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住友ゴム、新研究施設「住友ゴム イノベーションベース・仙台」説明会 次世代放射光施設「ナノテラス」と合わせタイヤ研究開発を加速

2023年11月17日 発表

住友ゴム工業は2024年に稼働予定の次世代放射光施設「ナノテラス」を利用した研究開発を進めるため、仙台市内に研究拠点を設置。その説明会とナノテラスの見学会が仙台市内で行なわれた

 住友ゴム工業は11月17日、宮城県仙台市にある次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」を利用した先進開発研究および新技術開発を来年度より開始することと、ナノテラスでの研究活動を進めるための拠点として、NTT都市開発が建設を進めているアーバンネット仙台中央ビルに新たに事業所を開設すると発表した。

 今回この拠点開設に先立ち、仙台市内にて研究拠点の設置についての説明と立地表明式が行なわれた。また式典前には、次世代放射光施設ナノテラスの見学会も行なわれた。

住友ゴム工業株式会社 研究開発本部長 朝倉健氏

 新たに仙台に開設する研究施設「住友ゴム イノベーションベース・仙台」について、住友ゴム工業 研究開発本部長 朝倉健氏は、「住友ゴムの“未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。”という企業理念のもと、私どもは新しい技術開発の挑戦を続けて参りました。開発にあたりましてはいろいろな課題となる物理現象などを観察、観測し、ものごとの本質的なメカニズムを解明した上で課題に対する対応策を練るということを行なっています。これには放射光やでスーパーコンピュータなどを活用し、競合他社に先駆けて行なってきました。放射光というものについてわれわれは、専門ではありませんでしたが、それでも手探りの状態からスタートして研究を続けることで、低燃費タイヤの開発などに生かせるようになりました」と研究の過程を説明。

住友ゴムの放射光活用について
放射光活用によりタイヤの性能は大幅に進化してきた
放射光活用の研究は「学術と産業」の先進技術成果として文部科学大臣表彰を受賞

 続けて朝倉氏は、「今回ナノテラスを使用して研究開発をさらに加速する目的で、ナノテラスに近い仙台市内に研究拠点を設けることにしました。名称は住友ゴム イノベーションベース・仙台となります。こちらでは学術と産業のイノベーションのハブとなるような拠点にしたいと考えています。この拠点を持つことで今後は主に放射光を使った開発を加速させていきます」と語った。

先端計測技術をさらに加速させる目的の研究拠点が住友ゴム イノベーションベース・仙台。2024年に開設予定
住友ゴム工業株式会社 研究開発本部 分析センター センター長 岸本浩通氏

 続いて住友ゴム工業 研究開発本部 分析センターのセンター長を務める岸本浩通博士は、「まだ構想の段階ですが、まずは振り返りとして私たちはSPring-8(兵庫県にある大型放射光実験施設)を活用していましたが、そこで使用できる高輝度X線ではタイヤが転がった状態でのゴムの変形のデータを取れます。そしてそれは製品化に直結するデータでした。また、高輝度X線ではX線が発する複数の波がそろった“高コヒーレンスX線”を作れるのですが、X線を使う計測においてこの高輝度X線でしか得られない情報があります。SPring-8ではそうしたX線を使えたことでゴムに対する新たな知見を得られました」と説明。

SPring-8がタイヤゴムの研究にもたらしたもの
SPring-8よりも約100倍のナノX線領域分析力を持つナノテラス

 また岸本氏は、「来年度より使用開始となる次世代放射光施設のナノテラスですが、ここの設備の特徴としてはナノX線領域がSPring-8より100倍ほど強いところです。SPring-8のX線では分子や電子などゴムの構造の情報を得られましたが、ナノテラスのX線を使うことでゴムがどういった化学反応を起こしているか、それによる相互作用がどうなっているのかも分かります」。

「すなわちSPring-8とナノテラスを組み合わせることによって、これまで見えなかった世界が見えてくるのです。ちなみにSPring-8でもゴムの化学反応を見られますが、化学反応が起きたら一旦止めて、その状態で1時間くらい計測する必要があった。しかしナノテラスでは化学反応を止めずにゴムを変化させながら、構造がどう変わっていくのかをリアルタイムで測定できるのです。このようにナノテラスを使えば、これまで住友ゴムが放射光で活用してきた先端計測技術を、さらなるイノベーション創出活動へと進展させられます」と語る。

放射光活用で実現できる先端計測技術。こうした数多くのデータが取れるのが住友ゴムの強みであり、タイヤゴムの高性能化をサポートしている
放射光のX線ナノスコープ技術の紹介
ナノテラスの高輝度X線なら、高速(急激な入力)で変形した(破壊)ゴムの様子もリアルタイムで見られる。左がゆっくりと変形したときの破壊の様子。完全に破壊された箇所のほか、影響を受けたが変形が戻るともとに戻る部分も多かった.対して高速で変形した際はまったく違う破壊の仕方になることも判明。これらは走行するタイヤ表面にどんな破壊が起きているかを調べる研究につながるという

