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住友ゴム工業、独自技術「センシングコア」をモータースポーツに初導入 タイヤのグリップを見える化する実証実験に着手

2023年8月15日 公開

タイヤのグリップ状態を見える化したサンプル画像

 住友ゴム工業は8月15日、静岡県駿東郡小山町にある富士スピードウェイにて、長年開発を続けている独自タイヤセンシング技術「センシングコア」の、路面状態推定機能によりレース中のタイヤのグリップ状態をセンシングする機能の実証実験の様子を初公開した。

 住友ゴム工業は1977年に、タイヤの回転信号やエンジン情報をソフトウェアで解析することでパンクを検知してドライバーに知らせる「DWS(=Deflation Warning System:タイヤ空気圧低下警報装置)」を実用化している。DWSは、タイヤの空気圧が減ると動荷重半径が小さくなるため正常圧のタイヤよりも速く回転する原理から、4輪の回転速度を相対比較することで空気圧の減少を検知するのと、空気が減ると起きるタイヤ剛性低下による振動周波数の変化をとらえて空気圧の変化を検知する2つの検知原理を採用していて、これまでにグローバルで約5000万台以上の納入実績があり、膨大なデータを回収している。

DWSの概要。車両の信号からタイヤの状態を見える化でき、センサー類の追加が不要なのが大きな特徴

 センシングコアはDWSで培った技術をベースに発展させたもので、センサーの追加を必要とせず車両から得られる車輪速信号を解析・統計処理することで、タイヤの空気圧低下や路面の滑りやすさや4輪それぞれのタイヤにかかる荷重などをリアルタイムに推定できるもの。

 今回の実証実験は、2022年7月にセンシングコアの持つ「タイヤ空気圧」「タイヤ摩耗」「タイヤ荷重」「路面状態推定」「車両脱落予兆検知」という5つの機能を紹介したところ、 ダイハツ車のカスタマイズパーツ「D-SPORT」を展開するSPKから「モータースポーツの現場でも役立つはず」との意見があり、両社で協力しながら将来の商品化へ向けた開発がスタート。

センシングコアの原理(空気圧・荷重)
センシングコアの原理(摩耗・路面状態)

 2023年1月に開催されたモータースポーツの入門レースの1つである軽自動車の耐久レース「K4GP(7時間耐久)」から複数回にわたり走行データの取得を行ない解析に着手し、約半年の期間を得てセンシングコアの「路面状態推定」の機能を活用し、レース走行の鍵となるアクセルやブレーキのポイントをドライバーがリアルタイムで把握できることを狙った「タイヤのグリップ状態の見える化」に成功した。

 そして今回「K4GP FUJI 10時間耐久レース」にて、D-SPORT Racing Teamがダイハツの「ミライース」をターボ化&5速MT化したマシンに、センシングコアを搭載。初めてモニターを装着し、ドライバーとピットにタイヤの状態を見える化した状態で走行を行なった。

D-SPORT Racing Teamのミライース。コペンのパーツを流用することでターボ化&5速MT化している

 住友ゴム工業 オートモーティブシステム事業部の定本祐氏と守田直樹氏の解説によると、タイヤの回転信号から「スリップ率」と「力(駆動力と制動力)」の線形関係の傾き具合を求めることで「タイヤの滑りやすさ」を指標化。また、タイヤは接地面が変形するため接地していない面とタイヤ半径に差が生じることから、タイヤが回転している間に半径差によって回転変動が発生する。この回転変動によりタイヤが振動し、ある周波数特性を含む振動がタイヤの回転信号から得られ、その周波数特性の変化を前後左右のタイヤで比較することで、4輪それぞれの荷重配分を推定できることから駆動輪(ミライースの場合は前輪)のグリップ力を解析し、余力が残っているようなら青色、限界が近い状態なら黄色、限界を超えている場合は赤色でモニターに表示するシステムを構築した。

