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住友ゴム山本悟社長年末記者会見、「アクティブトレッド技術やセンシングコアと成長事業の基盤作りは順調、2024年からビジネスとしてスタートします」
2023年12月15日 20:30
- 2023年12月12日 実施
2024年1月にタイヤ事業本部を新たに設立
住友ゴム工業は12月12日、4年ぶりに対面での年末社長記者会見を実施した。登壇したのは代表取締役社長の山本悟氏、代表取締役専務執行役員の西口豪一氏の2名。
最初に山本社長は2023年を振り返り、不確実性が高い経済環境や、原材料や輸送コストも若干落ち着きを取り戻してきたと事業環境に言及しつつ、今年の自社の活動については、高機能商品の拡販に注力しつつ、構造改革と将来への種まきを推進してきたと報告した。
「新中期計画」の進捗については、ターニングポイントとしている2025年までは、既存事業の選択と集中、成長事業の基盤作りに注力すると説明。2026年以降は事業ポートフォリオの最適化により成長事業のビジネスを拡大させ、事業利益率7%などを掲げる2027年の目標を確実に達成させるとした。
また、新中期計画で最優先課題に挙げている北米事業の改善について山本社長は、「生産改善を進めると同時に、高機能商品の生産構成を増やすことで利益が回復。北米市場で人気の高い『ワイルドピーク』シリーズの増販と、海上輸送コストの低下により、北米事業全体としては計画通り2023年は黒字化を達成できる見込みである」と見通しが明るいことを説明。
既存事業の選択と集中では、10月にガス管事業からの撤退を発表。山本社長は初の事業撤退という判断について、「大いに悩んだ」と振り返った。また、今後も事業ポートフォリオの最適化を図り、対象となる事業商材があるか見極めていくとした。
山本社長は、「自動車関連ビジネスを取り巻く環境が大きく変化をしていく中、変化に迅速に対応できる組織作りを進めてきました。構造改革は当然戸惑いや不安も出ますし、新しく仕事が増えたり、しんどいこともありますが、年初から13ある事業所を順次訪問して、新中計の考え方を直接社員へ説明してまわりました。Q&Aの時間も取ってていねいに対話の時間を取ってきました」とこれまでの対応を説明。
また2024年1月には、新たに「タイヤ事業本部」を設立し、製造技術と販売の一気通貫体制とすることで、迅速な事業推進を実現させるとし、タイヤ事業における責任者の明確化と、ベストなタイミングで全体最適な判断を可能にする組織体制を作りあげるという。そのほかにも、11社ある国内販売会社を1社に統合し、カンパニー体制へ移行することを報告。
そのタイヤ事業本部を取りまとめる事業本部長を兼任する代表取締役専務執行役員 西口豪一氏は、「もうすでに8月の終わりぐらいから、2024年1月の立ち上げに向けて準備は着々と進んでいます。実はこれ2019年に山本が社長になり、2020年の全社プロジェクト「Be The Change(ビー・ザ・チェンジ)」から始まっていた感じがしています。これまでは非常に縦割りが強く、部門の壁が厚かったのですが、4年間でかなり壊せたと思いますが、まだまだの部分もある。製造、販売、技術、管理部門の間にある埋められなかった“ギャップ”や“緩み”を埋めることによって利益を最大化していく。今回タイヤ事業本部を発足させることができたので、2027年の最終決算では3桁億円の上乗せができるようにしたい。ちょっといい感触があるかなと、ようやく弊社もここまでこれたと思っています」と自信をのぞかせた。
新たな武器「アクティブトレッド技術」「センシングコア」
続けて山本社長は、10月のジャパンモビリティショー2023で初公開したアクティブトレッド技術に触れ、「多くのメディアや一般来場者の方がブースにお越しくださいました。アクティブトレッドは、水や温度などにシンクロして性質がスイッチする当社独自のゴム技術で、EVを初めとする次世代タイヤ市場を牽引する技術となり、2024年の秋にはアクティブトレッド技術を一部搭載した次世代オールシーズンタイヤを発売予定です。私は2017年に初めてアクティブトレッド技術のコンセプトを聞いたとき、『それって夢のような、魔法のようなタイヤだね』って思いました。それから7年かかったわけです」と、アクティブトレッド技術を発売できるよろこびをかみしめていた。
続けて山本社長は、「オールシーズンタイヤの市場は、アメリカが先行していて、ヨーロッパもここ10年ぐらいで3割ぐらいまで構成比が増えていますが、日本はまだ数%です。日本の場合、南東北や北関東、雪があまり降らない地域や時々降る地域、そういった場所にベストマッチングのタイヤなので、これから必ず市場が伸びていくと思いますし、私たちはその市場を作ろうと思っています」と思いを述べた。
センシングコアについて山本社長は、「実は入社して営業をやる前の10年間はマーケティング商品開発を担当していて、その終わりぐらいにセンシングコアの母体となるDWS(Deflation Warning System:空気圧低下警報装置)の技術があるということで、実はこの時期からスタートしています。ソフトウェアの空気圧警報装置を何かビジネス化できないかと動いていたのですが、自分はしばらくして営業に異動して離れていました」と振り返った。
