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日立アステモ、自動車・二輪車部品など定期試験における不適切行為について会見 約40年にわたり行為が続いていたケースも

2023年5月19日 発表

日立Astemo株式会社 プレジデント&CEOのブリス・コッホ氏

 日立Astemoは5月19日、同社が製造する自動車・二輪車部品、鉄道車両用部品、産業用部品など22製品において、定期試験などにおける不適切行為が15拠点で行なわれていたことを公表した。

 5月19日15時から行なわれた会見で、日立Astemoのブリス・コッホプレジデント&CEOは「不適切行為により、お客さまをはじめとする関係各位に多大なご迷惑、ご心配をおかけし、深くお詫び申し上げる」と陳謝。「最高水準の信頼とコンプライアンスを維持できなかった。調査結果を真摯に受け止め、今回明らかになった不適切な行為や不十分な監督について深く反省し、再発防止に向けて強固なコンプライアンス文化を醸成し、定着させることを約束する」と述べた。

 同社では、2021年12月22日に山梨県南アルプス市の山梨工場と、福島県伊達郡桑折町の福島工場で製造するブレーキ構成部品およびサスペンション構成部品の定期試験などにおいて不適切行為があったことを公表しており、その後、特別調査委員会を設置し、事実確認と原因究明調査を実施するとともに、同社品質統括本部により国内外の全製造拠点を対象に内部調査を独自に行なってきた。

 その結果、山梨工場および福島工場で一部の自動車部品の試験や仕様、報告において公表したもの以外でも不適切な行為があったほか、両工場を含む国内11工場と、米国、メキシコ、タイ、中国の4工場においても同様に不適切な検査、報告行為などが行なわれていたことが分かった。日立Astemoは、日立オートモティブシステムズとホンダ系列のケーヒン、ショーワ、日信工業が統合した企業だが、不適切行為は旧4社にまたがって行なわれていたという。

 不適切行為の対象となった部品を納入した顧客数は69社にのぼり、自動車、鉄道、建設機器、産業用機器などの企業が中心。3分の2から4分の3が日系企業だという。不適切行為は、定期試験に関わる不具合件数が5万8899件、事象発生の対象期間内に生産された部品が約2億11万本(複数の事象が1つの部品で発生している場合は重複している)となり、1983年1月~2023年4月まで約40年にわたり、不適切な行為が続いていたケースもあったという。

調査結果サマリー

 具体的にはe-PKB(電動パワーブレーキ)やブレーキキャリパー、マスターシリンダー、ブースターでは、不具合原因や対象件数の虚偽報告、グルーピングによる定期試験の不適切行為、顧客承認なしにメッキラインの変更を実施したり、初品検査N数不足による虚偽報告を行なったりする例などがあった。

 また、リアショックアブソーバー、ステアリングダンパー、フロントストラット、セミアクティブショックアブソーバーでは、顧客承認なしにバルブ仕様の変更を実施していたほか、シリンダーの厚みの変更に関する不適切行為や、油量に関する不適切行為、カチオン塗装の厚みに関する不適切行為、出荷検査における減衰力規格要求値に対する適合出力の許容範囲の変更などがあった。

 さらに、アンチ・ブレーキロック・システム(ABS)では、ライン立ち上げの際の製品評価試験時に、顧客の承認なしに最低キャリパー圧力性能試験における試験方法の変更を行なったり、試験結果の虚偽報告を行なったりしたほか、電動パワーステアリング開発時の試験不合格結果を顧客へ未報告だった例もあった。ピニオンマニュアルステアリングやピニオンパワーステアリング、パワーステアリングポンプ、パワーステアリングギヤでは、定期試験の未実施および虚偽報告など、キャブレターではメッキ被膜の鉛含有量の基準値逸脱行為など、ノックセンサでは耐久試験における規格外れ品の出荷、プロペラシャフトでは顧客承認なしに加振耐久テストの規格値を変更などがあった。

 一方、産業用ダンパーでは減衰力規格外れの製品の出荷など、鉄道用ダンパーではベースジョイント材の不適など、鉄道用連結棒では継手部寸法不適などがあった。

不適切行為のあった22製品
2021年以降に新たに確認された不適切行為

 なお、現時点までに不適切行為が確認された製品については社内検査を実施し、安全性および性能には問題はないと判断しているという。「内部調査とともに、詳細な安全性解析を実施した。不適切行為に該当するすべての製品は必要な性能の範囲内で、正常に機能し、安全性を低下させる証拠はないと判断した」と述べた。

 また、現在までに判明しているすべての不適切行為を顧客(納入先)に開示しており、安全上の問題は確認されていないことに加えて、道路運送車両法などの法令違反として認識しているものはないとした。顧客に対しての金銭的な保証は行なわないという。

 調査を実施した特別調査委員会は、3人の独立的立場の社外弁護士により構成。2021年9月~2022年6月に、山梨工場および福島工場を中心とした調査を実施し、約200人の役員や従業員(退職者を含む)へのインタビュー、約100人の関係者および関係部署の電子情報に関するデジタルフォレンジック調査、国内47拠点の約1万2000人を対象にしたアンケート、海外22拠点を含むホットライン調査を実施した。

 また、同社独自調査は同社品質統括本部が2022年7月~9月の期間に実施し、特別調査委員会の調査報告において未完となっていた残件調査の完遂、特別調査委員会のアンケート調査でカバーされていなかった拠点についての補足調査などについて追加で調査。2022年9月~12月には、社外弁護士を起用した追加のグローバルサーベイを実施して、国内27拠点、海外64拠点の合計約2万人を対象にアンケート調査を行なったほか、海外3拠点でホットライン調査を実施した。2022年10月~2023年2月には.特別調査委員会による追加スクリーニング調査を実施。2022年10月~2023年5月には追加社内調査などを実施した。

