ニュース
住友ゴム、新研究施設「住友ゴム イノベーションベース・仙台」説明会 次世代放射光施設「ナノテラス」と合わせタイヤ研究開発を加速
2023年11月21日 15:55
- 2023年11月17日 発表
住友ゴム工業は11月17日、宮城県仙台市にある次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」を利用した先進開発研究および新技術開発を来年度より開始することと、ナノテラスでの研究活動を進めるための拠点として、NTT都市開発が建設を進めているアーバンネット仙台中央ビルに新たに事業所を開設すると発表した。
今回この拠点開設に先立ち、仙台市内にて研究拠点の設置についての説明と立地表明式が行なわれた。また式典前には、次世代放射光施設ナノテラスの見学会も行なわれた。
新たに仙台に開設する研究施設「住友ゴム イノベーションベース・仙台」について、住友ゴム工業 研究開発本部長 朝倉健氏は、「住友ゴムの“未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。”という企業理念のもと、私どもは新しい技術開発の挑戦を続けて参りました。開発にあたりましてはいろいろな課題となる物理現象などを観察、観測し、ものごとの本質的なメカニズムを解明した上で課題に対する対応策を練るということを行なっています。これには放射光やでスーパーコンピュータなどを活用し、競合他社に先駆けて行なってきました。放射光というものについてわれわれは、専門ではありませんでしたが、それでも手探りの状態からスタートして研究を続けることで、低燃費タイヤの開発などに生かせるようになりました」と研究の過程を説明。
続けて朝倉氏は、「今回ナノテラスを使用して研究開発をさらに加速する目的で、ナノテラスに近い仙台市内に研究拠点を設けることにしました。名称は住友ゴム イノベーションベース・仙台となります。こちらでは学術と産業のイノベーションのハブとなるような拠点にしたいと考えています。この拠点を持つことで今後は主に放射光を使った開発を加速させていきます」と語った。
続いて住友ゴム工業 研究開発本部 分析センターのセンター長を務める岸本浩通博士は、「まだ構想の段階ですが、まずは振り返りとして私たちはSPring-8(兵庫県にある大型放射光実験施設)を活用していましたが、そこで使用できる高輝度X線ではタイヤが転がった状態でのゴムの変形のデータを取れます。そしてそれは製品化に直結するデータでした。また、高輝度X線ではX線が発する複数の波がそろった“高コヒーレンスX線”を作れるのですが、X線を使う計測においてこの高輝度X線でしか得られない情報があります。SPring-8ではそうしたX線を使えたことでゴムに対する新たな知見を得られました」と説明。
また岸本氏は、「来年度より使用開始となる次世代放射光施設のナノテラスですが、ここの設備の特徴としてはナノX線領域がSPring-8より100倍ほど強いところです。SPring-8のX線では分子や電子などゴムの構造の情報を得られましたが、ナノテラスのX線を使うことでゴムがどういった化学反応を起こしているか、それによる相互作用がどうなっているのかも分かります」。
「すなわちSPring-8とナノテラスを組み合わせることによって、これまで見えなかった世界が見えてくるのです。ちなみにSPring-8でもゴムの化学反応を見られますが、化学反応が起きたら一旦止めて、その状態で1時間くらい計測する必要があった。しかしナノテラスでは化学反応を止めずにゴムを変化させながら、構造がどう変わっていくのかをリアルタイムで測定できるのです。このようにナノテラスを使えば、これまで住友ゴムが放射光で活用してきた先端計測技術を、さらなるイノベーション創出活動へと進展させられます」と語る。
住友ゴムは2017年に「モビリティに最適なタイヤとはどうあるべきか」を考えた基本コンセプトとして“スマートタイヤコンセプト”を提唱している。このスマートタイヤコンセプトは、安全・安心を中心としたセーフティテクノロジと環境に関するエナセーブテクノロジ、そしてそれらを支えるコアテクノロジという3つで構成され、ナノテラスのX線がどのように活用されるかについても岸本氏が説明してくれた。
岸本氏によると「先日発表したアクティブトレッド技術は、ドライとウエットでゴムの性質が変わり、それぞれの路面状況に適したゴムになるというものですが、ここではスマートタイヤコンセプトのほかの項目である性能持続、劣化抑制技術について説明します。この研究は10年以上前から基礎的に取り組んできたもので、ナノX線を活用するものです。タイヤは光や熱、オゾンなど環境からの影響を受けています。その結果ゴムは酸化して劣化し、ゴムとゴムをつないでいる硫黄の架橋が熱によって変化してしまいます」と紹介した。
続けて岸本氏は、「この変化の性質は従来見られませんでしたが、ナノX線を使うことで(X線の吸収量を測る)酸素劣化とオゾン劣化ではピークの位置が異なることが見えるのです。すると劣化の原因が酸素なのかオゾンなのかを見分けられます。この特徴を生かして世界市場から劣化したタイヤのサンプルを取り寄せて計測をすると、日本ではほとんどがオゾンによる劣化で使用の末期に酸素劣化が起きていたのに対して、中近東では酸素やオゾンでの劣化は少なく、熱による劣化がほとんどを占めることが分かりました」。
「このように地域によって何がタイヤに影響するのかが分かるようになりました。とはいえ、これらのデータはすでに劣化した状態を調べたものです。でも、ナノテラスの設備を使えばそれぞれの条件にあった劣化をさせながらリアルタイムで現象を理解でき、革新的な劣化抑制技術や新材料の開発へつなげられるのです。2024年に稼働予定の住友ゴムイノベーションベース・仙台では、この施設を中心としてリサーチコンプレックスを活用した先進技術やイノベーションで持続可能な社会へ貢献していきます」と説明する。