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DeNA 中島宏事業本部長が解説。自動運転などの実現が進化させる「MaaS市場」について

「日本独自のMaaS技術で世界を席巻する千載一遇のチャンスになる」

2018年3月27日 開催

「MaaS」の基本的な考え方や将来像などを紹介するDeNA 中島宏事業本部長

 DeNA(ディー・エヌ・エー)は3月27日、自動車業界で新たなムーブメントとして注目されている「MaaS(Mobility as a Service)」について解説するメディア向け勉強会を都内で開催した。

 MaaSは「サービスとしてのモビリティ」とも訳される新しい概念で、広義には既存のタクシーやレンタカーといったサービスも含まれる。IT技術の発展によってクルマのコネクテッド化、自動運転化などが現実味を帯びてきたことで注目度が高まり、市場としては2050年に世界で約331兆円規模まで成長することも見込まれているという。

株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 オートモーティブ事業本部長 中島宏氏

 当日はディー・エヌ・エー 執行役員 オートモーティブ事業本部長の中島宏氏が登壇して「新しいモビリティサービスが形成する『MaaS市場』について」と題するプレゼンテーションを実施した。

 中島氏は自動車産業の今後を携帯電話がたどった進化になぞらえて説明。中島氏は携帯電話の前にもPCが同じような軌跡を見せており、歴史は繰り返すと語りつつ、携帯電話が1990年代にEメールに対応してインターネットにコネクトされたことについて「当時は携帯電話でEメールができることの何が未来なんだと言われていて、私もそう思っていました。しかし、そんな端末が普及して、さらに『i-mode』の世界観が生まれて、それまではコンテンツをダウンロードして使っていたものが、端末と通信の性能が高まったことでクラウドで処理できることが増え、『モバイルコンテンツ産業』という形で上場企業が出るまでに産業として拡大しました。あれよという間に周辺の産業が構造変化を迫られるようになり、端末の周辺に位置付けられるような音楽やゲーム、流通小売りといった産業が構造変化を起こしました。15年ほど前には考えられなかったような、業績を伸ばす企業、苦戦するようになる企業が出るようになりました」と解説。2004年当時をふり返り、当時の携帯電話が備えていた「3cm×3cm」の画面を見て洋服を買うユーザーなんて1人もいないと業界の誰もが考えていたが、現在はちょっと地方に住んでいる人にとっては「ブランドものの洋服ってお店でも買えるものなんだ」と発想が逆転するほどに流通構造が大きく変化したことを語った。

 このような携帯電話の変遷は15年~20年ほどで起こり、コネクテッドカーと呼ばれるクルマが出始めた現在を中島氏は「i-mode前夜」と表現。また、DeNAも大きく関わっているソーシャルゲームについても取り上げ、2008年ごろから登場したソーシャルゲームは2012年までの5年間で市場規模が約3400億円まで急増。この金額は日本国内で1年間に消費されるシャンプーと同じぐらいと紹介し、日常的に使われる消費財と同程度の市場がわずか5年ほどで構築されたことは歴史的なできごとだとした。

15年~20年ほどで起きた携帯電話の変化を、クルマも今後たどっていくことになるだろうと中島氏は語る

 また、ゲームではソーシャルゲームの隆盛は既存のゲーム市場からの流入で、産業としては拡大していないのではないかとよく言われると中島氏は語り、実際にはモバイルゲームの市場規模は2007年からの10年間で1兆円に迫る勢いにまで拡大しているが、他のゲーム市場は多少の減少はあってもそれほど大きな減り方をしていないと説明。この1兆円の増加が業界としては上積みになっているとした。

 この理由について中島氏は、それまでのTVゲームではTVの前に30分~1時間程度座り続ける時間が必要になり、この時間をゲーム同士が奪い合っている状態だったが、ソーシャルゲームは多くの人が日常的に持ち歩いている端末がコネクテッドされていることで、例えば空き時間になった7分にゲームを遊ぶことで、1日にその空き時間が5回あれば35分のゲームをすることになり、これまでTVゲームをしていなかった時間をユーザーがゲームで遊ぶ時間に新たに採り入れて「時間の概念を変化させることになった」と述べた。

