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トヨタ 豊田章男会長、タイ10時間レース記者会見でダイハツの認証不正問題や新型プリウスのタイ市販化について語る

記者会見で質問に答えるトヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 豊田章男氏

タイ10時間耐久レースの国際記者会見に出席した豊田章男会長

 12月22日、タイ10時間耐久レースの予選終了後、国際記者会見が行なわれた。この記者会見では、トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏、264号車 新型プリウス 片岡龍也監督兼選手、228号車 GR86 大嶋和也監督兼選手、232号車 水素カローラ 石浦宏明監督兼選手が出席。今回の、タイ10時間レースにカーボンニュートラル燃料を使っての新型プリウス参戦などさまざまな質問に答えた。

 豊田会長は、12月19日午前にタイのCP(Charoen Pokphand Group)、TLS(True Leasing)、SCG(Siam Cement Group)とカーボンニュートラル社会の実現について協業を調印。その午後には、バンコク市内で開催したTOYOTA GAZOO Racing FestivalでGRヤリス ラリー1をデモランするなどタイでのモータースポーツ普及のためイベントを盛り上げていた。

 その翌日、ダイハツの認証不正問題に関し、第三者委員会からの報告が行なわれることになり、第三者委員会からの報告会見後、ダイハツ工業とトヨタ自動車は会見を設定。トヨタ自動車からは、技術部門トップのCTO(Chief Technology Officer)であり、ダイハツとともに技術検証を行なってきた中嶋裕樹副社長が出席した。

 記者はその会見後、豊田会長にダイハツの認証不正問題について話を聞く機会があったが、公式の国際会見に豊田会長が初めて出席する機会でもあり、日本の記者からはダイハツ問題に関しての質問が出た。

 タイの国内メディアからは新型プリウスやレースに関する質問が多く、フィリピンのメディアからはカーボンニュートラル燃料に関する質問が出ていた。
 本記事では、その国際会見の模様を記す。

豊田会長はモリゾウ選手として、水素カローラと新型プリウスにダブルエントリー

左から、264号車 新型プリウス 片岡龍也監督兼選手、豊田章男会長、228号車 GR86 大嶋和也監督兼選手、232号車 水素カローラ 石浦宏明監督兼選手

──今回、True Leasingのカチョーンさんが参加する、ルーキーチームのメンバーとして参加するのか?

豊田会長:ルーキーレーシングのプリウスハイブリッドのドライバーとして参加します。CPとトヨタはタイのカーボンニュートラル実現のために、お互いの得意分野を活用した活動を始めてます。CP会長のスパキットさん、True Leasingのカチョーンさんは大のクルマ好きであります。将来のタイのカーボンニュートラルの実現のために協業の相談をする中で、何度もクルマ好きの会話になってしまい、それなら一緒にレースに出ようかとお誘いしたところ、快く引き受けていただいて実現した。

片岡監督:プリウスの監督兼ドライバーの片岡です、初めまして。今回カチョーンさんも一緒にドライブします。カチョーンさんも過去にサーキット走行経験があったが、長い間サーキットでドライブしていませんでした。事前にトレーニングされて、プリウスにも富士スピードウェイまで来てもらい、クルマ作りのところから一緒に入っていただき、ドライブの勘を取り戻して、プロに迫るタイムになっています。参加するだけではなく、コンペティションを意識できるレベルで走っており、頼もしく、ありがたいです。

豊田会長:カチョーンさんが乗られるプリウスハイブリッドは、世界で初めてのレース参戦となります。モリゾウも(水素カローラと)ダブルエントリーして、カチョーンさんとともに走りますので、ぜひ注目いただきたい。

──(12月19日にモリゾウ選手と同乗走行)12月19日に同乗させていただきました。どうしてプリウスハイブリッドで参戦するのか。

豊田会長:この間、同乗して私の運転怖くなかったですか? カーボンニュートラルというと、Fun to Driveとは違う方向に行っちゃいそうだねと世の中には思われています。

 モータースポーツに参加してる人は、カーボンニュートラルに対しては気が引けるところがあったはずなんですよね。カーボンニュートラルにも選択肢があり、モータースポーツでもエキサイティングなクルマがあるよと、ルーキーレーシングで出場する3台は何かしらのカーボンニュートラル車両です。モータースポーツでもカーボンニュートラルがこんなに選択肢あるねと五感で感じていただきたいなと思います。

