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日立アステモ、マルチカメラAI演算で360度ステレオビジョン 異なるカメラの組み合わせで点群データを生成

マルチカメラAI演算で360度ステレオビジョンを実現する日立アステモの実験車

マルチカメラAI演算で360度ステレオビジョン

 日立Astemo(アステモ)は、異なるカメラの組み合わせで点群データを生成するマルチカメラによる360度ステレオビジョンシステムを公開した。日立アステモは初期のスバル アイサイトシステムにステレオカメラを供給するなど、ステレオカメラによるADAS技術の高さで知られている。

 これまでのステレオカメラシステムは、高精度なダイキャストユニットに2つのカメラを搭載。高度なキャリブレーションを行ない、ステレオカメラの精度を実現してきた。

システム構成

 今回公開されたマルチカメラによる360度ステレオビジョンは、異なるカメラの組み合わせでステレオ画像を生成。ステレオ画像のため静止時から距離情報を生成でき、3D点群データを得ることができる。このような点群データ(ポイントクラウドデータ)は、レーザーを用いるLiDARで生成するのが通常手法ではあるが、日立アステモのシステムではデバイスとしてLiDARより安価なカメラを利用するのが特徴になる。ただし、映像データの演算にはそれなりのコンピューティングパワーは必要になり、システムコストは不明だ。

 コンピュータでカメラデータをステレオ利用するため、これまでのようにダイキャストで高精度な組み付けを不要としているのもメリット。これにより、異なる画角、非平行、長基線長でカメラペアを構成でき、走行中の自動キャリブレーションも可能としている。日立アステモでは、このための視野算出AIを開発した。

マルチカメラ構成。黄色の線がステレオペアを示す。つまり1つのカメラに複数の役割を持たせることができる
上は実験データの確認用のLiDAR、今回は用いられていない。キャリアに付いている小型カメラを用いている。後ろのカメラは前を見て、前のカメラは後ろを見る配置となっていた
フロントはウィンドウ内で左右に配置
リアは上と下に、位置は画像補整算出するのである程度適当でよいとのこと。今あるリアカメラを使えるということを訴求
生成されたポイントクラウドデータ

 実際のマルチカメラ搭載試作車では、フロントに左右のステレオカメラ、リアに上下のステレオカメラ、そのほか側方にはそれぞれ2つのカメラに加え、ミラー下に魚眼カメラを備えた10カメラシステムとなっていた。つまり、多くのクルマに搭載され始めているサラウンドカメラを利用して、360度ステレオビジョンを構成していることになる。

 走行中など生成データを見させていただいたが、確かに点群データが生成されている。精度や密度は不明だが、標識も距離情報で認識しており、もちろんカメラデータなので標識読み取りもできる。

 また、自由なカメラの組み合わせが可能なので、今回の実験車であるミニバンタイプはもちろん、ミラー下の魚眼レンズカメラと通常画角(といってもそこそこ広角)レンズのカメラでのステレオ算出も可能になっていた。魚眼レンズは、単なる広角レンズと歪曲収差が異なるのだが、それもAIで補正し距離計算しているとのことだった。

側方を走るトラック。このトラックの走行方向を高精度に算出・予測しワーニングも行なえる。現在のミラーに組み込まれたワーニングでは、いるかいないかの算出を行なうのみだ
算出の基礎となる予測データをリアルタイム生成

 自動運転時の360度監視は、安全・安心の実現のためには必要な技術であり、現在はさまざまな技術の組み合わせで実現している部分を、カメラとAI演算というシンプルな構成(演算はリッチ)で実現する技術になる。

 もちろん、欠点としてはカメラに写らないもの、つまり霧や暗黒時は見えなくなるが、暗さについてはヘッドライトなどで対応でき、霧などについてはレーダーやLiDARで補完するという方法もあるだろう。

 カメラが優れているか、LiDARか、はたまたレーダーかとなりがちだが、クルマというパッケージでどのように安全を作っていくかがポイント。その意味で、利用しがいのある技術が登場したことになる。