ニュース

トヨタ 豊田章男会長にダイハツの認証不正問題について聞く 「174項目をしっかり説明していく。間違えた認証についてはやり直していく」

全90万件を精査して、25の試験項目における174個の認証不正があったダイハツの認証不正問題

全90万件を精査して、25の試験項目における174個の認証不正を洗い出し

 トヨタ自動車は12月20日、ダイハツ工業が発表した認証申請における追加不正行為に関する発表を受け「ピクシス エポック」「コペン」「ピクシス バン」「ピクシス トラック」「ライズ」「ルーミー」「タウンエース」「プロボックス」などにおいて、新たに不正行為が確認されたと発表した。

 同日、ダイハツ工業 代表取締役社長 奥平総一郎氏、同代表取締役副社長 星加宏昌氏、トヨタ自動車 代表取締役副社長 中嶋裕樹氏が記者会見。会見ではダイハツ経営陣の責任や、認証不正が起きた背景、今後の対応が語られ、トヨタ 中嶋氏からはトヨタ自動車も全面的に認証不正問題に対応していくことが語られた。

ダイハツの認証申請における不正に関する調査結果

 今回の認証不正問題の背景には、認証現場でのリソース不足があり、2014年以降に海外車種展開が広がっていく中での負荷増大があったとされている。トヨタ 中嶋副社長は「2014年以降、小型車を中心に海外展開車種を含むOEM供給車が増えたことが、開発、認証現場の負担を大きくした可能性があること、認識できておりませんでした。トヨタとして深く反省しております」と述べ、174個についてダイハツとともに車両の安全性の環境性能の確認作業に取り組み、「乗員救出性に関する安全性能(ドアロック解除)」が法規に適合していない可能性を見い出した。

 これらは、全90万件を精査して、25の試験項目における174個の認証不正を洗い出し、174個に関しては再度検証を行ない、検証データについては第三者認証機関である「テュフ・ラインランド・ジャパン株式会社」での確認も行なっている。

 もちろん、日本の道を走るためには国土交通省の認可が必要で、現在はこれらの膨大なデータを国交省とともに再度精査して、間違った過程で行なった作業を正しいルールに乗せていく段階にある。その中で、リコールが必要となる部分についてはリコールが行なわれることが会見でも示唆されていた。

トヨタ自動車株式会社 中嶋裕樹副社長

 一連の発表や会見で印象的だったのは、トヨタ 中嶋副社長が語った「トヨタグループも残念ながら完璧な会社ではございません。間違ったことがあれば立ち止まり、ごまかさず、うそをつかず、誠実にその事実に向き合い、必要なときにはすぐ公表し、みなさんと共有させていただきながら進めていく」ということ。これは、普段から豊田章男会長も語っていることで、「間違ったことがあれば立ち止まる」ことが、トヨタとしてはできている部分だったが、ダイハツとしてはできていなかったことになる。

 この「間違ったことがあれば立ち止まる」というのは、TPS(トヨタ生産方式)ではアンドンという仕組みに反映されており、生産ラインの誰もがアンドンのひもを引く権利を持っている。生産ラインで間違ったことがあればアンドンが引かれ、上司などが集まり、みんなで問題を解決して生産ラインを再開させる。この一人一人がラインを止める権利を持っているというのがTPSの特徴でもあり、TPSをソフトウェア開発に応用したアジャイル開発でも一連のプロセスがスクラムとして提言されている。

 今回のダイハツの認証不正問題では、現場の部署が追い込まれたときに「間違ったことがあれば立ち止まる」ことができず、間違ったものを後工程に流した結果、さらなる大問題に発展した。つまり、TPSがDNAとなっているはずのトヨタグループにおいて、アンドンが引かれなかった(引けなかった?)ことになる。

 これはなぜなのか? ここが今回の問題の原因の一つではないのか?と思い、トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏に聞く機会が会見後あったので、直接質問してみた。

 記者の質問は、「ダイハツの認証不正問題では、なぜアンドンは引かれなかったのか?」であったのだが、その短い質問に豊田会長はTPSの考え方、生産現場でのTPS、事務・技術系現場でのTPSという形で答えてくれた。

