにあるんだろうなと実感している中で、私としては“モノからコトへ”ではなく“モノ&コト”だと思います。というのは、モノの強みを捨ててコトに移るかと言えばそうではない。モノの高い品質や製造ノウハウなど、車内のエレクトロニクスというのは温度や湿度、ノイズなど厳しい環境の中で安全に運転して移動するということが求められていると思いますので、そういったハードのノウハウは新規参入の業界外のプレーヤーがわれわれを凌駕するというところにはいかないと思っています。パイオニアとしては“ものづくり”の強みを活かし、いかに“コト”を乗っけていけるかだと思います」。

「“コト”には色々ありますが、私は社会の課題に対して解決するソリューションを作り出して、具体的に提供していくことが企業の使命だと思います。まさにパイオニアが立ち向かっているのはそこでして、例えば日本市場における社会の課題というのはまずもって人口減少です。それからエネルギーの課題。クルマを背負う有したいという若者が減少しているのも人口減少やデジタル化の波の1つだと思いますし、物流の面もドライバーが減っています。宅配便の再配達を減らすというのは、ドライバーを含めた人口減少の解決にもなりますし、物流のルーティンを最適化するのもガソリンの燃焼を減少させ、ひいてはエネルギーの課題の解決にもなる。インパクトはかなり大きいと思います」。

「私たちパイオニアはカーナビという“モノ”だけでなく、実際にそういった問題を解決できるサービス、つまり地図情報であるとか自動運転を支える3D-LiDARなど、“コト”の技術を持っています。“モノ&コト”、これをセットで1つは自動車メーカー向け、1つは市販向け。あるいは自動車以外の自動車保険など、地図のアプリケーションというのはたくさんあるのでそういったところに向けたソリューションをどんどん開発して提供していくことで世界が広がっていく。非常に楽しみに感じています」と、今後パイオニアが取り組む内容についても触れられた。

 そして最後に「会社のリソースは限られています。自社だけでなんとかしようという考えはあまり持っていません。まさにエコシステムの中でわれわれの価値をお客さまに早く提供していきたい。そのためには自社だけでなくパートナーシップ、アライアンスが非常に重要だと思っています。CESでもパートナーになり得る人たちと会って話をできるいい機会だったのですが、現在全国のさまざまな企業とミーティングをしております。エコシステムを一緒に作るパートナーシップを重視して、スピードを上げてやっていきたいと思います」。

「それをやるには社内を変えていく必要があると思っていまして、1つはここ10年間の業績があまり振るわなかった理由には外的・内的要因があったかと思います。(社長に就任して)まだ1か月ちょっとではありますが、役員と話をしてスピードを上げて色々なものを出していくには決断のスピードも必要。必ずしも今までは早くなかったこともあるので、まずはガバナンスと風通しのよいコミュニケーションを作る。まずはこの2つをやろうと役員と話をしました。私の座右の銘は『Control your own destiny or someone else will.』という英語なのですが、1人ひとりが当事者意識を持って行動する。これを遅らすとだんだんやれることの選択肢が狭まり、他人にコントロールされてしまうという意味なのですが、これを1つの信念としてやってきています。パイオニアにおいても当てはまると思っていまして、私はもちろん、役員、職員などあらゆる階層の社員1人ひとりに当事者意識を持ってもらい、そうすることで必然的にスピードが早まると思っています。それを可能にするための組織を作っていくということをやりつつあります」と、組織改革も並行して行なっていることを報告した。

 以下、就任会見後に行なわれた質疑応答の内容を抜粋して紹介する。

質疑応答に応じる矢原新社長

――LiDARは価格的に高く普及が進んでいないが、その解決の方法は見えているのか。またパイオニアとしてこれまでコンシューマ製品を多く出してきたが、ソリューション事業に舵を切っていくように聞こえたがそのあたりはどうお考えか。

矢原社長:LiDARはおっしゃるとおり、連続してCESに行っている人間に聞くとだんだん出展社のブースが増えている一方、自動車のOEMやティア1の人たちと話をしても、自動運転のレベル3の実現には法的な整備を含めて少し時間がかかるだろうと。基礎技術などを高めていく、よりコンパクトにしていく、コストを下げるというのを個々の企業がやっている中で、1社単独では非常に時間がかかると思っています。ですからわれわれもよいパートナーを見つけつつ、それを加速して実現を早めていきたいと思います。

 ソリューションの話については、先ほど“モノ&コト”と言いましたが、カーナビやオーディオといったハードについて力を緩めるということでは全くございません。例えば2019年に発表させていただきましたが、NTTドコモさんと一緒になって車内向けインターネット接続サービス「docomo in Car Connect」をスタートしましたが、これはまさにクルマの中におけるエンタテイメント、あるいはコミュニケーションをリビングルームにいるかのような環境で色々楽しめる。お互いが融合して新しい価値を生み出していくと考えています。

――昨年の上場廃止を発表するタイミングに、カーナビの占める割合が大きかったですが、これを脱却できなかったから財務的な苦境に陥ったのではないかと思うのですが、カーナビ事業を今後どうしていくか教えてください。また、2019年に3000人規模のリストラを発表されていて、そのときは第1弾とおっしゃっていたが、構造改革の部分で何か施策を打っていく手だてがあるかどうか教えてください。

矢原社長:まず1点目のカーナビですが、現時点で当社の連結の売上を占めるカーナビの比率は高いです。ただ、原因として「カーナビのせいで」というのはあれは開発なのです。想定外の決断をするというのはしないので、そこはワンタイムだと言えます。カーナビをどうするかですが、スマホに置き換わるですとかディスプレイオーディオが今後浸透していくといった、枠として変化していくと思いますが、その中のコンテンツ、地図もそうですがナビだけを見せる装置というのはないですから、クルマの中の総合的コミュニケーション、エンタテイメントというのはわれわれの核であり続けるということです。

 2つ目の構造改革ですが、1年前に発表した構造改革というのは計画通りに進んでいます。今後についてですが、2度と構造改革する必要ありませんと言うのは簡単で分かりやすいかもしれませんが、優れた“モノ&コト”、とくにコトに集中していきたいということからすると、ポートフォリオの再建というのは非常に重要になってきます。これはまだ途上です。パイオニアではモビリティのコアでない事業もたくさん持っておりますので、そういった点においてそれを構造改革と言うのであればその辺の変化は途上であります。