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セレンス、ステファン・オルトマンCEOが日本や世界での事業戦略について説明 CESで展示したフォルクスワーゲンへのChat Proの実装は3か月で実現
2024年2月26日 13:07
- 2024年2月22日 開催
セレンスは2月22日、セレンスの最高経営責任者兼取締役 ステファン・オルトマン氏が来日、新しいAIのロードマップなど事業戦略について説明を行なった。CES 2024で展示したフォルクスワーゲンに生成AIを実装したデモが短期で開発できたことや、今後はセレンスのAI技術を自動車以外の分野でも活用を進めていくことなどを説明した。
多くの自動車メーカーに、サードパーティのLLMを統合して提供
セレンスは自動車メーカーなどに車載AIやマルチモーダルAIなどを提供する企業で、東京、上海、北京に拠点を置き、ボストンに本拠地を置いている。グローバルな自動車メーカーと部品メーカーなど80社に提供し、セレンスの技術搭載車は4億7500万台以上、70以上の言語をカバーしてしているという。
研究開発にも力を入れ、各地の多くの自動車メーカーと協力するだけでなく、インフラ分野にも協力していて、LLM(Large language Models:大規模言語モデル)を自動車用に最適化することも行なっている。
そして、ステファン・オルトマン氏によれば、最終的に実現したいことは没入型コンパニオンエクスペリエンスで、より人間のような会話をクルマと行なうこと。新たなAIエージェントとして非常に大規模なマルチモーダルなLLMを作り、複数のアプリケーションを横断して動作するという形になっていくと考えているという。
具体的には、車載センサーなどの情報を使ってよりプロアクティブに情報を提供していくようなものになり、セレンスのソリューションによって車内のユーザー体験を次のレベルに引き上げるとしている。それは音声だけでなく、ジェスチャーや感情といったものも含まれている。
セレンスではサードパーティのLLMを統合することが可能で、セレンスの知識、自動車メーカーのデータと組み合わせることができ、その結果、よりセキュアな信頼できる検証済のLLMを提供できることになるという。
一方で、ドライバーと同乗者など複数シートに対してのインテリジェンスにも対応している。例としては、同乗者1人ひとりに対して違う音楽をかけるというようなイメージのものも提供可能となる。
さらに感情によるエモーショナルインテリジェンスも重要になってくる。すでにメルセデス・ベンツのMBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)にも感情によるインテリジェンスが組み込まれている。
また、セレンスのソリューションではセキュリティも重要としており、音声操作は可能にするが、通常のドライバーと同乗者の会話はクラウドにはアップロードしないようになっている点を強調した。
自動車メーカーがコントロールできるAI、フォルクスワーゲンへはChat Proを3か月で実装
すでにフォルクスワーゲンがCES 2024でCerence Chat Proを搭載していくことを発表しているが、これについてもステファン・オルトマン氏が説明を行なった。
Cerence Chat Proは汎用のAIであるChatGPTなどと統合するAI。自動車メーカーは完全にアウトプットをコントロールできることが特徴。分かりやすい例として、CESでのデモでもあった「この世界でいちばん優れたクルマは?」という質問があったときに、フォルクスワーゲン以外のクルマを回答に出さないように情報を入れることができる。
また、ドライバーがコーヒーを飲みたくなったとき、ドライバーの好みに応じて検索結果を出せるほか、クルマのセンサーとも連動。クルマの状態についてドライバーが質問を投げかけたとき、それに対する回答にも対応する。
そして、情報の正確さという点にもこだわりがある。多くの問いかけに対してはセレンスのLLMから回答を出すことになるが、対応できないときはChatGPTなどの外部からの回答を用意する。その際「ChatGPTによれば……」などと頭につけ、情報の出どころが分かるようにしている。
一方、開発期間も短くなるという点をステファン・オルトマン氏は説明した。フォルクスワーゲン車にCerence Chat Proを搭載することは、フォルクスワーゲン側から声がかかり、アイデア、コンセプトからソリューションとして搭載するまでわずか3か月しかかからなかったとし、開発期間が短いことについても強調。これからも数か月で導入することもあるとし、導入サイクルも短縮されたとした。
自動車以外の分野にも広げて提供
今回の説明会では、ステファン・オルトマン氏が自動車以外の分野にもセレンスの技術を提供していく方針を改めて示した。セレンスはニュアンスコミュニケーションズから独立した会社のため、これまではいくつかの制約があり、競合することができない分野があったとしている。
しかし、制限が終わってここ数か月間に動きがあり、モトローラとはウェアラブルの分野や、オーディオコミュニケーションのところで協力。ほかにはインダストリアルな分野で医療機器分野なども進出。日本では「大きなプレイヤー」とも話し合いをしている最中だとしている。
日本の複数メーカーと具体的な話
国内の展開については、セレンス ジャパン リージョナル・バイスプレジデントの松尾大樹氏が説明した。松尾氏はフォルクスワーゲンとの事例は日本の顧客にも非常に大きなインパクトを残すことができたとし、現在、日本国内の複数メーカーと具体的な話している状況だという。
松尾氏はさらに4つの重要なポイントがあるとして、1つ目として各メーカーの生成AIで何をしたいかを理解しながら進める「戦略・ロードマップのアライメント」、2つ目としてビッグテックではできないきめ細やかな「カスタマイズの提供」、3つ目は日本語化などの「ローカライゼーション」、4つ目は音声関連の基礎技術の性能改善改良を進める「継続的投資」と紹介した。
そのうえで「単なるソフトウェアプロバイダーではなく、イノベーションパートナーと日本のお客さまに理解してもらえるよう精進していきたい」とまとめた。