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ニデックとルネサス、第3世代 X-in-1の実証試作で協業 ECUなど部品統合でバッテリEV先進国の中国で進む統合E-Axleに対抗

2023年6月6日 開催

ニデック株式会社 常務執行役員 大村隆司氏(左)とルネサス エレクトロニクス株式会社 執行役員 兼 ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ 共同ゼネラルマネージャー ヴィヴェック・バーン氏(右)

 ニデック(2023年4月1日に日本電産より社名変更)は、川崎市内の同社拠点において記者説明会を行ない、前日に同社が発表したルネサス エレクトロニクス(以下ルネサス)との「EV向け次世代E-Axleの半導体ソリューションでの協業」に関する説明を行なった。

 この中でニデック 常務執行役員 大村隆司氏(副最高技術責任者、半導体ソリューションセンター所長 兼 ソリューション企画・戦略部長)は「中国を中心にBEV(バッテリ電気自動車)のE-Axleをオールインワンにする動きは加速している。ニデックとしてもそのトレンドを追いかける必要性を痛感しており、今後より統合度を高めた第3世代E-Axleを開発するためのPoCを作っていくことでルネサスと協業していく」と述べ、中国のBEVや部品メーカーなどが急速に進めているBEV向けE-Axleの統合化に対抗するような次世代製品開発に向けたPoC(Proof of Concept、ピーオーシーやポックと呼ばれる技術的に可能かを検証するために行なう試作のこと、実証試作)を両社が協力して行なう形の協業になると説明した。

BEV先進国の中国ではBEV向けのE-Axleの統合化(X-in-1)が急速に進んでいる

ニデック株式会社 常務執行役員 大村隆司氏

 今回行なわれた記者説明会は、昨日ニデックとルネサスが共同で行なった報道発表を受けて、その詳細を説明するために行なわれたものとなる。

 ニデック 常務執行役員 大村隆司氏(副最高技術責任者、半導体ソリューションセンター所長 兼 ソリューション企画・戦略部長)は、「CASEという言葉で自動車産業が転換点にあることは盛んに言われてきたが、今やCASEという単純なキーワードだけで説明できないほど複雑な変化が起きている。カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み、垂直統合や水平分業などの自動車産業の構造変化、モノからコトへの変化、そして地政学的な変化などさまざまな変化が起きている」と述べ、CASEという言葉に代表されるような、情報通信技術の自動車への統合といった単純な観点だけでなく、さまざまなことを考慮しながら対応していく必要がでていると指摘した。

自動車業界の大変革
BEV化による変化

 大村氏は「地政学的な変化で言えばEVでは中国が主戦場になっており、その市場特性などを理解していくことが大事だ。中国ではクルマがIoT(Internet of Things)、すなわちIoV(Internet of Vehicle)と位置付けられており、GB32960という規格によりすべての情報が中国政府によりコントールされていて、BEVの急速な発展を後押ししている」と述べ、特に中国でBEVが急速に発展しており、それを中国政府の施策などが後押ししていると説明した。

 そうしたBEVのシフトにより例えば部品点数の削減、新規参入が容易になるなどの市場の変化が行なっており、これまで自動車産業には参入しなかったようなベンダーの参入も相次いでおり、その具体的な例としてファーウェイ(HUAWEI)のような通信関連の企業がBEVのプラットフォームを提供するプラットフォーマーとして参入するなどの例を挙げた。

BEVの電動化ユニットの動向

 大村氏は「モーターやギヤは今後X-in-1と呼ばれる複数のものが1つに統合される形になる。すでに第2世代では3-in-1同士が1つになるなどが発生しており、今後は統合がさらに進んでいく。その結果部品点数の削減、開発効率、さらには車載展開容易性などが求められている。日本ではあまり話題になっていないが、今後はこのトレンドになっていくとわれわれは考えており、そのトレンドを追いかける必要がある」と強調した。

統合が進んだBEV向けE-Axleの実証試作を、ニデックとルネサスが協力して行なう

2022年にニデックは半導体ソリューションセンターを設立

 大村氏によれば、そうした時代が来ることを予測してニデックは半導体事業の基本戦略を策定し、それに基づいてこの1年戦略を進めてきたという。実は大村氏自身も、そうした新しいニデックの半導体戦略をリードする司令塔として外部から招かれた1人だ。大村氏は、ニデックの前にはソニーセミコンダクター、そしてその前はルネサス エレクトロニクスなど半導体メーカーでキャリアを積んできて、2022年に設立されたニデックの「半導体ソリューションセンター」の所長に就任したという経緯がある。ニデック自身が今後の自動車事業には、モーターというニデックの強みだけでなく、半導体に関しても投資が必要と判断したということだ。

