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横浜ゴム×SUPER GTインタビュー、昨年8戦中5回のポールを獲得した横浜ゴム「今シーズンはレースに強いタイヤ造りを目指す」と清水倫生開発部長と白石貴之開発リーダー

横浜ゴム株式会社 理事 タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長 清水倫生氏(左)、同 MST開発部 技術開発1グループ グループリーダー 白石貴之氏(右)

横浜ゴムなしには日本のモータースポーツは存立しえない。草の根からトップカテゴリーまで幅広くサポート

 横浜ゴムは日本モータースポーツの黎明期から、「ADVAN」や「YOKOHAMA」といったさまざまなブランドを活用して積極的にタイヤ供給をしており、モータースポーツファンであればそのブランドを知らないユーザーはいないといっていいだろう。また、モータースポーツ活動は、実に多岐にわたっている。アジアのトップフォーミュラーとなる「全日本スーパーフォーミュラ選手権」にワンメイク供給を行なっているほか、「SUPER GT」や「ニュルブルクリンク24時間レース」、さらに世界各国で行なわれている「GTレース」など、さまざまなレース参戦マシンにタイヤを供給し、足下を支えている。

 さらに、「ジムカーナ」や「ダートラ」、そして「N-ONE OWNER'S CUP」のようなワンメイクレースへもタイヤ供給を行なっており、モータースポーツの入り口となるカテゴリーにも積極的に関与している。文字通り、横浜ゴムのタイヤがなければ日本のモータースポーツは成立しえないといえるほど、高い貢献度が多くのファンに認知されている。

 モータースポーツを支えるという横浜ゴムの活動が色濃く反映されているのが、SUPER GTへのタイヤ供給だ。GT500にはトヨタ、日産の1台ずつという2台体制だが、GT300に関しては16台と、シリーズにエントリーしている28台の過半数以上にタイヤ供給しているのだ。仮に横浜ゴムがGT300への供給をやめるとなると、レースとして成立しなくなる可能性がある。

2022年シーズンは、全8戦中ポールを5回獲得し、予選での強さが際立った

 今年のSUPER GT参戦体制は、GT500が19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/阪口晴南組)と24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Z(佐々木大樹/平手晃平組)の2台で、両チームともドライバーも継続で安定した体制で今シーズンを迎えている。

 GT300に関しては以下の16台になる。昨シーズンの最終戦で劇的な逆転チャンピオンを獲得した56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rは、新しく名取鉄平選手をジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手のパートナーに迎え、2年連続チャンピオンを目指す年となる。そこで、横浜ゴム 理事 タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長 清水倫生氏、同 MST開発部 技術開発1グループ グループリーダー 白石貴之氏にお話をうかがってみた。

SUPER GT GT300クラスの横浜ゴム装着マシン

4号車 グッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也組)
5号車 マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号(冨林勇佑/松井孝允組)
6号車 DOBOT Audi R8 LMS(片山義章/ロベルト・メリ・ムンタン組)
9号車 PACIFIC ぶいすぽっ NAC AMG(阪口良平/リアン・ジャトン組)
18号車 UPGARAGE NSX GT3(小林崇志/小出峻組)
22号車 アールキューズ AMG GT3(和田久/城内政樹組)
25号車 HOPPY Schatz GR Supra GT(菅波冬悟/野中誠太組)
27号車 Yogibo NSX GT3(岩澤優吾/伊東黎明組)
30号車 apr GR86 GT(永井宏明/織戸学組)
48号車 植毛ケーズフロンティア GT-R(井田太陽/田中優暉組)
50号車 ANEST IWATA Racing RC F GT3(イゴール・オオムラ・フラガ/古谷悠河組)
56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/名取鉄平組)
87号車 Bamboo Airways ランボルギーニ GT3(松浦孝亮/坂口夏月組)
88号車 JLOC ランボルギーニ GT3(小暮卓史/元嶋佑弥組)
244号車 HACHI-ICHI GR Supra GT(佐藤公哉/三宅淳詞組)
360号車 RUNUP RIVAUX GT-R(青木孝行/田中篤組)

