レビュー

【オールシーズンタイヤレビュー】ダンロップ「オールシーズンマックスAS1」の実力を雪上で確かめた

ダンロップのオールシーズンタイヤ「オールシーズンマックスAS1」の実力を改めて確認してみた

四季を通して履き続けられるオールシーズンタイヤ

 雪を求めて長野県は白馬村のスキーリゾートを訪れた。といってもスキーやスノーボードを楽しむためではなく、ダンロップの「オールシーズンマックス(ALL SEASON MAXX)AS1」の試乗会に参加するためである。

 その名称からも分かるようにオールシーズンマックスAS1(以下、AS1)は、四季を通して履き続けられるオールシーズンタイヤだ。その登場は2019年の10月と、すでに3シーズンほどが経っているわけだが、その実力を改めて確認してみるのは筆者としても興味深かった。

 というのも相変わらず、今年も非降雪地域では雪があまり降らなかった。北海道や東北地方が記録的な豪雪に見舞われた一方で、私が住む横浜で雪が降ったのは、たった1回。しかもそれが降り積もることはなかった。

ダンロップのオールシーズンタイヤ「オールシーズンマックスAS1」

 備えあれば憂いなしということで筆者は、毎年11月くらいからスタッドレスタイヤに交換し、だいたいこれを3月いっぱいまで履き続ける。しかし、こうも雪が降らないと、筆者とて「ホントにスタッドレス、必要?」と思えてしまう。

 いや、スタッドレスタイヤは必要だ。しかしオールシーズンタイヤを履くことで、「冬支度の面倒から解放されたい」と考えるのは、自然なことだと思うのである。ということで今回はAS1を走らせながら、オールシーズンタイヤの特性を今一度振り返ってみようと思う。

オールシーズンマックスAS1の乗り味は、やや夏タイヤ寄りのフィーリングだ

 長野県は今回の試乗には、確かにうってつけのシチュエーションだった。幹線道路や主要となる生活道路はきちんと除雪が行き届いており、少し山側へと踏み込めば雪がどっさり残っている。折しも試乗時は快晴の空模様で、溶け出した雪が路面を濡らしている場面もあった。

 ドライ路面で味わうAS1は、とても素直ないいタイヤだ。キャラクター的にはスタッドレスと夏タイヤの中間をイメージさせられるが、オールシーズンタイヤの中でもその乗り味は、やや夏タイヤ寄りのフィーリング。スタッドレスタイヤほどトレッド面のゴム量が多くないのだろう、荒れた路面でもバネ下でタイヤがドタドタすることがなく、スーッと転がって行く。逆に夏タイヤよりはゴムが柔らかいため、今回のように寒いときは0℃まで下がる気温でも、走り始めからグリップ感が出せている。

オールシーズンマックスAS1は静粛性が高いのも特徴

 ちなみにその静粛性(パターンノイズ)は、今回試乗車のプリウスが装着していた純正サイズ(195/65R15)をダンロップがテストして63.2db。同社の標準的な夏タイヤ「エナセーブ EC204」が62.9dbだから、スタッドレスタイヤに比べ格段に静かなタイヤだといえる。また215/60R16サイズを履いた試乗車のホンダ ヴェゼルでは、クルマ本来の遮音性も効いているのだろう、さらにノイズが抑えられていると感じた。

オールシーズンタイヤのウェット性能は思いのほか高い

 また筆者はこのAS1をテストコースで走らせた経験があるのだが、そこでの印象もとてもよかった。SUVやコンパクトハッチの車重をしなりながらもきちんと支え、過渡領域でもその滑り出しは穏やか。ケースとゴムの剛性がどちらに偏ることなく絶妙にバランスしており、ベーシックな夏タイヤとしての性能を十分に満たしていると感じた。

 そして筆者が一番推したいのは、AS1(を初めとしたオールシーズンタイヤ)の、ウェット性能の高さである。

 AS1は主溝に流行の「Vシェイプ」を多数配置することで、雪に食い込むトレッドパターンを維持しながら、その排水性をも向上させている。さらにこれを深溝設計とすることで、EC204よりも15%排水容積を増やした。結果ウェットブレーキ性能は、EC204比で10%も向上できたのだという。