住友ゴム工業株式会社 オートモーティブシステム事業部 守田直樹氏

 しかし、まだ開発に着手したばかりの取り組みということと、ドライバーがベテランだけでなく初心者も乗ることから、今回は1周遅れでのデータ表示とし、さらに助手席側に取り付けたモニターも脇見運転にならないようコーナー中は非表示としていた。ベテランドライバーは、コーナリング後のストレートでタイヤの状態を確認して、まだ余力が残っていた場合は、次の周でもう少しコーナーを攻めてみるなど、使い勝手も含めて検証を行なっていた。モニターの青・黄・赤の3色表示についても「あくまで今は暫定で、開発していく中で、ユーザーからもっと多段階のほうがいいとなれば変更していく」という。

タイヤの状態をドライバーに知らせるサンプル画面。将来的には助手席側ではなく、ヘッドアップディスプレイや小型ディスプレイなど、視線の移動量の少ない場所での表示を検討しているという
実際にK4GPに参戦しているミライースの車内。助手席の前にモニターが取り付けられている。今回はベテラン以外のドライバーも乗ることから、脇見運転を避けるためモニターをドライバーに向けていないのと、コーナーではモニターを非表示としていた

 今回センシングコアに必要となる車輪速信号は、車両に備わっているOBD2コネクターから引き出して解析しているが、当然タイヤサイズや車重、駆動方式(FF、FR、4WD)といった条件が複雑に絡むため、いきなり多くの車種で試すことも難しく、とにかくミライースでデータ取りを行ない、ゆくゆくは後から手軽に装着できる商品にも仕上げていきたいとしている。

タイヤの情報はピットにいるチーム員にもクラウドを経由して共有可能。画像は岡山国際サーキットのもの。コース上で色のない部分はブレーキング中を表している
富士スピードウェイでのK4GP練習走行時のデータ。現状は暫定仕様として1秒間隔でデータを表示させている

D-SPORT Racing Teamが全面協力

左から上原あずみ選手、相原泰祐選手、殿村裕一選手、槻島もも選手、下岸可憐選手(SPK株式会社)、翁長実希選手は別のレースがあり撮影に入れず

 今回K4GPの10時間耐久レースに参戦するD-SPORT Racingチームのドライバーは、ベテランの殿村裕一選手(ダイハツ工業)、WRCでのクラス優勝経験を持つ相原泰祐選手(ダイハツ工業)、KYOJO CUPのチャンピオンやスーパー耐久の参戦実績のある翁長実希選手、ラリーやレース経験豊富な槻島もも選手、さらに、1月のK4GPで初めてサーキットを走ったフリーアナウンサーの上原あずみ選手、下岸可憐選手(SPK)の6人。

 殿村氏は「ドライバーにシンプルで分かりやすくタイヤの状況をお知らせできる機能はありがたいですね。今回はベテランから初心者まで技量のバラバラなドライバーがいますが、燃費のいい走りだったり、タイヤに無理させていない走りなのかなどがひと目で分かるし、ステアリングの切りすぎとか、モニターのタイヤ表示が赤色になる手前の黄色で走れるようになるとかドライビングテクニックの上達にも役立つと思う。モータースポーツの現場で先を読むというのはベテランは長年の経験値でできるようになるけれど、初心者には難しい。それをカバーしてくれればうれしいよね。センシングコアはすごい勢いで進化しているので、今回は実践的なデータ取りですが、次の大会でもっとドライバーにリアルタイムにフィードバックできるレベルに仕上がってくると期待しています。ソフトウェアなので純正装着もできるし、全車種装着も可能だし、予防安全という意味でも効果がありそう。ソフトウェアだから低価格で提供できるのも魅力的だよね」と感想を語ってくれた。

自身でも走りモータースポーツに精通している殿村裕一氏(ダイハツ工業株式会社 コーポレート統括本部 LYU・ブランド推進室 DAIHATSU GAZOO Racing G 営業CS本部 国内商品企画部 主査)

 住友ゴム工業は「センシングコアがコーチとなって、より多くの人にモータースポーツを楽しんでもらえる未来を目指す」としている。

K4GP FUJI 10時間耐久レースには合計130台の軽自動車が参戦していた
今回の10時間耐久レースでのデータ収集によって、さらなる進化を遂げるセンシングコアに期待したい