昨年は19号車がポールキングになって一発の速さを証明、今シーズンはレースに強いタイヤ造りを目指す

──昨シーズンの総括と自己採点を

白石氏:GT500に関しては55点。19号車 WedsSport ADVAN GR Supraがポールポジションを量産でき、24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zも表彰台を2回獲得している。しかし、レースウィーク全体を19号車が高いポテンシャルを発揮できるようなタイヤが供給できなかった。それができていればもう少しいいところにいけたのではないかということが残念に感じている。また、24号車も一部のレースでタイヤ起因のトラブルを発生させしまったのも反省点だ。

GT500クラスに参戦中の19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/阪口晴南組)

 GT300に関しては65点。56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rがシリーズチャンピオンを獲得してくれた。しかも、最終戦で56号車は厳しいレースになってしまったが、他のヨコハマユーザーの車両が追い上げてくれて、結果的にシリーズチャンピオンを獲得できた。ただ、逆にいうと56号車以外に勝てるチームは少なく、唯一の例外は第5戦の鈴鹿で4号車 グッドスマイル 初音ミク AMGが優勝しただけになっており、56号車以外に常時勝てるチームを出せなかったことがわれわれにとっての課題といえる。

──今シーズンの開幕戦、第2戦のレースを振り返っての自己評価は?

白石氏:開幕戦の岡山に関しては、新しいパターンのウエットタイヤを投入した。ただ、結果を見る限りは新しいゴムや構造をまだ合わせこめていないと感じているので、引き続き開発を続ける必要がある。第2戦に関しては24号車が最終的には残念なことになってしまったが、表彰台にいけるだけの性能を発揮できたので、そこは前向きにとらえている。GT300に関しては第2戦で56号車が優勝できてひと安心というところだ。

 新しいパターンは市販用タイヤに導入しているパターンでもあり、それをベースにレーシングタイヤに導入したものになる。簡単にいってしまえば水量が少ないところをターゲットにしたパターンになる。というのも、水量が多いとレースを続けるのが難しいし、セーフティカーなどが導入されて45台が一気に走るとあっという間に乾いていくというのがこのところのウエットレースの特徴であるため、そうしたタイヤを開発して投入している。

横浜ゴム MST開発部 技術開発1グループ グループリーダー 白石貴之氏

──昨シーズンの結果を見ていると、8戦中5回(19号車4回、24号車1回)と予選一発が非常に強いという印象が強い

白石氏:確かにそうした傾向があることは否定できない。実際タイヤの特徴としても、セットの狙いとしても、一発のタイム寄りになっていて、開発時点ではそこにフォーカスしているつもりはなかったのだが、そこは昨年の後半から順次変えていっている。

──今シーズンのタイヤの改良点などについて教えてほしい

白石氏:シーズンオフからさまざまな取り組みを行なってきた。大きく変えたところは構造面ではなく、コンパウンドでその進化が大きい。もちろん新しい構造もトライはしており、コンパウンドのレンジや車両のセットアップなどに影響があるため、慎重にやっている。

──SUPER GTではカーボンニュートラル燃料への取り組みなど、サステナブルなモータースポーツを実現する取り組みを行なっている。レース用のタイヤに関しても、距離を伸ばして持ち込みセット数を増やすことでタイヤのロングライフ化を狙っています。横浜ゴムのサステナブルなモータースポーツへの取り組みを教えてほしい。

白石氏:今後モータースポーツや量産品など、さまざまなタイヤでサステナブル原料を使っていこうと検討している。ただ、それをタイヤメーカー同士が競争をやっているSUPER GTにすぐできるかというと、それは現実的には難しい(筆者注:例えばレギュレーションで再生可能原料のパーセンテージを定めるのは、メーカー間で再生可能原料の定義が異なっているのですぐには難しいという意味)。そこで、タイヤのロングライフ化を実現し、少しでも使用量を減らしていこうというのが、現状の取り組みになると考えている。また、レースタイヤというのは使わないで廃棄してしまうものも多いのが現状。しかし、タイヤをロングライフでかつ、ワイドレンジ(幅広い温度に対応できるという意味)にしていけば、そうした廃棄するタイヤの量を減らしていくことが可能になる。

2022年は見事シリーズチャンピオンを獲得した56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/名取鉄平組)