 228号車と232号車の監督も来ておりますので、カーボンニュートラルでどんな使命を持って走るのか、監督のほうからも説明させていただきます。228号車の大嶋監督です。

大嶋監督:僕たちは228号車、GR86で出ています。エンジンは1.4リッターターボ。小さいエンジンですが、カーボンニュートラル燃料を使用してパワフル。予選は2番手でトップには届きませんでしたが、カーボンニュートラル燃料でしっかりガソリン車と同等に速く走れるということを、日本で2年間戦いながら証明できているところまできたかなと思っています。

石浦監督:232号車のGRカローラの監督・選手を務めます石浦です。GRカローラについては、水素のエンジンを搭載しているんですけど、カーボンニュートラルのなかでも燃料となる水素、この水素もどのような水素を使うのか選択肢がある中で、燃料電池のように水素から電気を作ることも可能ですが、水素カローラに関しては、水素を従来のエンジンの中で燃焼させて走る技術で、カーボンニュートラルを実現しながら(内燃機関特融の)いい音をクルマ好きのみなさんが楽しみながら走る一方、排気は水蒸気のみでクリーンに走れる。よい音を響かせながら速く走るGRカローラをぜひ見ていただきないなと思っております。

──日本とタイの耐久レースの違い。また、来年のタイ耐久レースは参戦するのか?

豊田会長:まず、2番目の質問ですが参戦は分かりません。スポンサーの出光さんに聞いてみていただきたい。

片岡監督:タイの耐久は年に1回で10時間というフォーマットになります。日本のスーパー耐久は、年間6~7戦で国内を転戦し、レースのフォーマットも3時間から最大のものでは富士の24時間と多様です。

 多様なフォーマットの中で、ST1~ST5、STX、STZと多くのカテゴリに分けられた車両が60台近くが同時に走るレースになっています。1年を通して戦うシリーズ戦になっているのが大きく違います。

豊田会長:今回、3台のクルマをルーキーレーシングは参戦しています。ハイブリッドプリウスの264号車、水素カローラの232号車、この2台の目標を申し上げます。

 ハイブリッドと水素エンジンというカーボンニュートラルの2つの選択肢を出すことによって、1周でも多く走るというのが目標です。未来を見渡すことは誰もできないと思います。今の行動によって、未来の景色は変わってくると私は信じています。264号車と232号車が1周でも多くブリラムサーキットで走る姿を見せることによって、モータースポーツの未来、クルマ社会の未来というものがきっと変わってくると思いますので、ぜひともそのような思いをみなさん応援いただきたいと思います。

 そうは言ってもレースはレース、勝ったら笑顔、負けたら悔しさが残るのもレースです。

 228号車はルーキーレーシングとしてはなんとか総合優勝を狙いたいと思っています。予選でも分かるようにライバルは相当強敵です。ライバルが強敵であればあるほどレースを見ているみなさんは楽しいのではないでしょうか、一緒に楽しみましょう。

 ちなみにモリゾウは、264号車(新型プリウス)と232号車(水素カローラ)のダブルエントリーで出る予定なので、こちらもぜひ応援よいただきたいと思います。

(会場から拍手)

──参戦車両と市販車の間でハードウェアではどのような違いがあるか。特にバッテリの冷却について、充電と放電をどのくらい急速にできるのか関心があります。

豊田会長:TOYOTA GAZOO Racing Companyの高橋プレジデントが来ていますので、その件は高橋プレジデントからお答えします。

高橋プレジデント:今回走らせるプリウスのハードは、基本的に市販車と同じハードを使っています。市販車からの変化点はバッテリ容量を増やし、制御変更で出力を25%増やしている。その分、冷却が厳しいため冷却関連のハードをアドオンで追加しています。

豊田会長:GAZOO Racing Companyとしては今の回答になります。現場を預かる監督としての意見も聞いてみたいと思います。

片岡監督:市販のものをベースに短期間でクルマを開発していただいて、25%出力がアップしています。まず、ハンドリングはかなり気持ちよく走れます。ただ、乗り手としては、欲を言えば50%や75%とパワーを上げてもらえるともっと楽しくドライブできるかなと思います。今回、短い時間で開発してここまできたなかで、今日の予選では2分切るところまでこれているので、初めての挑戦としてはかなりいいと思うし、今後に期待したいと思います。

──カーボンニュートラル燃料はどこから持ってきているのか。どういった 技術で生産しているのか。

高橋プレジデント:今回使っている燃料は、ヨーロッパの燃料メーカーから購入しています。今の燃料は、バイオ系と水素由来の燃料をミックスして使っています。

──カーボンニュートラル燃料について、トヨタが燃料製造を手掛けることは考えているか?

