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一般道での自動運転デモも公開した日産とDeNAの新交通サービス「Easy Ride」発表会

「『完全自動運転社会』の主役を担えるサービスに育てていきたい」とDeNA守安社長

2018年2月23日 発表

合同記者会見でフォトセッションに立った日産自動車株式会社 社長兼最高経営責任者(CEO)西川廣人氏(左)と株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO 守安功氏(右)

 日産自動車とディー・エヌ・エーは、無人運転車両による新しい交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の実証実験を3月5日に開始すると発表。2月23日に日産グローバル本社で合同記者会見を行ない、合わせてEasy Rideで使用される一般道での自動運転に対応する実証実験用車両のデモ走行を公開した。

 3月5日にスタートするEasy Rideの実証実験では、神奈川県横浜市のみなとみらい地区周辺を舞台に、事前にEasy Rideの公式Webサイトから応募して選ばれた一般モニター約300組が参加を予定。日産グローバル本社から横浜ワールドポーターズまでの約4.5kmのコースを往復運行して各種データの収集などを行なっていく。

 このほか、実証実験の詳細は、関連記事の「日産とDeNA、共同開発中の新交通サービス『Easy Ride』。無人運転車両を活用した実証実験開始」を参照していただきたい。

初代「リーフ」をベースとしたEasy Rideの実証実験用車両
2013年から積み重ねてきた公道での実証実験のノウハウを活かし、安全にしっかりと実証実験を行なうため、新しい実験用車両でも初代リーフを採用しているとのこと
一般道での自動運転では信号機に対応することが必須となるので、フロントウィンドウ内側にカラー認識で信号の状態を識別する2眼式カメラを設置。ほかにもさまざまな用途別に計6個のカメラが使われている
ルーフの前後に計2個のGPSアンテナを搭載。これにより、車両の位置に加えて傾きまで検知できるという
前後バンパーの両サイドと中央の3カ所、計6つのレーザースキャナーを搭載。機器の小型化によってバンパーから飛び出さずに設置可能となった
車両の前後とBピラー上部に広角カメラを設置。これは自動運転用ではなく、運行管理を行なうセンターの担当者が、何かのトラブルが発生したときなどに車両周辺の状況を確認するために使われる
ボディに設置されたロゴマーク類
タイヤは215/50 R17サイズのダンロップ「エナセーブ EC300」を装着

「クルマと運用システムに磨きをかけていく大きなステップ」と西川社長

日産自動車株式会社 社長兼最高経営責任者(CEO)西川廣人氏

 合同記者会見の冒頭で登壇した日産自動車 社長兼最高経営責任者(CEO)の西川廣人氏は「本日は新車や新技術の発表ではなく、そういった技術革新の先にある『新しいモビリティサービス』となる新事業領域に向けた大きなステップについて紹介させていただきます。我々の中期計画である『M.O.V.E.to 2022』では、大きな柱としてクルマの電動化、知能化というものを掲げております。これらの技術革新は魅力あるクルマをお届けするという我々の本業に加えて、より多くの皆さまにより多くの場面で新しいモビリティサービスをご提供するという事業進化につながるものです。これまでもさまざまな改良で『ドライバーレス』なクルマの実証実験を行なってきましたが、今回は3月の5日から18日まで、みなとみらい地区におきまして300人におよぶ一般の皆さまにご参加いただいて行なうという大きな規模での実証実験になります」。

「この実証実験では『ニュー・モビリティ・コンセプト』といったコンセプトカーを使ったり、アニメーションでのご提案といった段階ではなく、実際に乗って、使って経験していただき、かつ周囲を走るクルマの車内や歩行者の方に見ていただいて、さまざまなフィードバックをいただきながらクルマと運用システムに磨きをかけていくという段階に進む大きなステップでございます」と語り、新しい実証実験の意義などについて解説。

 このほかにも西川氏は、「中期計画についてはもう1点、我々が現在の大きな変化、進化の時代に向かっていくにあたっては、自らの力に加えて、とくに新しい事業領域においてはそれぞれの分野で専門性を持ったパートナーの皆さんと効率的に、効果的に協力して仕事を進める。これが将来の競争力を確保していく上で大きなポイントになると繰り返し申し上げてきました。その意味でも、今回のパートナーであるDeNAの皆さんといっしょに仕事を進めてこの合同会見まできたことは、次のステップに向けて大きなポイントになると思っております」とコメント。中期計画で進めている新しい取り組みについても説明した。

専門性を持ったパートナーと協力して仕事を進めていくことで将来の競争力を確保していくと語る西川氏

「『完全自動運転社会』の主役を担えるサービスに育てていきたい」と守安社長

株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO 守安功氏

 西川氏にバトンタッチされて登壇したディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO 守安功氏は、「現代の日本社会における交通システムはさまざまな課題を抱えていると考えております。とくに高齢化に伴い、例えば買い物に行きたいのに近くの商店まで行くことができない、病院に行くのも難しいといった移動困難者、我々は『交通弱者』と呼んでいますが、そのような方々が増え続けています。その反対側では、運輸業界を支えている方々の人手不足が深刻な問題になっている。そして地方や過疎地域だけでなく、今後はこのような問題が都市部でも顕在化してくるだろうと思っています。我々DeNAはこのような問題に真剣に向き合って、これまでに培ってきたインターネットやAIの力を活用してこれらの問題を解決していきたいと考えています」。

「DeNAがオートモーティブ事業に参入したのは2年ほど前からになります。我々は実際のエンドユーザーさんに使っていただけるサービスのレイヤーとして、使いやすいアプリであったり、移動したいときに配車される、需要と供給のマッチングのアルゴリズムを開発するといったことで、お客さまが快適に、効率よく、安全・安心にご利用いただけるサービスレイヤーにフォーカスして事業を展開していきたいと思っております。我々はこの分野を『モビリティサービスプロバイダー』と呼んでおります」