ソーシャルゲームやモバイルゲームはわずかな期間で市場規模が急成長
以前のTVゲームが占めていた時間とは別に、ユーザーがちょっとした空き時間にソーシャルゲームを楽しめるようになったことで、既存のTVゲーム市場に大きな影響を与えることなくソーシャルゲームが新たな産業として急成長したという

 このソーシャルゲームの拡大を中島氏はMaaSのカーシェアにあてはめ、「よく『クルマのシェアリングが進むと新車販売が減少するんじゃないか』と疑念に感じる人もいるかと思いますし、世界有数のコンサルティング会社が市場分析をした結果として販売が減るという調査結果を出したりしていますが、私としては『ホンマかいな』と思っています。それは携帯電話のソーシャルゲームの時も『TVゲームの売上が減るんじゃないか』とよく言われていましたが、実際には全然減っていなくて、それは新しい、それまで使っていなかった人が利用するようになるという総量の変化の方が大きいからです。そんな過去の分析から『既存市場のディスラプトを前提とはしていない』と考えています」と説明。過去に携帯電話がコネクテッドされた時点から、2018年現在に存在する市場規模を予測できた人は、どんなに優秀な経営者やアナリストにも存在しないと語り、ここに至るまでは関係者がさまざまな荒波を必死に乗り越えてきた結果であり、この先の20年後にどうなっているかを言い当てることはナンセンスだとコメント。大切なのは変化が起きるかどうかで、その変化は対応するために走り続ける中でしか分からないとした。

 また、1960年代に日本で起きたモータリゼーションを例に挙げ、当時は乗用車の普及や法律の整備が進み、高度経済成長の社会でライフスタイルが変化。都市生活者が郊外の持ち家に住むようになり、周辺にスーパーマーケットが誕生してクルマで買い物に出かけるようになったモータリゼーションが、2020年以降に激変を迎えると言われる自動車産業では第2世代の「モータリゼーション2.0」になると中島氏は紹介。ジャンル別には「自動車の情報端末化」「法律・インフラの整備」「エネルギー革命」「情報化社会」などが大きく変化していくことを予想として挙げた。

1960年代に日本人のライフスタイルや社会システムを大きく変化させたモータリゼーションが、2020年以降に「モータリゼーション2.0」として再びライフスタイル変革を起こすと中島氏

 MaaSの新しい流れについて理解するにあたり、中島氏はこれまでのモビリティサービスが「車両だけ」を提供するものと、「車両+人」を提供するものの2つに大別されると説明。「車両だけ」のサービスにはレンタカーやリース、時間貸しカーシェア、DeNAが手がけている個人間カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」などがあり、「車両+人」のサービスにはタクシーやライドシェアなどがあり、これらの全てがMaaSの領域に含まれると紹介したあと、これが将来的に完全運転が実現されると、垣根がなくなってそれぞれのサービスがクロスオーバーしていくと語る。

現在は「車両だけ」と「車両+人」で大別されているモビリティサービスが、完全運転の実現でクロスオーバーしていくとの分析

「シェアリング自動運転」が社会的課題を解決するキー

 今後の流れを中島氏は「自動車メーカー主体」と「IT系サービス事業者主体」の2つが、競争ではなく並立しながら進んでいくだろうと予測。自動車メーカーは車両に加え、ADAS(先進安全装備)などを含む車両制御システム、データセンターの用意とセットにしたコネクテッドサービスなどを行なうほか、自動車メーカーではコネクテッドカーをAPI(Application Programming Interface)によってオープン化。APIを定義して開放し、サービス事業者に利用を呼びかけて水平分業に取り組んでいることも大きなトレンドだとした。

