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ダンロップ、新技術「アクティブトレッド」説明会 路面状況によって性能がスイッチする新発明
2023年11月17日 14:06
- 2023年11月16日 開催
ダンロップ(住友ゴム工業)は11月16日、開発を進める新技術「アクティブトレッド」について技術説明会を都内で開催した。
このアクティブトレッド技術説明会には、住友ゴム工業より取締役常務執行役員の村岡清繁氏、執行役員 材料開発本部長の水野洋一氏、材料開発本部 材料企画部長の上坂憲市氏が出席。それぞれの担当分野で解説や質疑応答の対応を行なった。
まずは村岡氏より住友ゴム工業の商品開発への取り組みが語られ、村岡氏は「弊社はダンロップ、ファルケンブランドでタイヤ事業の展開しており、安全安心のドライブお届けするために日々タイヤの開発を行なっております。昨今、自動車産業は100年に1度の変革期と言われております。クルマ自体に求められる価値観が変化する中、タイヤに求められる性能も変わりつつあります。弊社はそれを具現化したタイヤを提供するすることにより、CASE、MaaSに対応するとともに、サスティナブルの社会の実現に貢献してまいります」。
「弊社はタイヤ開発、および周辺サービス展開として“スマートタイヤコンセプト”という目標を掲げ、お客さまにとって新たな価値をお届けすることを念頭に商品開発を進めております。そしてこの度、スマートタイヤコンセプトの要素である『アクティブトレッド技術』を開発。この技術を取り入れた次世代オールシーズンタイヤを来年秋に発売することを発表いたします。アクティブトレッドの技術開発に対しては弊社だけでは達成困難だった課題もありましたが、各方面の企業や大学等と協業し、シミュレーション解析術技術、素材開発、あるいは最新AI技術などといったものを組み合わせることで乗り越えることができました。本日はこのアクティブトレッドに用いた技術の説明を通して、弊社の商品開発の方向性並びに持続可能な社会の実現に向けた取り組みについて理解を深めていただければと思います」とあいさつした。
続いては住友ゴム工業 材料開発本部 材料企画部長の上坂憲市氏がアクティブトレッド技術の説明を行なった。上坂氏はまず「スマートタイヤコンセプト」についての紹介をしたあと、アクティブトレッドの説明に移った。
ここからはアクティブトレッド技術の説明。上坂氏は「天候によって路面環境は変化します。その変化に1つのタイヤで安全に走行するには限界があります。このような路面環境変化は安全、安心な運転に不安をもたらすものですが、アクティブトレッドではそのような常識を覆すことに挑みました。従来は路面環境や使用用途に応じてそれぞれに合ったタイヤを用意し、そしてそれらのタイヤの性能を引き上げるための技術開発を進めて参りました。すなわち従来は複数のタイヤのカテゴリを設け、その性能バランスを変えることによって安全を担保してきたのです。これらのタイヤの性能を分析していくと着眼したポイントがありました。それはそれぞれの性能項目において路面環境が異なるという点です。具体的には温度の違いと水の有無です。そしてアクティブトレッドでは『路面環境の違いを性能向上に利用できないか』という点に着眼しました」と切り出した。
上坂氏は続けて「アクティブトレッドを搭載したタイヤは晴れの日はドライグリップや燃費に優れた性能を発揮します。そして雨が降ると水に応答してウェットグリップに特化した性能が発生。また、雪が降るとその低温に応答してアイスグリップに特化した性能バランスへとゴムが性能スイッチします。すなわち1つのタイヤであるにもかかわらず、路面環境変化に応答して複数のタイヤ性能を持つのがアクティブトレッドであり、今までのタイヤにない全く新しい発想の技術であります。アクティブトレッドにはゴムが水で柔らかくなるタイプウエットの技術と、ゴムが低温で柔らかくなるタイプアイスの技術があります」。
「タイプウエットの開発コンセプトは『ドライ=ウエット』で、これは晴れの日と雨の日のブレーキ距離を同じにするというものです。従来のタイヤでは雨の日のブレーキ距離は長くなりドライバーは不安を感じますが、アクティブトレッド技術にて雨の日のブレーキ距離を晴れの日と同じものとすることでドライバーの不安を解消することを目指しました」と特徴を解説した。
このあともアクティブトレッド技術の解説が続くが、話にあわせて資料も用意されていたので、資料ごとに分けて内容を紹介していこう。
上坂氏によると「ポイントは3つあります。スイッチの繰り返し、スイッチの時間、スイッチの厚みです。スイッチの繰り返しは晴れと雨のスイッチを繰り返し発現させることに対する技術で、イオン結合の導入により実現しました。スイッチの時間および厚みはゴムに水を素早く浸透させる技術とトレッドの最表面だけをスイッチさせる技術で、それらは材料内の水浸透ネットワーク構造の導入により実現できました。ドライとウェットのスイッチの切り替えに対する技術については、繰り返しを持たせるためにイオン結合を選択しました。このイオン結合水がない状態ではプラスとマイナスが結合しています」。
「一方、水が加わるとその結合は解離します。そして乾燥させると再び結合が戻ります。 このような可逆性のあるイオン結合の適用を進めて参りました。もちろん従来のゴムの結合である共有結合ではこの現象は起こりません」とのことだった。
こうしたイオン結合はゴムの中のどこに配置されるかという点について、上坂氏は「ゴムの中にはポリマーとポリマーの間、またポリマーとフィラーの間とさまざまな結合が存在しています。いずれも硬さを上げることやエネルギーロスを減らすために必要なものです。見方を変えると水でその結合が外れることで、ゴムに軟らかさと高エネルギーロスを生じさせることが可能となります」。
続いてスイッチの時間と厚みの制御に関する技術の説明が行なわれ、「従来からタイヤに使われる素材は水になじみにくい疎水性であります。そのためイオン結合部分にいかに水を供給するかのポイントになります。従来のゴム材料では水は浸透しません。そこにイオン結合を導入すると水に直接触れるゴム表面のイオン結合だけが水に応答します。しかしそれでは浸透が不十分でした。そこで新たに水浸透補助剤を開発しました。この材料をイオン結合部分の間に配置することでゴム中に水の通り道を形成することで実現しました。そして水浸透補助剤の量を調整することで浸透時間などを制御することができました」と解説した。
以上がアクティブトレッド技術説明会の内容だ。質疑応答では予想価格の質問もあったが、現状はテストタイヤができたという段階なので、発売が2024年秋であること以外、価格やサイズ展開についてはまだ未定とのことだ。
このアクティブトレッドはタイヤというものの性質を大きく変える革命的な製品になると予想できる。また、複雑で繊細な特性を量産するためにタイヤの製法や生産ラインの作りから変えていくことも考えられるし、その可能性があることも現場で伺っている。それだけにアクティブトレッド技術についての続報が出たときは、そちらも忘れずにチェックしていただきたい。