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日立、オートモティブシステム事業(日立アステモ)の未来像も語られた事業戦略説明会「Hitachi Investor Day 2021」レポート
2021年6月11日 19:49
- 2021年6月8日 発表
日立製作所は6月8日、事業戦略説明会「Hitachi Investor Day 2021」をオンラインで開催。オートモティブシステム事業への取り組みについて、日立Astemo(アステモ)のブリス・コッホ プレジデント兼&CEOが説明した。
説明の冒頭、コッホ氏は「日立アステモは重要な3つの価値貢献を目指した、世界をリードするテクノロジ企業である」と会社の目標を定義。AD(自動運転)およびADAS(先進運転支援システム)と先進シャシーで、安全性、快適性、QoL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させる「社会的貢献」、排出ガスを低減する高効率な電動化製品や技術によってよりよい地球環境に貢献する「環境的貢献」、2025年度の売上収益約2兆円、EBITDA率で約15%の達成を目指す「経済的貢献」を挙げ、「これまではライフセクターの中に入っていたが、オートモティブシステム事業として独立したことで意思決定を加速し、利益ある成長も加速できる」と述べた。
2020年度における日立アステモの売上収益は9875億円で、日立全体の約10%を占める。また、日立アステモの売上収益のうち、パワートレイン&セーフティシステム事業部が50%、シャシー事業部が41%、モーターサイクル事業部が8%、その他が1%。また、地域別売上構成比は日本が35%、北米が20%、中国が17%、アジアが11%、欧州が11%、その他が6%となっており、「業界全体では厳しい1年だったが、日立アステモはいい結果を出すことができた。人材に恵まれていたこと、強力なポートフォリオにより、いい市場ポジションが取れたこと、オペレーションの改善効果があったことがその理由」と述べた。
パワートレイン&セーフティシステム事業部では、DI(直接燃料噴射)向けエンジンコントロールユニットなどのICE(内燃機関)ビジネスユニット、モーターやインバータなどを手掛けるxEV(電動車)ビジネスユニット、ステレオカメラやAD ECUなどを商品化しているAD/ADASビジネスユニットで構成。
シャシー事業部では、ディスクブレーキキャリパーなどのブレーキビジネスユニット、プロペラシャフトなどのドライブトレインビジネスユニット、電動パワーステアリングシステムのステアリングビジネスユニット、周波数感応型ダンパーなどのサスペンションビジネスユニットで構成。
さらに、モーターサイクル事業部は、二輪車向けのディスクブレーキキャリパーなどのブレーキビジネスユニット、ドライブトレインなどのパワートレインビジネスユニット、フロントフォークなどのサスペンションビジネスユニットで構成。
コッホ氏は「パワートレイン&セーフティシステム事業部は市場よりも高い成長を遂げ、シャシー事業部はブレーキ、サスペンション、ステアリングという3つの主要部品を持っている希少な企業であるというメリットを活かしている。そして、モーターサイクル事業部はグローバルでリーダー的地位にある。新型コロナウイルスの影響は、クルマよりもモーターサイクルに乗りたいという人の増加につながり、日立アステモにとっては追い風になった」とした。
日立アステモの4社統合によるシナジー値は2025年に600億円を目指す
日立ではクラリオンやバレネット、商用車ステアリング事業、車載電池事業を売却する一方、シャシー・ブレーキ・インターナショナルやゼネオスを買収。さらに、ケーヒン、ショーワ、日信工業のホンダ系3社を統合。事業基盤を大きく再編している。「過去3年に渡って、LEAP(リーダーシップ、エンゲージメント、アクセラレーション、パフォーマンス)プロジェクトに取り組み、コスト競争力の強化、ポートフォリオの強化、重要な実行手段の補強、リスクの軽減という4つの柱に取り組んだ。今後もデジタルを活用し、継続的に透明化を図り、品質を高め、効率化を実現する。日立オートモティブ、ケーヒン、ショーワ、日信工業の4つの会社が1つになり、ベストマネジメントチームを作り、より強く効率的な企業に変革することに取り組んだ。サプライチェーンやG&A(一般管理費)、R&Dなどの観点においても効果が上がっており、4社統合のシナジー効果は2021年度には80億円。2025年には600億円を目標にしている」という。
