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日産、レベル4自動運転で2027年に乗り合いシャトル事業化を目指す実証実験車「リーフ」に公道で乗ってみた
2024年6月3日 10:00
日産自動車ではかねてより「ニッサン インテリジェント モビリティ」というコンセプトを掲げ、クルマの「電動化」と「知能化」に取り組んでいる。
「電動化」では、BEV(バッテリ電気自動車)が2023年6月末時点でグローバル累計販売台数100万台を超え、エンジンで発電してモーターで駆動する独自のシリーズハイブリッド「e-POWER」搭載車も順調に販売比率を高めている。
一方の「知能化」では、市販車に搭載して安全性の向上、運転支援を行なう「プロパイロット」の進化を続け、搭載車種を拡大。このプロパイロットの延長線上にある「自動運転」は、2013年11月から自動車専用道路での公道実証実験がスタート。場所や環境、検証内容を変えながら続けられてきたが、2月になってついに実証実験の段階から先に進めるため、2027年をめどに自動運転モビリティサービスを日本国内で事業化していくロードマップが発表された。
ロードマップでは2025年度~2030年度の6年間を2年ごとの区切りで3つのフェーズに分けて取り組みを進めることを計画しており、2024年度はミニバン「セレナ」のe-POWER車をベースとした自動運転実証車両を開発し、2025年度からのフェーズ1では横浜エリア(横浜みなとみらい地区、桜木町、関内など)でセーフティドライバーが同乗する自動運転の車両を20台規模で運用し、サービス実証実験を行なう計画。2027年度からのフェーズ2では有償サービスを開始。横浜エリアに加えて地方を含む3~4市町村で自動運転サービスを展開し、自動運転のレベルを段階的に引き上げながら社会の受容性を向上させていく。
現在もフェーズ1に向けた準備段階として、日産のBEV「リーフ」をベース車両に使い、ルーフ上に設置したセンサーセットや前後バンパーなどにLiDAR6個、レーダー10個、カメラ14個を設置した「自動運転開発車両」を用意して連日走行を行ない、横浜エリアでの自動運転に必要な準備を進めている。
この準備期間の合間に、今後の日本社会を走ることになる自動運転車が現時点でどのような状態にあるのか、マスコミをつうじて広く共有することを目的とした報道関係者向けの公道試乗会が実施されたので、本稿ではこの内容についてご紹介する。
次世代LiDARを車両後方にも設置して追い越していく自転車を検知
試乗は神奈川県横浜市にある日産グローバル本社を起点に、みなとみらい地区にある幹線道路を中心とした約25分ほどのコースで実施。それほど長距離ではないものの、片側3社線の大通りから赤レンガ倉庫周辺の平日でも観光客などの歩行者が多いエリアなどで自動運転車の制御を体感できた。
試乗を通じて印象的だったのは、状況ごとの判断から動作という一連の流れがよどみなく滑らかなところ。自動運転と聞くと基本的に安全重視で、右左折や信号待ちからの再発進といったシーンでは、じっくりと安全確認して動き始めるようなイメージを抱くが、この自動運転車は右左折などで周囲に歩行者の姿がないケースでは、必要な減速を行ないつつそのまま迷いなく右左折を完了していた。
一方でスタート地点のクルマ寄せから公道に出るときには、歩道を通過する直前で一時停止。ゆっくり時間をかけて安全確認を行なうなど、状況に応じて制御内容を切り替えていることが分かる。
また、試乗中の左折シーンで、パッと見では交差点内に歩行者などの姿がない状況で自動運転車が一時停止して、何に反応しているのか不思議に思っていると、一瞬の間を置いて歩道のある左側後方から自転車が追い越して横断歩道を通過した。この制御は遠距離まで物体の形や位置を特定できる次世代LiDARを車両後方にも設置していることで実現しているという。
次世代LiDARは右折信号がない交差点での右折時にも活躍しており、ルーフ上のセンサーセット前方中央に設置されたカメラが青信号を認識して交差点に進入するとき、次世代LiDARが対向車線の遠方まで認識して安全に右折を完了できるか確認している。
歩行者が多い交差点を左折していくシーンもあったが、この自動運転車は歩行者の位置だけでなく、移動する速度や方向も検出。歩行者の進路予想を行ない、自車の走行ルートと交錯しないと判断した場合には交差点に進入する制御となっている。また、試乗ルートの交差点では自動車用が青信号、歩行者用が赤信号という組み合わせのケースもあったが、センサーセットのカメラは歩行者用信号の点灯内容も交差点進入の判断に利用。「赤信号のときに歩行者がどのように振る舞うか」を算出して、歩行者を検出する範囲や動きの速さなどを青信号の場合とは切り替え、安全性とスムーズな走りを両立させる。
周囲の交通流に影響を与えない混合交通での自動運転実現を目指す
また、交通量の多い2車線道路で右側に大きく曲がっていくような道路を走行しているとき、左側車線で信号待ちから再発進すると、なぜか周囲のペースより少しゆっくりと加速して車両1台分ほどの車間距離でしばらく走行した。
不思議に思って同乗する日産の解説員に質問してみると、これはおそらく右側車線の1台前方を走るミキサー車が、車線内で左側にふくらんでくるような挙動を見せていたため、これに反応してスペースを空けていたと説明された。周囲のクルマがいつも問題なく車線内を走行し続けるとは限らないため、周辺のクルマがどんな位置を走っているのか常時把握して、どこを走れば安全なのか常に計算して動いているという。