ニデック半導体戦略

 大村氏は「弊社の半導体基本戦略としてMake or Buyの最適配分がある。第1段階として集中購買戦略による調達安定確保、第2段階としてニデック製品にマッチしたRFQ(Request For Quotation、見積依頼書)スキームの確率と実行、第3段階としてそれらを組み合わせた総合モーターソリューションプロバイダーになることを目指していく」と述べ、ニデックとしては半導体の安定確保、その次にニデックのモーターと高度に組み合わせられる半導体製品の確保、そして最後にそれらを組み合わせて顧客により高い付加価値を提供できるようなX-in-1のモーターを提供することを実現していきたいと説明した。

第1段階はクリア
第2段階の取り組み

 すでに第1段階に関しては実現しており、デックグループ全体で、戦略的なパートナーの選定を進めて、LTA(長期共有契約)の仕組みができ上がるという成果が出ているという。また、半導体メーカーに対してこうした半導体が欲しいというRFI(Request For Information、情報提供依頼書)を出し、SiC(シリコンカーバイト)を提供する半導体メーカーや、車載MOSFETを提供する半導体メーカーの選定を進めたという。

ルネサスとの開発協業の目的

 そうしたニデックの半導体戦略の延長線上として、今回のルネサスとの開発協業があると大村氏は強調した。「X-in-1サプライヤーの選定を進める中で、たくさんの候補はあったが、まだこれがベストだというサプライヤーはないのが現状。そうした中で将来ベストになる可能性があるパートナーとしてルネサスを選んだ。X-in-1を作る上でさまざまな技術的な要素があるが、それぞれに課題を抱えている。それぞれの要素と課題を1つ1つ解決するためにPoCを作ることが大事で、ルネサスにそのパートナーになっていただくことになった」と述べ、より多くの要素が詰め込まれた統合E-AxleのPoCをルネサスと協業して開発していくのだと説明した。

協業の効果
まとめ

 大村氏によれば、すでにニデックの社内では大村氏が第2世代と呼んでいるX-in-1のE-Axleの開発は進んでおり、2024年に量産が可能であることが見えているという。それに対してルネサスと一緒に開発するPoCは同社が第3世代と呼んでいる、何もかもが1つのユニットになっているもので、それに必要な半導体をルネサスが提供し、ルネサスには製品ラインアップにはない場合には他の半導体メーカーから入手する場合もあるという。いずれにせよ、さまざまな部品統合、ソフトウエアの統合などさまざまな取り組みを両社で行なっていくということだった。

ルネサスは、幅広い製品群を持ち、今回の実証試作に協力できるとアピール

ルネサス エレクトロニクス株式会社 執行役員 兼 ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ 共同ゼネラルマネージャー ヴィヴェック・バーン氏

 ルネサス エレクトロニクス株式会社 執行役員 兼 ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ 共同ゼネラルマネージャー ヴィヴェック・バーン氏は「ルネサスは広範な半導体製品群を有しており、デジタルだけでなく、アナログ、パワー半導体などさまざまなソリューションを用意している。今後起こる統合に関しても、さまざまなソリューションが提供できると考えている。今回のニデックとの協業でもさまざまな弊社製品を提供でき、より魅力的な製品を提供できると確信している」と述べ、ルネサスが車載向け、特にBEV向けのパワートレーン(E-Axle)向けにも多くの製品群を持っていると強調した。

ルネサスは幅広い製品群を持っている
パワー半導体ロードマップ

 そうした中で同社のパワー半導体のロードマップについても触れ、300mm IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)に関しては、AE5と呼ばれる次世代製品がすでにサンプル提供が開始されており、2025年に大量生産が開始されるK6という同社の次世代工場の準備も順調に進んでいると説明した。また、SiCに関しても、2025年に大量生産が開始される自社工場への投資をすでに発表しており、車載グレードの製品の実働サンプルが本年第3四半期から提供開始すると説明した。

まとめ

 最後にバーン氏は「ニデックの技術とルネサスの半導体を組み合わせれば、業界最高性能で、高効率、小型、低コストX-in-1システムを実現できると考えている。今回のPoCを作る協業で両社のノウハウを統合してよりよい製品を提供できるようにしていきたい」と説明した。