ニュース

EVと業務用空調の協調制御で電力ピークカット 日産、ダイキン、TIS、マツモトプレシジョンら実用化検証開始

2023年12月19日 公開

ピークカットで年間100万円〜150万円の電気代削減も

 日産自動車、ダイキン工業、TIS、マツモトプレシジョンの4社は12月19日、大容量バッテリを搭載するEV(電気自動車)と業務用空調を協調させる新たなエネルギーマネジメントシステムの実用化検証を開始した。同日、マツモトプレシジョン本社工場の施設(福島県喜多方市)が公開された。

 実用化検証では、クラウド技術を活用しながら、EVの充放電を自律的に行なう日産の制御システムと、ダイキンの高効率空調機と空調制御デマンドシステムを組み合わせ、EVに搭載されるバッテリと業務用空調の協調制御によって、工場で使用する電力のピークカットが実現できるかなどを検証する。

 同実用化検証は、4社が参画している市民中心のスマートシティ実現を目指すAiCTコンソーシアムのもと行なわれるもので、工場で使用する電力のピークカットで電力コスト削減を実現することにとどまらず、電力の需給調整機能を備えることで再生可能エネルギーを有効活用し、エネルギーの地産地消を目指そうというものになる。

 実用化検証が行なわれるマツモトプレシジョンの施設には、太陽光発電パネルやダイキンの業務用空調機が導入されており、大容量バッテリを搭載するEVの充放電制御システムと、業務用空調のエネルギー制御技術を協調させ、工場で使用する電力のピークカットを実現させつつ、EVのモビリティとしての利便性を確保、空調による職場環境の快適性も損なうこともなく、効率的なエネルギーマネジメントの実現を目指す。

EVの充放電制御システムはさまざまなメーカーのEVにも対応する
ダイキンの空調システムを導入

 実用化検証で使用される車両は、マツモトプレシジョンが社用車として保有するEVの3台「アリア」「リーフ」「サクラ」と、従業員が通勤に利用するEVの1台「サクラ」、計4台を使用。EV4台で実現する、電力のピークカットによる電気代削減は年間100万円〜150万円と試算している。

日産自動車株式会社 常務執行役員 土井三浩氏

 説明会会場では、日産自動車株式会社 常務執行役員 土井三浩氏より実用化検証についてのプレゼンテーションがあり、土井氏は「経済的な面で1つ大きいのは、電力の契約電力というのは、年間のピーク電力で決まり、そのピーク電力のところのいわゆる"ピークカット”ができるのが、今回の仕組みの経済的なメリットだと思っています。夏のピークの時に、グリッド側の電気を使うのではなくて、電気自動車側の電気を施設側に供給することで、ピークカットを行なう。その後に年間の契約電力を下げるということができ、導入される企業さんにとっては、そういった経済メリットやCO2削減のメリット、両方が得られる仕組みになると思います」と話した。

施設に用意されたモニターで空調の稼働状態を確認できる
クラウド技術を活用して予想電力などの情報を確認できる

地域全体での脱炭素化やエネルギーの安定供給を行なう国内初の取り組みに発展へ

 今回の実用化検証に取り組む4社は、いずれも会津若松市で市民中心のスマートシティ実現に取り組むAiCTコンソーシアムに参画し、エネルギーの効率的な利用を通じた循環型社会の実現に向けて連携を強化する中で、プロジェクトの実施に至った。

 再生可能エネルギーについて、土井氏は「昨今、カーボンニュートラルを目指して各地域で、いわゆる再生可能エネルギーの導入が進んでおります。しかしながら、再生可能エネルギーというのは皆さんご存知の通り、例えば太陽、それから風力を含めて、安定しているわけではないということ。太陽であれば昼はいいけど夜は電力を作れないとか、風力は風が吹いてる時しか電力を作れないということで、常に変動が起きているということです。それから、それを使う側の需要家ですね。需要家も家庭、工場、それから、ビジネスをやっているビル、これらはやはり使う電力が一定してるわけではなくて、変動しているということです」と指摘。

 そうした中で、今回のプロジェクトについて土井氏は、「この2つの変動しているエネルギー同士をどうやって調整するかということ、バランスさせるかというところが今回のポイントで、そこに必要なのが需給の調整力ということになります。今日の取り組みというのは、この需給の調整力をここにいるメンバーで作り出すということ。そこに供するリソースは、電気自動車からのエネルギー、それからビルの空調をコントロールするマネージメントいうことになります」と話すとともに、「今日集まっているメンバーは電気自動車と電気自動車の制御技術を持ちます日産自動車、それから空調機器と空調の制御技術を持つダイキン、電力のアビリエーションをする技術を持ちますTIS、そして環境の価値経営をいち早く取り組んでおられますマツモトプレッションという、この4社がAiCT コンソーシアムの下で集まって、業界横断の取り組みをするということでございます」と説明した。

 実用化検証の場となるマツモトプレジジョンについて、土井氏は「マツモトプレジジョンは非常によいロードマップを持っておりまして、ステップ1でまずエネルギーを作るというところ、それからステップ2で省エネ電化いうところに取り組み、そして最後の第3ステップで、再エネを効率的に使う、そして地域の社会に貢献するという、こういったビジョンをお持ちだったということで、この4社がそれぞれの思いに共感するとこがありまして、1年以上いろいろな論議を重ねてきました。 目指すところは、マツモトプレシジョン1社の電力の有効活用とか、電力代の削減ということを超えまして、ここを第1歩にしてこの地域の省エネ、カーボンニュートラル、そして効率的な電力の利用というところに横展開をしていくというところが今回のこのグループの目指すところであります。今日は第1歩で、ここで終わるわけではありません」との意気込みを話した。

 将来的には、今回の取り組みをベースに将来のVPP(バーチャル・パワー・プラント:仮想発電所)プラットフォームとしての活用を目指し、TISのICT基盤技術を組み合わせたデータ解析や検証も行なわれる。

 また、今回の実用化検証ではEV4台による運用が行なわれるが、運用台数が増えるほど電力の調整能力は増すという。エネルギーの効率的な利活用においては、EV使用者の積極的な参加が不可欠とし、会津地域で利用可能な地域通貨「会津コイン」と連携し、電力ひっ迫時にマツモトプレシジョン従業員のEVから電力供給をした場合に、「会津コイン」のポイントを付加する仕組みの導入も検討している。

 同説明会には、実用化検証に参加するダイキン工業 空調営業本部 副本部長 松田哲氏、TIS 産業公共事業本部 エネルギー社会基盤事業部 事業部長 瀬貫博文氏、マツモトプレシジョン 代表取締役社長 松本敏忠氏や、AiCT コンソーシアム 代表理事 兼 アクセンチュア マネジング・ディレクター 海老原城一氏、喜多方市長 遠藤忠一氏らが、実用化検証に対する期待感を述べた。

 マツモトプレシジョンにおいて実用化検証に取り組む新たなエネルギーマネジメントは、今後、喜多方市や会津若松市にある公共施設への導入も視野に入れており、地域全体での脱炭素化やエネルギーの安定供給を行なう、国内初の取り組みに発展させていく予定としている。

ダイキン工業株式会社 空調営業本部 副本部長 松田哲氏
TIS 株式会社 産業公共事業本部 エネルギー社会基盤事業部 事業部長 瀬貫博文氏
マツモトプレシジョン株式会社 代表取締役社長 松本敏忠氏
一般社団法人 AiCT コンソーシアム 代表理事 アクセンチュア マネジング・ディレクター 海老原城一氏
喜多方市長 遠藤忠一氏