そのセンシングコアが、いよいよ2024年から本格的にビジネスとして動き出し、2030年には事業利益100億円以上を目指すほか、現在も「第6の矢」「第7の矢」となる新機能の開発も進行させているなど、「構造改革に取り組む一方で、成長事業の基盤作りとして将来の事業拡大に向けた種まきを進めてきた」と説明した。
そのほかにも、米国バイアダクトが持つAIを活用したタイヤ以外の車両部品の故障予知サービスに、センシングコアから得られる情報を組み合わせることで、車両全体の故障予知サービスとしての実現を目指し、実証実験を開始したこと、中国では自動運転バスの安全安心な運行管理サポートを目的に、センシングコアの路面状態検知機能が活用されるなど、スマートシティ化の実証実験に採用されたと事例を紹介した。
なお、住友ゴムは2024年1月月9日~12日にラスベガスで開催される世界最大級のハイテク技術見本市「CES2024」にブースを初出展し、センシングコア技術を世界に発信すると同時に、2024年からのビジネス拡大に向けて、現地で新たなパートナーになりうる企業とコンタクトを取るという。
EV専用タイヤや新車装着タイヤも好調だった2023年
2023年はEVタイヤのラインアップ拡充にも取り組み、2022年に中国で発売したEVタイヤ「eスポーツMAX」は、すでに中華系自動車メーカーから多くのオファーが来ていると紹介しつつ、今年は欧州市場でファルケンブランド初の市販用EVタイヤ「eZIEX」を発売、日本では国内メーカー初のEV路線バス向け市販用タイヤ「ダンロップeエナセーブSP148」を発売したと報告。
新車用タイヤについては、初の市販用EVタイヤとして転がり抵抗を大幅に改善し、中国でもシェアを伸ばしている「eスポーツMAX」がトヨタ自動車の「クラウンセダン」に、また、高い静粛性と操縦安定性を両立したタイヤ「SP SPORT MAXX 060」がレクサス「RZ」に、さらにスポーツカーに求められる高いグリップ力と安定性能を発揮する「SPスポーツマックスGT600」が、日産自動車のトップカテゴリー3車種「GT-R NISMO Special edition」「フェアレディZ NISMO」「スカイラインNISMO」に採用されるなど、注目車種への導入が相次だと説明。
サステナブルタイヤの開発は、モータースポーツの現場で先行開発を進めていて、3月にサステナブル原材料比率38%のレースタイヤを、10月にはサステナブル原材料比率43%のEVカート用タイヤを投入したことを紹介。ジャパンモビリティショー2023では、サステナブル原材料比率80%のコンセプトタイヤも発表している。
最先端設備や水素エネルギーの活用やカーボンニュートラルの実現
11月には次世代放射光施設「ナノテラス」の活用を発表していて、世界最高クラスの高輝度X線を用いて、ゴムのこれまで見えなかった部分の解析を進めることで、「アクティブトレッド技術の進化にも活用できると期待している」と山本社長。
また、タイヤ事業におけるサーキュラーエコノミー構想「TOWANOWA」では、8月に住友理工、住友電工と3社で協業し、米国のバイオ技術会社ランザテック(LanzaTech NZ,Inc.)との共同開発を発表。サプライチェーン全体のカーボンニュートラル達成への取り組みをさらに加速させるべく、新たにスコープ3の2030年温室効果ガス排出削減目標を設定している。
さらに今年は、白河工場(福島県)に設置した水素ボイラーと太陽光発電による自然エネルギーを活用し、量産タイヤの生産に成功。山本社長は、「福島県浪江町の再生可能エネルギーを利用した水素製造施設である福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)から、水素の供給を受けることもできました」と、タイヤメーカーとしていち早く水素エネルギーを活用していることをアピールした。
2024年に向けて3つの全社方針を設定
最後に山本社長は、2024年の方針について、将来のEV化対応やサステナビリティ長期方針の各施策実行に必要な投資をまかない、自社の競争力を維持向上させていくため、長期的に利益を出し続けられる経営基盤を作るとともに、中期計画2年目として構造改革と成長戦略のさらなる推進、収益体質強化、健全で強固な組織を作るため、「全社で全社一丸で変革を推進し、中期計画の取り組みを加速しよう」「ありたい姿の実現に向けてイノベーションを推進しよう」「多様性を尊重し、組織力を高めよう」の3つを全社方針を説明して、会見を締めくくった。
全社で全社一丸で変革を推進し、中期計画の取り組みを加速しよう
中期計画では2025年をターニングポイントとしていて、過去からの課題に真正面から向き合い、既存事業の選択と集中に注視注力する一方で、将来に収益向上が見込める収益事業成長事業にリソースの再配分を実行。
ありたい姿の実現に向けてイノベーションを推進しよう
未来をひらくイノベーションで、最高の安心とよろこびを作るというフィロソフィーのパーパスを実現するために、急激に変化する世界市場の中でイノベイティブな技術力、発想力で安心よろこびを生み出す必要があり、世界初の技術や商品といった先進性をこれからも発揮し、ありたい姿の実現に向けて変化を先取りし、新しい価値を生み出す。