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日産と日立ビルシステム、軽バッテリEV「サクラ」で停電時のエレベーターを動かせるか実証実験を実施
2023年1月27日 20:28
- 2023年1月26日 開催
日産の軽EV「サクラ」の電池容量の約半分でエレベーターを10時間稼働
日産自動車と日立ビルシステムは1月27日、都内の日立ビルシステムの事業所において、バッテリEVの電力でエレベーターを動かす実証実験の様子を報道向けに公開した。これは停電時に有効で、2023年中の実用化に向けて準備を進めていくという。
今回の実証実験では、20kWhのバッテリを搭載し、満充電した日産の軽EV「サクラ」で、日立ビルシステムの標準型エレベーター「アーバンエース HF(9人乗り)」を動かすというもの。通常は分速60mほどで動いているが、実験ではその半分となる分速30mほどの低速運転モードで実験していた。
実験では10時間、1階~6階まで各階に停止する運転を継続して行ない、合計263回往復した。その結果、10時間動かした場合でも、バッテリの充電量は100%から46%までの消費に抑えられていた。
当初は、日立ビルシステムが所有する社用車の日産「リーフ」で開発を進めていたが、現在、人気車種で20kWhのバッテリを積むサクラでも、実用的な時間の給電が可能なことを確認するテストとなった。日立ビルシステムでは、2023年度中に実用化する見込みというほか、バッテリの限界まで使用する実験などを行なっていくという。
EV給電用の特別な運転プログラムを開発
EVからエレベーターに電気を供給する仕組みは、CHAdeMO対応で三相200Vからの充電と放電に対応したV2Xシステムを用意。EVから10kVAの電力を得て、エレベーターのシステムに供給する。実験に利用した日立ビルシステムのアーバンエース HFは、定格で10kVAよりもさらに大きな電力が必要なため、低速運転モードでの運転とした。
エレベーターが動き始める起動時には一時的に大きな電力が必要となるため、単に低速にするのではなく、EVからの供給電力内で安定的に稼働するようモーターの出力を調整する特別な運転プログラムが必要となる。日立ビルシステムの担当者によれば、開発スタート時、EVからの給電ではまともに動かず、この制御が独自のノウハウになっているという。
また、停電時にEVからの電力で動かしたとしても、EVからの供給電力には限りがある。バッテリ容量がなくなってしまった場合に突然止まってしまうと、エレベーターの閉じ込め事故につながってしまう。
そのため、容量が少なくなった場合にエレベーターを安全に停止させたうえで給電を停止する必要がある。EVと通信して蓄電量を把握しているV2XシステムであるEV用パワーコンディショナーから蓄電量の情報をもらい、エレベーターの制御に関連付けられるよう、パワーコンディショナー側のソフトウェアの変更も必要となる。
さらに、停電時にエレベーターへ供給する電力線を電力会社からきたものから、EVからの電力線に切り替える必要があるが、これは手動にするのか、自動にするのか、そして、エレベーター以外に給排水ポンプなどの機器への給電はどうするのか、などは、エレベーターを管理する管理会社などの意向次第なので、必要に応じて実装するとしている。
今回は日立ビルシステム 亀有総合センターにあるエレベーターを利用したため1階~6階までの往復としたが、さらに高層のマンションやビルにも対応は可能とのことで、エレベーター自体の消費電力は何人乗りかという「カゴ」の大きさに左右され、稼働可能時間が変化するが、導入は可能としている。
また、対応するエレベーターだが、新規に設置するもののほか、比較的新しい機種にも対応する。その理由としては、モーターなどが消費電力を細かく制御した運転に対応するかどうかで、日立ビルシステムでは、今後、既存機種へ対応する開発を進めていくという。
建物とクルマがつながっていくことは、今後も推進
発表会では、日産自動車の常務執行役員 神田昌明氏があいさつ。神田氏は2010年に国産量販車で初めてのEVのリーフを販売し、走る蓄電地として給電やいろいろな研究、実験をしてきたという。今回の日立ビルシステムとの共創については、「時代の流れの中で走る蓄電池としてのことをもっと多くの方にご理解をしていただきたい、という思いがある」と意義を語った。
さらに神田氏は「災害時にはバッテリEVを提供し、避難所の方に給電してスマホの充電などに使ってきたが、今回、EVの給電で10時間エレベーターを動かし続けられるのかということに成功できた」と喜び、「建物とクルマがつながっていくことは今後も推進していきたい」と希望を述べた。
小さいバッテリEVでもエレベーターが動くかどうか実験したかった
日立ビルシステム 取締役の高橋達法氏は、今回の実証実験の概要を説明するとともに、最近の寒波、地震、局地的な豪雨など、激甚災害が多くあることを指摘。「北海道の胆振地区の地震によって発生した日本初のブラックアウトもあり、日本は停電が起きないという前提が崩れてきている」と語り、「大規模停電においてエレベーターの停止がかなり増えることは、われわれにとって課題」と開発の背景を説明した。
今回サクラで実験したことについて高橋氏は「(サクラが)大好評だということと、一番小さいバッテリEVでも、ちゃんとエレベーターが動くのか、ということを実験したかった」とし、「実証実験を繰り返していきながら、実用化に向けて加速していきたい」と、今後さらに連携を強めていくと語った。
なお、バッテリEVからの給電を実現するための費用について高橋氏は「建物の設備で、システムを入れるにあたって電源の切り替え工事など数多くの工事が発生するため、いくらとはいいにくく、個別対応という形になる」と明言は避けた。