不適切行為が行なわれた原因

 不適切行為が行なわれた原因として、以下の6点を挙げた。

 1つめは、経営陣の誤った姿勢に起因するコンプライアンス意識とリソース不足である。「経営陣のコンプライアンスに対する優先順位が低く、利益や納期を優先し、品質保証を軽視する誤った姿勢があった。その結果、従業員のコンプライアンス意識の不足や、人的・物的リソースの不足があった」とする。

 2つめは顧客との協議や交渉の不足だ。「現場では対応できない内容での試験や製品仕様に合意したり、トップマネジメントが先導し、顧客との間で遵守可能な範囲での合意形成を図れるように覚悟を持って交渉する努力が欠如したりといった状況にあった」という。

 また、3点目として品質保証問題に関する自浄作用の欠如を挙げ、これが不適切行為の継続につながったことを指摘。4点目にコミュニケーションや人材交流に関する問題点を挙げ、「上下間のコミュニケーション不全や、縦割り組織による部署間のコミュニケーション不足、同部署や同工場における人材の固定化による人材交流不足が不意季節行為の原因になっていた」と述べた。

 5つめは業務フローの問題点を指摘。「業務のチェック体制の形骸化、業務手順のルール化不足、不正が介在しにくいシステムが存在していないという課題があった」とした。

 最後に内部統制を含めた組織上の問題点があったことに触れ、本社の品質統括本部の関与不足、内部監査の不十分さ、内部通報制度の機能不全を挙げた。

 コッホプレジデント&CEOは、「当社のコンプライアンス文化や管理監督体制に、かなりの期間にわたって不備があったことが判明した。また、コンプライアンス通報制度があり、制度を利用したケースがありながらも事態は改善されず、制度が十分に機能していなかった。これらの反省を踏まえ、対策を実施し、再発防止に向けて継続的な改善を図る。データの自動化やデジタル化に加えて、研修の実施、業務手順の見直し、人的・物的リソースの追加投入なども行なっていく。また、組織全体での改善策を策定し、不適切行為の再発防止を目的とした教育の実施やプロセスの見直し、人材や設備面での投資などを行ない、それらを継続的に改善。さらに透明性を維持しつつ、顧客とも継続協議することで要望に応じてエンジニアリングや文書類などを適宜更新、修正する」と述べた。

 なお、懲戒処分については、不適切行為への関与度合いや、当時の役割などのさまざまな観点を踏まえて処分し、公表すると述べた。「事案に積極的に関与した者や、それを知りながらも会社における役割に応じた行動を取らなかったものに懲戒処分を適用する」という。

再発防止策について

 今後の再発防止策についても説明した。

 コッホプレジデント&CEOは、「将来の成功は、コンプライアンスを意思決定の最前線に置けるかどうかにかかっている。今回の問題を根絶させるとともに、経営陣や現場の工場関係者を含む、あらゆるレベルにおいて、誠実で、説明責任を果たす文化を構築することに専念する。すでに数百もの改革を完了し、新たな改革を実施している」と述べた。

 再発予防策は、「マネジメントに関する再発防止策」「工場の現場に関する再発防止策」「3線ディフェンスの観点に関する再発防止策」の3つで構成する。

「マネジメントに関する再発防止策」では、品質およびコンプライアンスに関する経営陣の意識の再確認と、トップメッセージの継続的な発信、品質保証に関わる人的・物的リソースの増強と品質保証部門の地位向上、国内外のすべての役員および従業員に対して、品質コンプライアンス教育を追加実施、人事考課基準の再検討、顧客との適切な協議・交渉の実現のための改革を進める。CEOによるメッセージを月2回以上発信し、経営陣による品質とコンプライアンスに関するゼロトレランス方針の追求と、全社的なコミュニケーションの強化を行なうという。

「工場の現場に関する再発防止策」では、コミュニケーションの改善として、情報共有・コミュニケーションの活性化、部署間の縦割りの解消、業務を共同で遂行する業務体制の構築、工場間と部署間の人材交流の活性化を進める。また、業務フローの改善として、業務のチェック体制の強化、業務手順のルール化と周知、不正が介在しにくいデジタル化や自動化システムの構築を推進する。2025年度までに、約3600台のテスト機材などに投資を行なう計画も明らかにした。

「3線ディフェンスの観点に関する再発防止策」では、品質統括本部の関与の強化、事業軸を通さない独立した品質保証レポートラインの構築、内部監査体制の強化、内部通報制度の改善を行なう。

 コッホプレジデント&CEOは、これらの再発予防策を挙げながら「この問題は克服できると確信している。そのために対策を徹底し、会社をいい方向に導きたい」と述べた。また、会見の中でコッホプレジデント&CEOは、「私の祖父は人が持つものの中で最も価値があるのは倫理観であると教えてくれた。誇りやお金、命は人に奪われるかもしれないが、倫理観は常に自分のものである。お客さま、パートナーをはじめとしたステークホルダーが、長年にわたって寄せてくれた信頼はかけがえのないものであり、この信頼を回復し、維持することを最優先事項にする」とも述べた。

陳謝する日立Astemo株式会社 ヴァイスプレジデント 品質統括本部長の熊谷裕二氏(左)と、プレジデント&CEOのブリス・コッホ氏(右)