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マレリ、「CES 2024 イノベーション・アワード」受賞の「赤色LASER&光ファイバー・リアランプ」などSDV時代に向けた最新技術を日本公開
2024年4月17日 10:35
- 2024年4月16日 開催
自動車部品の総合サプライヤーであるマレリは4月16日、1月に米国・ラスベガスで開催された技術見本市「CES 2024」に出展した展示機材を日本の報道関係者向けに公開する技術説明会を開催した。
マレリはCES 2024で、SDV(Software Defined Vehicle)時代を見据えた車両共創のプロセスやプラットフォームについて最新技術の展示を行ない、「赤色LASER&光ファイバー・リアランプ」の技術で「CES 2024 イノベーション・アワード」を受賞するなど好評を博している。
当日はCES 2024で公開した展示内容について3種類の技術領域に分け、各技術の担当ディレクターが展示内容について説明するガイドツアー形式で実施された。
説明会の冒頭であいさつしたMarelli Corporation CEO デビッド・スランプ氏は「本日は1月にラスベガスで行なわれたCESと同じ内容を用意しております。マレリは利益ある成長の過程にあり、その根底にはイノベーションがあるのです。そのためにわれわれは最善の人材を集めております。そんなマレリのイノベーションについて皆さまに詳細を説明したいと思い、本日はお集まりいただきました。われわれのストーリーを読者の皆さまにもお伝えいただければ幸いです」と語っている。
Co-creation@Speed
「Co-creation@Speed」の技術領域は、マレリが注力しているSDV時代への対応についての技術を紹介するスペースとなり、多くの時間を割いて多彩な技術について解説が行なわれた。
マレリでは「Lean」「Advantage」と呼ばれる2種類のプラットフォームをSDV向けに用意しており、Leanプラットフォームは目的適合性や接続可能性に配慮しつつ、すでのローンチ可能な状態まで開発が進められており、一方でAdvantageプラットフォームは、マレリのミドルウェア マイクロサービス ソフトウェア アーキテクチャに接続されるクラウドアプリケーションで、より複雑な開発を可能とするものと位置付けられている。
それぞれのプラットフォームではクアルコムとのパートナーシップにより、3つの階層でマイクロコントローラベースの制御を実現。SDVとしてパーソナライゼーションに対応し、マルチトレーでソフトウェアを活用しつつ、スタンドアローンな形でハードウェアを動かすことができる。
一例として、Advantageプラットフォームでは「シャシーコントロール」「ビークルマネジメント」「スマートライティング」「アドバンストプロパルション」「熱マネジメント」といったドメイン別に、75以上のアプリケーションを制御して、それぞれパーソナライゼーションを可能とすると説明された。
続いて、新しいプラットフォームの中核となるマレリの「ZCU」(ゾーン コントロール ユニット)について説明。既存のECUはドメインごとにボックス分けされて担当ドメインの制御を担っていたが、ZCUではECUを統合して制御を実施。これにより、コストや重量を削減することに加え、スケーラビリティやフレキシビリティをSDVに与えることができる。マレリでは2020年に「ICドメインコントロール」を導入し、2025年には3つの製品としてリリースされる予定となっている。
実際の製品に続き、開発環境で利用されている「デジタルツイン」についても紹介。マレリではハードウェア、ソフトウェアの双方で開発にデジタルツインを活用。従来型の開発では実際に部品を作って試行錯誤することで、完成して顧客である自動車メーカーの担当者に見せるまで3年ほどの月日を必要としていたが、デジタルツインのバーチャルな開発環境に移行してからはハードウェアとソフトウェアの開発を並行して進めることも可能になり、開発期間を最大75%、ハードウェアの開発コストを30%削減でき、より早く、より安く開発を進めることに役立っていると説明された。
