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日下部保雄の三菱自動車新型「トライトン」解説 ピックアップトラックの静かなブームがはじまった

2024年2月15日 発売

498万800円~540万1000円

三菱自動車工業株式会社 CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)の増田義樹氏(右)と筆者

 三菱自動車工業のピックアップトラック「トライトン」がいよいよ日本で発売される。すでにプロトタイプの試乗は帯広にある十勝研究所に隣接したオフロードコース「TOKACHI Adventure Trail」で行なわれ、三菱自動車伝統の頑丈さと4WD性能を体感した。試乗記はそちらを参考にしていただき、この稿では新型トライトンの全容をお伝えする。

 トライトンはグローバルで販売される三菱自動車の主力車種ともいえるピックアップトラック。1978年のトライトンの前身である1t積ピックアップトラック「フォルテ」から数えて560万台超を販売してきた重要なモデルで、タイを中心としたアジア、中東、北米、南米と幅広く展開され世界約150か国で販売されている。生産は主力市場であるタイ工場で行なわれる。

 今回のトライトンは9年ぶりにフルモデルチェンジした6代目で、市街地での乗りやすさを持ちながら、どんなところにも行ける三菱自動車らしいタフなクルマを作るためにラダーフレームから作り直したまさにフルモデルチェンジで、2024年2月15日の発売を予定している。

 ボディサイズはこれまでよりもひと回り大きく、居住性が向上した。日本に導入予定のダブルキャブでは後席のレッグスペースも広く、着座姿勢に無理がない。大人3人が乗っても十分なスペースがあり、長距離移動も苦にならないだろう。海外ではダブルキャブ以外にシングルキャブ、前席の後部を伸ばして荷物スペースとしたクラブキャブも用意されている。

 サイズは全長では5mを超え、全幅も1.9mと1t積としてはかなりの大型ピックアップトラックだが、最小回転半径は6.2mとこのクラスのロングホイールベース車としては小さい。主戦場たるアジアで必要とされるサイズとなり、ずばりライバルはトヨタ「ハイラックス」だ。

 デザインはダブルキャブ後部が切り落とされた特徴的な形は継承し、強さを表現したフロントマスクは3連LEDランプをL字型に配したデイライトとプロジェクターヘッドライトで存在感を持たせた。しかしどこか親しみのあるデザインがトライトンの強みだ。平板になりがちなボディサイドも流れるようなプレスラインで飽きさせない。

上級グレード「GSR」のボディサイズは5360×1930×1815mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは310mm。大きくて存在感あるピックアップトラックだが、最小回転半径は6.2mにとどめた
標準グレードの「GLS」。ボディサイズは5320×1865×1795mm(全長×全幅×全高)

 まず耐久性の基本となるラダーフレームは、従来型より断面積を65%増やすことで曲げ剛性は60%、ねじれ剛性は40%向上した。これが運動性と耐久性に劇的な変化をもたらした一方、ハイテン鋼の採用拡大で重量増を抑えることができた。このハイテン鋼はボディにも広く使われ、合わせて重量増を抑えている。フレームでは特にフロント部の形状変更が大きな効果を上げ、衝突対応も格段に向上している。

 サスペンションはフロント:ダブルウィッシュボーン、リア:リーフリジットと形式は変わりはないが、フロントのストロークはアーム位置を変えることで20mm長くなり、悪路走破性はもちろん、乗り心地も大きく向上した。リアのリーフスプリングは強靭な軽量部材の3枚リーフで軽量化するとともに、ストロークアップでしなやかなサスペンションの動きを実現した。前後のショックアブソーバーもサイズアップされて市街地から悪路まで乗り心地と走破性が向上した乗りやすいピックアップトラックだ。

サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン式を踏襲しつつ、アッパーアーム取り付け部を上方に移動したハイマウントタイプを採用。リアサスペンションは強度を維持しながら軽量化したリーフスプリング式とした

