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トヨタ 豊田章男会長と佐藤恒治社長、ダイハツの認証申請不正行為に関し会見 「お客さまの信頼を取り戻せるよう全力で取り組んでまいります」

認証不正の概要。左図のようなテストに関して、認証のために切り欠きを加えた

 トヨタ自動車は4月28日、同時発表されたダイハツ工業の側面衝突試験の認証申請における不正行為に関する会見を行なった。この不正行為では、タイで2022年8月生産開始のトヨタ「ヤリスエイティブ」7万6289台、マレーシアで2023年2月生産開始のプロドゥア「アジア」1万1834台、インドネシアで2023年6月生産開始予定のトヨタ「アギヤ」、開発中の車種1車種が含まれており、ダイハツが製造するトヨタブランドとしてのヤリスエイティブが最も多い台数となっている。

トヨタイムズニュース 緊急生配信

 会見にはトヨタ自動車 豊田章男会長、佐藤恒治社長が登壇。YouTubeのトヨタイムズにおいても緊急生配信が行なわれた。

 緊急生配信の冒頭、豊田章男会長は、「このたびのダイハツ工業の不正はクルマにとって最も大切な安全にかかわる問題であり、お客さまの信頼を裏切る絶対にあってはならない行為だと思っております。ご迷惑、ご心配をおかけしている世界中のお客さま、すべての関係のみなさまに心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした」と頭を下げた。「本件は、トヨタブランドの乗用車で発生した問題でもありますので、ダイハツ工業だけでなくトヨタ自動車も含めた問題であると考えております。これから詳細な調査を進めていくことになりますが、現場で何が起こっているのか徹底的に事実を把握し、真因を究明し、再発防止に真摯に取り組んでいくことをお約束いたします。そして、調査で分かった事実については包み隠さずタイムリーに世の中のみなさまにお知らせしたいと思っております。私自身2009年に発生した大規模リコール問題の際に、世界中のお客さまに対し、『トヨタは逃げない、隠さない、うそをつかない』ということをお約束しました。それにもかかわらずグループ会社でこうした問題が発生したことを大変重く受け止めております。今後トヨタおよびグループ各社のクルマ作りのオペレーション上の問題については執行トップである社長の佐藤が責任を持って改善に取り組み、ガバナンスやコンプライアンスに関する部分は会長であり、リコール問題を経験した私自身が責任を持って取り組んでまいりたいと思っております。トヨタグループ一丸となり、一日も早くお客さまの信頼を取り戻せるよう全力で取り組んでまいります」と、社長執行役である佐藤氏と、会長である自身が一緒になって問題に取り組んでいくと説明した。

トヨタ自動車株式会社 豊田章男会長

 佐藤社長は現段階で分かっていることを報告。「トヨタブランドで販売する車両におきまして、現時点で確認されました不正の内容についてご説明を申し上げたいと思います。認証の不正に関しまして該当する法規は、UNR95という国連法規。並びにGSO法規という中近東の法規でございます。この内容は側面衝突時における乗員への危害性に関する法規でございます」と語り、法規を図説。

トヨタ自動車株式会社 佐藤恒治社長

 この法規は、クルマの側面に側面衝突用の台車が50km/hで衝突した際に乗員への危害性を確認するもので、今回は内装のドアトリムに切り込み加工を行なった部分が問題となった。

 これは乗員への危害性に問題ない箇所にあえて弱い部分を作ることで、危害性に問題ない場所から壊れるようにするもの。壊れる場所をコントロールすることで、乗員の安全性を確保することになる。

影響台数。すべて社内の再試験は通過した
今後の課題

 問題はこの変更が認証時に行なわれており、通常生産されているクルマに対しては反映されていないことにある。正式な設計変更を行なわず、認証をパスするためだけに変更が行なわれた。