豊田章男会長が語る、TPSの考え方、生産現場でのTPS、事務・技術系現場でのTPS

12月19日、タイで行なわれた協業基本合意書締結式。左から、中嶋裕樹CJPT代表取締役社長(トヨタ副社長)、Soopakij Chearavanont CP会長、佐藤恒治トヨタ社長 兼 CEO、Dhanin Chearavanont CP上級会長、豊田章男トヨタ会長、Roongrote Rangsiyopash SCG社長 兼 CEO、Suphachai Chearavanont CP CEO、Kachorn Chiaravanont True Leasing Co., Ltd.社長 兼 CP執行役員

 生産現場ではそれ(アンドンを)は機能します。引っ張っても「だれが止めたんだ! お前の責任だ!」と言われないからです。引っ張らず、不良品を流すことの方が怒られる。引っ張って(ラインを)止めることは、ほめられるのです。

 アメリカに最初に出て行ったときには、「引っ張って止めるの、大丈夫?」っていうが、NUMMI(トヨタとGMの合弁会社)の最初に苦労したところです。

 ところが、この手の仕事(認証関連の仕事)は止めるということで怒られると思うのです。それは、普段の従業員の接し方、「Bad News Fast」という言葉があります。「Bad Newsを持ってこい」とか言われますよね。僕も昔言われました。本当に持って行ったら、叱られました。

 そうすると二度と持って行きませんからね。「Bad News」を持って行ったときに、「よく持ってきてくれた」と言われたら、安心して持って行きますよ。でも、最初にそれを言われなかったらちゅうちょするのです、人間は。

 生産現場はそれ(Bad News)がほめられるという実績がものすごくできている。でも、ここの場合はそれがない。生産現場、技能職職場ではそれ(Bad News)が成り立ちます。でも、事技系(事務、技術)が入ってきたときにはだめになる。

 工程がしっかり、はっきり分かっていない職場。工程が分かり、原単位がしっかりし、タクトタイムと言われる必要処理に合わせてどのくらいのスピードですればよいのか分かっているところではできます。遅れも挽回できるし。

 ところが普通の開発現場は工程すらはっきりしないところもある。そういうところでは、いくらトヨタグループとはいえ、それはなかなか。ほかに比べればできているところがあるかもしれません。

 でも、どういう上司がそこにいるか、というところです。さらに上の人が、「こういうこと(Bad News)は言いなさいよ」ということをやっているかどうかというところが30年間、そういうことをやっていなかったことになります。今回は。

 (それができていなかったので)今からそういうことをやるしかないのです。

 トヨタでも事技系のTPS活動をやりはじめたのは、ここ3、4年です。組合との話し合いのときに、「今回ほど、ものすごく距離感を感じたことはない」と語って以降になります。

「異例の展開」~埋まらぬ溝~ トヨタ春交渉 2019(トヨタイムズ)

https://toyotatimes.jp/report/roushi_2019/010.html

 事技系職場に対しても、「まず工程でものを見よう」「異常管理と普通の管理」を伝えています。管理者は「管理しろ」と言われるのですが、TPSの世界でやっているのは「異常管理」になります。

 異常管理=正常ではないと分かるから、異常だけ管理すればいいのです。そうすると現場で、「あ、間違えた」というのが分かるから、管理者に相談しやすい。それができているのは、技能系職場なのです。

 事技系職場は、何が正常かよく分からない。納期がときどき代わるし、上司の気分によって代わる場合もある。そういう職場においては、異常管理ができないのです。

 でも、「工程でものを見ようね」「なにが正常かをしっかりやろうね」とやってから、ものすごく事技系職場でも、ちょっと進みつつあると思います。

 私がTPSと言うと、「効率化」とほとんどTPSを理解していない人が言うのです。「TPSの目的は効率化でしょ」と。僕は長年生産調査部でやってきた立場から言うと、「TPSの本当の目的は仕事を楽にすること」です。「楽(らく)」と書いて、「楽(たの)しい」となります。「やっている仕事は楽しいのか?」「まず自分が楽しくしよう」と言ってから、事技系職場もやってみようかなとなりつつあります。

