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フィンランド ユバスキュラへの思いを語ったトヨタ 豊田章男会長、「2015年に偉大なるトミ・マキネン氏と訪れた」

トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team総代表でもあり、トヨタ・モビリティ基金 理事長でもある

東京ドーム133個分の敷地に作られるヨーロッパの開発センター

 8月3日(現地時間)、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(以下、TGR-WRT)とトヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)は、フィンランド ユバスキュラ市とカーボンニュートラルの達成と持続可能な社会の実現を目指し、人と自然が調和したまちづくりを通じた幅広い取り組みを推進するパートナーシップ構築のための基本合意書を締結した。

 この締結に基づき、トヨタはユバスキュラに東京ドーム133個分の敷地に木造建築の導入、生物多様性の向上や森林保全、水素による自家発電施設やモビリティの導入を目指す新開発センターを設立する。この新開発センターにはテストコースなどを備え、トヨタの欧州の開発センターとして最も北に位置することから、どんな道でも戦い抜けるラリー車の開発において大きな貢献を果たしていくと予想される。

2016年12月14日、フィンランド ヘルシンキで行なわれたTOYOTA GAZOO Racing「2017年 WRC参戦体制発表会」で上映された、トミ・マキネン氏と豊田章男氏によるヤリスWRC走行映像

 トヨタ自動車 代表取締役会長であり、TGR-WRT代表でもあり、TMF理事長である豊田章男氏は、この基本合意書の締結にあたりあいさつ。フィンランドやユバスキュラへの思いとともに、新開発センターをユバスキュラの地に定めた理由を語った。

 豊田会長は、調印式に参加したユバスキュラ市長 ティモ・コイヴィスト氏ら関係者に謝意を述べた後、「小さな子供がアイスクリームを愛するように、私はWRC(世界ラリー選手権)のレースが大好きだ。そして、ここ(ユバスキュラ)で行なわれるラリーが何よりも好きだ」と、ラリーという競技やユバスキュラへの熱い気持ちをストレートに宣言。

 ユバスキュラと自身との関わりについては、「ユバスキュラを本当に知ったのは、2015年に同僚や友人とクルマのテストに来たときでした……。偉大なるトミ・マキネン氏ととともに」と、フィンランド ユバスキュラ出身のWRCチャンピオンであるトミ・マキネン氏との関わりが大きかったという。

 そのテストの中で、トヨタ車やそれ以外のクルマにも数多く乗り、極限状態でWRCの勝者になるものと、そうでないものとを実感。残念ながらそのとき乗ったトヨタ車は勝者ではないカテゴリーに属していたと振り返る。

 豊田章男会長は、そのときに「私たちのクルマをWRCチャンピオンにするために、必要な時間とリソースをささげる決断をした」といい、ユバスキュラに本拠地を置くTGR-WRTを創設した。その後、トヨタは2016年12月にWRC復帰を発表、2017年からWRCに参戦し、すでに3度の世界チャンピオンを獲得しているのは多くの人の知るとおりだ。

 とくに、2021年、2022年とWRCにおける3つの世界チャンピオン(ドライバー、コドライバー、マニュファクチャラー)を獲得。WRC参戦は大きな成功を収めており、トヨタがWRC参戦の際に発表した「WRCへの参戦を通じて『もっといいクルマづくり』をさらに追求していく」ことが、世界へ強く発信されている。

 当時、トヨタ社長として決断をした豊田章男氏が、トヨタの会長として、チーム代表として、基金の理事長として新たに決断をしたのが、ユバスキュラにカーボンニュートラルかつ持続的可能な開発センターを設立すること。普段からトヨタのラリーイベントであるラリーチャレンジで「ラリーは公道を使うことから、まちづくりである」と語り、トヨタという会社の目標を「町いちばんのクルマ屋になりたい」と語る豊田章男氏らしく、ユバスキュラとともに歩んでいく決断をしたことになる。

環境に配慮した、完全に持続可能な施設を強い思いで作り上げる

ヨーロッパの新たな開発拠点となる新開発センター。東京ドーム133個分の敷地と発表されている

 実際、豊田会長はあいさつで、WRC参戦のベース車となった「ヤリス」が欧州カー・オブ・ザ・イヤーになったこと、GRヤリスを開発できたことなど「もっといいクルマづくり」のためにフィンランドが果たしてきた役割に感謝。特別な場所であるユバスキュラにおいて、「もっといいクルマづくり」「もっといいレーシングカーづくり」のために新開発センターの設立を決断した。「This project is a personal dream come true for me… and I want you to know, that we intend to build a fully sustainable, green facility… with as little impact to the environment as possible」と、環境に配慮した、完全に持続可能な施設を強い思いで作り上げるという。

 豊田章男会長のあいさつでも触れられていたが、東京ドーム133個分の開発センターはユバスキュラに大きな投資効果と雇用機会の増加をもたらすことだろう。ただ、それだけにこの地からの撤退などは短いタイムスケールではあり得ず、トヨタがラリーに強くコミットし、WRCの頂点であるラリー1の開発だけでなく、現在開発を進めるラリー2などより多くの人に向けたカスタマーモータースポーツに本格的に参入していくことを宣言しているのに等しい。

 また、フィンランドは1995年にEU(欧州連合)に加盟し、2023年にはNATO(北大西洋条約機構)にも加盟したヨーロッパの一員でもある。ユバスキュラに開発センターを持つということは、トヨタがヨーロッパへ投資するということでもある。2015年に豊田章男氏がトミ・マキネン氏とともに走ることから始まったヨーロッパでの持続可能な「もっといいクルマづくり」が、トヨタのグローバル戦略にもたらす影響についても注目していきたい。

ユバスキュラ市長 ティモ・コイヴィスト氏(中央左)との調印式。トヨタはこの地でクルマを開発する決断を広く世界に宣言した