「これまでにいろいろなサービスを展開してきましたが、今回ご紹介する新しいモビリティサービスを提供するには、我々が得意とするサービスのノウハウだけでは実現が難しいと考えております。インターネットと車両をつなぐコネクティッドカーの技術、あるいは自動運転の技術そのものといった先端テクノロジーに積極的に取り組んでいる日産さんとパートナーシップを組むことで、今回の新しいサービス、新しい交通システムが造れると思っております。まだ協業を始めてから1年ほどしか経っておりませんが、中長期的に、必ずや世の中によりよい大きなサービスを提供できるパートナーシップが実現できると確信しております」。

「Easy Rideはこれまでにない新しい交通サービスとして、世の中にインパクトを与える事業になると思っております。2020年代早期のサービス開始を考えておりますが、今後到来する『完全自動運転社会』の中心、主役を担えるようなサービスとして実現すべく、長期的にしっかりと育てていきたいと考えております。すでに展開しているさまざまなモビリティサービスで培ってきたノウハウを集結して、お客さまに利便性の高いサービスを提供していきます」とコメント。DeNAがオートモーティブ事業に参入した背景や、新しい日産との協業に込めた思いなどを説明した。

DeNAはインターネットとAIの力で交通システムの課題を目指しているという
DeNAが取り組んでいるのは「モビリティサービスプロバイダー」という領域
これまでに提供してきた「ロボネコヤマト」「ロボットシャトル」などのノウハウをEasy Rideでも活かしていきたいと守安氏
株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 オートモーティブ事業部長 中島宏氏

 事業概要については、ディー・エヌ・エー 執行役員 オートモーティブ事業部長の中島宏氏が解説を担当。

 中島氏はEasy Rideのサービス実現にはDeNAと日産だけでなく、自治体や地域経済、地域の交通事業者との連携がキーになると語り、それぞれの対応について説明。Easy Rideのようなこれまでにない新しいサービスの実現には、地域の交通行政を司る自治体との連携が不可欠であるとするほか、交通課題は地域ごとに様相が異なり、それぞれに最適なソリューションを提供するためには自治体との深い連携が重要になるという。

 地域経済との連携では、今回の実証実験では多数の店舗からクーポンの提供を受けており、さらに将来的には運賃の一部を提携店舗が負担するといった新しいビジネスモデルの構築も視野に入れているという。これは利用者を直接店舗まで送り届けることが可能なEasy Rideならではの特性であり、地域経済との連携でWin-Winの関係を構築していきたいと中島氏は述べた。

 地域の交通事業者との連携では、地域の交通事情に精通している交通事業者が持っているノウハウや知見、アセットなどを活用し、DeNAが持つノウハウと融合させて地域ニーズにマッチしたサービスをいっしょに造り上げていきたいとコメント。交通事業者が抱えている喫緊の課題であるドライバー不足をEasy Rideの活用で解消していきたいと語り、実際に今回の実証実験では、神奈川県タクシー協会とお互いの強みをどう活かしていくか、役割分担をどのようにするかといった部分などについて勉強会を行なっており、今後もこのような関係を続けてお互いにとってよいビジネスモデルなどを開発していきたいと説明した。

地域ごとに異なるニーズに対応するためにも自治体との連携は重要な要素
クーポンの提供に加え、今後は乗降拠点や充電拠点としての提携店舗を活用していきたいと中島氏
地域の交通事業者とも新しいビジネスモデルなどを開発していきたいという

 また、中島氏は今後について、「実証実験フェーズ」「限定環境フェーズ」「本格サービス」の3つのステップで進めていくと語り、「本格サービス」の開始は2020年代の早い段階としつつも、「この手のサービスは一定のサービス品質を超えないと普及しない」と解説。入念に準備して、十分な台数、しっかりとしたエリアカバレッジでサービスをスタートすると説明した。このほか、300人の一般モニターが参加して市街地で行なわれる今回の実証実験は全国初の規模になると位置付けた。

2020年代の早い段階の「本格サービス」開始を目指し、十分な台数やしっかりとしたエリアカバレッジなど入念に準備を進めていく
実証実験の概要
日産グローバル本社から横浜ワールドポーターズまでを周回する約4.5kmのコースに、パシフィコ横浜、けいゆう病院の2カ所の乗降ポイントを設定している

 このほかに合同記者会見では、3月5日の実証実験開始に先駆けて自動運転デモが公開された。

日産グローバル本社のクルマ寄せから自動運転によるデモ走行がスタート。警視庁の「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」に則り、運転席にスタッフが乗車して実施された
多数の報道陣が見守る中、実証実験用車両はEV(電気自動車)のリーフらしく静かにスタート。公道に出てすぐの交差点で赤信号を待ち、青信号を認識して横浜ワールドポーターズに向けて再スタートしていった
会見場の一角には、運行管理センターで扱う車両情報などを紹介するデモ展示も実施
車両のリアルタイム位置情報
車両の位置情報を航空写真と合成し、車両で撮影している映像と合わせて表示しているシーン。航空写真内に表示されているブルーのラインは、レーザースキャナーが検知した周辺の物体
車両の四方の映像と車内の映像。走行不能になるといったトラブル発生時や、車内のリクエストボタンを乗員が押したときに運行管理センターのスタッフが対応するために利用されるという
車両の車速と充電残量などもリアルタイムで通信。運行管理センターとは4G LTEで通信しているとのこと
利用登録などはユーザーのスマートフォンやタブレットで行なう。対応する専用アプリはiOSとAndroid OSに対応