 例えば開幕戦の岡山では、やや温度が低めであることを予想したタイヤを用意していたが、予選も決勝も雨になったため、そのタイヤは使われていない。岡山と同じような路面温度のレースで使いたいが、レンジが狭いとそれは難しい。しかし、ワイドレンジのタイヤにすることで、あるサーキットで使えなかったタイヤを別のサーキットで使うことが可能になり、廃棄する量を減らすことが可能になる。

──スーパーフォーミュラの方では原材料の33%にサステナブル素材を利用したタイヤの供給を始めている

白石氏:その通りだ。スーパーフォーミュラは、サステナブル素材、つまり再生可能な素材の比率を高めている。スーパーフォーミュラの方はワンメイクなので、タイヤ自体のプレゼンスをあげることを重視しており、その一環として地球への負荷を軽減する取り組みを始めている。しかし、それはSUPER GTでも取り組みそのものは始めている。もちろんスーパーフォーミュラのように何パーセントといえるほどではないが、すでにスタートしていることは事実だ。

清水氏:サステナブル素材の導入は、まずスーパーフォーミュラで始めて、今後さまざまな取り組みを行なっていく。そうした素材は石油資源に頼らず自然の中で生じてくる原料やリサイクル由来の原料を利用し、石油資源の消費を減らしていく取り組みだ。小さな一歩であるが、少しずつでも確実にやっていくことが重要。そしてGTA(SUPER GTのプロモーター)が狙っているタイヤの量を減らしていこう、カーボンニュートラル燃料を使ってやっていくという取り組みをわれわれは支持している。その上で例えば将来はスリックタイヤとウエットタイヤを1つにする取り組みなどもありだと考えており、タイヤメーカーがいろいろ知恵を絞ってサステナブルなモータースポーツを実現することが大事だと考えている。弊社全体としても環境経営を持続的に改善する、地球温暖化防止、持続可能な循環型社会実現などの環境基本方針を掲げており、モータースポーツ活動でも今後も継続した取り組みを行なっていきたい。

横浜ゴム株式会社 理事 タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長 清水倫生氏

──今シーズンのチーム体制は?

白石氏:GT500もGT300も多くのチームが体制を継続しており、本年もその延長線上でさまざまな改善をしている。特にGT500に関しては、昨年は予選はよかったが、決勝では課題を残していた。そこで、チームとも話して予選一発を狙わなくても、ロングでの高い性能を目指したセッティングをしていこうという話をしているし、構造もコンパウンドもレースで安定したペースを狙えるタイヤ作りを目指しているし、テストなどでもそこを意識したトライを行なっている。

──今シーズンの目標は?

白石氏:GT500は昨年1勝できなかったので、まずはなんとしても1勝を狙っていきたい。ターゲットになるのは夏の富士(第4戦)、鈴鹿(第5戦)で、今回のレース(第3戦)も狙っていきたい。GT300は、昨年同様56号車にチャンピオンを狙ってほしいと思っているが、われわれとしては56号車だけでなくそれに追随できるチームが出てくることを望んでいる。

GT300クラスでは全16台にタイヤを供給している横浜ゴム

第3戦鈴鹿で19号車 WedsSport ADVAN GR Supraが7年ぶりの優勝、GT300もランキングトップに

「まずは1勝を」といっていたが、インタビューを実施した第3戦鈴鹿で、見事19号車 WedsSport ADVAN GR Supraが優勝を飾った。19号車にとっては、2016年第7戦タイ以来の優勝。チームにとっても、横浜ゴムにとってもうれしい7年ぶりの優勝になった。後は、2016年ツインリンクもてぎでの第3戦(オートポリスでの第3戦が熊本地震の影響で中止になった代替レースで、ツインリンクもてぎでの最終戦の前日に行なわれたレース)以来の優勝を目指す24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zの同じく7年ぶりの優勝にも期待したいところだ。

 GT300に関してはすでに2020年、そして2022年とチャンピオンを獲得しているヨコハマ陣営の絶対エース56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rが第2戦富士で優勝、そして第3戦鈴鹿でも4位に入ることで、GT300のポイントリーダーに浮上している。また、56号車以外の活躍という意味では、18号車 UPGARAGE NSX GT3が開幕戦で優勝して、現在ランキング7位につけている。昨年も鈴鹿で1勝した4号車 グッドスマイル 初音ミク AMGなど、実力派チームの活躍にも期待できるだろう。