 住友ゴムは2017年に「モビリティに最適なタイヤとはどうあるべきか」を考えた基本コンセプトとして“スマートタイヤコンセプト”を提唱している。このスマートタイヤコンセプトは、安全・安心を中心としたセーフティテクノロジと環境に関するエナセーブテクノロジ、そしてそれらを支えるコアテクノロジという3つで構成され、ナノテラスのX線がどのように活用されるかについても岸本氏が説明してくれた。

岸本氏がさらに踏み込んだ解説を実施

 岸本氏によると「先日発表したアクティブトレッド技術は、ドライとウエットでゴムの性質が変わり、それぞれの路面状況に適したゴムになるというものですが、ここではスマートタイヤコンセプトのほかの項目である性能持続、劣化抑制技術について説明します。この研究は10年以上前から基礎的に取り組んできたもので、ナノX線を活用するものです。タイヤは光や熱、オゾンなど環境からの影響を受けています。その結果ゴムは酸化して劣化し、ゴムとゴムをつないでいる硫黄の架橋が熱によって変化してしまいます」と紹介した。

技術力と人材育成は住友ゴムのみだけでなく、企業間連携や産総研などと共創体制を組むことで広がりを生んでいる
スマートタイヤコンセプトについて
タイヤの劣化原因は光、熱、酸素、オゾン

 続けて岸本氏は、「この変化の性質は従来見られませんでしたが、ナノX線を使うことで(X線の吸収量を測る)酸素劣化とオゾン劣化ではピークの位置が異なることが見えるのです。すると劣化の原因が酸素なのかオゾンなのかを見分けられます。この特徴を生かして世界市場から劣化したタイヤのサンプルを取り寄せて計測をすると、日本ではほとんどがオゾンによる劣化で使用の末期に酸素劣化が起きていたのに対して、中近東では酸素やオゾンでの劣化は少なく、熱による劣化がほとんどを占めることが分かりました」。

「このように地域によって何がタイヤに影響するのかが分かるようになりました。とはいえ、これらのデータはすでに劣化した状態を調べたものです。でも、ナノテラスの設備を使えばそれぞれの条件にあった劣化をさせながらリアルタイムで現象を理解でき、革新的な劣化抑制技術や新材料の開発へつなげられるのです。2024年に稼働予定の住友ゴムイノベーションベース・仙台では、この施設を中心としてリサーチコンプレックスを活用した先進技術やイノベーションで持続可能な社会へ貢献していきます」と説明する。

世界各地から劣化したタイヤのサンプルを取り寄せて調べると地域ごとに劣化の主な原因が違うことが分かったという
ゴムの内部を可視化するという技術。放射光を使ったX線技術ではX線のエネルギーを変えながらマッピングを取っていくことで電子顕微鏡では見えない世界が見える
ナノX線を使うことでゴムの中に入れられた添加剤がどのように分布しているのかも分かるようになり、次世代の材料開発に向けた新たな知見も得られるという
当日は次世代高輝度放射光施設「ナノテラス」の見学も行なわれた
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 副センター長/教授(工学博士)の髙橋幸生氏がナノテラスの解説を実施
1997年に供用が開始された既存の放射光施設「SPring-8」とのスペック比較
ナノテラスという名称の由来
ナノテラスでは電子ビームの進路を修正するために偏向電磁石という装置がSPring-8より多く使われるため、光源となる電子ビームが拡散されにくい。ゆえに細いビームを作れるので光の明るさが向上しているという
ナノテラスの特徴の紹介。SPring-8より軟X線領域およびテンダーX線領域で100倍の性能差がある
整備の進行状況について
ビームラインの整備の進行状況について
ナノテラスは産業界の課題解決を支援する放射光施設
今後作られていくナノテラスを含めた東北大学サイエンスパークの構想
ナノテラスの内部も見学。現在も建設中
2024年は7本のビームラインが利用開始予定で、それぞれで用途が異なっている。2025年にはさらに3本のビームラインが稼働する予定という
BL10Uの赤い支柱は、研究を実施する髙橋教授の好みで指定された

仙台市長も出席した「住友ゴム イノベーションベース・仙台」立地表明式

 説明会のあとには、仙台市市長も列席しての立地表明式が行なわれた。仙台市では「ナノテラス」「東北大学サイエンスパーク」「せんだい都心再構築プロジェクト」を柱とした都市作りを進めていて、その一環としてナノテラスを利用する事業者に向け補助金も設定。同時にナノテラスからNTTの専用通信網を直通させた「アーバンネット仙台中央ビル」を建設、11月下旬には完成し、2024年2月から本格稼働を予定している。

 そこで住友ゴムは、そのアーバンネット仙台中央ビルへの開発拠点設置をどの企業よりも早く決定。この日、立地表明式が行なわれた。

立地表明式の出席者。左から、一般財団法人光科学イノベーションセンター 副理事 小林正明氏、仙台市長の郡 和子氏、住友ゴム工業株式会社 取締役常務執行委員 村岡清繁氏、NTT都市開発株式会社 東北支店長の大久保洋子氏。住友ゴムの村岡氏から郡市長に立地表明書が手渡された
建設中のアーバンネット仙台中央ビル