また「新型コロナウイルスの影響や各国の環境政策によって、電動化への関心が高まっている。AD/ADASの2025年までの年平均成長率は32%であり、それは電動化の進展によるものである。また、自動車メーカーの研究開発費が大幅に増加しており、新たな技術を活用する動きがある。エコシステムが大きく変化する中で、日立アステモは新たなビジネスを獲得していくことができる」とした。
コッホ氏は電動化によってモーターとインバータの領域で日立アステモは競争力を発揮できるとし、「これによって、多くの顧客にアクセスできるようになっている。世界145か所の生産拠点を持ち、顧客に近いところでビジネスを行なえる体制がある。サプライチェーンが近接しているという点は顧客にとって大きなメリットになっている。また、モジュールによる提案が可能であり、これがコスト競争力を高めることにもつながっている。さらに、ソフトウェア開発力を活用することで電動化を効率化し、省エネにも貢献し、機能の強化も図ることができる。これは顧客自身の差別化にもつながる」などとした。
2025年には、モーターで年間500万個以上、インバータでも年間500万個以上の出荷を目指すという。
また、競争力確保のために研究開発投資を強化。「日立アステモは、売上収益の6%をR&Dに投資しているが、それだけでなく、日立のグローバルR&D部門によるソフトウェアやAIにアクセスできる点もメリットである。日立グループではR&Dで1兆5000億円を投資していく予定であり、ここでもシナジーを生み出すことができる。これが競合他社との差になる。また、xEVやAD、ADASなどのCASEソリューションに投資を集中していくことになる。生産ラインのモジュール化と、サプライチェーンマネジメントの向上にも取り組む」と述べた。
一方、Lumadaを活用した最先端ソリューションの取り組みについても触れた。Lumadaはデータから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための日立独自のプラットフォームの総称。日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジが含まれ。2016年の提供開始以来、国内外を含めて1000社以上への導入実績を持つ。日立が提供するサービスや製品の中で活用されることもある。
日立アステモでは、高度化する顧客ニーズに応えるためのデジタルソリューションを提供する先進的な製品群を「Lumada Ready」とし、AD/ADAS関連車載ユニットや、認識、知覚、判断、制御、地図、セキュリティなどの自動運転やMaaSに必要な機能を備えた車載ユニットなどを用意。さらに、関連Lumadaソリューションとして無線データ通信を利用して自動車用ソフトウェアを更新するOTA(Over The Air)の実現、関連Lumadaユースケースとして、車両状態や車載機特性に応じた自動車ソフトウェアの差分更新の効率化なども提供するとしており、「よりインテリジェントなクルマを作ることができる。クルマが学習し、どこに渋滞が発生し、どこが危険であるのかといったことが分かるようになる。日立が買収したGlobalLogicとともに、専門性が高く、効率的なソリューションを開発し、提供していく」と述べた。
日立アステモは、2021年度にはさらに高い成長を見込み、売上収益で1兆6000億円(2020年度は9875億円)、調整後営業利益率6.1%(3.5%)、EBITDA率で10.9%(6.6%)を目指す。そして、2025年度には売上収益2兆円、調整後営業利益率が10.0%、EBITDA率で15%を目指す。
それに向けた成功の鍵として、「差別化された技術と規模により、競争力のある製品やソリューションを提供し、グローバル市場でのリーダーシップを獲得」「高成長分野における先進技術とともにグローバルおよび地域の顧客に地理的に寄り添った事業を強化」「日立やゼネオスのリソースをはじめ、経営統合で結集したリソースを効率的に配分することで、xEVやAD/ADAS、先進シャシーへの優先投資」「シナジー効果とオペレーションの改善による収益性の強化」「高成長・高収益分野への継続的な投資によるROICの最大化に向けた厳格なガバナンス」の5点を挙げ、「2021年4月からは4社が1社となってオペレーティングを開始しており、コストが改善し、フットプリントの最適化が図れる。2025年にはマーケットリーダーになりたい。そして、よりグリーンで、地球にやさしい会社になることも目指す」と抱負を述べた。
なお、日立アステモでは、2030年までに生産ラインでのカーボンニュートラルの実現と、製品の使用によって発生するCO2を50%削減する目標を掲げている。