水膜をタイヤ側面に効率よく排水し、水膜の侵入を防ぐ「Vシェイプ主溝」と排水容積を確保する深溝設計を採用したことでウェットブレーキ性能を向上させている
幅広センターリブを採用し、アスファルト路面を正確にとらえることで、夏タイヤ同等の操縦安定性を実現したという
スノーフレークマークが刻印されているので高速道路の冬用タイヤ規制でも走行可能だ

 冬場の非降雪地域では雪よりも雨に遭遇する確率の方が高いわけで、このとき主溝が細いスタッドレスタイヤよりも、オールシーズンタイヤを選ぶメリットが出てくるというわけである。そしてもちろん試乗当日も、安心してシャーベット状の路面やウェット路面を走ることができた。

 さて肝心な雪上性能だが、これにはちょっとした注意と心構えが必要だ。

 というのもAS1の場合そのトラクション性能の高さから、「オールシーズンタイヤ、結構イケちゃうじゃん!」と感じてしまうドライバーもかなりいるはずだからである。

圧雪路でもしっかりとグリップしてくれるオールシーズンマックスAS1

 AS1のトレッド中央には、雪に食い込みこれをかき分けるために、への字型に曲がった「スイッチグルーブ」という横方向の溝が配置されている。さらには細かなサイプとカギ状、棒状の溝を組み合わせ、雪の凹凸にタイヤが追従するようにパターンが配置されている。

 これと前述したVシェイプパターン、そしてタイヤそのもののしなやかさが組み合わさることによって、特に4WD車両であれば、かなりきちんとトラクションがかけられるのである。

雪道といっても圧雪、シャーベット、アイスバーンなど、さまざまな路面状態があるので注意しよう

 しかしご存じの通りリアルワールドでは、純粋に雪だけの道なんてない。日陰になればアイスバーンも現れるし、一見上質な雪に見えるその下には、同様に硬い氷の層が隠されていることもある。

 そしてこうした路面のカーブを曲がるとオールシーズンタイヤは、ちょっとヒヤリとすることになる。

 氷の路面(らしき部分)にさしかかったとき一瞬グリップが抜けて、舵が効かないままに軌跡がはらむ。路面状況によっては、ずるりと横滑りする、なんてことが普通に起こる。

 氷を交えた路面では、縦方向のグリップ感に対して、横方向のグリップ感は極端に劣る印象。だからトラクションのよさに気を大きくして、速度を上げないことが大切だ。特に下りのカーブには、注意が必要。コンディションにもよるが今回の路面だと、60km/h道路のカーブであれば、30~40km/hで走らせるイメージであった。

雪道の下りカーブはどんなタイヤでも慎重に走るのが鉄則

 そしてこの氷に対する安全の担保こそが、スタッドレスタイヤを選ぶ最大の理由なのである。柔らかいゴムでゴツゴツした氷面にゴムを吸着させ、細かいサイプで氷とタイヤの間にできる水膜を除去することができるから、スタッドレスタイヤは冬場に安心なのだ。

 ちなみにダンロップがテストコースで計測した数値によると、AS1の雪上ブレーキ性能指数はEC204に対して49%高いが、同社スタッドレスタイヤ「ウィンターマックス02」はAS1よりさらに22%高い。そしてその旋回性能も当然、雪上ではウィンターマックス02に軍配が上がる。

 冬タイヤへの履き替えコストや手間を抑えることができるオールシーズンタイヤ。しかし筆者が一番気にかけて欲しいのは、その性能が、当たり前だが万能ではないということだ。

 たとえば非降雪地域は雪が積もらないとはいっても、溶けた雪が夜中から明け方にかけて凍ることは珍しくない。そしてこうした路面では、オールシーズンタイヤでも歯が立たない。

オールシーズンタイヤは特性をしっかり理解しておけば便利なタイヤだ

 ならばオールシーズンタイヤの冬場におけるメリットは何かといえば、極端にいえばそれは、突然雪が降ったときに「家まで帰れる」ことである。今は天気予報もスマホで分かるし、実際“突然”なんてないだろうが、「やっぱり降っちゃったな」というときに、夏タイヤより格段に安心感高く、帰宅することができる。「それだけ?」と思うかもしれないが、これはとても重要なことだ。

 こうした特性をきちんと理解して使えば、オールシーズンタイヤはとても役に立つタイヤである。そして雪が降ったらクルマには乗らないと判断するのも、非降雪地域での暮らしの知恵である。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:堤晋一