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日立、生成AIによる自動車用ソフトウェア開発の支援技術に関する説明会 「人間と機械、人間とデータが対話できるシステム」とは?

2023年11月21日 実施

日立は新たに「人間と機械、人間とデータが対話できるシステム」を開発した

 日立製作所は11月21日、自動車メーカーや車載器ベンダー向けに、生成AIを活用し、自動車用のソフトウェア開発の効率化を支援する技術に関する説明会を実施した。

 日立製作所 自動車システム本部の大石晴樹氏によると、自動車メーカーおよび車載器ベンター数社にヒアリングを行なったところ、自動車ソフトウェア開発者は、「車載カメラの映像データのワード検索が困難」「映像を含めた車両データの確認時間が膨大」「利用するデータの品質にばらつきが発生する」といった3つの大きな課題を抱えていることが浮かび上がってきたという。

株式会社日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 自動車システム本部 第一システム部 主任技師 大石晴樹氏

 説明会で登壇した大石晴樹氏は、「最近の自動車は多くのカメラやレーダー、LiDARなどが搭載されるほか、コネクティッドやADASなどハイテク化が加速。それにともないソフトウェア中心の車両開発が増加し、今後は車両データの分析結果を反映させたソフトウェア開発が主流になると日立では想定している」と説明。

 続けて、「実際に多くの自動車メーカーや車載器ベンターが、テスト走行などを行なって大量の走行映像データを蓄積しているものの、その中から製品テストに必要なシーンを検索して、その情報データをピンポイントで抽出する作業は、多大な工数がかかっていると考えられる」と現状の課題点について指摘する。

今回の技術を開発するにいたった背景

 今回日立は、その課題を解決するために、車載のカメラ映像から車両画像を抽出し、それを生成AIと独自のプロンプト(指示や質問)によって交通状況を理解させ、交通状況に関する高度な説明文を生成する技術を開発。具体的には、ソフトウェア開発者が「高速道路で黒いクルマが前方を走っているシーン」と自然言語で検索すれば、ビッグデータの中から数秒でそのシーンを抽出してくれる。

 大石氏は、「従来のコンピュータでは、車載映像に説明文を付けようとしても、クルマやバスなど物体は認識できても、交通状況の詳細な説明までは難しく、人が映像を見ながら解説文章を作成するしかなかった。また、生成AIを活用しても『クルマが走っています』といった画像の説明文は作成できても、交通状況の説明までは難しかった」と語る。

日立は生成AIの弱点を克服することで新たなサービスを提供できるとしている
日立は独自に交通状況を理解するためのプロンプトを開発した

 日立ではこの技術について、自動車ソフトウェア開発のライフサイクルのさまざまなシーンで活用することを想定するとしていて、説明文を生成する際の細かい要件に沿ったプロンプトの改善を行なうことで、対象のデータを効率的に収集し、データ分析に活用するデータの準備を行なうことが可能なほか、抽出したデータを教師データ(AIが機械学習に利用するデータ)として活用することで、1つの計算によって生成されたデータが次の計算を起動させ、次々に計算が実行されるデータドリブンでのソフトウェア開発も想定できるという。

 また大石氏は「走行データを紐づけることで作業効率のさらなる向上ができるほか、開発に関する準備データの品質の均一化も図れる」と説明。さらに「今後予想されるエンジニア不足の解消にも貢献できる」と期待ものぞかせた。

 さらに大石氏は、「誤作動や不具合といったデータだけを抽出することも可能なため、ソフトウェアの品質向上にも寄与する」と説明。また今後の展開としては、「直近はSDGsにおける自動車への進化への貢献に注力していく予定なので、2023年度は技術開発に注力し、ソフトウェア開発のコスト圧縮やスピード向上のために実車のテストデータを使いながら高精度な説明文を作る作業に注力し、2024年9月までに製品化とビジネス検討を完了させて事業化につなげたい」と結んだ。

将来的にはこの技術を起点に幅広い領域に活用できると想定しているという
株式会社日立製作所 研究開発グループ コネクティブオートメーションイノベーションセンタ 自立制御研究部 主任研究員 吉村健太郎氏(情報科学博士)

 また日立製作所 研究開発グループ 主任研究員の吉村健太郎氏は、「やりたいことは、人間と機械、人間とデータが対話するシステムです。今センサーデータをどんどん溜めてはいるんですけれども、それで人間が例えば“高速道路を走ったシーンを見たい”とか、“高速道路を雨の日に走ったシーンを見たい”と言っても、それを引き出せないのが現状です。ほかにも、自動運転に向けて各地で実証実験が行なわれて多くの走行データが蓄積されていますが、“○○市を走行したデータ”は引き出せても、『目の前を人がを横切ったシーンが欲しい』『トラックの後ろを追従して走っていたシーンが欲しい』とか、そのときの周辺の交通状況に関する説明は引きだせないのが現状です。そうした部分を補えるのが新たな技術になります」と教えてくれた。

 なお、現時点ではこの技術に関する事業規模や売り上げ目標などは明かされなかったが、2024年9月までに実用化して、自動車メーカーや車載器ベンター2~3社への納入を目標にしているという。さらに将来的には、自動車産業以外の分野への展開も見据えていると明かした。

今後のロードマップ
【日立】生成AIを活用し自動車用ソフトウェア開発の効率化を支援する技術(1分15秒)