 トヨタ・ダイハツとしては追試験を行なっており、この切り欠きがなくとも認証には問題ないことを確認している。現在、認定機関に対して再認証を申請しており、無事に再認証されれば、クルマ自体についての問題は解決する。

 ただし、クルマにとって何よりも大切な安全に関する認証を不正な行為によって乗り越えたことになり、今回の問題は、なぜこのようなことが行なわれてしまったのかになるだろう。

 豊田章男会長が語っているように、トヨタでは2009年に品質保障問題が発生して以後、「トヨタは逃げない、隠さない、うそをつかない」ということを行なってきた。「もっといいクルマづくり」を掲げ、開発現場では試験車が壊れることを是としている。現場で取材していると、ある開発者は「壊してくれてありがとうという考えが浸透している」と語るなど、隠さないという思想が浸透しているのを感じている。

 しかしながら、日野自動車の問題、豊田自動織機の問題、そして今回のダイハツの問題など、グループではさまざまな問題が発生してしまっている。

 なぜ、「トヨタは逃げない、隠さない、うそをつかない」という品質問題で行なった約束がグループ全体に伝わらないのか豊田章男会長に質問した。豊田章男会長は、「グループに浸透するためには何が必要か。『行動じゃないすかね』。行動だと思います。ルールを文章化したところで実現はなかなか難しいと思います。そして次は権力を何に使うかということだと思います。現場は毎日毎日、滑った転んだではないですが、本当にいろいろな変化点を抱えてやっております。そのなか、会社として商品の品質、安全性、納期、お客さまが期待するターゲットコストみたいなものを、日々いろいろな形でプレッシャーを感じているというのも現場だと思います。その現場が感じ、みんなでより以上のことをやってくれているから、今こういう(もっといいクルマづくりの)商品が出てきていると思います。決してやっていることを否定するのではなく、よりみんなで協力していこうよ、足りないところがあったら助け合おうよ、何かやってくれたら『ありがとう』と言い合おうよと。それこそが私がトヨタの中で示してきたやり方だったと思います」と、語る。

 その上で、「ただ、それはデイリーにいることができる会社だからできることであって、デイリーにいることのできない会社は、そう簡単にそういう所作は伝わっていかないと思います。ですから先ほど申しましたように、もう一度グループとして我々が大切にしていた思想、そして技、所作。これもありように言いますと、こうしたら理想の世界だよねというのを創造される方が多いと思うのですが、私の3つの約束のように、『逃げない、うそをつかない、ごまかさない』のように、やっちゃいけないことを明記していく。やっちゃいけないことを、まず行動で示す。そうすると、そこはみんなが考えていくのではないかと思います」と、グループ会社の統治の難しさを語る。

 豊田章男会長は最後に、「トヨタのバトンを引き継いだとき、よくいろいろな人から言われました。『トヨタはいったい何屋さんなのですか?』と。今、佐藤社長にバトンを渡し、自信を持って『トヨタはクルマ屋です』ということを申し上げることができます。そして、『もっといいクルマづくりをしようよ』と、私自身声を大にして言っていた時代、いろいろな方から言われました。『数値目標も言えないのか?』『中期目標もないのか?』『もっといいクルマって何だ?』というようなことをたくさん言われましたが、私がソリューションを言わなかったが故に、トヨタの商品はコモディティではなくなったんじゃないのかなという風にも思っております。みんなが、多様化しているみんなが、それぞれ自分にとってのもっといいクルマづくりということを考え動くとき、失敗してもいいからやってみようよというチャンスを与えられたこと、これが私は大きいと思っております。ですから『失敗したっていいんだよ』という行動や、『やってみようよ』とか、『ありがとう』と言い合える、こんな所作を伝えていくことこそが、今後必要なことになるのではないかという風に思っております。長くなりましたが、そういうことを今は考えています」と語り、13年の社長経験で得たものは自信を持って「トヨタはクルマ屋です」と言えるようになったことだという。

 その自信を得ることができた所作を、みんなに伝えていきたいと結んだ。