 これを受け、IT系サービス事業者はデータセンターでもあるサービスセンターで顧客や他の事業者にプラットフォームを提供するほか、自動車メーカーのAPIを利用してコネクテッドサービスにも進出し始めている。また、トヨタ自動車が1月の「CES 2018」で発表した「e-Palette Concept」はこのスタイルから派生したものになると中島氏は分析し、これまで車両制御の自動運転については各自動車メーカーが独自に開発を進めてきたが、IT系サービス事業者である「Uber」や「Waymo」といった企業が独自の車両制御システムに取り組み始めたことから、トヨタは車両と通信して車両制御まで扱えるようなAPIを開放する方針を打ち出していると自分は理解していると解説。「非常に大きな1歩を踏み出されたんだと思っています」と語り、IT系サービス事業者も車両制御を手がけるチャンスが生まれてきたと述べた。

 一方で、この車両制御のシステムは、例えば携帯電話におけるミドルウェアとなる「iOS」「Android」に近い位置付けのもので、ミドルウェアの開発には数千億円から兆単位という多額の投資が必要になり、参入できる企業は限られるだろうと説明。ただ、これまで自動車メーカーだけが行なってきた部分に外部から参入できるようになることはエポックメイキングなできごとだと位置付けた。

 これに加え、APIで外部とのやり取りが行なわれるようになると、とくにクルマは人命に関連するだけにセキュリティに対しての要求が高まり、データセンタービジネスやセキュリティサービスに関連する企業は新しいビジネスチャンスが拡大していくと説明。また、すでにMaaSに携わって顧客を確保しているUberなどの企業はバリューチェーンを拡大していくことが予想され、同様に複数のサービスを手がける企業、分野ごとに専門化していく企業などさまざまな取り組み方が出てくるだろうと語り、中国のようにIT系サービス事業者が大きな力を持っている市場の場合には、IT系サービス事業者が自動車メーカーを買収することによってサービスを垂直統合する可能性も考えられるとした。

MaaSは「自動車メーカー主体」と「IT系サービス事業者主体」の2つが軸になるが、この2つは対立構造ではないと中島氏
自動車メーカーが中心の取り組みとIT系サービス事業者が中心の取り組みは、APIによって水平分業が始まってきている
どのサービスを手がけるかは、企業の規模や考え方によって異なる
DeNAではエンドユーザーとコネクテッドサービス(情報通信)までを手がけ、「最適配車」「移動効率向上」「利便性向上」などのサービスで付加価値を提供していく

 最後に中島氏はMaaSが解消していくと期待されている社会的課題について説明。これまでモータリゼーションによって拡散していった人口が都市に逆流するように集中し、この都市化で「エネルギー問題」「交通事故」「地球温暖化」「渋滞」といった、自動車業界が100年をかけて取り組んできた問題がさらに注目されるようになると解説。また、都市化によって「クルマと都市が空間を奪い合うようになる」と述べ、現在は3%と言われているマイカー稼働率を高めることが求められるようになるという。

 日本の場合では高齢化によるドライバー不足や平地面積が少ないことによるスペース不足がとくに課題になっていくと中島氏は説明。自動運転とシェアリングを活用し、先々には2つを組み合わせた「シェアリング自動運転」が課題解決のキーになると分析した。さまざまな技術の中でどの分野から先に発展していくかは、市場ごとの人口や環境によって異なる方向を歩んでいくだろうと中島氏は語り、ドライバーの求人倍率が高く、世界屈指の自動車産業を持つ日本では自動運転が先行していくだろうと分析。自動運転の技術を確立し、日本独自のMaaS技術で世界を席巻する千載一遇のチャンスになると言いきれるほど恵まれた状況にあると中島氏は述べた。

 DeNAとしても自社で競争力を持つ領域にサービスを広げ、他社とも水平分業しながらパートナーシップを拡大。2月に発表した日産自動車と協業して取り組んでいるEasy Rideについてを例に挙げ、これからの自動運転時代を見越しながら日本のMaaSをインターネットとAIで仕組みそのものからアップデートしていきたいと締めくくった。

2030年に向け、モータリゼーションで郊外に広がった人口が都市に逆流するとの将来予想
都市化でさらに顕在化する社会課題を自動運転とシェアリングで解消していき、最終的には「シェアリング自動運転」がキーになるとの分析
高齢化などによってドライバー不足が深刻化している日本では、自動運転が先行して実現されていくだろうと中島氏は説明