これに関連して、人間が運転するときは無意識の領域でもそれまでの運転経験と現状を照らし合わせ、次に起きるかもしれない危険などを予測して備える技術を身につけており、自動運転でも同じようにAIに学習させてデータを蓄積して、そのデータを活用することで自動運転が実現可能になってきて、今後はさらに走れるエリアを拡大していきたいと語られた。
近年では地方都市における公共交通の課題解決を視野に入れた「グリーンスローモビリティ」(低速自動運転システム)も注目されているが、日産では一般道で制限速度を守りながら、周囲の交通流に影響を与えない混合交通での自動運転実現を目指して開発を進めている。試乗コースには制限速度50km/hという幹線道路もあり、信号待ちで先頭になったときはBEVのリーフらしい力強さで軽快に50km/hまで加速しており、乗っているのが自動運転車だと知っている身としては「こんなにメリハリのあるスピードで走るのか」と驚かされた。
法定速度は、現在は地図データに制限速度の情報を埋め込んで参照しているが、将来的にサービスが拡大して走行する道路のデータを埋め込みきれない状態になることも見据え、標識認識で得た制限速度の情報を必要に応じて利用するケースも想定。すでに製品化しているプロパイロット技術の「制限速度支援機能」を活用するパターンもあるかもしれないと説明された。
地図情報では、今回の試乗コースでは行なわれていなかったが、道路工事の情報も横浜市との連携で手に入るよう話し合いを進めており、緊急で行なわれる工事以外は経路設定の段階で工事区画を経路から外して運行経路を組み立てていく。経路設定にはカメラで認識した路面の白線も活用しているが、経年劣化などで白線が消えかかっているようなときには前後の状況からの推定や、地図情報による補足などを実施。情報を統合して経路設定を行なうという。
複数の車線がある場合、基本的には進んでいった先での右左折を考慮して事前に必要な車線を走行していくが、例えば前方に路上駐車の列があったり、右左折の途中で停止している車両がいた場合には、安全を確認しながら車線変更を行なって回避する。また、走行ログを蓄積しており、路上駐車が多い場所はそもそも走行経路として利用しないといった判断も行なう。
駐停車禁止エリアでの停止車両対応が課題
気になった点としては、幹線道路で前方を走る車両に追従走行しているシーンで、対象のクルマが並走する車両の動きに驚いて反射的にブレーキペダルを踏み、ブレーキランプが光ってわずかに減速したことに連動して、自動運転車も瞬間的に減速してかくんと前後動する場面もあった。車間距離は十分な空間があり、個人的にはアクセルを緩めるだけでも対応できそうに感じたところで、少し車間距離の管理が過敏なのではないかと思えた。
また、大人4人が乗車しているとはいえ、車外から見るととくに後輪側のサスペンションが大きく沈み込んでおり、搭載機器の重量がかなりあることがうかがえる。さまざまなセンサー類や装置を追加しているので正確な数値は把握していないとのことだが、車両重量、車両総重量に関する保安基準の規制には準拠する範囲の重量増に抑えているそうだ。
現状で見えている問題点としては、道路を左折する経路設定が行なわれているときに、左折する直近の道路にタクシーが乗客の乗り降りで停車している、もしくは路上駐車の車両があるといったケースでは、右側の車線から左側の車線をまたいで左折することもできず、駐停車している車両の手前で判断不能になって車両が停止することになるという。そもそも交差点とその手前の5m付近は駐停車禁止なのだが、残念ながら実際に日々のテスト走行を続けるなかで問題が起きている。
このような場合には、遠隔監視している係員が駐停車している車両を回避して左折する経路設定を策定。車両にデータを送り、乗車しているセーフティドライバーが車内に設置された承認ボタンを押してスタック状態から再スタートする手順が定められている。
スムーズな走りは自動運転シャトル事業化に向けた必然
試乗当日は比較的交通量が控えめで、どのシーンもスムーズに走り続けることができたが、渋滞が発生しているときの車線変更などを、自動運転でどのように振る舞えば周囲のクルマを運転するドライバーに受け入れてもらいやすいかという点が今後に向けた課題になっているという。自動運転ではドライバー同士のアイコンタクトといったコミュニケーションを利用できない一方で、車間距離の変遷や微妙な速度変化などから「相手が譲ってくれている意図を持っている」ことの推測はAIなどの得意領域になってきていると説明された。
2025年度から始まるフェーズ1に向け、自動運転で車両を走らせる部分についてはおおむね煮詰めることができており、これから自動運転サービスの開始に向け、どの場所でユーザーを出迎え、降車してもらうのかといった運用面の補強がさらに必要となっているほか、車両のメンテナンスや充電などを含めたエコシステムの策定という具体的な検討も進んでいるという。
試乗した正直な感想としては、筆者が免許証を取得した直後あたりの運転レベルをふり返ると、当時の自分より日産の自動運転車の方が上手に運転していると感じるほどスムーズで不安のないドライブだった。日産の解説員によれば、自動運転車は類似した交通状況では走行ペースが一定になる傾向なので、安定してスムーズに感じる部分もあるとのこと。
それに加え、このようにスムーズな走りを実現できなければ、公道で一般の交通流に混ざっての走行は不可能だと考えているとのことで、むしろこのレベルを実現することは公道を使った自動運転シャトルの事業化に向けた必然と言えるのかもしれない。
自動運転車による公共交通サービスの実現に向け、日産の研究開発が着実に進んでいることが分かる試乗となった。