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ソニーホンダ、新しい「アフィーラ プロトタイプ」はAI導入で安全を最優先 ポリフォニーとの協業で新しい開発手法も構築へ

ソニー・ホンダモビリティ代表取締役 社長 兼 COO 川西泉氏は、新型バッテリEVブランド「アフィーラ」のプレゼンテーションで「AI for ADAS」と安全を最上位の価値に持ってきた

「AI for ADAS」を最初のポイントに持ってきたソニー・ホンダ 川西社長

 ソニー・ホンダモビリティ代表取締役 社長 兼 COO 川西泉氏は1月8日(現地時間)、米国ネバダ州ラスベガスで開催されている技術見本市「CES2024」においてソニーのプレスカンファレンスに登壇。新型バッテリEVブランド「アフィーラ」における進化したアフィーラ プロトタイプを世界初公開するとともに、アフィーラのソフトウェア開発プログラムについて紹介。さらに、その開発環境についての協業も発表した。

 2023年のCES2023で世界初公開された新型バッテリEVブランド「アフィーラ」は、ソニーとホンダの合弁会社であるソニー・ホンダモビリティによって作られる。これまでの発表においては、主に「走る」「曲がる」「止まる」などクルマの基本性能に関してはホンダが担当し、室内空間や内装・外装についてはオーディオやディスプレイなどに優れるソニーが担当するという方向性が見えていた。

ソニー・ホンダモビリティ代表取締役 社長 兼 COO 川西泉氏

 このアフィーラは、ソフトウェアで定義されるソフトウェアデファインドビークルとして設計されており、走行する部分はホンダが担当するものの、その上の制御レイヤーなどは川西社長によって語られてきた。

 というのも、川西社長はプレイステーション事業の主要メンバーであり、プレイステーションを成功に導いたソフトウェア開発なども担っていた。単にソフトウェア開発ではなく、川西氏はPSPなどハードウェアと一体になったソフトウェア開発も率いており、その後、交通系ICの主要技術であるFeliCa、ソニーモバイル、aibo事業を担当。半導体を大量に使うハードウェアの上にアプリケーションレイヤーを構築するといったことについては、大きな成功を収めている人になる。

 そのためソフトウェアで定義されるソフトウェアデファインドビークルにおける「定義」の部分は川西氏が語ってきたものと思われる。クルマをどう定義するのか、どのような機能がアプリケーションレイヤーで使えるのか、どのような開発環境を整えていくのかなど、誰かが決めなければならない問題は多い。ソニー・ホンダモビリティでは、COOである川西社長がそれらを決定している。

 これまではクルマを見せつつ、クアルコムのSoC採用、800TOPSの性能など概略に振れてきたアフィーラだが、多くの開発者を呼び込むためにか、その開発環境に踏み込んだのがCES2024になる。

安全性能、それを最重視する開発環境はアフィーラの安全意識を示している

AD/ADASアーキテクチャ
スナップドラゴンをSoCとして用いる

 アフィーラの位置づけは、ソニー・ホンダのバッテリEVであり、ホンダのバッテリEVシリーズの最上位機種となっている。最も車内装備などを充実する必要があり、プレミアムに見合った価値を提供する必要がある。

 CES2024で、川西社長が最上位のコンセプトとして打ち出したのがAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)について。つまり、安全を最も重視したクルマであるということだ。

 クルマにはいろいろな魅力がある。運転して楽しいであるとか、快適であるとか、所有するよろこびがあるとか、などなど。もちろん、移動するのに便利であり、人やものを自在に運ぶことができる。個人はもちろん、家族単位での移動も可能であるため、コロナ禍においては家族の命を守る手段として、より人気が高まった。

 しかしながら、交通事故などのマイナス面もある。たとえば日本では、2023年の交通事故死者数は2678人。ここまで毎年確実に減っていたものの、2023年は68人増。8年ぶりに増加し、23年ぶりに60人以上増加してしまった。もちろんコロナの5類以降による移動の自由が回復したことが大きな要因としてあるものの、悲しい事実であるのは間違いない。端的に書けば、月に200人以上亡くなっているのが現実になる。

 これは交通機関としては圧倒的に多い数字であるのは間違いない。この死者数が社会的に許容されている背景には、クルマがライフラインであり、クルマによって命を救われている人が圧倒的に多いというのがある。救急車などはもとより、商用車による輸送はその最たるものだろう。

 ただ、これまでは許されていたかもしれないが、残念ながら増加に転じたことで社会的な許容度は狭くなるかもしれない。とくに後進時などは小さな子供が巻き込まれることが多く、サラウンドセンシングによるペダルコントロールは社会的な要望が高まることは容易に想像できる。

 ちなみにWHO(世界保健機関)調べによると、最新の報告で年間の交通事故死者数は119万人で微減。微減したものの、1分間に2人以上、1日あたり3200人以上が死亡し、5~29歳の子供や若者の死因の第1位を占めるという状況にある。つまり、クルマはもっと安全を目指す必要に迫られているということだ。

Despite notable progress, road safety remains urgent global issue

https://www.who.int/news/item/13-12-2023-despite-notable-progress-road-safety-remains-urgent-global-issue

 そのような背景の中、川西氏が、ソニーがクルマに参入するにあたって最上の価値としたのが最高峰のAD/ADASを備えること。そして今回のCES2024では、そこにAIを投入することであり、AI活用の一例としてVision Transformerによる物体認識の例を示した。

Vision Transformerによる物体認識

 これはクアルコムのSnapDragon Ride SoCが貢献しているといい、高いコンピューティングパワーがあるために実現できていることを示唆した。

 また、ソニーホンダではAD/ADASの開発にEpic Gamesのゲーミングテクノロジを活用。ゲーミングエンジンによって仮想空間を構築し、その中をクルマが走るADASシミュレータを開発しているとも語り、通常はサードパーティなどから購入すべきものも内製。垂直開発ができていることを示唆する。これも豊富なソフトウェア開発経験から来るものと思われる。

 内装やエンタテイメントの開発においては、従来から発表されているとおり、Unreal Engine 5.3を使用。最新のエンジンを使用することで、高度な表現を実現していくものと思われる。川西氏は、最新のエンジンへアップデートしていくことも語り、車内エンタテイメント開発者は、最高の開発環境を使い続けることができる。

Unreal Engine 5.3採用
画面

 ここでのポイントは、対話型エージェントの開発を開始したこと。このエージェントはマイクロソフトのAzure Open AIを用い、マイクロソフトとともに開発を行なっていく。マイクロソフトは世界最高峰のソフトウェア開発集団であり、クルマにおけるエージェントを共同開発していくことになる。

グランツーリスモで知られるポリフォニー・デジタルと協業

ポリフォニー・デジタルとの協業

 CES2024では、グランツーリスモで知られるポリフォニー・デジタルと協業することも発表された。ポリフォニーの持つ優れたシミュレーション技術と、ソニーホンダの実車開発で、人の感性・官能領域におけるバーチャルとリアルを融合させた新しい開発手法を探索していくという。

 具体的にどのようなものかは不明だが、川西氏としてはプレイステーション時代からコミュニケーションのあるポリフォニー・デジタルと新たなものを生み出そうとしているのがうかがえる。

 アフィーラは、クルマの開発おける新しい挑戦をし続けているのは間違いない。川西社長は「人とモビリティの関係を再定義」をテーマに掲げていたが、アフィーラの本当の姿が徐々に見えてきたプレゼンテーションだった。