豊田会長:トヨタ自動車はクルマ屋です。クルマ屋を成り立たせるために、日本だと550万人、タイだと560万人の方が自動車産業に関わっています。

 クルマ屋がすべてやるのではなく、クルマ屋はもっといいクルマをつくり、クルマ屋と一緒になってもっといい燃料を作るという企業と協力することによって、もっといい未来をつくり、さらなる雇用を生み出し、各国で頼られる産業になろうというのが私たちの目標になると思っています。

──モリゾウさんの身体的なタフさは、67歳に見えない。今朝も走っている姿見て、モリゾウ選手がレース参戦するのは最後ではなく、まだまだ見られると感じた。最高齢ドライバーとして、ギネスレコードを達成しようとしているのか? ニュルブルクリンクで走る姿をいつ見せてくれるのか?

豊田会長:私の年齢を知ってくれていて感謝申し上げます。決してギネスの記録を求めているのではなく、私はクルマが大好き、運転が大好きなんです。好きなことをやり続けることこそが、若さを保ち、元気でいられる私の秘策だと思います。

 とくにこのタイをはじめ、アジアでのモータースポーツに参加できること、そのためには元気でいないといけない、いいクルマを作らなければならない、いい仲間がいなければいけない。

 そんなことが私を元気にしてくれております。

 何よりもタイのレースでは多くの笑顔に支えられていると思います。1日でも長く、大好きな運転を続けられるよう応援いただきたいと思います。

──ちなみに最高年齢はスウェーデンで87歳です。

豊田会長:ということは記録を作るのにあと20年乗らなければ……。がんばります。

(会場から拍手)

──(新型)プリウスは現在販売していないが、将来的にタイで販売する予定ありますか?

豊田会長:レースの結果によりますね(笑)。応援してください。

──タイ人の笑顔が元気の源だと言われたが、ぜひプリウスを販売してください。タイ人はもっと笑顔になります。

──別件の質問をさせてください。ダイハツの新たな不正が発覚後、豊田会長が初めての公の場に出ました。何が問題で、どこに原因があるのか、直接お聞きしたい。

豊田会長:ダイハツのクルマに乗ってる方に多くのご心配をおかけし、日本の自動車会社を代表して、ご心配をおかけして申し訳ないと、まず申し上げたい。

 自動車というものが、世の中を安全かつ快適に走り続けるためには、みなさまから信頼される仕事をしてこそ乗っていただけるものだと思っています。

 不安になったお客さまも多々いると思います。やってしまったことは取り返せませんが、今後ダイハツは1日も早く信頼を回復できるよう、親会社のトヨタとしても全面協力で立ち直らせる努力してまいりますので、一度動向を見守っていただきたいと思います。

──5月のタイの会見でも、創業の精神として真因を究明し再発防止に取り組むことがトヨタの創業の精神だと話されていた。その考えは変わりないということでいいか。

豊田会長:変わっていないが、この6カ月間は第三者委員会の調査もあり、いろいろ動きづらい点もあったと思います。第三者委員会の結果も出ましたので、ダイハツがその結果を精査する手助けをしながら、なんとか前を向いて自立できるように応援をしていきたいと思うので、一度お時間をいただけないでしょうか。トップが何かを発言しただけで、何十年も続いた会社のカルチャーを変えることはなかなか難しいと思います。それでも、もっと多くの人がその商品を信じ、安心快適に移動をしたいという信頼取り戻すためには時間がかかると思いますけど、滞りなくやること、支援することをこの場でお誓い申し上げたい。

──モータースポーツに話を戻したい。マスタードライバーのモリゾウさんから、ドライバー目指す人にアドバイスください。

豊田会長:ドライバーを目指す人にはクルマを好きになってください、運転を好きになってくださいと申し上げたい。運転する以上はルールがある。安全な交通流を作る一員であるという認識は忘れないでほしい。安全な環境の中に初めて楽しさが産まれると信じています。この2つを運転目指す人には申し上げたい。