SDVのインタラクティブな体験を実現するため、ユーザごとの好みを「趣味」「好きな色」「好きな料理」などの分野別で事前に設定。選択内容に応じたアバターが用意され、各種情報はリストバンドに保存されて持ち出すことができ、これによってカーシェアなどの車両でも同じような車内環境を再現可能。SDVが持つ高いパーソナライゼーション能力をしっかりと体感してもらうためのソリューションとして用意されている。
SDVを活用する「スマートライティング」の紹介では、車両の前後を模したモックアップを使って解説を実施。マレリではフロントマスクに設置したヘッドライトやLEDパネルを使い、車外にいる人とのコミュニケーションを行なう技術を開発し、自動車メーカーに対して提案しているという。
自動運転の車両でドライバーと歩行者の意思疎通が難しいケースを想定したソリューションでは、バンパーに埋め込んだLEDパネルで自車の右左折する方向を表示して注意喚起したり、横断歩道などで待つ歩行者に道を譲る意思を文字と矢印表示で示す技術を開発。これに加え、バンパーの低い位置に備えたライトを使い、右左折する方向のプロジェクション表示を行なうことなどによって安全性を高めていく。
マイクロLEDモジュールを使用するヘッドライトは前照灯としての機能を発揮しつつ、灯体の可動や照射パターンの制御によってアニメーション表現を実施。車両のオーナーに「ウェルカムメッセージ」「グッバイメッセージ」などを送ることができる。
車両の後方側では、リアハッチのウィンドウとリアコンビネーションランプで表示を行ない、後続車とのコミュニケーションを実施。
リアハッチのウィンドウはカラーディスプレイとして使用され、歩行者の横断を待つため一時停止することや、高速道路の走行中に前方が渋滞しているためスローダウンして停車することなどを後続車に伝えて追突されないようにしたり、高速道路の分岐先を後続車に教えて直前になって車線変更せずにすむようにするソリューションを用意している。
リアコンビネーションランプは下半分をLEDディスプレイとして利用。アイコン表示を行なってウィンドウ表示の内容を強調している。
CES 2024で「イノベーション・アワード」を受賞した「赤色LASER&光ファイバー・リアランプ」もデモ機を使って技術内容を解説。
BMW「M4」のリアコンビネーションランプに採用されたこの技術では、光源となるレーザーダイオードから発せられる光を細い光ファイバーに通して発光することで、デザインの自由度を高めつつ消費電力を抑え、軽量化も実現。また、レーザー光による「スペックル効果」を生かすことにより、静的な発光でありながら細かいクリスタルが動いて煌めいているような視覚効果を発揮。これまでにない特徴的なルックスを演出できるという。
車体モックのインテリアでは、Leanプラットフォームが実現する「LeanDisplay」と名付けられた車内エンタテイメントについて紹介。
マレリでは「デジタルデトックス」というインテリアテーマを掲げ、車内で必要がない場面では画面を隠す取り組みを行なっているという。現代のクルマではセンターコンソールに限らず大型のディスプレイを設置できるようになっているが、デジタルデトックスでは車内にいる人があらゆる情報に晒され続ける状況を脱却するため、必要な場面でのみ画面表示を行ない、操作できるソリューションを提案。情報が不要なときはファブリックやウッドパネルなどの質感を楽しみ、リビングルームにいるようにリラックスできるスペース作りを目標としている。
また、ライティングを演出だけでなく機能としても利用。空調の温度設定や車両のモード選択の変更を色使いで表現して、ディスプレイによる表示以外で情報伝達できるようにしている。これに加え、自動運転の実現で車内環境で求められる機能にも変化が起きるとの想定から、グローブボックスリッドの電動化、センターコンソールの電動スライドなども実現している。
一方でSDVの本領であるデジタル技術もふんだんに盛り込まれ、フロントシートの前方には奥行き感のある3D表示を行なうフルディスプレイメーター、背面から表示を照射するディスプレイ内蔵型ウッドパネル、格納式の12インチ大型センターディスプレイ、ステアリングディスプレイなどを用意しているほか、フロントウィンドウの下には運転中の視認性も良好な「ピラー トゥ ピラーディスプレイ」を設定。ピラー トゥ ピラーディスプレイは従来型から輝度やコントラストを改善し、運転席から死角になるフロントノーズ直前の路面状況を表示する機能も備えている。
