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日立、インホイール式EV向けダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」開発
2021年9月30日 12:33
- 2021年9月30日 発表
日立製作所および日立Astemoは、インホイール式EV向けダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」を開発したことを発表した。
モーターが高い駆動力をホイールに直接伝えるとともに、モーターを軽量化することで、パワー密度では、世界トップクラスの2.5kW/kgを実現し、従来のインホイール式で課題だったホイール内の重量増加を大幅に抑制した。
また、ホイール内部に、モーターとインバーター、ブレーキを一体化して搭載することが可能で、サスペンションなどの既存構造を大きく変更せずに搭載できるほか、ドライブシャフトなどの間接機構をなくし、モーターの力をそのままEVの走行に利用することできるため、既存のEVに比べてエネルギーロスを30%低減し、1回の充電で走行できる航続距離を増やすことができるという。4輪合計で240kWのハイパワーを実現しており、パワーが求められるSUVなどへの搭載が可能だという。
日立製作所 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 電動化イノベーションセンタ モビリティドライブ研究部の高橋暁史部長は、「一般的なEVでは、駆動シテスムを前後輪に配置し、その間にバッテリースペースを設けている。しかし、この構成では車内空間が狭くなること、バッテリースペースが限られるという課題があった。これに対して、インホイール式EVでは、ホイールのなかに駆動システムを分散配置でき、バッテリースペースや車内空間を拡大できるメリットがある。だが、ホイール重量が大幅に増加すること、サスペンションやブレーキなどの既存構成部品の大幅な改造が必要になるという課題があった」とし、「Direct Electrified Wheelでは、小型、軽量化により、ホイールおよび車両全体の重量増加を回避でき、従来のホイールサイズにそのまま搭載できる。また、一般的なEVに比べ機械的なエネルギーロスを削減し、省エネルギー化を実現。航続距離をより長くすることができる」と述べた。
また、Direct Electrified Wheelでは、4輪独立制御が可能になることから、デジタル技術を活用してデータを収集し、それをもとにした最適な乗り心地の改善などにも取り組むことが可能だという。
Direct Electrified Wheelの3つの特徴
Direct Electrified Wheelには、3つの特徴がある。1つめは、小型、軽量化とハイパワーを両立するために、磁石の向きを90度回転させるハルバッハ配列を採用。磁極ごとの有効磁束を増加させて駆動力を高めたほか、扁平形状のコイルを開発し、これを高密度に配列することで、溶接スペースを削減でき、モーターを小型、軽量化できた点だ。
また高橋氏は「ハルバッハ配列と扁平コイルの採用により、1輪あたりの出力で60kWを実現し、ホイール部分の重量増加を3割以下に抑制できた」といい、最大トルクは960Nm。供給電圧は420V、最大電流は280Aとなっている。
2つめは、コンパクト一体化技術の採用だ。小型化したモーターに加えて、インバーターとブレーキも一体化。既存のサスペンションなどを大きく変更せずに、ホイール内に搭載できる。また、冷却油によってインバーターのパワー半導体を冷却し、そのままモーターコイルに循環する直接冷却方式を採用。モーターとインバーターの冷却配管スペースの削減につなげている。
「これまでは、インバーターを構成するパワー半導体に冷却水が付着し、漏電することを防ぐため、電気的に絶縁された専用の冷却水路のスペースが必要だったが、冷却油の入口をインバーターに設け、インバーターを冷却したあとに、モーターを直接冷却するシンプルな構造を採用した」と高橋氏。
3つめは、モーターの力をダイレクトにEV走行に利用することで、一般的なEVで採用していたドライブシャフトなどの間接機構から発生する機械的なロスを削減。エネルギーロスを30%低減し、1回の充電で走行できる航続距離を拡大できるという。
現在、開発しているDirect Electrified Wheelは、SUVなどでの採用を視野に入れ、19インチサイズで開発をしているが、日立製作所 研究開発グループ産業機器システム研究部の橋本貴之氏は「小型化も可能であり、シティコミューターや軽自動車サイズ、長距離走行が可能な個人向け乗用車でも活用できる」と述べている。
今回のDirect Electrified Wheelは、日立グループで培った鉄道、エレベーターなどを含めた広範なモビリティ分野の技術開発や製品化の実績を活用。今後、実用化に向けた研究を進めていくという。また、日立Astemoでは、今回開発したダイレクト駆動システムや、これまで培った車両制御技術をベースに、EV向け製品のラインアップを強化し、グローバル展開を進めるという。
Direct Electrified Wheelの実用化の時期については明確にはしなかったが、「今後、信頼性、量産性の検証を行なっていくことになる。モーターやインバーターなどのハードウェア検証のほか、試作車を活用して、国内のテストコースを使用した検証も行なっていく。自動車の使用環境を考え、長期的な信頼性の実現が課題になる。また、製造方法の改善などにより、コストダウンへの取り組みも行なっていく」と高橋氏はいう。
調査会社の調べによると、xEV(EV、PHEV、HEV)の年間出荷台数は年率15%で成長し、2035年には、5000万台に達すると予測されている。そのうち、EVは2500万台が出荷されると見込まれている。現時点ではインホイール式EVが乗用車として市販されている実績はないが、インホイール式EVの実用化は、EVの普及にも弾みをつけることになりそうだ。
同社では、「今回のDirect Electrified Wheelをはじめ、モーターやインバーターなどの電動化技術の革新を通じて、脱炭素社会やカーボンニュートラルの実現にも貢献していくことになる」としている。