 またパワーステアリングは油圧から電動となり、燃費の向上とともに悪路でもキックバックの少ないステアリング系を実現している。

 一方、エンジンは日産とのアライアンスの中で生まれた新開発の直列4気筒DOHC 2.4リッタークリーンディーゼルターボ「4N16」型。最大トルクは470Nm(47.9kgfm)/1500-2750rpmと幅広い回転で大きなトルクを出す。最高出力は150kW(204PS)/3500rpm。タービン容量が変わる2ステージターボとなっている。燃費はWLTCモードで11.3km/L。実用燃費の高いディーゼルには期待が高い。

 トランスミッションはスポーツモード付きの6速AT。耐久性に実績のあるワイドレンジのトルコンATで4WDと組み合わされる。「パジェロ」や「ランサーエボリューション」から受け継いだ4WDシステムは、三菱自動車ではスーパーセレクト4WD-II(SS4-II)と呼ばれ、プロドライバーの技術をクルマが容易に行なう。

新開発の直列4気筒DOHC 2.4リッタークリーンディーゼルターボ「4N16」型エンジンの最高出力は150kW(204PS)/3500rpm、最大トルクは470Nm(47.9kgfm)/1500-2750rpm

 4WDシステムの基本は後輪駆動の2Hか、4WDの4H。これはフロント:40%、リア:60%のトルク配分を基本とする。そしてセンターデフ直結でトラクション重視の4HLcと、ローギヤに固定する4LLcの4種類がある。

 通常は4Hでドライから雪、泥道までのオールマイティなモードだが、さらに路面に適した6つの駆動力配分が行なえる。操作が簡単で分かりやすいダイヤル式のドライブモードで変えられ、「NORMAL」を基本に、「GRAVEL」「SNOW」「MUD」「SAND」「ROCK」、加えて「ECO」がある。例えば「SNOW」では2速発進を行ない、「ROCK」では最強のトラクションが得られ、難しい岩場でも高い走破性を見せる。

 これを可能としたのはABSを進化させたアクティブLSDとセンターデフに使われるトルク感応型LSD(トルセンデフ)。前後左右のトルクコントロールが自在に行なえ、どんなタフな路面でも走破できる。三菱自動車の4WDシステムの真骨頂だ。さらにランサーエボリューションで開発されたアクティブヨーコントロール(AYC)でピックアップトラックとは思えない優れたライントレース性を発揮できる。

 また操舵力の軽い電動パワーステアリングは、大きなクルマとは思えないほど扱いが容易だ。車幅を確認しやすい運転席からの視界のよさは市街地でも運転がしやすい。

 通常ピックアップトラックは荷物を搭載するためにリアサスを硬められるが、前述のサスペンションのストローク、ショックアブソーバーの性能向上で、想像以上にしなやかでソフトだ。後席もシートバックを寝かせることができるのもありがたい。

 新装備としてコネクティッドサービス「MITSUBISHI CONNECT」を標準装備としているほか、ADAS系はレーダークルーズコントロールシステム「ACC」、踏み間違え防止ブレーキ、ふらつき防止装置、後退時車両検知をはじめとした充実した機能を標準装備する。

インテリアでは水平基調で力強い造形の「HORIZONTAL AXIS(ホリゾンタル アクシス)」コンセプトを進化させたインストルメントパネルを採用。フロントピラーを立ててドア開口部を広げ、さらにサイドステップの幅を広げるなどして乗降性にも配慮した

 基本的な仕様は各国同じだが、輸出先の法規対応に準じて若干異なる部分もある。日本導入モデルはハイスペック仕様で価格は標準グレードの「GLS」が498万800円、上級グレードの「GSR」が540万1000円となっている。近々の日本市場ではハイラックスに続き2台目の本格的ピックアップトラックだ。実はこのカテゴリーも静かなブームが起こっている。

アジアクロスカントリーラリー(AXCR)2023に出場したトライトン(レプリカ)
こちらは用品装着車(GSR)。エクシードバイザー(5万2800円)、アンダーライドプロテクション(4万4000円)、トレーラーヒッチメンバー(16万5000円)、テールゲートアシスト(2万7500円)、電動トノカバー(50万6000円)、ホイールアーチモール(16万5000円)、フューエルリッドガーニッシュ(2万2000円)、ドアハンドルプロテクター(8800円)、サイドドアガーニッシュ(8万8000円)などを備える