このモックアップに搭載する8枚のディスプレイを同時に表示可能で、さらに6つの画面を追加可能。また、各ディスプレイの表示内容は別のディスプレイにシームレスに移動させることもできる。
リアシート向けのディスプレイは画面右に乗員のコンディションを把握するモニタリングカメラを備えるほか、裸眼での3D表示に対応。3D対応の映画やゲームを3D表示できることに加え、コンテンツによっては画面のタッチ操作で表示内容を自由に操作できるという。また、乗員同士のプライバシーを保護するため、画面の正面に座る人以外には表示内容がわからないようにする表示設定のゾーンニング機能も用意されている。
Design for Performance
車両を制御する「Design for Performance」の技術領域では、まずマレリが開発した「フルアクティブ電気機械式サスペンション」について説明。
一般的な油圧式ダンパーの代わりにアームを介してアクチュエーターで車両の振動や上下動を制御。アクチュエーターはブラシレスモーターと高減速比ギヤで構成され、スマートアルゴリズムによって減衰力を緻密に制御。高い応答性によって高い快適性と安全性、機敏な走りによるドライビングエクスペリエンスを提供する。
SDVによって幅広いセッティング変更や拡張性に対応し、一般的な油圧式ダンパーと比較して重量は50%減となるほか、油脂類を不要とすることから廃棄時の環境負荷も大きく低減されることもメリットになる。
なお、システムは欧州で採用が拡大している「48Vシステム」から電力供給されることを前提に設計されているとのこと。
続いて紹介されたのはBEV(バッテリ電気自動車)向けの「iTMM」(統合型熱管理モジュール)。
モジュール化によるシステムの簡素化すると同時に高効率な熱管理を実現するマレリのiTMMでは、電動パワートレーン、バッテリシステム、空調システムの3種類で発生するそれぞれの熱を連動させてシステム効率を高めており、特許技術で構成したバルブシステムが製品のキーになっているという。4種類のモード調整機能を備えており、システム重量は他社製品から11%軽量化。システムの簡素化で低コスト化したことも競争力を高めるポイントになっている。
Design for Affordability
最終的な車両価格にも大きく影響する低価格化について解説する「Design for Affordability」の技術領域では、車内エンタテイメントで使用される「LeanConnect」を例として紹介。
LeanConnectでは「IVI」「エンタテイメント」「テレマティクス」といったクラスターフィーチャーの制御を1つのモジュールに統合して、導入コストを30~40%引き下げることが可能になるソリューションとなっており、2026年から自動車メーカー向けに納入を開始する予定となっている。
ライティング技術の「LeanLight」では、開発期間の短縮と小型化によって低コスト化を追求。デジタルツインの採用により、従来は2年~2年半かかっていた開発期間を11か月まで短縮することに成功し、ヘッドライトのメインユニットは他社製品と比較してサイズを約50%削減。システム全体でも重量を20%削減しており、あらゆるマーケットでの販売にアクセスできるようコスト削減に取り組んでいるとした。
ハイブリッドカー向けの「LeanExhaust」では、マフラーのサイレンサーで従来使われていたグラスウールを、内部を通過するパイプに開けた穴のサイズや位置に置き換え、中間パイプの内部にも消音機能を持たせ、消音性能を維持しつつ重量を低減。触媒を備えるキャタライザーにはアイドリングストップ中にも温度低下で浄化性能が落ちないよう保温機能を与え、形状の最適化で小型化しても十分な性能を発揮できる構造を採用しており、、例として用意されたメルセデス・ベンツ「GLC」向けの製品では、従来品の32kgから16kgに重量を半減。軽量化によって製品価格を抑制し、燃費向上によるCO2の排出削減にも大きく寄与するとしている。