 工程でものを見て、なにが正常かをはっきりし、異常管理をできるようにする、これが第一歩です。その次は、仕事のプロセスがはっきりしたら、どこかで仕事が分岐合流して、情報が滞留している(箇所がある)。情報の優先順位が分からないでしょ、というところをはっきりさせることで、情報が整流化し、仕事がスムーズに進むようになる。結果、仕事のリードタイムが短くなります。短くなればPDCAのサイクルが早くなる、異常が分かっているからカイゼンが進んでいく職場になる、というのが少しずつ理解されている。

 もともと(事技系)では、ないのです。

 納期が決まれば、仕事のある程度の順番ができる。では、次はこうやってみよう、あ、これちょっと間違えたね。では、次はこうしよう。これが開発がアジャイルに進むのと同様、仕事のやり方も変わってきた。

 一番が(スーパー耐久で取り組んだ)水素の充填の仕方。前段取り、本段取り、後段取りを考えれば、絶対短くなりますから。

 結局仕事は一個一個するしかない、それが同時に来る。いろいろな仕事が納期も分からず滞留する、「どれを先にやるのだ?」と。「全部やれ」と言われる。

 安全、品質、量というのは、私が社長をやる前は全部やれと言われていた。私は順番を付けました。安全、どれもがんばっているけども安全が一番優先です。次に品質です。それで、量を追い、最後は原価です。

 ところが社長になる前は、収益、量が優先だったのです。今でも、収益、量を出す人はほめられます、だから上のスタッフには安全と品質をほめろと言っています。

「174項目をしっかり説明していく。間違えた認証についてはやり直していく」

 ダイハツとトヨタの共同会見では、業績に関する影響について何度か質問があったが、クルマユーザーとして一番気になるのは、今ダイハツに乗っている人はどうすればよいのか、ダイハツ車を注文している人はどうすればよいのかということ。

 ダイハツの親会社であるトヨタの豊田会長にその点を聞くと、「認証において不正があったことについてはお詫びします」と語り、ユーザーに迷惑をかけてしまっていることは申し訳ないという。その上で、「まずは、174項目をしっかり説明していく。間違えた認証については、やり直していきます」と語り、認証不正項目を精査することで正しいレールに乗せ直す作業についてトヨタとしても取り組んでいく。

 全90万件を精査した結果、174項目の認証不正が洗い出され、1件のリコール可能性も見つかっている。そのため、「(リコールが発生した場合)リコールについては速やかに(ディーラーなどで)入れていただきたい。リコールの内容はしっかりと聞いてくださいという段階です」と言い、「どうしても不安になってしまう部分はあります」と、不安を解決するためにまずは正しい情報をしっかり受け取ってほしいとのことだった。

 ダイハツ工業は、Webサイトのトップページにおいて「認証申請における不正行為に関するお問合せ(専用ダイヤル)」を告知。ダイハツ車ユーザーであれば、ディーラーや専用ダイヤルから正しい情報を手に入れ、ダイハツ車に乗る上での不安の原因を確認することが可能だ。

 また、ダイハツは第三者委員会による調査報告書をWebサイトで公表しており、「調査報告書(概要版)」と「調査報告書」の2つを誰でも見られるようにしている。とくに正式な調査報告書では、クルマの開発過程を知ることができ、膨大な仕事の積み重ねでクルマが作られていることが理解できる。

 今回は、その過程の中で「間違ったことがあれば立ち止まる」ことができなかったがゆえに、間違った後工程が行なわれ、ユーザーを不安にさせ、取引先に迷惑をかけ、90万件の精査や国交省への再審査など膨大な仕事が発生し続けている。

 この「間違ったことがあれば立ち止まる」という部分についても、豊田会長はダイハツとトヨタが一体になって変えていくことを現在行なっていると語ってくれた。

 豊田会長も常々語っているが、中嶋副社長が会見で語った「間違ったことがあれば立ち止まり、ごまかさず、うそをつかず、誠実にその事実に向き合い、必要なときにはすぐ公表し、みなさんと共有させていただきながら進めていく」という言葉は、それをしなかったときに何が起きるのかということを改めて教えてくれている。自分自身、本当にそれができているのか? 仕事をする上で強く心がけたい部分であると思った。